33話【リモデル視点】小指くらいの大きさの鍵
俺が伸ばした糸は無事に目的の灯火草に届く。重力がおかしくなっているこの状況だから、真っ直ぐ届かないという可能性も少しは考えていたが……
よかったよ。伸ばしたのは探るためだが、何の危険もなく、尚且つ何かしら隠されている物があったのだとしたら、その時は解体しようと思っている。
「お……」
探ってみたが、特に危険はなく、隠されている物が代わりにあったよ。望んでいたことだ。
またよかったと思わされる。ホッとした後に、俺は糸の使用目的を罠探りから、解体に変える。
複雑な構造ではなさそうなため、単一の糸で解体することは出来るはずだ。出来る……
糸の先端を工具に似た形に変質させ、それで灯火草を覆っていた透明の箱を外していく。
「箱は……なんか、普通の箱だな。なんか、もっと特殊な箱だと思っていたが……」
……これはどうでもいいね。
俺は箱を視界の端に置くと、灯火草の明度を上昇させるために使われていたと思しき小さい何かを灯火草から分離してみた。こんな物があるとは……
隠されている物に関しては灯火草に括りつけられていると思っていたが、そんなことはなかった。
……あるとしたら、この明度上昇に使われていたと思われるこの変な……何か四角い物。
宝石が入ってる小箱なんかはこんな感じじゃないかな。この中に宝石が入ってたりして。
入ってたら、いいな。
俺は取り敢えず、それを解体してみた。
そして、中に小さくも輝いていてわかりやすい鍵が入っていたので、取り出してみた。
大体……小指くらいの大きさだな。
「この鍵は使えそうだな……」
明度上昇に使われていたと思しき物……取り敢えず名称はわからないので、そのまま明度上昇具と呼ばせてもらうが、それは特に使えそうな部品はなかった。
見たことのあるような……特段珍しくもなければ、値段も安価で簡単に手に入る部品ばかり……
見た目で判断してはいけないと思って、それらも簡単に糸で調べてみたが、見た目通り……普通。
俺は灯火草に再び明度上昇具を取りつけ、箱を被せると元あった場所に設置しておいた。
そして、手に入った鍵をポケットにしまう。
「うーん……わかったかもな」
リュゼルスがしたいと言っていた『遊び』ってもしかして、『宝探し』か何かなんじゃないか?
鍵が隠されているということでピンと来たんだ。
まあ、断定できる根拠がないから、実際はわからないけど、可能性はありそうだよな?
この鍵がないと通れない場所とかがあったなら、今の俺って物凄く良いことをしたのでは……?
まあまあ、あんまり調子には乗らないでおこう。今、調子に乗っても意味がない。
俺は何もすることがないと思ってベッドに再び座ろうと思ったのだが……
……その直前で、とある考えが頭の中に湧く。
「もしかして……この鍵ってここ開けるのに使う……? 」
……いや、うーん……そんなわけないか。
……そんなわけないだろうなー……とは思うんだけども、試すのは別に悪いことじゃないよな。
いや、まあ……でも、悪影響があるかもしれないしな。
優柔不断になってきてるわ、俺……危険な状況だとどうも思考がそうなってくるよ……
取り敢えず、悪影響が起きても即時対処が出来るようにボタンを糸で押して天井と床を元に戻し……
ベッドに腰を下ろしながら、作り直した硬糸に鍵を括りつけておき、扉の鍵穴へと伸ばす。
「むっ……」
挿すことが出来ない……
鍵が小さすぎるし、鍵穴も小さすぎるんだ。
鍵穴が拒絶してるとかは別になさそうだが、少しだけ時間がかかってしまいそうだな。
「んっ……んっ」
なんでだ……? なんで手こずる……?
人形製作においても細かい作業は必要になる。それ故に俺は細かい作業が得意だと自負していた。
しかし、こうして鍵を鍵穴に挿す程度のことも出来てない自分を見ると、その自信が失せそうだ。
鍵の大きさは一致してるし、形も……あれ……?
「よく見たら、違う……?」
少し似ていたが、形が違う。これなら、絶対に……何をやろうと開かないな……
無駄なことをしてしまった。時間も……いや、時間に関してはまあ少しなら無駄にしてもいいが。
まずいのは……鍵や鍵穴が歪んでしまうこと……そうしたら、出られなくなってしまう……
鍵穴の中から鍵が取れなくなってしまうのもまずい。これは糸が使える俺にとっては前述した鍵などの歪みと比べたら、大した問題ではないけども……
俺は鍵穴から鍵を即座に取り出すと、ジロジロと変わりがないかどうか確認をする。
鍵っていうのは少しの歪みでも使えなくなることはあるらしいからな。鍵穴も同じく。
鍵に何も変化がないことがわかると、俺は鍵穴の方もジロジロと見て歪みの確認をしてみた。
「……はぁ……よかった……」
どちらも歪みはない。歪んでいた場合には糸や魔力を使ってどうにかしようと考えようとしていたが、その考えについてはここで止めてもいいな。
確認が済んだ鍵を俺は糸を引き寄せることでポケットに戻すと、その糸を消して……
……ベッドにそのまま体を倒した。
集中力を有したこともあり、軽い疲れがある。ただ、部屋のおかげもあるから三分ぐらいゆっくりすれば、完全にこの疲れなど取れてしまうだろう。
俺の回復力というより、この部屋のおかげで。
「……そういや……『遊び』っていつになったら、始まってくれるんだよ……? 遅すぎる……」
もう始まってるとかは……ないよな?
あの女のことだからわからないが、合図くらいあってもいいはずだ。今、何をしてるんだ……?
誰か、招いていたようだから、そいつらへの対応をして遅れているとかかもな。一体何人来ているんだろうか……何十人も来ているとか?
それなら、もう少し騒がしくなりそうなものだし、違うか……
……いや、防音部屋にいるとかもありそうだな……それなら多人数でも騒がしくないことにも一応の納得がい……ってそれはどうでもいいぞ、俺。
何でもいいが、とにかくあの女……リュゼルスが俺を忘れていないことを祈ろう。
「……」
始めるなら早く始めてほしいもんだな。
待たされる側の気持ちも考えてもらいたい。退屈だ。
これが友人同士でなら許せるが、友人どころか知って間もない怪しい人形に……無理やり『遊び』をさせられることになっているわけだからな。
それだけで許せないのに、その上で待たされたら許せないだろう。それはさ……普通だろ?
「ドル……そういや、朝から会えてないよな。もしも、招かれたのがドルならこっちに来てくれないかな」
目を閉じてドルイディのことを思い浮かべながら、俺は疲れではなく呆れの乗ったため息を吐く。
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