表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜王様のへタレな恋  作者: Ara
77/77

エピローグ2

 僕に一筋の希望が芽生えた。

 著者名はディーン=シュヴァイツ。きっと子孫が生き残っているのだ!

 飛行機はキャンセルし、出版社を探す事にする。

 出版社の人間に尋ねれば、その子孫に会えるかも知れない。



 その出版社は森が広がる風光明媚な郊外にあった。 

 建物の中に入り、仕事をしている男性に声をかける。

「すみません。僕はティム=シュヴァイツと言います。この本の著者であるディーン=シュヴァイツさんの関係者の方がどこにいらっしゃるか教えていただけませんか?」


 その男性は僕の名前を聞くと、びっくりしたような顔をした。

 シュヴァルツ姓を名乗ったからかも知れない。

 他の従業員の人達も聞いていたのか、皆、驚いたようにこちらを見ている。


 奥の部屋に通されて、しばらく待っていると、大柄で黒い髪、黒い瞳の初老の男性が入って来た。

 涙が頬を伝った。初めて会う人物だが、竜王の面影がそこかしこに見えて懐かしい。


「私はそんなに父、アルベルトに似ていますか?」

 初老の男性は僕が泣いているのを見て、優しくそして少し悲しげに微笑んだ。


「父? 今、父と言いましたか?」

「はい。私の名前はアルフォンス=シュヴァイツ、先々代竜王アルベルトとグローリアの十番目の子供です」

「え? 十番目? ではあの時の」

 最後に会った時、竜王の肩には黒い鱗に金色の瞳の小さな竜が乗っていた。

 二人はわずか二百年ほどの間に九人の子供を持ち、その後は子を作らなかったのに、二人が亡くなる数年前に何故か再び子供をもうけた。

 

「思い出していただけましたか?」

 嬉しくて嬉しくて涙が溢れる。

「はい、あの子竜があなたなのですね。ああ、お会い出来て嬉しいです。僕はずっとこの世界に一人きりだと思っていたのです。それがとても寂しくて辛かった。あ、で、でも、子供というならあなたは竜族でしょう? 魔素のないこの世界でどうやって? 僕はリアに貰った薬で人間になったからこそ、こうやって生きていられるのです」

 分かっていますというように、アルフォンスと名乗った十番目の子供は深く頷いた。


「あなたに、お見せしたいものがあります」




 そこは竜の国そのものだった。

 魔素も存在する。

 そして、美しい渓谷の絶壁には竜達の巣である横穴が幾つも掘られていた。

「これは・・・」

 僕はアルフォンスの後について建物の階段を上り、何の変哲もないドアをくぐっただけ。


「異空間、ですか?」

 僕達、魔族が干渉出来ない空間。いや、感知出来ないと言った方がいいのかな。

「はい、その通りです。父と母によって創られました。そこに先代竜王であるルカウス兄上が竜の谷を中心に転移させたのです。竜王国の半分ほどがここに収納されています。二千年以上前の話です。そして、三人はこのために命を縮めました」

 !!

「母は竜族のためのシェルターだと」

「では、リアはこうなることを予測していたということですか?」

「さあ、どうでしょうか。ただ、可能性として有りうると考えたからこそ、シェルターを用意し、他の兄弟より千年も経て後、私を産み落としたのだと思います」


「そんな・・・・・・すみません。いつも、いつも、他の種族に迷惑をかけて・・・・・・こんなことをするのは、僕と・・・僕と同じ魔族の仕業に違いありません」

 認めたくはない。だけど、間違いなくそうだ。

 僕は頭を下げて謝罪する。

「そうですね。実際にこのような事を成し得る力を持つのは魔族だけですからね。ですが、あなたが謝る必要はありません。種族が同じだったというだけです」

「それはそうですが、放置せず説得するとか、人間になる薬を渡しておけば、こんなことをしなかったかも知れない。でも、僕は、あの当時の僕は、そんな考えにはちっとも至らなくて・・・」

 後悔が先に立つ。

 魔族の考えなんて手に取るように分かっていたのに、どうして僕は何もしなかったのだろう。


「魔族というものが気まぐれで、情を感じる事もなく、仲間意識も薄い、そんな性質を持っているからでしょう。しかし、あなたはずっと私達と共に有り、迷惑をかけた事などありません」

「それは、リアと竜王国に来る時、約束したから! それに、ここは楽しくて、僕には退屈する暇がなかった。僕は愛されていた。皆、こんな僕なのに、愛してくれたのです。それが人間になってみて、初めて分かりました」


 アルフォンスは深く頷いて、しばらく逡巡した後、決心したように話し始めた。

「それには理由が有ります。僕はそこに居ませんでしたから、これは兄弟に聞いた話です。あなたとマリー姉上が冒険の旅に出ていた時の事です。国を出て見聞を広めた兄弟が、あなたが魔族である事を疑って、両親に危険だから理由をつけて竜王国から追い出せと詰め寄った事があったそうです。母は兄弟達を呼び集め、『ティムは自分の子分だ、血は繋がっていないが子供と同じ、魔族であろうとなかろうと子供を守るのは親の勤め、追い出したりしない。文句があるなら自分を倒してから言え』と一喝したそうです。母に逆らえる者など、この竜王国にはおりません。あなたを兄弟と認めざるを得なかった。皆があなたを愛したのは、家族の一員だからです。でもね、母は普段から厳しくて恐かったようですが、皆、母の子供で良かったと思ったそうですよ」


 親分親分親分親分! 親分に会いたい。会ってお礼が言いたい。親分が大好きだって言いたいよ。


 号泣する僕にアルフォンスが「母に会いたいですか?」と当たり前の事を聞いてきた。

「もちろんです。会いたいに決まっています」


「そうですか。では、会いに行きましょう。と言っても、生きているわけではありませんから、話す事は出来ませんがね」

「え? どういうことですか? お墓に行くということですか?」

 いいえ、そうではありませんとアルフォンスは首を横に振った。


「母はシェルターの異空間を創った際に、それをそのまま維持するために、時を凍結しました。その影響を受けて母の時も止まったのです。父は母に全ての魔力を渡し、消滅しました。私は、幼くして両親を失いましたが、父の代わりにルカウス兄上と、そして、物言わぬ若く美しい母にずっと見守られて、寂しくはありませんでした。ただ、毎日眺めて過ごしていたからか、マザコンに育ちましてね。おかげでずっと独り身です。ははは」

 

 


 

 日本に三週間ぶりに帰国し、門をくぐり声をかけた。

「ただいま」

「あ、とうさまだ! とうさまが帰って来たよ!」

 庭で遊んでいた子供達が僕の姿を見て、駆けて来る。

 僕は今、八歳の女の子と五歳の男の子の二人の子供を持つ父親だ。

「とうさま、お帰りなさい! かあさま、かあさま、とうさまが帰って来たよ!」

 僕に向けて両手を広げた下の子を抱き上げると、お姉ちゃんの梨乃が妻の佳乃を呼びに駆けて行く。


「あなた!」

「とうさま、帰って来るのが遅いよ! わたし大変だったんだから! かあさまったらね、とうさまがもう帰って来ないかも知れないって泣くんだもん。わたし、そんなことあるわけないって、慰めるの大変だったんだから!」

 梨乃は文句を言いながら、僕の腰に縋り泣き出した。

 本人も不安だったようだ。

「悪かった。ドイツで気に入った絵本の翻訳をしていたんだ。日本でも出版出来ればいいなと思ってね。あと、親の墓参りにも行って来た」

 しがみついて離れない子供達をあやしながら言い訳をし、最後の言葉は妻に向けて言う。

 通訳の仕事が終わった後、帰国を遅らせるとだけ国際通話の電話をかけたきりだったから、きっと不安に思っていた事だろう。


「あなた、やっぱり記憶が・・・」


「梨乃、ハルを連れてお爺様に僕が帰った事を知らせに行ってくれないか? 後でご挨拶に伺うと」

「うん、いいけど、でも、とうさま、その代わり後で遊んでくれる?」

「ああ、いいよ。そうだ。さっき話した絵本を読んであげるよ」

 子供達は、やったーやったー、わーいわーいと跳びはね喜んで走って行った。

 僕の子供。

 そして、僕の妻。

「心配かけて済まなかった」

 僕は静かに涙を流す妻の細い肩をそっと抱き寄せた。


「お帰りなさい。帰って来てくれて、ありがとう」

 僕の胸の中で、戻って来てくれて嬉しいと呟く妻が愛しかった。

 僕の、現在(・・)の家族。


「君に聞かせたい話があるんだ。長い話なんだが、聞いてくれるか?」






 


今までお付き合い下さり、ありがとうございました。

ブックマークが減る度に凹み、でも、気に入ってくれている人もいる!と、なんとか完結出来ました。

評価点を入れて下さった方には、本当に励まされましたので、お礼を申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ