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48話【ドルイディ視点】狂気と舞踊

 私は姫……第二王女として数々の教えを受けてきた。ダンスに関しても教えてもらった。


 だから、どういうものかは本当によく知っている。


 ……未経験、なんだけどね。


 少し、恥ずかしいと思っているから、いつか経験したいとずっと思っていた。


 そして、それはいつか恋人となった者と共に行うものと考えていた。


 だから、ここでこんな女とダンスなど踊りたくない。私が一緒に踊りたいのはリモデルだ。



「……断固拒否する」


「……」



 そもそもが唐突すぎる。本当に何度も思うけど、なんでこんなタイミングなんだ。意味がわからない。


 脈絡があまりにもなさすぎるし……



「……そう……かぁ」



 ……あと、場所も問題ありだ。


 こんな薄暗く汚い場所などダンスを踊るには全く適していないと私は考える。


 適している部分を無理に挙げるとするなら、広い場所であるという点だけだ。それ以外なし。


 そういう意味でも本当になんでそんな誘いをここでしてきたのか、理解が不能。



「『いえ、冗談ですわ。お受けいたします』」



 ……!? は? は?


 えぇ……なんか私の口が勝手に動いたんだが。


 待って待って、突然すぎて驚いた。これって、私の口もこいつの思い通りってこと……?


 『傀儡術』で……?



「『よかった。それでは……』」


「『はい』」



 確実にやっている……もう確実に。


 『傀儡術』とやらは顔も操れるってわけね。最悪だわ。こんな奴に私は今、最上の笑顔を見せている。


 『操唇』とかそんな感じのものだと思っていたけど、それなら表情まで変わらないだろうし、違うだろう。


 ……ちなみに今の『はい』という受け答えの五秒ほど後に体の自由も失ってる。逃れられない……



「『私、ダンスを踊るの夢だったんです』」


「『そうなのですね。わたしもですよ』」



 ……ぐ、ダンスを踊るのも確かに私の夢の一つではあったね。そこは合ってるよ。


 だが、何度も言おうと思ったが、その相手は貴女じゃないし、喜びたくないんだよ……!!



「あ、そうだぁ……忘れてた。ちょっと待ってねぇ」



 一旦の停止。


 スイッチを切られた人形のように私の体だけが……その動きを止めさせられたんだ。


 何を忘れたんだ……?


 そう思った瞬間だった。


 目の前のトムファンが私の前で指を鳴らしたんだ。すると、警戒心を抱く前に私の視界が……


 夢に落ちたかのように薄暗い地下空間から太陽の当たる明るい花畑へと姿を変えるのだった。



「『こんな薄暗く汚いところでダンスをするのもどうかと思って視界を変えさせていただきました……』」


「『わあ、嬉しいですわ』」



 思ってもいないことを口に出さないでくれ、私の口。


 全く心にも思っていないことを口走る自身の口を魔力か何かで閉じたいという衝動に駆られる。



「『あと、わたしたちの服も……』」


「『……!? なんて華やかで……花畑に相応しいデザインのドレス……! 私のような愚物にこのような服を用意していただき、いくら感謝してもしたりません』」



 愚物などとよく言わせようと思ったな……


 そのたった一言で私の怒りは一気に加速していったよ。一人の人形(ひと)をここまで怒らせられるのはもはや才能。マリネッタ以上だよ、悪い意味で。


 ……ドレスのデザインに関しては文句はない。


 視界が固定されているから、仕方なくトムファンの瞳の中の私を見たんだけど……


 ナノファナという花を想起させる綺麗な強めの黄色のドレスだった。視界の端に映る花畑にも咲く花……


 確かに綺麗だと思うが、私が着たいタイプのドレスの色ではない。彼女の好みなのだろうな。


 形は本当にいいんだけどね。ボリュームのあまりないドレスで変にたくさん飾りがついていることもない。単純に踊りやすいと思うし、最高だ。


 ちなみに彼女だが……


 顔は女性なのにも関わらず、燕尾服を着用してある。


 髪型もきちんと男性のものに整えられているので……こう言うのは抵抗があるが……男装の麗人という表現が適切と思われる……そんな姿だった。



「『……それでは、再開しましょうか』」


「『はい』」



 ……我慢だ、私。我慢しよう。


 トムファンはダンスを再開させようというところて、もう一度指を鳴らしてきた。


 また景色を変えるのか? 忙しないな。今の景色が納得いかなかったのだろうか……などと考えを巡らせていたら、音楽が頭の中にかかった。


 様々な楽器の音色が脳を揺らす。



「『わぁ……これは一体……?』」


「『雰囲気を出すために音楽をかけました。気に入っていただけたら、非常に嬉しいです』」


「『はい。とても心地よく……耳に残る音色ですね』」



 確かに耳に残る美しい音色だ。今の私の語調も……まあ、リモデルに出会ったばかりの頃とか……あんな感じで話していたし……まあ、いいかな。


 ……表情筋の動きが気になるが。


 自分の顔は見れないが、きっとうっとりとした表情でもしているんだろうな。はぁ……


 言わないからわからないが、今私の目の前に現れた景色や流れる音楽は幻術の類……だよね?


 幻術も使えるのか……? それとも、これも『傀儡術』の一種ということなのか?


 ……『傀儡術』については詳しくない……というか知らないんだが、傀儡になった相手に幻覚まで見せられるって術として凄すぎないか?


 もし、そうなら『傀儡術』とやらはもっと有名になっているべきだろう。初めて聞いたんだが。



「『この音色に身体を委ねて』」


「『まるで、花畑で踊る蝶のような……』」


「『そうでしょう……』」



 本当に酷い。よくこういった言い回しが瞬時に思いつくものだ。そこには感心するよ。



「『滑らかな貴女のお肌が触れる度に快感が身体を駆け巡っていくようで……』」


「……それは嬉しいねぇ」



 最後、素が出たね。こいつ。


 今の……気持ち悪い発言は貴女がさせたんだろう。なんで素に戻っているんだよ。


 身体を駆け巡るのは快感ではなく、悪寒だよ。私の発言も深みなどはない上辺だけの浅い言葉。不快。


 身体が再び自由を得たら、きみはもう許さないことに決めた。殺害まではいかないが、この地下空間に永劫に閉じこめて出られないようにでもしてやる……


 そう決めた。私は。



「……!?」



 ……何故か突然に、顔面が自由を取り戻した。


 であるのにも関わらず、私は絶句して……目の前の人物に対して、釘付けになった。


 その理由は……明白……


 多分、目の前の()()を見たら……誰だって、恐怖を……感じざるを得ない。そんな気がする。



「……っっっはぁーァ……っ!」



 ()()はきっと……全身からの快感の奔流に抗うことをやめた……結果なのだろう。


 大きく口を開け、ヨダレを垂らしながら虚ろな瞳でこちらをただただ見つめて、呟く。



「快感を得られているのは……おれの方だ。ありがとう……ねーぇ……?」



 悪寒……悪寒、悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒。


 激しい悪寒が全身に伝播し、顔面同様に自由を得た身体は後ろに倒れた。


 人間らしさを目指し……人間のありとあらゆる美しい部分を獲得していった私……


 人間の恐怖……といったものを獲得できていた気でいたが……この瞬間に()った。



 『本物の恐怖』は私が想像していたよりも、ずっとずっと大きく……死すら感じるものだと。

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