マナーを守れない害人って何処にでも居る
プロローグ
母親が天剣流なる剣戟主体の古流剣術を修めていて、私も習った。
それがどれほどの実力になのか、私は知らない。
母親に試合を禁止されていたから。
剣術での試合が禁止なら、当然剣道も禁止な訳で、それならば他の競技に、と思うだろうけど、剣戟主体の流派とはいえ、古流は体術も修める訳で、甲冑を纏った相手を仕留める為のものだ。
『試合が死合いになってしまうから、武道系は駄目よ』と言い渡された。
私としては普通にしているのだけど。祖父を再起不能にしたのが悪かったのだろうか? 確かに虫の息でピクピクしていたけれど。
『自分より実力が上の大人と試合いなさい』という言いつけを守ったのに。
その内、剣術の稽古は受験や就職などで忙しくなって、玩具メーカーに就職出来たものの、玩具出はなく、ゲーム部門に配属され、突然の仕様変更、炎上で更に仕様変更。バグで修正、実家から通っていたけれど、社に近い場所への引っ越しをした。
その引っ越したマンションにもまともに帰れなかったりしたけど。
長期メンテが入って揉めて、万策尽きてサ終決定。
課金したプレイヤーにも、キャラ担当出来ると喜んでいた新人声優さんにも申し訳がなかった。
その日に召喚された。
「おいコラっ! テメぇっ!! コラっ!! 新人なら先輩に挨拶しろコラッ!!」
「聞いてるのかッ!! 新人の心得ってもんを教えてやるっつてんだよ!!」
「先輩に酒注げやコラっ!!」
「ピンドサンさんっ!! リューサンさんっ!! シタサンさんっ!! 毎度毎度、新人冒険者に絡むのは止めて下さいと言っているではありませんかっ!!」
「はっ! 五月蝿ぇんだよ! 腰掛けの受付嬢如きがいちいち冒険者様に口だしてんじゃねぇよ!!」
「アニキの言う通りだぜっ!! どうせ腰掛けなんだから、俺たちの上に乗って腰振れよ!!」
「チィ兄の言う通りだぜっ!! 最っ高にご機嫌な思いをさせてやんぜっ!!」
ギャハハッと知性の欠片も無い莫迦嗤いをしながら受付嬢の手首を掴んで連れて行こうとする。
受付嬢の手首を掴む冒険者のその手首を掴み絞め上げる。
「い゛っ!? い゛ででっ!!」
「要約ブラック企業やクソムカつくセクハラな奴らや、この国の莫迦な王家から解放された所にイライラさせやがって……その上にクソ野郎のセクハラと同じ事言いやがって……」
右拳を横殴りに振り抜き、振り抜いた姿勢から身体を回すようにステップを踏み、左腕を払い、二人目の首に手刀を見舞い、更に回転、右ストレートで3人目の喉を殴りぬく。
二人目の後頭部を踏み抜いて顔面を床に叩きつける。
床に血が広がる。
「な゛、な゛に゛しぁ、がるっ!!」
「あ゛? 黙れクズが。剣を腰にぶら下げてるなら実力でモノを言え。そっちが先輩風を吹かすから、此方は実力で語っただけだが? 先輩の冒険者ならあの程度の拳ぐらい躱して、斬り返すくらいやってみせろよ。出来ないなら黙れ、そして猥褻言動をする者は疾く死ね」
頭を掴みながら顔面を床に打ち付ける。
「や、やべっ! やべろ! やめろ下さいっ!!」
「で? 貴女はやめろって言った相手にやめたの? 許して、助けてって言ったのを許して助けたのかしら? ねぇ、やめてもらえない、許して貰えない、誰からも救けて貰えないってどんな気持ち? ねぇ、今、どんな気持ち?」
詰まらないなぁ……。もう少し頑丈だと思ったんだけど……。
元の世界の人間より強そうだと、楽しめそうだと、技と感の錆び落しには丁度良いと思ったが、期待外れだった。
そっと立ち上がり、振り返れば何故か皆ドン引きしていた。
「いやぁ〜ん! すっごく怖かったぁ」
可愛く怖がってみる。
「えっと、双樹さん。それ、解るの私たちだけだと思います」
「ちぇ、みんなノリ悪いわね」
深雪ちゃんに嗜められた。
今更、男性職員が出てきて、私が倒した冒険者だったものを運んでいく。