16話【リモデル視点】リュゼルスを追って……
リュゼルスという王女様は途中まで俺たちに気づかず、ご機嫌な様子で踊っていたが、間合い……というところでギリギリ気づいて一目散に逃げていった。
踊りをそれまで踊っていたというのに、こちらに気づいた瞬間に一瞬でやめて、逃げられる。
中々に瞬発力のある人間だ。いや、人形か。
「……っ」
走りの速さは普通。
しかし、幻を定期的に見せてくるために正確な距離が掴めず、距離を縮められない。
捕まえられない……!
そうこうしているうちに城は見えなくなり、俺と同行してる男はとある屋敷にたどり着いた。
この屋敷も幻かと思いながら、俺はその屋敷の庭部分を男と共に覗いてみる。
「……どうする? 行くか?」
「まあ、罠はなさそうだし行っていいだろうなァ……」
「何故、罠がないとわかる?」
「……罠ぐらい見抜けるんだよォ……舐めてんのかテメェ……? おいィ……?」
「いやいや、幻の可能性も……」
「まだ、そんな妄言を……俺は先に行くぜェ……」
「君も見ただろ? 俺らが今まで距離を掴めなかったのは幻のせい……っておま……聞け!」
男は俺の引き止める声を一切聞き入れることなく、先に進んでいってしまった。
っ……仕方がないな。俺も行くか……!
数十歩ほど男が進むのを見たが、何の罠も作動していない様子だし、大丈夫かもしれない。
俺は結界の魔法を……まあ、きっと意味ないだろうけど、念の為に展開しておく。
中々に広い庭だ。迷うことはないが、ここまで広いと家主一人の場合は持て余しそうだな。
「なあ、中に何人いると思う?」
「多分、一人だろうなァ……誰かと住んでいるという話はどこからも聞いたことがないしよォ……」
隠してるかもしれないけど……まあ、俺もそう思うよ。
「扉が開けたままになっているが、そこから漂ってきてるのはあの王女様のものと思しき香りだけだからな」
「香りが……? それがマジならテメェの嗅覚は中々にヤベェなァ。オレは全くわかんねェが……」
嗅覚には自信があるからな。これは嘘ではない。
なんか、嗅覚に関してこいつは俺のことを疑っていないようだ。ま、よかった、かな。
庭は広いが、誰かが潜伏しているわけではなさそうなんでね。とっとと屋敷に入れよう。
糸を……ね。
警戒しないとな。糸を巡らせて、罠が作動することがなかったら、突入する。
この提案に関しては直前で男に確認を取った。別にやってもいいと言われたよ。
上から目線すぎるが、気にしないでおく。
「……んっ」
広い。広すぎる……
それ故に全ての部屋に糸が届いたかわからないな。
これでも必死で……全力で……糸を伸ばした。だから、届いていることを祈っておこう。
まあ、届いていたとしてもこの屋敷は上の階がありそうだから、上に行くとなったらまたまた糸を伸ばして罠確認をしていかなきゃならないと思うが。
俺は男に先に入らせる。
普段なら前を行くが、こいつは別に仲間じゃないから、そうするつもりはない。
非情に思うかもしれないが、罠にかかってもいいよ。
男はこちらに狙いに気づいているかはわからないが、難なく承諾。そそくさと入ってる。
「特殊だなァ……おい」
「ああ、外観から予想していたものとは違った」
玄関はともかく、数ある扉はどこを開けても何もない。言葉の通りだよ。どこを開けたとしても、その先は何もない空間があるだけなんだ。
謎が解けたよ。はぁ……
広いと思っていたけど、ただ限りのない空間が広がっているが故に糸を伸ばしきれなかったんだ。
どういう屋敷なんだ、ここは。
「……なあ、君はどう思って……」
「……」
「……おい」
「……」
「なんで部屋の扉を何度も開閉してんだよ……?」
男は俺が見ない間に色々な扉の前に行き、何度も開閉を繰り返していたのだ。バタンバタンと。
悪戯をする子供か?
そんなことをして、この屋敷の主が『うるさい』と出てくるとでも思っていのだろうか。
だとしたら、あまりにも馬鹿げている。
「馬鹿なのか?」
「馬鹿はお前だ」
「は?」
俺が詰め寄ろうとしたら、奴も同じようにこちらに詰め寄ってきたために衝突しそうになる。
思わず、後退する俺の服の襟を男は掴んできた。
なんだ、なんで言った側の君がイライラしているんだ。情緒がどうなってい……
「おい、何度も言うがよォ……馬鹿はテメェだ」
「だから、なんでだよ……」
俺はこの男の目の前で扉を開閉してみせた。その時はこいつも見ていたと思うんだが……
不思議そうにただただ困惑する俺に……男は手の握る力を強める。痛いというのもあるが……
「……服がヨレヨレになるからやめろ」
「この部屋の扉が全部謎の空間に繋がってるとは限らないだろうがよォ……」
「まあ……それはわかるが、あまりにバンバン開閉すると、扉が壊れるし、罠も作動するかも……」
「全部謎空間に繋がってんなら、あの王女はどこにいんだって話だよ。俺はあの王女を捜してんだ。邪魔ァすんなら、テメェの心臓もっぺん刺すぞ?」
心臓を刺されたくはないな。わかったよ。黙っておいてやるよ。
はぁ……ため息が出る。
俺は頭を掻きながら思案する。
そして、ここでこいつのやることを否定すると酷い目にあうと判断して大人しくすることにした。
どうせ、これで罠が作動するとしても犠牲になるのは多分開けたこいつだろうからな。
作動してその効果がこちらに及びそうになったら、出ればいい。俺は玄関にいるから、すぐ出られる。
「はっ?」
半目で男が開けるのを見守っていると、間抜けな声を男が上げてきた。何かあったのかもな。
そのまま見ていると、男はこちらにやってくる。
「……なんだ?」
「いや、まあ……とにかく見てねェで来いや」
「えっ……」
俺は困惑しながら、男が指をさす部屋の前に警戒心を抱きつつ向かい……
少しだけ開けられた扉の隙間から部屋の中を覗いてみる。
……そこは普通の部屋となっていた。
でも、奴が驚いたのは普通の部屋があったからじゃないだろうな。わかるよ。
その部屋の中で、あの王女……リュゼルスが呑気に眠っていたから驚いたんだろうな……
「……はぁ」
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