ウロボロスと黒瀬ヒカリ
ヒカリが目的地付近に近づいた時には、とうに日を跨いでいた。
タクシーの中で思案するヒカリ。
水春と自分が当事者と言う事は、AOが関係しているのは間違い無い。
それに指定場所の位置情報と共に、USBアクセスキーを持って行くよう水春からメッセージが添えられていたのだ。
故に十中八九、この誘拐の首謀者はAOで何かを仕掛けてくるはずだ。
暫くして運転手が到着を告げた。
支払いを済ませて足早に目的の建物を探すヒカリ。
そして直ぐ位置情報に該当する雑居ビルを発見する。
繁華街から離れた場所にあり、少し寂しげな雰囲気が辺りに漂う。
時間が深夜という事もあり、人通りが全く無いからであろか、。
それともバブル期に建てられた様な古さと外観が、その雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
近づくとハイブランドな黒いビジネススーツを着た男が立っている事に気付く。
年齢は30歳前後か、、いわば黒服である。
深夜だと言うのに、その男はサングラスを掛けていた。
まさにヤクザかSPかと言った出で立ちだ。
その黒服は、ヒカリの接近に気付くと頭を下げる。
「お待ちしておりました」
「黒瀬ヒカリ様ですね?」
ヒカリは静かに頷いた。
すると先を案内するように、手を雑居ビルの方に差し出す黒服。
「では案内致します」
「こちらへ」
黒服の後を付いて行き、雑居ビルの端にある階段を降りてゆく。
どうやら目的の場所は地下にあるようだ。
そして詰まる所、容易には逃げ出せない場所になる。
しかし弥生を救い出すまで、自身を顧みるつもりは無いヒカリ。
逃げる算段など端から無いのだ。
地下を降り切った突き当たりに、頑丈な扉があった。
黒服がカードキーで扉を開けて、恭しくヒカリを中へ入るように促す。
ヒカリが中に入ると、黒服は入らずそのまま扉を閉めてしまった。
恐らく黒服は入り口の番なのだろう。
ヒカリは室内を見渡した。
そこはかなり広いホールのような場所で、天井も吹き抜けのように高く、ちょっとしたライブ会場だ。
高い天井付近には、巨大なモニターが幾つか設置されていた。
そして広いホールには沢山のパソコン筐体がある。
まるで先刻まで、誰かが使っていたかの様に起動状態だ。
その綺麗に配置されたパソコン群の間から、ビジネススーツに身を纏った女性が歩いて来た。
「水樹千春は約束を守ったようですね」
彼女はそうヒカリに告げ笑顔を見せた。
ヒカリは驚愕する。
何故なら彼女は、ヤン・メイリンだったからだ。
「メイリン社長、、、」
メイリンは苦笑する。
「社長はやめてください、、」
「今はウロボロスのリーダーなんですから」
目の前が眩むような錯覚に捕らわれるヒカリ。
大陸で名を馳せる大企業の社長が、しかも知人が弥生の誘拐に関わっていたからだ。
そしてウロボロスが関わっている事にも驚かされた。
ウロボロスは世界最大規模の業者集団だ。
しかもネットマフィアと呼ばれる、近年問題になり始めた闇組織でもある。
笑顔でヒカリに語りかけるメイリン。
「黒瀬さん、取引をしましょう」
「貴女が我々の元に来てくれるならば、水樹弥生さんを解放します」
ヒカリは無表情に徹し、静かに揶揄した。
「一度私に断られたからと言って、次は半ば脅迫ですか?」
メイリンは「フッ」と鼻で笑った。
「アイオーンエレクトロニクスに、、」
「いや、、水樹千春にこのまま一人勝ちさせる訳にはいかないんですよ」
ヒカリの冷たい視線がメイリンを射抜く。
裏切られた気持ちが、ヒカリを一層冷徹にさせた。
「私が首を縦に振るとでも?」
否定するように小さく首を振るメイリン。
「首を縦に振らす事は出来るでしょう」
「しかし、貴女の人心を得る事は出来ないでしょうね、、」
そしてメイリンはパソコンの前まで来ると、
「取引きが互いに納得出来ないものなら、」
「勝負をしませんか?」
やはりそう来たか、、、ヒカリは内心で呟いた。




