34話【リモデル視点】モグラ(マオルヴルフ)操り大作戦
準備運動完全終了。
「っし」
俺もペルチェも、思い切り準備運動をした。軽く手合わせもしてみた。
どこにも体に異常はないし、これならマオルヴルフにもその飼い主とも問題なく応戦可能だ。
……できるなら、戦いたくなんてないんだけど、いつ襲われるかわからないしな。
精神面においても、今のところは大丈夫だ。準備は完全にできているといっていいよ。
「作戦開始だな」
「はい。では、穴の方に行きましょう」
話によると、どうやらマオルヴルフが作った穴が空間の奥の方に一つだけあるらしい。
間抜けなマオルヴルフがいて埋め忘れたようなのだ。
だが、そのままにしておくと再びやってきた時に埋められてしまうということで、ペルチェは自身の魔力で土を少しだけ覆い被せてその穴を隠しておいたみたいだね。
「この穴、ね」
「マオルヴルフの臭いがしませんか? きっと、この先に他のマオルヴルフがいます。そのマオルヴルフを一匹でもいいから『人形操技』で操ってください」
「わかった」
確かにマオルヴルフがいれば、大分脱出&救出は楽になる。最高の作戦だと思うよ。
俺は首を縦に振った後に穴の中に手を入れ、そこから糸を伸ばしていった。
もちろん、途中でマオルヴルフに糸のことがバレたらいけないために慎重に……ゆっくりと……
「ヒット!!」
無事に一匹だけだが、糸を体に結びつけられた。
自分の糸だから、ヒットした時にはそれが感覚でわかるようになっているんだ。
うーん。表現するなら釣り針に魚が引っかかった時の感覚が近いが、それだけでなく静電気のようなものが手に伝わってくる。物凄くわかりやすい。
向こう側の景色が見える視点共有みたいな能力があれば、連れてくるのも少し楽だが。
……でも、そんなことはできないんだよな。残念。
「今からこちらに引っ張ってくるぞ?」
「はい」
ちなみに今のは体に糸を結びつけただけで、まだ操れていないんだ。この段階ではね。
完全に操るには複数の糸を使って足や手にも糸を付ける必要があるんだが、そんなこと穴の先が見えない以上、無理だ。絶対に失敗するとは言えないものの、成功する確率など塵に等しい。試すべきでない。
今は糸を体に結びつけることにより、マオルヴルフ側の意識を一時的に奪っているだけだが、それで全然問題ない。釣り上げた後に糸を他部分に付ければいい。
「……マオルヴルフは目がないから意識がないことがわかりにくいから、つつくことで意識の有無を確認した方がいいと思う。こいつらは触覚が敏感だから」
「なるほど」
それじゃ、そろそろ地上に出すかな。ゆっくりとゆっくりと糸をたぐってきたから時間がかかったが、もう足元ぐらいまでいるような気がするんだ。
いけるぞ。釣り上げる……!!
「……っし!」
意識なしマオルヴルフを無事に釣り上げることに成功した。地下から地上に飛び出す瞬間は見事だった。
その後、魚のように地面をピチピチと跳ねたら魚っぽかったがそうはならなかった。
まあ、モグラだからな。ピチピチと跳ねたらおかしいからな。うん。
釣りは以前に何度かやったことがあるが、あちらよりもこの釣り(モドキ)の方が爽快感があった。
……大した大きさの魚が泳いでいなかった上に小さい池だったような気がするから、爽快感などはなくて当たり前だと今となっては思うけどな。
もっと本格的な釣り体験をいつかしたい。
「釣果、一匹ですね」
ペルチェはさっき俺が言ったようにつつくことで意識の有無を確認しながら、そう言った。
反応なしだね。意識がないことが確定した。
「まだまだちゃんといけるよ? 釣果一匹じゃないよ?」
というか、ペルチェもこれのこと釣り扱いしてるんだな。釣果とか言ってるからさ。
少し笑う。表情には出さないが。
「あ、いけます?」
「もちろん。まあ、俺もあんまりたくさん糸は出せないし、あと一匹だけにしておくけど」
ちなみにすぐに糸は出さないよ。残りのマオルヴルフがどれだけいるのかわからないからな。
こちらが糸を出したことがバレて、切断された上に飼い主にそのことを知らされたら、作戦は台無し。
一匹は上手く操ることができたんだから、そのマオルヴルフ(一号)から情報を聞き、数の情報と配置とマオルヴルフたちの精神や肉体の状態を知っておく。
『人形操技』で操っている状態なら、俺はマオルヴルフの仮の飼い主になっているだろうから、彼の言葉を聞き取ることができると思うんだ。多分。
うん……できる……ことを祈る。
もし、仮の飼い主となれていない場合は作戦が瓦解してしまうが、読みは上手くいった。
マオルヴルフ一号(仮称)からマオルヴルフは自分を含めて全部で十匹。そのうち、六匹は疲れて休眠中。残りの三匹もきっと指示が来るまでは怠けているとの情報を得ることができた。助かるよ、一号。
後で死ななかったら、名前をつけてやる。今から釣り上げるであろう二号と一緒にね。
「……いけるか……?」
正確に他のマオルヴルフに糸を結びつけるのは難しいと考えて、一号に糸を持たせている。
ちなみに一号の手足に糸を付けるのはもう済ませているから、彼は何もなければ糸を離すことはない。命令通りに動く忠実な糸繰り人形だよ。
ちなみに俺は右手の糸四本で一号を操っていたりするよ。一号に渡したのは左手の糸。
どうなるかとドキドキしながら、穴を見ているとその十秒後に左手に衝撃が。これは操り成功の合図。
「よし」
ガッツポーズをしながら、俺は一号が二号を引き連れながら戻ってくるのを待つ。
こちらが糸をどうこうしなくても、命令を出している以上、あちらは勝手に戻ってくれるから穴を見ることに集中しても何ら問題はない。不思議だよな。
「あ……戻ってきたか?」
マオルヴルフが穴を掘り進む音が聞こえた。
左手の糸も右手の糸もこちらに近づいてきているのが、わかって作戦は完全に成功したと半ば確信する。
「よかった……」
一号が穴から顔を出した瞬間に俺は安堵の声を洩らした。これで警戒心を抱いた他のマオルヴルフが顔を出したら、俺はまた精神的に疲弊するとこだった。
一号が飛び出した後に子分といった感じの二号が彼の尻を追うようにしながら、穴を飛び出した。
不覚にもその様はかわいいと感じた。俺がモグラにかわいいという感情を抱くとはなぁ……
「よし、一号。二号。成功したんだな?」
その俺の問いに二人……いや二匹は同時にこくりと頷いた。双子かと思っちゃうな。
子分にも感じたが、双子っぽさもある。
マオルヴルフはどれも似た見た目に見えるから、俺のようなマオルヴルフに詳しくないものに対して「こいつら双子だぞ?」と言ったら、普通に信じそう。
これで実際に双子だったら面白いが、まあ今は聞くつもりはない。時間の無駄だ。
「じゃあ、ペルチェ。作戦通り、マオルヴルフに飼い主やドルイディがいる場所に向かって穴を掘らせるぞ?」
「……何も来てないことは確認しておきました。もう、穴を掘らせても構いませんよ」
「了解……!」
俺はペルチェと頷き合うと、一号に元の飼い主がいる場所、二号にドルイディがいる場所に掘ってもらう。
二人とも、同じ場所にいるならいるで構わない。ドルも助けられて飼い主もぶっ飛ばせる。一石二鳥だ。
簡単な指示だったためにすぐに理解したマオルヴルフたちはこくりと再び頷くと、地面に潜っていった。
結界が地面にまで伸びていたら、最悪だけど……そうならないことを強く祈っておこう。
「じゃあ、ペルチェ」
「はい、先程の穴を埋めましょうか」
一号や二号がやってきた時の穴をまだ埋めてない。
操られていないマオルヴルフたちがこちらに来たら困るから、きちんと埋めないとな。
俺はペルチェと一緒に土を掻き集めると……
一号二号が無事に帰還してくれることを祈り、えっさほいさと穴埋めに勤しむのだった。
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