17話【リモデル視点】ペチャクチャうるさいのですわ
部屋の中でグースカピースカ……
侵入者がこんなにも堂々と入ってきているのに、よく呑気に眠れるな。このリュゼルスという王女。
さっき、街中で踊っていたことからもわかるが、この女は能天気だ。危機感が欠如している。
少し前の地下空間の俺でもこの女より危機感はあったんじゃないかと思えてならない。
今まで、瞬発力や幻術のおかげで何とかなってきたんだろうが、さすがに能天気すぎるだろ。
いや、何とかなってないから国から追放されたとか……そんな感じなんだろうな……
取り敢えず、罠確認のために俺は部屋の中に糸を張り巡らせてみた。
眠っているなら罠がある可能性は低いが、侵入者に対して自動で発動する可能性はあるし。
「……なかったかァ……? 罠は」
「ああ」
「それなら、よかった。じゃあ、入んぞ」
罠がないことはわかったが、何が起こるかわからないし、先に入ってもらえるのは助かる。
俺はこいつに道を譲ろうとする。
「……っ」
それが見えているだろうに、なんか俺のことを突き飛ばして通ろうとしてきやがった。
こいつ……今のはなんだ。わざとか?
さっきまでの仕返しかよ……はぁ。
イラッとはしたが、何か言うことはしない。
奴がバンッと扉を開けたので、それに潰されないように高速で避けながら……後を追う。
乱雑な性格だったからやったのだとしても、仕返しでやったのだとしても軽蔑するわ。
「……おい、乱雑に開けるな」
「……こうすりゃ、起きると思って敢えてやったんだよ」
……起こすためね。なるほど。
それで、起こして何がしたいんだよ。罠に嵌められるかもしれないだろう。
こいつはどこまで……何を考えている……?
「おい」
「なんだよ?」
「テメェのその糸で鼻でもくすぐったらどうだ?」
「随分とかわいい起こし方を提案するものだな」
俺との戦いでもその気遣いを見せてほしかったものだ。幻のおかげか体に目立った傷がないからいいが。
「んだァ……? それじゃあ、どんな起こし方をテメェなら思いつくんだァ……」
「いや、まあ、普通に肩を揺するとか」
「つまんねェな……」
聞いておいて、なんだよその返答……
「戦闘の時とかも……」
「あ? なんだァ……? もしかしてかわいく戦ってほしかったのかよォ……オマエ。フハッ」
「そういうわけじゃな……」
「かわいく戦うのってどうすりゃいいのかオレはわかんねェなァ……教えてくれよォ……」
ダメだ。俺はこいつが嫌いだ。
話にならん。気分や状況次第で気軽に危害を加えてくる上に会話にならない奴に……
……好意的な印象は、持てるはずがない。
俺の考えは別に……普通だよな?
「蝶のように踊りながら短剣を刺してきゃよかったか?」
「……」
「かわいい顔になるようにテメェのそのキレーな顔を集中的に狙っときゃよかったかァ……?」
「それはかわいい攻撃ではなくて、かわいい顔にする攻撃だろう。いや、まあ、どうでもいいが」
さっきの仕返しというより、単純に機嫌が悪いから八つ当たりしてるだけなのかと思えてきた。
こいつは自分のことを自律人形だと言った気がするが……あれ? 言ってたよな?
『自律』であったかは覚えてないが、もし自律なら自分を律するための機能ぐらい付けるべきだったろう。
不良品として扱われるタイプの自律人形だぞ。こういう奴って……まあ、どうでもいいが。
それで、男がもう一度口を開こうとした時に部屋の中でガタン、と大きな音がする。
見ると、ベッドからリュゼルスが落ちていた。
じっと見ていると、リュゼルスは頭を「痛いですわ」と抑えて少し涙目になりながらこちらに来る。
何か物申したいという顔だ。
「なあ……ベッドから落ちたのは君のせいであって、俺やそこの男のせいではないぞ?」
「わ、わかってますわ!! わたくしが物申したいのはうるさいということです!! 人が眠っている時にペチャクチャペチャクチャと喋らないでくださいまし!!」
「お、おおう……申し訳ない」
ってなんで俺が謝っているんだか。
謝罪させようと隣を見るが、いない。
少し部屋の中から廊下に視線を戻したら、男はどこか遠くに行こうとしていた。待て待て。
俺は自身の全力で糸を練ると、それで拘束。油断してたのか上手くいったよ。
強度もなんか高くなってる気がする。
捕らえられた男のことを引っ張ると、リュゼルスの前に放り出していく。
「痛ェなァ……なにすんだよテメェ……」
「君が逃げようとしたからだろうが。なんで俺が君の代わりに怒られてやんなきゃなんないんだよ」
「ンなことどうでもいーんだよ。面倒くさい王女と馬鹿な男に付き合ってられっかっての」
「さっき王女を起こそうとしてたのは君だろ!!」
「どうでもよくなったんだよ!! うるせェし、話になりそうにないからよォ!!」
こ、この野郎……!! 身勝手な言い分を……!!
というか、うるさいのは君の方だろ。今の大声はここに入ってからの声で一番大きかったぞ。
「はぁ……」
さすがに頭に血が上ってきたが、冷静になる。
横のリュゼルスが放ったらかしにされていたためか、ワナワナ震えていたからさ。
この場……怒ってる奴しかいないじゃないか。
「二人共うるさいのです!!」
「ほら、君も謝れ!!」
「はいはい、悪ぅござんしたなァ……これでいいかよォ……」
「それが謝る人間の態度かよ……」
「本当ですわ……」
「意気投合してんじゃねェよ……」
思わず、リュゼルスと同時に頷いてしまった。
そして、何故かリュゼルスがこちらを見て笑顔に。いや、仲がいいからそうなったわけじゃないだろ。
たまたま意見が一致しただけだと思うぞ……
拒絶のために距離を取ろうとしたら、リュゼルスはこちらに近づいてきた。
必死に後退するが、廊下の壁にまで来たあたりで逃さないようにか俺の両肩の辺りに手を置いてきた。
「逃がしませんわ……」
「逃がしてくれ……っていうか、なんで俺の方に執着する。そっちも中々に失礼な奴だったぞ……」
俺が男の方を見るが、リュゼルスは視線を移動させない。
男はちなみに移動こそしてないが、結界を張って『自分には関係ない』と主張したいと……
……そう感じるような退屈そうな表情で虚空を見つめていたので、自由に動けるなら殴ってた。
「失礼な方だから、こうして壁に追い詰めているわけではありませんのよ」
「じゃあ、なんで壁に追い詰めているんですかねぇ」
壁に追い詰める理由なんて他にあるもんかよ。
そんな経験、生憎そうそうないもんで少なくとも俺はわからないわ……
ある方が稀有だろ。ドルはされてたようだが。
「あ、あの……」
「あの?」
「その……」
「……その?」
『あの』や『その』じゃわからんが……
俺はそれでもじっと待っていることにした。近くの口の悪い男のように退屈が顔に滲み出そうになるのを、何とか……頑張って堪えながらね……
「わ、わたくし……殿方とお話をするのが久々ですの……あの、ここからあんまり出ないので……」
「ちょっと待ってほしい。それなら、なんでさっきは外に出てたんだ? 俺たちから逃げた理由や幻を見せたことに関しても知りたいんだが……」
「あ、そんな早々とまくし立てられても、答えられませんわ。部屋を案内するのでそちらで」
リュゼルスはそう言うと、頬を謎に赤らめながら、どういう部屋なのか話し出した。
ちなみに先程まで眠っていた部屋とは別のようで……
部屋の中のベッドにいつの間にか移動して眠りそうになっていた男のことを叩き起こすと、男のことを俺に抱きかかえさせながら、階段を登っていく。
王女だから、自分で持つという発想がないんだろうな。
重いと思いながらも、俺はそれを口に出すのを堪えて、長めの螺旋階段を上がっていった。
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