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47話【ドルイディ視点】蜘蛛の巣と『傀儡術』とダンスのお誘い

 頭上から感じた揺れによって一時停止してしまった騎士然としたマオルヴルフ……騎士マオルヴルフのことなんだが、一分も経たないうちに再び動く。


 今度はどうするのかと思ったら、そのまま上に登っていき、地下空間の一室に飛び出る。



「さっきの揺れ……あれはリモデルかトムファンが出したものだよね?」


「……」


「あの揺れを発生させた者のことを追う感じかな?」



 私が騎士マオルヴルフにそう尋ねると、彼は自身の顔を横に向けて、何かを伝えてくる。


 取り敢えず、進むべきだと行っているのだろうと判断した私は動き出した彼の後ろに着いていく。


 ちょっと歩みが遅かったマオルヴルフたちも、十本ぐらい後ろをトコトコと着いてきているよ。


 私も相当疲れているけど、彼らの方がヘトヘトに見える。表情はわからないのに伝わった。


 なんかたまに喧嘩したりしてたしね。私の取り合いかな……と傲慢なことを思ったけど、どうなんだろうね。そうだったら、面白いし嬉しいな。


 それから、五分ほど……広間に到着。


 さぁ……ここにリモデルかトムファンとやらがいるかな……と思って視線をあちこちに向けた私は……



「……おおっ!?」



 部屋の左の壁に設置された蜘蛛の巣……そこにぐるぐる巻きになった女性が引っかかっているという奇妙な光景を目にしてしまったのだ。


 マオルヴルフたちも驚きを隠せていない。こんなこと、誰がしたんだろうね。ビックリだ。

 

 大きな虫……蜘蛛がいるのかとマオルヴルフ全員に準番に聞いてみたが、そんなものはいないとのこと。


 いたら、知らないはずがないってさ。


 「じゃあ、誰なんだろう」と私が呟くと『さぁ』と言っているかのような両手を上にあげるポーズを騎士マオルヴルフがやってきて、私は笑顔になった。



「貴方は本当に頭がいいな。本当に何者なんだ? ただのマオルヴルフじゃないだろう?」



 その問いにやはり、言葉は返さない。


 ただ、身振りから何となくとぼけているように見えた。短時間だけど彼のことが本当にわかってきているように思う……リモデルに嫉妬されるかな。


 そんな想像をしていたところだった。


 ……私がその蜘蛛の巣に捕えられた変な人物に話しかけられてしまったのは。


 チラッと一瞬見たけど、本当にこの人は今から蜘蛛に食べられる獲物にしか見えないな。



「……ねーぇ」


「……」



 きっと、この人物がトムファンという者なのだろう。それ故に気づいていると思われたくない。


 私はそそくさと目の前に見えている扉に向かって歩いていこうとしたのだが……


 その足取りは彼女のとある一言で止められる。



「きみ、リモデルくんの恋人さんだよねーぇ?」


「……!?」



 ……な、なに……!? 声に出さずに済んだが、顔には明らかに驚きが出てしまった。


 気づいていることが明らかにバレた。チラリともう一度顔を見たら笑顔がより一層深まってるし。


 足をそのまま扉に向けることもできるが……


 ……少しだけ、話を聞くか。


 私はマオルヴルフたちを後ろに下げた後に彼らに結界を張る。私も結界を張っている。


 リモデルだって、こういう時には結界を深くするはずだよ。私も色々と学んだからね。


 危険な場所、危険な人物の前では結界は必須。これは常に意識していていいかもね。



「……な、なんだい……?」


「あー、やっと応じてくれたぁ」


「……」


「無視されて悲しかったよぉ。まあ、おれも必要次第では無視するけどさぁ。こうやっていたいけな女性が蜘蛛の糸に捕らわれていたら、普通助けるよねぇ」



 まあ、貴女の普通は知らないが、助けないのはあまりに非情だ……とは一応思う。


 話は遠くからでも聞ける。この部屋は結構声が通るからね。問題はないと思う。


 私は精神に干渉する能力を使ってくる可能性を考えて、十分な距離を取っておく。


 結界もしてるし、これなら大丈夫だよね。



「……酷いなぁ。あんまり避けると傷つくぞぉ……おれだって、こうして生きているのにぃ」



 何者かわからない相手を避けることはおかしなことではないと思うんだけどね。


 ……わざわざ、それは言わないでおくが。



「……一応、なんで避けるのか聞いていいかなぁ……?」


「……得体が知れないから、以上」



 早くリモデルについて話してほしいんだが……


 ……マリネッタと似ているな。こうした時間稼ぎのようなことをする点は。


 ……兄弟というのは本当のことなんだと……強く思わされるね。どちらも苦手すぎる。


 私が敢えて嫌そうな顔をして一歩だけ後退すると、彼女はわかりやすく狼狽え……



「だから、やめてってぇ! 泣くよぉ……?」



 こんな地下空間で泣き声など響かないし、うるさいだけなら耳を最悪魔力で一時的に閉じればいい。


 泣いてもらって結構なんだよ。


 ……ちなみに耳を魔力で閉じるという方法は少し前に唐突に頭に浮かんだ。



「まあまあ。わかったよぉ。聞きたいことはそのリモデルくんのことだってさぁ」



 ……話す気になったかな。



「……彼はね。先程までおれと追いかけっこをしていたんだ。これは本当だよ……」



 間延びした喋り方をやめたな。彼女なりに取り敢えず、真剣モードになったってことか。


 助かる。貴女がふざけても、何も楽しめない。


 こんな状況だから? そうじゃなくても、こんな奴とならいつでも楽しむことはできないさ。


 それにしても、追いかけっこだと……?


 リモデルはこの目の前の人物がトムファンであることを知って追いかけたのだろうか。



「あと、リモデルくんについてもう一つだけ言っておくことがある。彼はおれを拘束したら、危険を感じたのか先に進んだ。手が使えないから示せないけど……示さなくてもわかるでしょ。部屋の奥にある扉……」


「ああ、わかるよ」



 扉はいくつも用意されているわけではないようだし、他の部屋と違って開けっ放しになっているせいか、少しぐらい遠くでも割と見えたりする。


 この感じだと、最初から開けっ放しになっていたわけではなくて、リモデルがここから移動していく時に閉めなかったというだけなんだろうね。


 入った時に割と早い段階で目に入ったんだけど……その時から、地味に気になっていたんだよ。



「彼はおれがきみの複製人形を連れていった時に追いかけてきてねぇ。地面に逃げようとしたんだが、『傀儡術』が解けてモグラが言うことを聞かず……」


「そうやって捕まってしまったと?」


「そうそう。そうだよぉ〜」



 最後の方になるにつれ、語調が戻っていく。


 ……それも気になること。だが、『傀儡術』とかこの女は口にしていたと思うんだ。


 それの方が私の興味を引いた。


 能力の一つか……でも、こいつは精神干渉の能力を持っているんじゃないか? 複数ある?


 そういう奴もいるんじゃないかとは思うが、もしそうなら厄介度が一気に増していってしまう。



「……『傀儡術』のこと、気になったぁ……?」


「……」


「なら、教えたげるよぉ。折角だしね。きみたちやマリネッタが『精神干渉』と捉えていた能力は実はこの『傀儡術』のうちの一つで別のものなんだよぉ」



 マリネッタも? あいつも『傀儡術』とやらが本当に『精神干渉』という能力だと思い込んでいたわけか。


 何のために騙していたかは容易に想像がつく。自身の正体がバレないためだろうな。


 ……女性だと思い込んでいたが、本当は男性という可能性もあるよね。マリネッタはトムファンを兄貴と呼んでいたような記憶が……朧気にあるから。


 今の話を聞かないと、性別転換能力も有していると考えていたかもしれないな。


 ……いや、実はそれも騙していて本当はそういった能力も持っているのかもしれないけどね。



「……ここまで。後は教えない」



 うわ、突然冷静になったな。


 ……まあ、いいや。それが本当ならいいことを知ったと言えるよ。『傀儡術』ね。


 『人形操技』という人形を操る技があるんだが、それと似ているものだと捉えておくよ。


 そんなふうに頭の中で覚えていたことを反芻していたところで、唐突な悪寒を感じた。



 気づいたら、私は段々とトムファンに近づいていっていた。



「……な、もしかして使ったというのか……? 『傀儡術』とやらを。この段階で」


「ご名答……素晴らしいねぇ」



 パチパチ……と拍手をして、私に対して賞賛の言葉をトムファンはかけ続けた。


 その拍手と賞賛を浴びたくないのに、まるで浴びたいとでも言うかのように体は彼のもとに迫る。


 実は拍手と賞賛の言葉が発動条件かと思いそうだが、拍手なんてうるさいこと、使用の度にやるなら、今まで気づかなかったのはおかしいからね。


 特に防音に関する何かがあったわけでもないし……耳だって正常だったから、違うな。



「精神を傀儡にしないのは、単純に耐性が出来ているということなのか? それとも、敢えて……?」


「前者かな。貴女の精神はもう操れないようだ」



 少し嬉しいよ。もう、リモデルのことを一時でも忘却してしまうことはもうないだろうと思うとね。



「……やめろ」


「……きみはどうしても自分の意思で助けてくれなさそうだからねぇ……仕方なく、だよ」



 こいつ、自分に巻きつけられた糸を私の体を使って解くつもりだ。


 ただ、話を聞いてもらうためじゃないよね。そりゃ。


 逃れたら、こいつは何をしてくるだろう。体に自由が戻ったら、何とかして再び拘束しよう。



「何が仕方なく、だよ」


「ごめんね。じゃあ、体は解放する」



 だが、そう言って私の体が解放された時には目の前のトムファンは糸から逃れていた。


 私の体、何してくれてるんだ。言うこと聞かない体に本当に腹が立ってくる。


 トムファンのことを何とかして私がマオルヴルフと共に急いで拘束しようとしたところ……



「……っ!?」



 胸に手を当て、軽く頭を下げる……トムファンがいた。


 それは……何……?


 いや、わかるよ。男性が女性をダンスに誘う時のものだ。それはわかっている。


 なんでこの状況でそんなことを……ということ。



「『わたしとダンスを踊ってはいただけませんか?』」



 悪いが、脈絡がなさすぎて……絶句してるよ。


 困惑のせいで顔を歪ませながら、私は自由になった足で目の前の人物から二歩後退した。

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