表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/49

蛇の足

 二人はめでたく結婚し、新たにできた島へと移り住んだ。

 島の名前はウォルプタース島。

 新天地にて二人は忙しくとも、幸せな日々を送っていた。


 サフィラがふと目を覚ますと、目の前に素裸の大きな女がいた。

 その身体より長い黒髪に、ああ、となぜか合点がいって、サフィラは跪く。


「母なる海神マーレ。お会いできて光栄です」

「そう? 私は、あなたにそう言われても、あまり嬉しくないわね」


 素っ気ない口ぶりでも、その声色はどこかあたたかかった。マーレはサフィラの頬を両手で掴み、顔を上げさせる。


「ウォルプタース家に与えた私の愛が返されたと思ったから、どんな子だろうと顔を見にきたの。思ったよりあどけない顔ね」


 そう言って、マーレはサフィラの前髪をかきあげた。緊張して呼吸を止めるサフィラに、彼女は愉快そうに笑う。


「さっきはああ言ったけど、私、あなたの先祖に殺されたことは恨んでないの。それより、私の愛を返されたほうが、よほど悲しくて腹立たしかった」


 そう語るマーレは、サフィラの頬をぐねぐねといじる。言葉を失うサフィラに、「どうしてくれようかしら」と彼女はため息をついた。


「償いとして、私の権能を返したあなたは正しい。正義の天秤にかけるのなら、それくらい大きくなきゃ、あなたの先祖の罪は雪がれない。でもね」


 マーレは、ぴたんとサフィラの頬をそれぞれ五本の指で打った。


「私がせっかく与えた好意を『もういらない』って言われたのは、悲しかったわ」

「……申し訳ありません」


 サフィラがうなだれると、マーレは「いいえ」とサフィラから手を離した。そしてサフィラの身体をひっくり返し、仰向けにする。

 戸惑うサフィラに構わず、彼女はサフィラの額に指を立てた。


「だから、あなたに呪いをひとつかけるの」

「呪い」


 サフィラが反芻すると、「ええ」とマーレは頷く。


「私の最大の権能は生殖。だから――」


 マーレのもう片方の手が、サフィラの下腹部に伸びた。ひ、と呼吸を詰まらせるサフィラに、マーレは無邪気な笑みを浮かべる。


「ええ。あなたが困るようにするの」


 困る、とは。途方に暮れてマーレを見上げるサフィラに、彼女はあくまで愉快だと言わんばかりの笑みを向ける。


「たくさん困りなさい、最後の神官。神の寵愛を返しておいて、ただで済むとは思わないことね」


 ゆっくりと爪を立てられ、彼女の指先がサフィラの下腹部に沈み込む。内臓を弄られる不快感、痛み。

 思わず声を上げたところで、サフィラはベッドから跳ね起きた。


 辺りを見渡せば、クラヴィスと暮らす家の寝室だった。あたたかな手がサフィラの腕を掴み、「どうした」と問う。


「悪い夢でも見たのか」


 無意識に呼吸があがっていたらしく、サフィラの胸は大きく上下していた。慌てて寝間着をめくって下腹部を確認するも、何も変わりはない。


「……うん。そうみたい」


 クラヴィスに手を引かれるまま、再びベッドへ横たわる。甘えるように彼の腕にしがみつけば、彼のたくましい腕はすぐに抱きしめてくれた。


「お腹をいじられる夢を見たんだ」

「腹を」


 クラヴィスの大きな手が、サフィラの下腹部を撫でる。昨晩さんざん二人で遊んだせいか、くうと一瞬そこが凹んだ。

 ん、と頷くサフィラに、クラヴィスが目を細める。


「……たしかめる? 僕のお腹が無事かどうか」


 おずおずと前を開くサフィラに、クラヴィスは低く笑って覆いかぶさった。


「ああ。たくさん確かめる」


 サフィラの鼻が甘えるように鳴る。クラヴィスはその喉仏に噛みついて、脈打つ下腹部を撫でてやった。


 こうして二人は朝まで交わった。ぐちゃぐちゃのベッドで昼下がりになってから目覚めて、身なりを整えてひとの暮らしに戻る。


 マーレの呪いが何であったのかまず身をもって知るのは、この二人に他ならなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

もし面白かったら、感想などお伝えいただけると、大変嬉しいです。

直接感想を伝えにくい方向けに感想アンケートフォームがあります!選択肢を選ぶだけなら1分足らずで終わる簡単なものなので、よければご利用ください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSe6YK-4JlE9CyCxbRohRG4Af5YwY62Wdy6hjmbTHVVyy-88_g/viewform?usp=header

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ