35話【ドルイディ視点】いがみ合う恋人と兄《1》
「あ、うわぁ……」
最悪な出会いをしてしまったリモデルとディエルドは……私の前で互いに敵意を向け続けた。
仕方ないね……こんな場所だからさ。
きっと、ディエルドだけでなくリモデルもあのリュゼという女のことを知っている。
そして、こんなところにいるわけだから、ディエルドのことをリュゼの手下だと考えたんだろう。
こんなところにいたらそりゃそう考えるよね……
私がリモデルの立場でも……きっとそう考えたんじゃないかと思うよ。うん……
それでも、恋人と兄がこうしていがみ合う姿は……見ていて辛いから、やめてほしいんだよね。
止めようと思って二人の前に行ったところで……どちらもハッとしたのか表情を平常時のものに戻した。
「よかった。二人共、敵意を鎮めてくれて……」
「いや、別に……それより、ドルが守るってことは……貴方は別にここの屋敷の主の手下ではないと?」
「あー、そりゃあ、ないない!! 天地がひっくり返ってもないんじゃないかと思ってる!」
「そうか……悪いが、それなら……貴方のドルとの関係性を教えてもらいたいんだが、構わないか?」
「ああ、いいよ〜 ぜんっぜんいいとも」
「それなら、良かった。一応、先に俺の方から言っておこうかな。俺の名前はリモデ……」
「わー!!」
私は思わずリモデルの言葉を遮ってしまった。
いや、名前だけならまだいいんだけどさ……なんか、恋人であることも話しそうだったし……
いつかはそのことを話してもいいと思っていたけど、こんなタイミングで話したらディエルドが館脱出までにどんなことを言ってくるかわからない。
関係性について、質問されまくって疲れてしまうのは物凄く嫌なんだよ。本当に。
まだ恋人であることをバラすのは後にしてほしいと思っている。ここから出てからでもいいはず。
「……ドル」
「えっ……」
「ちょっと来て……」
リモデルは私のことを自身のもとに引き寄せると、私の耳元で何かを言ってきた。
「な、なんだい? リモデル……」
「いやさ、違ったら悪いけど……ドル、君は今、俺が恋人であることまで言うと思っただろ?」
「あ、うん。言うと思ったよ?」
「言わないって。信じてくれ。名前だけだ」
「うっゆっ……うん」
耳元で言われたので吐息が耳に届いてくすぐったい。変な高い声が出ちゃって最悪だ……
今のはリモデルに見られちゃったのも……恥ずかしいし、嫌だな……ディエルドも、見たかな?
私は振り返ってディエルドのことを見る。
ディエルドはこちらをジィーっと見ている。まあ、妹と知らない男が話してれば気になるよね……
「……俺は名前と偽物の関係性を言うつもりだったんだよ。王女である君と恋人であることを言ったら俺も君も酷い目に遭うかもしれないんだからな」
「ああ……うん」
偽物の関係性、か……
友達だとか、知り合いだとか……そういう誤魔化しをしようと思ってたってこと、かな。
矛盾してるようだけど、それはそれで嫌だと思ってしまっている私がいたな……
でも、彼の言う通りここで本当の関係性をバラすことはよくない。正しいと思うよ。
「……取り敢えず、あの男ともう一度話をさせてくれ」
「関係性に関しても、言うのかい……? あ、いや……偽物だとわかってるが、それはそれで……」
「……いや、まあ……なんか話さないでおくよ」
リモデルはこちらを見て、優しい顔でウインクしながらそう返してくれる。
「ごめん。ありがとう……」
私は彼の考えが理解できていなかった自分に嫌気がさし、自身の頬を叩いた後にそう返した。
彼はそれを見て私の肩を叩いた後、「疲れてるなら、そこの部屋で休むといい」と言ってくれた。
優しいな。ありがたい……
でも、大丈夫。確かにちょっと疲れはあるかもしれないけど、私の知らないところで二人が喧嘩をすることになってしまったら、嫌だと思うから。
「……」
……彼がディエルドに向かっていくのを見て、私は妙に緊張してしているよ……まあ、恋人と兄が顔を合わせているわけだし、当然の緊張……なのかな?
「さっきは言えなかったから言わせてもらう。俺はリモデル。しがない人形師だ。ドルとの関係性はちょっと内緒にさせてもらうが、いいか?」
「……だいじょぶ。オレはディエルド。よろしくねー、リモデル。気軽にディエって呼んでいいよ」
そんな呼び方をしてもらいたいのか……?
あっ、リモデルが私のことを『ドル』って言っていたのが関係してるのかな?
……一体、どういう心理?
ディエルドの思考は相変わらず読めないね。仲良くなるための技術か何かだったり?
ディエルドは恋愛に関する知識と技術を持っているっぽいし、多分そういう人や人形と仲良くなるための知識やら技術もきっと有してると思うんだ。
「そうか。ディエルド。よろしく」
「呼ばないんかーい」
うっ、ディエルド……リモデルの頭に手刀を食らわしてる。よく、やろうと思ったね……
彼なりに仲良くしようというつもりでやっているんだろうし、悪意はないんだろうけど、やってるのを見てあんまりいい気持ちにはならないね。
止めるほどじゃないけどさ。リモデルも特に今ので怒っているわけじゃなさそうだし。
「……握手ぐらいしとこーよ」
友好的に接するためにしていたと思われる笑顔に……ほんの少しだけ敵意の残滓を見て……
私は背筋を震わせてしまった。
……きっと、見れてないが、リモデルも。
「ねえ、ドルちゃんの恋人さん?」
「っ……!?」
「えっ……」
手を差し出してきたところまでは驚きはなかった。私とリモデルが共に驚愕させられたのは今の言葉だよね。 そんな衝撃的なことをサラッと言うなよ……
この男……私とリモデルが恋人であることを地味に見抜いていたんだな。わからなかった。
いや、当てずっぽうかも……
ここで極端に驚いてしまったら、本当に恋人であるということがバレてしまうかも。
私はリモデルにそのことを伝えようと思ったのだが、彼はこちらにウインクして『大丈夫』だと伝えてきた。彼も同じ考え……だったりするかな。
リモデルはディエルドの言葉に特に言葉を返すことはなく、ただ不自然でない笑顔のまま、手を握った。
このまま、再び二人が互いに敵意を向ける羽目になるというのは避けておきたいな……
私はどうすべきだろう……?
「……その感じ、君はドルの兄弟か何かだったりするのか……?」
「まいったな、正解だよ」
「合ってたのかよ……」
うわっ、ディエルドに関してはあっさりと兄弟であることをバラしてきたよ……
この男、そんなことを易々とバラしてもいいと思っているのか……?
相手がリモデルだからそれによる悪影響はないだろうが、これがリモデルでなく、悪意を持った人物か人形だったなら、とんでもないことに……
彼に対する印象がさっきから私の中で上がったり下がったりしているよ。
普段は下がる一方なんだけどね。
「……あっ」
握手を交わす二人を見て、私の人工の心臓はドキドキしてしまっていたね……
人工であるのにも関わらず、その拍動は……本物の心臓と遜色ないように感じられるよ……
「……ここで別れるなんて悲しいし、ちょっくら歩きながら話したいと考えてるんだけど、いい?」
「……そうだな。俺もまだ話したいことはある」
……あるの?
私は先程までの驚きはしないまでも、またまた驚かされてしまっている。
これ以上、話し合うことなどあるのだろうか? いがみ合うだけなら、そろそろ終わってほしい。
私はそう思いながら、二人を見た。
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