29話【ドルイディ視点】『遊び』について《1》
……私はおかしくなったルドフィアお姉様と元からおかしいと思われるリュゼに付き合いきれず……
二人がいる部屋の扉にもたれかかりながら、プララとラッシュが目覚めるのを待っていた。
少しなら休めるわけだからいいと思っていたが、さすがにそろそろ十五分経つから待てない。
「ねえ!」
扉を叩きながら、部屋の中に問い掛ける。
だが、私の声が聞こえてないのか……こちらに届くのは私に対するものとは思えない黄色い声……
それは見なくともわかる。あきらかにルドフィアお姉様とリュゼのもので……私は再び嘆息させられる。
「キャー、今の見たかしら! このお姉ちゃんの子。口をムニャと言いながら震わせてたわ!」
「弟くんの方も見てほしいですわ! 口が眠ってる時の猫ちゃんみたいになってますの〜」
さっきから聞いている限りではどちらも興奮の対象が異なるのだと感じた。
ルドフィアお姉様は姉弟のうちの姉であるプララの方に興奮することが多い。
反して、リュゼの方は弟であるラッシュの方に興奮している。多分、こちらは恋愛対象として意識しているのではないかと思うほどに興奮している。
息の荒さが扉越しに聞こえてくるからそう判断させてもらった。怖すぎるだろう。
相手は頭がいいとはいえ、まだまだ子供の年齢だと思われる。推定十歳……
そんな子供に対して、欲情するってどうなんだ? リュゼって若々しいけど、見るからにプララやラッシュとは相当歳が離れているだろう。
まあ、人形にも……たまに人間でも見た目と実年齢が一致してない者はいるが、それでもまずい。
部屋の中にいなくてよかった。見ていたら、私は更に自分の顔を青くすることとなっていた。
「……ん〜、かわいすぎるわ」
「ですわね〜」
二人の喜びの声を聞いても、私に喜びの感情は微塵も湧いてはこない。
むしろ、真逆である悲しみの感情が湧くよ。
私は軽く扉の隙間から部屋の中を覗き……
「……うん」
プララとラッシュが変わらずグースカ寝ている姿を確認することに成功……
うん、この感じだと……見ても意味ないね。
私は俯くと、目をつぶり……リモデルに思いを馳せる。
さっきも思ったけど……リモデルはこんな人たちと同じようになってほしくないから。
……待っててね。中にいてはしゃぐ二人の様子が変わらず、尚且つプララとラッシュが起きないなら……
もう、私は一人で探しに行くからさ。ん
*****
私が俯いてから四十分ぐらいは経った。
もしかしてと思って四十分ぐらいは待ってやろうと思って脳内で今回はわざわざ数えていたのだ。
間違いなく四十分経った。であるのにも関わらず、中では未だに二人が会話してる声が聞こえる。
ただ、未だに「かわいい〜」とはしゃいでるわけではないようで、どうやら現在はリュゼがさっき口にしていた『遊び』とやらに関する話がされている。
ちなみにこの話し合いにはディエルドも途中参加しており、色々と口を出していた。
途中からなのは、ディエルドは寝ていたからのようだ。『プララとラッシュを起こす手伝いをしてくれていたわけじゃないんかい』とツッコミたいね。
ガッカリだが、まあディエルドにそれほど大きな期待をしていたわけじゃないし……
その『遊び』の説明に関してはちゃんと聞いてるのが、発する言葉で伝わってきたから、まあ別にいいと思ってるよ。私がここにいること覚えてるかな?
覚えてるなら、伝えてほしいよね。
全てが聞き取れてるわけじゃないからさ。
「……ですわね!」
ちなみに中の盛り上がりから考えて、もう既に彼女らだけで『遊び』をする準備を進めてるっぽい。
早すぎないか?
……彼女らからすれば、私は『遊び』に必要ないと? 本当にそうだろうか……?
それとも、リモデルが別室にいるならそのリモデルと一緒にやることになるのかな。
私はリモデルが大好きだし、それなら別にいい……それどころか嬉しいんだけど……
ちょっと……もう少し……ほんの少し……扉に耳を接着するかのように当てることで傾聴を……
「ドルちゃ〜ん……?」
「わ!?」
扉の隙間からゾワッと空気の薄いディエルド登場。
かけてくる声は小声だったけど、私は扉の背中を付けていて彼と距離が近かったので声は完全に耳に届いていたよ。ゾゾゾワッと背筋が震えた。
多少、警戒しててもゾワッとするそんな登場の仕方だったので、私は睨みつけていく。
彼はそれに起こりはせず、困った顔になった後、一度顔を引っ込めた。なんだ……?
何をしているのかと疑う私が扉を覗く前に彼はこちらに再び顔を出してくる。
「……いや、もうこっそり出ようと思っていてね〜……今のは見られていないか確認してたの」
「それで? 見られてないの?」
「そだね。今は部屋の端に行って準備してて、あの二人はどちらも顔を背けてる、問題なっし!」
抜け出しても問題ないと思ってるから、わざと顔を背けていたんじゃないかな?
そこはもうどうでもいいことだけどさ……
「……それで、プララとラッシュはまだ寝てる?」
「うん。でも、そろそろちゃんと起こすってさ」
「へえ、それはよかった」
「でも、このままだと『遊び』とやらに一緒に強制参加させられるから連れ出すのは難しいよ」
「始まる前に連れ出せばいいじゃないか」
わざわざ許可を取る必要があることじゃない。
そもそも、あの人たちはプララとラッシュの保護者でもなんでもないのだから。
「いやいや、その考えを見越したのか、プララとラッシュは事前に二人の近くに移動された上で結界で助けられないようになってる。透明牢獄だ」
「……うーん、そうか」
「そなんだよ〜……ざんねーん」
残念そうに見えないし、腹立つからやめてほしいな……
私はディエルドを自分の近くに引っ張ってから、聞くつもりだった質問を満を持して飛ばす。
「ディエルド、『遊び』に関する詳細説明を求む」
「え、ドルちゃん……扉の前にいたんなら、聞こえていたんじゃないの?」
「確かに扉の前にはいたし、耳も澄ませていたつもりだが、あまり声が響かない場所ということもあって完全には聞き取れていないと思うんだよね」
「そっか。なるほどね〜……じゃ、説明させてもらうねっ。このディエルドより!」
「はい、頼むよ。ディエルド」
私はディエルドを引っ張って扉から距離を置きながら、そう言った。
ここで説明していることなど、中に漏れたら困る……かもしれないからね。少しだけど。
物凄く困るわけじゃないが、聞かれないなら聞かれないに越したことはない。
そして、彼の口から出てきた『遊び』の名前とその内容……それは意外なものだった。
だって、『宝探し』だよ……?
私はその『宝探し』に関する説明を呆れながらもディエルドの口から聞いていくのだった。
もちろん、聞くことを了承したのだから、一応最後までちゃんと聞いたよ……うん。
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