43話【ドルイディ視点】ふぁーあ……
……このマリネッタという人物は精神干渉(掌握)の力があると思われる。
だから、立ち去ろうと思ったんだ。
「……どうしよ」
寝ぼけているから、今なら縄で縛るチャンスな気がする。ちょうどあるし、それで縛ろ。
マオルヴルフで私を捕まえることができなかった場合を想定して、用意したんだろうな。
残念でした。こんなことに使われるとはこいつも思っていなかっただろうね。
私は未だ寝ぼけ眼のこいつの両手に手をかけて縄で縛ろうとするんだが、抵抗されてできない。
「やめろー……」
「つ、強すぎる……」
力が強いんだ。両手を抑えようとしたんだけど、あまりの力に三秒で離されてしまった。
精神干渉(掌握)の力も使えて馬鹿力でもあるとか……とんだ化け物じゃないか。
ため息をつきながら、私は拘束を諦めて隠し扉探しのために部屋の端に走ろうとするが……
「……なん、なんだよ」
……また掴んできた。この男は。
しかも、さっきより握る力強いし。痛い痛い。足がもげるんだけど。余裕でもげるほど!!
なんだ、こいつは。魔物と言われても疑わないぞ?
あまりの怪力に恐れながら私は全力で逃げようとした。
……結果……三分間、全力で走ろうとして十歩ほど……いや、十歩未満だな。九歩ぐらい。
まるで、足に岩をくっつけて走っているかのようだった。汗がダラダラと出てくる。
人間に近づくための要素として、発汗機能を付けたのに、後悔してしまっている。
こんなことで後悔させないでくれ!!
あまりにもダラダラと出てきて鬱陶しくなってきた。出すぎているから、故障しそうな気が……
これで故障して通常時にも謎の汗が止まらなくなったら、貴方のせいだからな。マリネッタ……
「なぁ!! 離せ!! なぁ!!」
思い切り、自分の足を引っ張るが、あまりの強さに足の痛みも物凄くなってきたので私は諦めた。
……はぁ……はぁ、おかしいだろう。
「……オマエ……トムファンはどこに行ったー……?」
「いや、誰?」
「あいつは何か言っていたかー……?」
「いや、だから……まずトムファンって言うのが誰なのかわからないんだが……なに?」
「トムファンは……」
「くどい!! 私はそいつを知らない!!」
他に仲間がいるってことなんだろうな。知らなかったよ。まんまと情報洩らしてくれて助かる。
「あー……」
そこでマリネッタは自身の頬を叩き始めた。遅いよ。
頬が赤くなってきた辺りで顔をフルフルと横に振った。そうまでしないと目が覚めないか。
……当たり。それらが済んだら、マリネッタの目はぱっちりと開いており、こちらをじっと睨んでいた。
「……今、オレー……何を言ったー……?」
「……」
とぼけるのも面倒くさい。どうせ、通じない。
私は聞こえない振りをして、彼が足を離したのをいいことに走って部屋の隅に行こうとするが……
「……いやいや、足も速いのか」
追いつかれるという。
何度目かと思われる足掴み。走っている途中で引かれたことで私は顔から地面に倒れた。
「自業自得だなー……」
「いや、貴方が引っ張らなければよかった話だろう!?」
こいつの鼻を私は先程殴った。
……だから、これは自業自得……?
いや、そんなわけないだろ。
ヒリヒリする鼻の頭を私は撫でながら、言う。
「……もう一回殴るべきだろうか?」
「……望むところだよー……オレに勝てるとでも? 驕っているんじゃないぞ、ゴミ人形女如きが」
「いや、勝てないな」
……あ、こいつには精神干渉(掌握)っていう能力があるんだった……ああ、本当に失言。
私もこいつほどじゃないが、思考がちゃんと機能していなかったということだな。
まあ、目覚めたばかりだからというよりは、怒りが思考を鈍化させているのかもしれないが。
「……はぁ……はぁ」
こいつ、今人形如きとかいう台詞も吐いたよな。こういう台詞を吐くところから……こいつは本当に人形を軽視しているというのがよくわかる。
本当にこんな奴が一時でも人形師を語っていたということに腹が立つ。立ちすぎる。
「……」
「……? なに? 何もしないのか?」
逃げようとしたが、マリネッタは何もしなかった。どうせ、逃げられないから別にいいか……とでも?
まあ、いい。教えてもらってなくても、私なら見つけられるさ。隠し扉など……!
そう思い、壁に近づいていくところでのマリネッタの言葉……私は耳を手で塞ぐ。
「……そうやって聞かない姿勢……さっきまでは別に我慢できたがー……鼻を殴られた後だからか……できなさそうだがー……怒りが限界を超えたら本当に殴るぞー……」
「殴っていいのか? 多分、貴方が私のことを殴ったら、私は壊れてしまうぞ」
本当に壊れると思う。あれだけの力がある人間に本気で殴られたら、殴られた箇所は跡形もなくなる。よくても、十分の一が残るとか……そんな感じだ。
具体的な目的はわからんが、きっと色々と準備を整えて私のことを捕まえたはず。
だから、一時の怒りに任せて大事な計画の一ピースと思われる私を壊すなんてことはないと思うよ。馬鹿なこいつでもさすがにそれは、ね。
「……うんうん、うん」
私は冷や汗を何とか引っ込めようとしながら、後退した。大丈夫だとは思うが、怖い。
「……殴らないってー……」
「……そうだよね、うん」
……そういえば、なんでこいつは暴力はしようとするのに、精神干渉による掌握はもうしようとしないんだ……? 何かがあったのか? 疲れた……?
疲れているのに、暴力はできるのか? 違うよな。魔法じゃなくて能力だと思うからさ。
能力は体力を使うだけでいいんだ。
「……あのさあ」
もしかしてだけど……こいつ……
「なんであの能力使わないんだ……?」
あの能力、使えないんじゃないか?
トムファンとやらに封じられているのか……それとも、一日の使用回数の上限を超えたのか……
何なのかはわからないが、多分こいつは今精神に干渉してくる能力を使うことができない……
……んじゃないかと思った。
「はぁー……」
「……聞こえているよね?」
「はいはいー……そうだよ。俺は使えないよー……」
使えない……精神干渉の能力のことだよね。
「……面倒くさい。そうだよー……本当に能力を使っていたのはオレじゃなくて兄貴なんだよねー……」
嘘をついているようには感じない。どうでもよくなって、バラしているという感じだな。
よかったよ。これが本当ならば、だけど。
そう思って……少しだけ冷や汗が引いたかというところで目の前のマリネッタの足が地面に引っ張られた。
「……!?」
感嘆符と疑問符が同時に頭上に浮かび上がっているよう。私だ。マリネッタ。
なに……? モグラ……マオルヴルフか?
マオルヴルフってこいつが飼っている魔物だよね。なんでだ。トムファンとやらの命令か?
何であれ、物凄く助かった。
「は? な、なんでー……? あっ!?」
私は残る汗を全部自身の外套のフードで拭うと、慌てふためくマリネッタを見ながら……
さっきまであいつが座っていたと思われる椅子を持ち上げる。
……いや、よく見たらこれ……私が茶会をもちかけられた時に座った椅子じゃん。あいつのじゃない。
その椅子を立て、そこに座ると……
「ふぁーあ……」
好き勝手した罰が下ったね……
そう思いながら、欠伸をしたよ。
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