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ステラのこれまで

 私はステラ。ステラ・シャーノ。年齢は今年で二十二歳。きっと多くの人は、私を天才と呼ぶ。もしくはマジックキャットと。

生まれついてスロットが百を超えていて、お母様からは族を率いる族長としての教えを受け、お父様からは猫耳族の俊敏さを生かした戦い方を学んだ。所謂英才教育というもので、学問から戦術、様々なスキルを、この猫耳の生えた頭に入れていった。

 でも、どんな教育を受けても、性格までを変えるのは難しい。私は気弱で、他人とのかかわりが苦手だった。そんな私を、お母様が叱りながらも心配していてくれたのは、どんなに時が経っても――冒険者になっても、忘れなかった。

 ただ、私が冒険者になった理由。それは族長として崇められるのが嫌だったからだと思っていた。けれど、小さなころから、私にはとある声が聞こえていた。里を出て遠くに冒険へ行こうよと、そう、誘う声が。

 きっとその声の主が、私を冒険者にしたのだと、最近では考えを改めていた。

「ステラ?」

 言われ、ハッとして私は目を見開いた。目の前には銀髪のくせ毛が眩い『異世界』という、私の生まれた世界とは別の世界からやってきた人がいる。マグナムという武器で、どんな相手にも風穴を開けるけれど、スロットが一つしかない、強いのか、弱いのか、判別しにくい人だ。それと、優しい一面もある。今も、心配そうに覗き込んでくるので、長旅の疲れが出ただけとしておいた。


 ――本当は、少し怖かった。今まで止まっていた大きな何かが動き出すような、そんな例えようもない感覚。この旅が進むにつれて、それは増幅していった。


「それにしても、リザードマンの里は遠かったな」

「冒険者として体力には自信がありましたが、休む暇もありませんでしたからね」

 ハイランドにいたリザードマンが、私と礼二さんに里へ来てほしいと申し込んできた。新しい力が手に入るという口上で、いくつもの山を越えた先にある里へ。

 崖や谷のせいで横になることも難しく、荷馬車の荷台で、礼二さんと過ごした。

 この人も、不思議な人だ。あの夜明け前の暗闇――サイクロプスの囮をやっていた時に、偶然現れた。そしてサイクロプスを倒し、たった一つのスロットに複製を装備して、ゴブリンの群れも撃退した。

 私はこの人に会った時、というより、会う直前からも感じていた。あの大きな何かが動き出す感覚を。

「お二人とも、着きましたよ」

 リザードマンのアルビィは里の中へ私たちを連れていくと、族長と会うことになった。なにやら、竜を操る証だとか、伝説の大魔術師の魂だとか、荒唐無稽な話について行けなかった。けれど、族長のアルビスターは、私に伝説の魔術師ウェン・オルデモードの力を与えると言い出した。

 

 瞬間、私の頭に電流が流れた。

 私は、あれを手にしなくてはならないと。


 手にした真っ黒い球体は深淵のように暗く、それでいて脈打っていた。

そういえば昔誰かが言っていた。人間以上の暗い魂を持つ他種族はいないと。これがその、暗い魂なのだろか。


 大丈夫だよ。だって、ずっと一緒だったでしょ?


 不意に、声が聞こえた。冒険に出たいと、何度も急かしてきた声だ。私は目を瞑ると、声に問いかける。あなたは誰なのか、と。


 もうすぐ分かるよ。リザードマンの族長は、あなたの中にいる私に気づいたみたいだからね。


 なんのことなのか、よく分からない。それでも、この声が里から出る勇気をくれたのだ。ならば、それに従おう。

 運命を受け入れる選択を、私は選んだ。黒い球体は体の中に流れてくると、痛みもなにもない。ただ、魔力が若干増えたのと、もう一つ、大事なことがあった。

「やっと見つけてくれたね」

 アルビスターも、礼二さんの声も聞こえない。私は心の中で、ようやく声の主に出会えた。

「私はウェン。ウェン・オルデモード」

 カチリ。大きな何かが動いた。それはなんとなく、運命という時計ではないのかと、直感が告げていた。

「やっと力を取り戻せたから、これからは手を貸すよ。私を殺した魔王――いえ、それすらも超えた敵と戦うために」

 だから、少しずつ魔力を与えていく。声だけが聞こえるウェンは、私の魔力を増大させ始めた。

「勇者と、大魔術師。あとはあの子がいれば、完璧なんだけれどね」

 あの子とは誰、と、問おうとしたら、ウェンの声が遠くなっていく。代わりに、胸の奥に、暖かな物を得た。これがウェンの魂なのだろうか。とにかく、私は魔王と戦う運命を選んだ。礼二さんも一緒だ。

 あとは時が来るのを待つだけだ。きっと礼二さんが導いてくれる。それだけは、疑わなかった。

お母様、お父様、私は戦う道を進みます。それがこの身に宿る、選んだ運命なのだから。


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