25話【ドルイディ視点】早く入りたいんだけど……
顔を青くして話を聞くディエルド……
それを尻目に、リュゼルスハイムに近づいた私は彼女に対して質問を試みていく。
「あの……」
「あら、指輪に関する質問ですの?」
「いや、まあ、それも気になるし聞きたいところだが、それよりこの目の前の扉がお姉様のいる扉なんだよね? もしそうなら、早く入ろうよ」
リュゼルスハイムは「ああ、そっちですのね」と言ってきた。
いや、お姉様の部屋に向かっていて、その目的の部屋と思しき扉を見て飛び出した質問だから、そんな意外な質問だと言うような反応をされてもな……
不服で質問に答えたくなさそうなリュゼルスハイムに、私は扉を叩くことで威圧。
「ここ! ここのことだ! 入らないのかい!」
「そんな! そんな扉を叩かないでくださいまし!」
「貴女が入ろうとしないから!」
「いえ、そんなに叩くと扉が壊れますし、何より中にいらっしゃるお姉様が驚かれてしまいますわよ?」
あ、そっか。それは確かにそうだ……
ここにルドフィアお姉様がいるのが本当なのだとしたら、扉を壊した場合には乱暴だと思われるし……
彼女だって怖がってしまうことだろう。
怒りと焦りのためかどうやら、そこまで思考が及んでいなかったようだ。
己の浅慮を嘆いていこう……
「入るのはいいのですが、ほんの少しだけ! ほんの少しだけ質問時間を設けたいのですが!」
自身の指輪を誇示するようにこちらに向けながら、自信満々にリュゼルスハイムは言う。
そんなに指輪を見せても見惚れたり、『本当に王女だったのか。すごい』などと褒める気にはならないよ。
もう、引くだけ。ドン引くだけ。それがわかっていないことを理解ってため息をつく。
「……」
ディエルドも未だ青い顔をしている。
青い顔をしながらリュゼルスハイムを見ていたよ。もう、体調不良や普段怒られている時以上の青さだ。
いや、これはこれで体調不良なのかもしれないね。リュゼルスハイムのせいでなった……
まあ、冗談だけど。
ディエルドはその後、一旦待つようにと言った後に……何やら階段の方に向かっていく。
そこにはひっそりと待っていたプララとラッシュが。
ディエルドは何やら二人に説明している。遠くだからわからないが、きっと状況を説明していることだろう。
状況説明が単純に難しそうだからという意味で……曲解して伝わらないか心配だよ……
「……連れてきたよ」
「あ、うん」
「それで、ドルちゃん。ちょっち貸してもらっていい?」
「え? 何を?」
「『ミツケラレーダー』だよ」
ああ、『ミツケラレーダー』をね……
私は理解して頷いた後に、持っていた『ミツケラレーダー』をディエルドへと渡した。
目的はわかるから、説明はしなくても問題なし。
ディエルドは少し見て、満足するとその『レーダー』をすぐに私に返却した。
「点は今のところは青だよ」と言って。
よかった。点は赤になってはいなかったか。
それにしても、なんで頻繁に青になったり赤になったりしていたのだろう。
リュゼルスハイムが何かしていたのか?
遊んでるとしか思えないほどに何度か点の色が変わっていたからね。
この女は私たちと『遊び』をすることに拘っているから、可能性としてはありえるんじゃないかな。
「……」
部屋の中で何かお姉様に危険なことが起きている……ということもありえると思い……
彼女への心配の情を募らせていたところ、リュゼルスハイムは口を開いて話を始めた。
「この指輪はルィスティヒ王家の者はとある理由があり、身につけているのです」
とある理由とは……?
「そのとある理由については話せないのですが、とても綺麗なので少し見ていただきたくて……」
「見せびらかしたかったと?」
「まあ、そうなのですが、言い方が気になりますわね」
じゃあ、どんな言い方をすればよかったのかな……
私は再び口を閉じて、相手をディエルドに任せる。
「よくそれ、身につけたままでいられるよね。国を出る時に普通没収されるのが普通じゃなーい?」
「失礼です……と言いたいところですが、確かにわたくしは国を追放された身、この指輪を未だ身につけるのは不適切かと思いますが……」
「思いますが……?」
「気にしないでくださいませ!」
「……っ!?」
いやいや……えぇ……?
不適切だってわかったなら、外そうよ。『気にしないでくださいませ』っておかしいだろう。
私とディエルドは口をポカンと開けて、絶句した。さっきから表情の一致率が高いよ……
「この国にどうやって来たのか……そういった質問をしてくださっても構いませんのよ?」
「いや、もう別にいいよ……入ろうよ。ねえ?」
まさか、ディエルドに私の思いを代弁される日が来るとは……
貴方はいつもその言葉を言われる側だったよね……
ディエルドの顔はさすがにもう青くはなかったが、生気が多少抜けてるように見えた。
ま、そりゃあね……うん。
「ディエルド……」
「ん、なに……? ドルちゃん」
「一応言っておくが、さっきの貴方もこの女と似たようなことをやっていたんだからね……?」
「ああ、うん……」
「それを自覚してね……?」
もちろん、『さっき』というのは城にいた時。
ディエルドはあの時に庭に行ったり、メイドの部屋に勝手に入って恋愛講座開いてたりしたからね。
今はなんか常識人的反応をしてるけど、貴方も大概だから……昔の私もだけどね。
思いを伝えたくて言わせてもらったよ。ディエルド。
ディエルドが「うんうん」と何度も頷いたのを見て、私は取り敢えずの納得をすると……
「リュゼルスハイム……」
と言ってその名前が指す相手のことを睨んだ。
「リュゼルスハイムじゃ少し長いですわ。気軽に『リュゼ』って呼んでくださいな、ドルさん」
さっきからディエルドが『ドルちゃんドルちゃん』って呼んでるから、もしかして名前が『ドル』だと思っているのかな。
そう思いながら、私は渋々『リュゼ』と呼んだ。
「ありがとうございます」
「いや、まあそれはいい。リュゼ」
「……なんでしょう?」
「とにかく入ろう!」
「はい!」
何の言い訳もせず、リュゼは大きく頷いた。
くっ、こんなに早く受け入れるならもっと早く遮ってでも言えばよかった……
後悔する私の横でディエルドはリュゼに聞く。
「ここは……姉さんがいる部屋で合ってるんだよね?」
その質問に対し、一言前の「はい!」と同じテンションで「そうです!」とリュゼは答える。
私はそんなところを見た後に、ノロノロとするリュゼの横を通って扉に手をかけ……
彼女を横目で軽く睨んだ後、その扉を開けた。
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