1話【リモデル視点】ドルイディが家にいない
二章スタートです。
朝になった。天気がいい。体調もぐっすり寝たおかげで万全だと言っていいよ。
だが、俺の表情は暗かった。
何故なら……
「ドルイディ……どこ行ったんだよ……」
俺の恋人であるドルイディ・ペンデンス・オトノマース……彼女がいないからだ。
朝起きて彼女に「おはよう」と挨拶した後に朝食を作る予定だったんだがなぁ……どうしよう。
その予定はパーだよ。
……あ、ドルイディは別にこれに関しては悪くないんだけどね。
俺は予定のことを口にしていないし。これは昨晩に寝る時に心の中で立てた予定なんだ。
だから、ドルイディは別に悪くない。俺が昨晩にそのことを伝えておけば、彼女はいなくならなかっただろうに。悔しさがどんどんと腹の内から湧き上がる。
「はぁ……」
そのため息は窓から顔を出して吐いたが故にそこを抜けていき、虚しく消えていく。
消えゆくため息を掴みたいからではなく、遠くを見てドルイディの姿を探したかったので……
俺は危険じゃない程度に窓から体を乗り出す。
そうして、周りを見てみるのだが……どこにもいない。魔力も香りも感じない。
ま、十中八九見つからないとは思ったけどな。魔力はともかく、香りに敏感な俺は外からもドルイディの香りを感じないことに乗り出す前に気づいたし。
「……うーん」
どこに行くかな……
寝室はもちろんとして、その近くの部屋も既に全て探しているんだ。くまなくね。
残りの部屋もいくつかあるから、探していくつもりなんだけど……いないだろうなぁ。
書き置きがあったら、ここまで焦ることはないんだけどな……どこにもないんだよなぁ……
ベッドの下とか……棚とか……みんな探したけど、どこにだってありはしないよ。
もしかして……
「誘拐……されたとか……?」
その可能性が頭に浮かんだ瞬間に俺の背筋はゾッとした。大変じゃないか。
ファルが部屋にいるかは知らんが、あいつが部屋に連れ込んでいる可能性もあるよな。
それも嫌ではあるが、誘拐と比べればまだマシかも。
俺は後者であることを祈りながら、まずはということでファルの部屋がある方へと向かうのだが……
「あれっ……」
その途中で何やら、書き置きを見つけた。
えっ……えっ……これ、ドルの筆跡じゃないか。
同棲が始まってから早くも一ヶ月が経って、彼女の文字は何度も見ているからね。わかる。
ファルに筆跡を真似る技術はないので、これは間違いなくドルイディが書いたものと思っていい。
なんだよ、こんなところにあったのか……
「なんで、ドルはこんなところに書き置きを……?」
書き置きがあったのは階段を降りて、ファルの部屋がある方の通路を少し進んだところの床に落ちていた。
きっと、壁に付けていたが、何かの拍子で落ちてしまったのだろうな。
換気のために一部の窓だけ自動で開くようにしていたから、その際に侵入した風のせいでこうなったのかも。
……ファルの提案でこの近くにいくつか窓を設置したが、やっぱりここに窓はいらんな。
窓を今度時間があったら減らそうと思いながら、俺はその書き置きを持って方向を転換し、入口がある方の部屋……通称、第一部屋の方に向かった。
ちなみに、通称とは言ったものの……第一部屋などという呼び方は俺とファルの二人しかしていない。
滅多に人なんて呼ばなかったしね。
第一部屋は机も椅子もあるから、ゆっくりじっくり書き置きを読むのには向いているんだ。
「……なるほどね」
俺は椅子に座りながら、書き置きを読み進めていく。そこには彼女が人形国の国王に呼び出されて、王城に行っているということ。すぐに戻れるかわからないということ……その他、私に対する心配の言葉など……
とにかく、色々なことが書いてあったよ。そのどれもが非常に丁寧かつ綺麗なもので……
少し長い文章でありながらも、読み進めるのに苦労するということは一切なかった。
むしろ、うっとりさせられる。その文章から、彼女の俺への気持ちが伝わってくるしね。
俺はその書き置きを丁寧に折ると、汚れの付着や踏みつけられることを避けるために第一部屋にある机の引き出しにその書き置きをしまっておいた。
「……行くか」
行き先は王城……の近くだ。
王城に入ってしまったら、完全な侵入者だからな。
……一度は侵入している奴が何を言っているんだって感じではあるけど。
まあ、緊急事態で城も慌ただしいだろうからな。そんな状況で城内の人間を更に慌てさせるような俺がそこにいるわけにはいかないだろうよ。
近くなのは、近くに何かいい店があるとかそういうわけじゃなく、ただ単純に彼女が恋しいから。
近くなら、戻ってきた時にすぐに出迎えられるしな。
「……」
しかし、ファルは本当に何をしているんだろうか。
あいつに関しては、数日前に帰ってきたことが土塊人形から渡された書き置きでわかっているが……部屋で何かをしているのか……会えていない。
イディドルと変なことでもしなければいいが……
俺は扉を開けると、早く行くために紐を降ろさずに飛び降りていった。
もちろん、そのままだと地面に足が着いた時に骨折は免れないので……対策をする。
「……っと」
俺は地面に足が着く前に草属性の蔦を地面から生み出し、そいつに体を掴ませて衝撃の吸収を図る。
上手くいくかわからなかったが、成功。魔法技術の上昇も確かめられたし、よかったよ。
蔦に体を離させると、俺は軽く運動をする。
「……よし」
方向は城……
だが、入るつもりはないのでその近くにある何かしらの店で食事を取りながら時間を潰そう。
もちろん、金は事前にポケットに入れてある。準備は万端。
一週間ぶりのマトモな運動だから、走っているうちに足の筋肉に悪影響が起きないか……
……それぐらいは心配かな。
心配はもちろん、ドルイディに対してもね。非常事態っぽいけど、本当に無事であってくれよ。
何秒で行けるか数えてみよう……そのようなことを考えながら、俺は王城への道を駆けていった。
ちなみに周りは別に気にしていない。
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