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35話【ドルイディ視点〜リモデル視点】マオルヴルフたちとの別れ

 リモデルと合流するために私……ドルイディは地下空間のとある一室からの脱出を狙っていた。


 恋人と分断されてしまったから、早く会いたいんだ。


 ……単純に彼が恋しいというのもあるが、それ以上に謝りたいからというのがある。


 私の失態……それによって、こんなことになってしまったからね。その謝罪だ。


 それに、この目の前にいる人形師を名乗っている下衆の話を聞きたくもない。とっとと脱出しないと……



「……つまらなさそうだねー」


「……」


「ついには無言か。まー……それもいいだろう」



 ……話す気をなくしたか?


 それなら、よかった。この部屋からの脱出方法についてもっと思考の容量を割ける。


 まず、散々見回して思ったことだが、ここには少なくとも、取っ手付きの扉などはない。


 多分、今まで通ってきた部屋もそうだが、ここはここで秘密の隠し扉のような物があるような気がする。


 目の前の男がそれを既に見つけていて、封鎖していないといいんだけどね。



「……出たい?」


「……ああ」



 数分ほどして、考えながら周りを見回し続ける私に対して、男が話しかけてきた。この一室から脱出したいか、という問いにも思えるが、多分違う。


 何故なら、今の私はマオルヴルフによって地面に埋められて出られなくて困っている状態だからね。


 脱出方法を探られたくないのか、結構前に男がマオルヴルフに命令して埋めさせたんだ。


 ……しかも、深いし、複数のマオルヴルフに手足を封じられているので魔法で出ることもできない。


 見回しているだけで、実際に触ろうとしなかったのは埋まってるせいで触りに行けないからだったんだ。


 早く出たいという思いはあるが、それをお願いするのも嫌だったので、埋められた状態でここから脱出するための扉の場所について考えていたのだが……


 やはり、無理がある。



「……それなら、出してあげるよ。条件があるけど」



 条件付きか。思った通りだ。最悪だ。


 まあ、でも仕方がない。ここで意地を張っていても何も進展はしない。条件をまずは聞こう。


 条件が簡単なものである微かな可能性を私が祈っていると、男はこんなことを言ってきた。



「……お茶会しよう? 応じてくれれば、出してあげる」


「……はぁ!?」



 フォルみたいなことを言い出した目の前の男に対して、私は思わず動揺の大声を浴びせた。






*****





「いたのか! よくやった!」



 今か今かとマオルヴルフの帰還を待っていた俺は穴から彼らの顔が見えた瞬間にそう喜んだ。


 ペルチェも隣で喜んで……ないな。無表情だ。


 でも、きっと俺のように喜ばしいと思っているだろう。


 結界が地面まで伸びていなくてそこまで行けたことも喜ばしいし、探していた者が一堂に会していたということも非常に喜ばしい。良い仕事をしてくれた、一号!


 一号にウインクの礼を送ると、意識がないからそんなわけないのだが、不服そうに見えた。


 俺は「そうだな。それじゃ……」と言って、何か懐を探ってみるが……別に何も見つからなかった。


 いや、何も入ってないわけじゃないんだが、マオルヴルフが好みそうな物なんてないっていうか……



「マオルヴルフは虫が好みですが、この辺りにはそのようなものはいませんからね」


「そうだな……」


「かといって、目は退化しているから視覚的なご褒美は大した意味を為しません」


「あれ? こいつら目が見えないの? それなら、どうやって色々と見てきたんだよ」


「魔物なので、必要だと感じた時に魔力を駆使することで擬似的な目を生み出し……それによって、魔力が持続している間のみ、視覚を得ていたはずです」



 そ、そんなん知るか……


 モグラってそんなに人気な動物でもないし、魔物化した現存のモグラ……マオルヴルフも魔物としてそんなに厄介でないから話題に上がることも少ない。


 汚いとか、明るいところに出せないとか……そういった理由で飼われることも基本的にないので、そんな情報を得る機会など……普通なら、ない気がする。



「……それより、早く行きましょう」


「待てよ、ペルチェ。一号、二号はどうする?」



 つぶらな瞳……はないね。ないからしてないが、かわいい顔をこちらに向けて佇むマオルヴルフたちをこんなところに放り出すのも何となく気が引ける。



「一号、二号たちには名前をつけたいとも思っているんだ。せめて、もう少しは連れていかないか?」


「……構いませんが、オススメしません。貴方の技の効果が万が一途中でなくなったら、彼らは敵になる可能性があります。余計な気苦労を増やすだけですよ」


「……それはわかってるさ。でもな……」


「貴方の気持ちもわからないと言っているわけじゃない。ただ、リスクについては常に考えておくべきです。姫様が近くにいる時にもそうやって危険分子を横を置くつもりですか? 彼女を危険な目に遭わせてもいいと?」



 ……わかってる、これは嫌味なんかじゃないよな。


 正論だ。何ら間違っちゃいない。でも、せめて少しは世話になったのだから名前ぐらいは付けてやりたい。



「……穴を通り抜けて、そこにちゃんとドルたちがいたらそれで別れる。それじゃ、ダメか?」


「……そうですね。では、そうしましょう」



 名前なら穴の中で付ける。そして、それで別れる。礼になるような食べ物などは与えてやれないから、名付けをせめての礼と思ってくれたら嬉しい。


 彼らが名付けをそんなに望んでいなかったら、逆に迷惑だろうけど……まあ、うん……


 俺はマオルヴルフたちに対して案内役を頼むと、彼らが穴に飛び込ぶのを見守る。


 一緒に飛び込んでもいいんだが、ぶつかったら嫌だからな。少し後に行くつもりなんだ。


 彼らが飛び込んで一秒……よし。



「……」



 あまり快適とは言えなかったが、名前について考えていたら、三分はあっという間に過ぎた。


 マオルヴルフたちから、三分で着くって聞いてたんだ。


 ちなみに付けてやった名前は……



「マオ。ルドルフ。ありがとな」


「安直すぎませんか……」


「なんか言ったか?」


「いいえ……」



 一号がマオ、二号がルドルフだ。


 いい名前だろう。安直だなどという声が聞こえた気もするが、気にしないさ。


 名付けられた本モグラたちは気に入っている様子。


 意識がないから、そう思っているはずがないって? 大丈夫。実は少し前に技を弱めたから。


 弱めたから、意識が少し戻っていると思うんだ。じゃなきゃ、彼らの高まる感情がわかるはずない。



「じゃあ、ドルイディとお前らの飼い主だった奴がどこにいるのか教えてもらっていいか?」



 マオは俺の質問に対して、少し周りを見てから『飼い主に関しては……多分近くにいないから無理だ。もう一人の仲間の方の香りを感じるからさっき感じたものはそちらの方だったかもしれない』と答えた。


 ……勘違いだったってことかな。


 ちなみにルドルフの方は簡潔に『ドルイディの方の香りは偽物でも勘違いでもない。未だに残り香があるから探知することも可能』と返してくれた。


 俺たちはその言葉を信じ、飼い主のことを諦め、ドルイディのことを探していくために彼らの後ろについてただただ歩いていった。一列にな。


 モグラ二匹の後ろを歩く男二人……奇妙だ。ドルに見られたら物凄く驚かれそう。


 そうして、通路を歩いていたら別の一室と思わしきものが見えてきた。扉はあったようだが、既に開かれていたので、普通に入ることができるようだ。


 警戒していたが、マオたちが普通に入っても問題なかったので俺たちも入ることにした。


 ただ、警戒心は解かないし、試したいこともあるので、すぐに突入したりはしない。


 マオたちは元々は俺のマオルヴルフじゃないからな。


 彼らがここを普通に通ることができているのは登録されているからかもしれないだろう。


 俺はそのため、糸を伸ばしたり、魔力を飛ばすことで罠が発動しないか念入りに確認してみた。


 結果……大丈夫だった。



「……ふぅ、中にも罠がないといいが」


「そうですね……」



 それで、そこにもドルイディたちはいなかったのだが……代わりに当初の目的であったラプゥペの姿を発見することができた。部屋の真ん中にいる。


 普通に考えれば、どう考えても罠だ。彼女を持ち上げた瞬間に何かが起こることを危惧し、俺は『人操糸』で(ラプゥペ)を巻いた後、こちらにゆっくりと手繰り寄せる。



「ラプゥペ、無事でよかった……」



 見る限り、傷などはない。自分の作った人形が、例え直せるとしても傷がついていたら悲しい。


 そして、飼い主たちへの怒りは更に……更に強くなっていただろう。それ故に出た「よかった」という言葉。


 残り香が出る場所はその後に簡潔にマオとルドルフに教えてもらった。


 ……ここで何かあったら困るし、彼らも早く戻りたいという気持ちがあるようなので、俺はこのマオとルドルフの二匹とここで別れることを決める。


 名残惜しいが、仕方なし。



「お互い危険のことを考えたら、一緒にはいられないよな。マオ、ルドルフ。元気でな」


『……ょ……なら』



 微かだが、声が届いた。彼らはきちんとこちらに声を届けようとしてくれているように感じたので、微かしか聞こえなかったのは俺の問題か技を弱めたからだな。


 でも、それが『さよなら』を意味していることはわかった。それさえわかれば、問題はない。


 俺は彼らに手を振って、「さよなら。また会おう」と……それだけ返した。


 彼らにそれが届いたかはわからない。その時には、もう穴を掘っていて、上半身が見えていないから。


 だが、彼らがそれを受け取り、理解していると信じながら、俺とペルチェは取り敢えず休むために壁に寄っていった。罠対策の結界を張りつつね。



「今度、生き物を飼ってみるのもいいかな」



 モグラなのかと聞いてくるペルチェに「それは未定だ」と返すと、俺はドルイディと共に何かしらのペットを飼いながら生活する自身の姿を想像した。

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