幕開けと四面楚歌への誘い
メイリンは恭しくパソコン筐体を指すように手を差し出した。
「我々ウロボロスの技術で組み替えた、逆上の塔をクリアして見せて下さい」
「そうすれば貴女の勝ちです」
ヒカリは静かに問い返した。
「勝てば私と弥生さんを解放すると?」
「負ければ?」
ニヤリと笑むメイリン。
「勿論、貴女が勝てばお二人共解放します」
「負ければ、水樹弥生さんを諦めるか、、」
「貴女自身が我々の元に来るか、、ですね」
ヒカリはショルダーポーチからUSBアクセスキーを取り出す。
そして颯爽とメイリンの元へ歩み出し、一瞥もせずにパソコンの前に座した。
USBアクセスキーをパソコンに差し込むヒカリ。
「制限時間は?」
メイリンはヒカリに不気味な笑顔を見せた。
「ありませんよ」
「ただ貴女の身体と意識が保てばの話ですが、、」
ヒカリは素っ気なくモニターを見つめたまま呟く。
「そう、、、」
ヒカリの反応を気にした風も無く、少し離れたパソコン筐体に着くメイリン。
そのまま背もたれに身を任せメイリンは脚を組むと、
「言われなくても分かると思いますが、」
「剣聖シウスのHPが0になれば、貴女の負けです」
ヒカリは何も答えない。
その内に占める怒りを抑え込むように、ただ静かにモニターを見つめていた。
このホールの上部にオーナの執務室となっている、元VIPルームがある。
そこは、このホール全体を見渡す事が出来る構造だ。
そしてその元VIPルームの窓際に人影が見える。
嬉しそうにホールを見下ろす、その姿は前原正美だった。
彼女は、窓を背にするように向き直ると、
「どうやら始まるみたいだよ」
前原正美の視線の先には、手錠をされて椅子に座らされている水樹弥生の姿が有った。
大小様々なモニターに囲まれたこの部屋に、この美しい少女の存在はとても異質に見える。
居心地の悪そうな弥生を、気遣う事など毛頭ない前原は嬉しそうに語る。
「君の役目は、捕らわれのお姫様だ」
「そこに有るモニターと君自身の目で、」
「君を助けに来た英雄の勇姿を見届けるといい」
弥生は険しい表情で前原を見返す事しか出来なかった。
シウスは逆上の塔が有る地上入り口に立っていた。
そこは遺跡後のように崩れた柱や石材のような物が、そこかしこに散乱している。
特に整備された設定では無いようで、雑草により元の姿が確認出来ないほど荒れていた。
そんな場所に、そこだけ綺麗に手入れされたような一画が有る。
それは石畳が敷き詰められた、一辺10m程の平地だった。
中央には腰の高さまである小さなオブジェクトがあり、いかにも何か操作出来るような見た目だ。
シウスはそのオブジェクトに手をかざす。
『悪いが時間を無駄にしたくはない、、』
するとオブジェクトを中心に輝く魔法陣が地面に形成される。
『一気に最終階層まで行かせてもらおう』
そう呟いたシウスは光の粒に覆われた。
暫くすると光の粒は消え失せて、剣聖の姿も消え失せていた。
メイリンがモニターの前で眉をしかめる。
『99階層まで踏破していた、、、、?』
『天位と知己なら、それも当たり前というものか、、』
そしてメイリンの口角が上がった。
「だが問題ない、、」
「本当に面白いのは最終階層からなのだから、、、」
最終階層まで一気に到達したシウスは、地上と同じ操作オブジェクトの前に佇んでいた。
ただ地上とは周囲の様子が違う。
そこは美しい大理石で構成されたような広い立方体の空間なのだ。
その中央にシウスは立っていた。
前を見据えると、一か所だけ外部へと続く通路が口を開けている。
この通路の先には巨大な回廊が存在する。
その回廊を突破出来れば、最終ボスが鎮座する100層へ降りる階段が有ると言われていた。
しかしその回廊が最大最後の難関とされている。
理由は、その巨大な回廊に99のゲートと、その1つ1つに1階層から99階層までのボスが配置されているからだ。
これこそが最難関の理由に尽きた。
つまりボスとの連戦とトータル的な長期戦の為に、プレイヤーのスタミナとメンタルが持たないのだった。
シウスはそれを承知した上で歩を進める。
そして通路を抜け回廊に出た時、シウスの眼前に巨大なゲートがそびえ立った。




