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2話【ドルイディ視点】ルドフィアお姉様捜索作戦

 オトノマース人形国は大国だ。


 人形以外にもたくさんの人形師や様々な種族が住んでいるので、立ち並ぶ民家はどれもそれなりの大きさ。


 それは城も同様。あまりに高すぎるために、相当目が良くないとてっぺんを見るのは難しい。


 城の中も広いから、私のように道が頭に入っていなかったら、お父様がいる部屋……充填室にたどり着くのにはきっと結構時間がかかると思われる。


 充填室というのは魔力欠乏症になりやすい者が魔力などといった生活に必要な力を充填するために国が誕生したのとほぼ同時に作られた部屋である。



「……お父様、私です。ドルイディです」


「……入れ」



 部屋の中からお父様の低い声が聞こえてくる。いつも低いのだが、何度も聞いているために感情はある程度わかるようになってきた。今は『怒り』だ。


 私が原因ではない『怒り』だということもわかる。そうなるだけのことがあったんだろうな。


 お父様に呼び出されることは今年に入ってはこれで一度目だったりする。彼は私が自由でいられるようにあまり呼び出さないでいてくれるからね。


 本当に何があったんだろうか。



「……っつ」



 私が扉を開けようとしたところで、その手を覆う者がいた。私と一緒に呼び出された者だ……


 もう来ていたのか……気づかなかった。


 私はこの男のことを悪い意味で影が濃い人形であると思っていたんだけどな……



「お久っ! ドルちゃん元気してるっ? 父さんが外を自由に歩くことを許可してくれたからか、最近よく外を歩いてるみたいじゃん。今度一緒に散ぽ……」


「ちょっと、黙ってもらえないかな?」



 この軽薄さの権化のような男は私の少し上の兄であり、第二王子でもあるディエルド・ペンデンス・オトノマースだ。私はこの男が苦手で嫌いだ。


 軽薄な点もそうだが、何よりこちらの話をあんまり聞こうとしないのだ。


 呼び方も喋り方も以前に何度か注意をしたはずなのだが、まだ直っていないのだ。


 最後にあったのが三ヶ月ほど前だが、あれから全く変わっていないように見えるよ。


 ため息をつきながら、挨拶を促そうとすると、ディエルドは「たはー」と笑った後に……



「……父さん、オレも来たよーん。開けるね?」



 と自発的に挨拶をした。私に行ったものと同様に軽薄極まりない喋り方でね。


 トムファンの喋り方も気に触ったが、この男も大概だ。


 これが家族でなければ、不敬罪となってもおかしくないほどの言動、行動の数々……


 毎回、冷や汗が出るよ……全く。


 ディエルドが扉を開けて、私に先に入るように促してきたので先に入らせてもらうことにする。


 ……何のつもりだろうね。


 それで、充填室の中なのだが……お父様は眉間に皺を寄せながら、こちらを無言で見つめていた。


 私は部屋に完全に入ると、口を開こうとするのだが……


 慌てすぎているようだ。お父様はこちらに話す隙を与えず本題となることを話し始めた。



「ドルイディ、ディエルド。よく来てくれた。早速だが、もう本題に入らせてもらう。構わんな?」


「はい、お父様」


「大丈夫ですよ、父さ……いや、お父様?」



 疑問形やめろ。ディエルド。


 私はお父様のことをディエルドと共に見つめながら、話を聞く姿勢になる。


 さすがにこういう時はディエルドも余計なことはしないんだよね。気持ちが一瞬休まる。


 お父様は威圧感があると聞くけど、私は別にそれを感じることはないからね。


 それも、家族で関わりがそこらの侍従より格段に深いから、なんだと思ってるよ。



「……」



 私はそれでお父様の長い話をちゃんと聞いていった。


 ……端的に纏めるとこうだ。


 第一王女のルドフィアお姉様がいなくなっていたから、彼女と親交が特に深く、捜し物にも長けた私たち二人に速やかな捜索を頼みたい……ということ。


 なるほど、と思った。


 他にも仲のいい方はたくさんいるが、みんな国外にいるか手を離せない状況にあるっぽいからね。


 私たちは話を聞いた以上、断るつもりはなく……


 二つ返事で引き受けた。



「……ありがとう。本当に感謝する」


「いえいえ、お安い御用だよ。父さん」



 また呼び方が『父さん』になってるが……統一しないの?


 この男はどういう考えのもと話しているのか昔から本当に不思議でならないね。


 私と同じ、自律人形なんだけどね……


 なんか少し前にイディドルに対しても、こんなこと思った気がするなぁ、私……



「ま、父さん……ちゃちゃちゃーっとオレとドルちゃんが姉さんを見つけるからさ。あんまり心配しないで、ゆっくりと待っててよね。身体、壊さないように」



 気遣いの心はあるから、憎めないんだよな。嫌いだが。


 お父様はそのディエルドの言葉を聞き、普段はあんまり緩ませることのない表情を緩ませる。


 誰が見てもわかるほど『喜び』の感情が顔の全面に表れている……そう思ったよね。



「……ねえ」


「バーイ」



 扉を閉めようと思ってるんだけど、ディエルドがお父様に手を振っているせいで出来ない。


 少しは許したが、このままだと一分は振ってそうなので無理やり部屋から追い出して閉めた。



「何するんだよー、ドルちゃん」


「いやいやいや、お父様は焦っているんだ。早く捜しに行くべきだろう。何をしているんだ!!」


「……そだね。悪かった」


「……悪かったじゃなくて……いや、別にいいや。早く行こう。言い争いしてる時間も無駄だ」



 私が扉を完全に閉め、そそくさと歩き出そうというところでディエルドは私の手を掴んできた。


 今度は何なのかと思っていたら、その手を引っ張って城内を早歩きしていくではないか。



「……何のつもりだ?」


「急ごうっつったのはキミだろ? オレは早くルドフィア姉さんを捜そうとしてるだけだよ」


「……アテはあるのか?」



 ……ちなみに私は特にアテがあるわけではないよ。


 私が怪訝そうな顔で答えを待っていると、彼は爽やかな淀みのない顔で答えを言い放つ。



「あるさ! キミの自室じゃないよ? そこから少し離れたところにある人形部屋。そこに行こうかと」


「人形部屋……そんな場所あったか?」


「まあ、この呼び方は今オレが考えたからね」


「じゃあ、わかるわけないだろうよ……」



 ため息をつく私に向かってディエルドは待ってましたと言わんばかりの顔で説明を始めた。


 「説明するよ!」などと爽やかに前置いていたところから見ても、彼は今のところとてつもなくテンションが高い。なんでこの状況でそこまでテンションが高くなれるのか。どういう神経をしているんだよ。


 その説明はディエルドにしては、わかりやすかった。まあ、部屋の簡単な説明だからそんなに難しいものというわけでもないとは思うけどね。


 人形部屋と彼が呼んでいる部屋は特別にこの城に部屋を与えられている姉弟のもので……


 その姉弟は捜すために必要な道具と技術と情報をたくさん持っているだろうから……


 ……二人でその姉弟のもとにいき、それらを得よう……ということのようだ。


 ディエルドにしては中々にマトモな作戦だったためにほんの少し……蚊ほどは感心したよ。


 これで好きになるとかはないがね。


 彼のウザったい流し目を無視しつつ、私はその例の姉弟について、考えていった。

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