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黒瀬ヒカリとヤン・メイリン(1)

弥生のお見舞いを済ませた後、コウは急いで帰宅し支度を始める。



まずはシャワーを浴びて、それからスキンケアだ。


そして服を選びながら化粧の方向性を考える。

今回は企業のパーティーで、国内だけでは無く国外からも招待客が来る。

それだけアイオーンエレクトロニクスは、グローバルな企業と言う事だ。


と言う訳で、それなりの装いでパーティーに出席しないといけない。


「やっぱりドレスか、、、」と、うんざりしたようにコウは一人呟く。


ドレスはカイエンの件で昨日着たばかりだ。


綺麗な服を着たり化粧したりするのは大好きである。

しかし自分の為ではなく、他の事の為に着飾るのはコウとして乗り気では無かった。


「仕方ないか、、これも黒瀬ヒカリを存在させる為だしな、、」

と諦めた様子でコウは自室から出る。



そして向かった先は、同じ2階にある収納部屋である。

そこは実をいうと相川家女子専用の衣装部屋となってしまっていた。


理由は、女物の衣装を着る人間の割合が1:3で3が女だからである。

父:息子+娘+母と言う事になるが、一般家庭とは違い実に変だ。

しかも衣装部屋にある服の殆どが、ヒカリと結のものである。


さらに外国の王子にプレゼントされた高級マンションにも、ヒカリの服が沢山あって、管理と把握が大変なのだ。


趣味の服から、ヒカリがプロゲーマーとして仕事で身に着ける衣装、今回のようなスポンサー関連で装う物など多岐にわたる。




コウが思案しながら衣装部屋まで来ると、その部屋から結が出てきた。

手に少し大きめの紙袋を持っている。

結はコウを見て、

「お兄ちゃん、いいところに来た」

「今晩、パーティーでしょ」



コウは少し引き気味で結を見ると、

「何で知ってるんだよ、、お前は俺の秘書か、、、」



ニヤリと笑って結はコウを見やると、

「知らなかった?」

「お兄ちゃんのリマインダーは、私のスマホとクラウドで共有してるんだよ」



凄い嫌そうな顔でコウは溜息をつく。

「マジかよ、、、」

「で、何?」



結は少し不満そうに、

「何って、、パーティー用の衣装用意してあげたんだよ」


うわ、またか、、と怯えるコウを他所に結は紙袋から何か取り出す。

「これだよ~、オーダーメイドだよ」

「奮発しちゃった!」



結が手に持って見せてくれたのは、チャイナ風のドレスだった。

黒を基調に、うっすらと見えるニードルレースの装飾がとても美しい。

腰の辺りには、深いスリットが入っていて妖艶さを演出するだろう。



コウは頭を抱える。

「お前なぁ、俺の事を着せ替え人形とか思って無いか?」

「それに奮発したって、、幾らしたんだそれ、、」

「めちゃ高そうだし、、」


結はニヤリとする。

「そう思うなら絶対これ着て行ってよね」

「お金はいいからさぁ」



コウはヤレヤレと頭を小さく振る。

「はぁ、、、」


「じゃあ結、支度手伝ってね」

コウから黒瀬ヒカリにスイッチを切り替える。


結はそんなヒカリを見て嬉しそうに微笑む。

「任せて!」








時刻は19時を少し過ぎた頃。

場所は昨日と同じくオフィス街に黒瀬ヒカリは来ていた。

今夜の仕事の場である、高級ホテルを前にして溜息をつくヒカリ。


元々引き篭り体質なヒカリは、連日遠出させられるのはキツイのだ。

これは肉体的に疲れるからである。


そしてもう一つ、精神的に疲れる理由がある。

元々コウは、コミュ障気味だ。


それを黒瀬ヒカリで立ち回る事によって、他人との交流を何とかこなしているのだ。

そんな人間が仕事とは言え、パーティーに出席するのだから溜息くらい出るというものだ。



その上、アイオーンエレクトロニクス社は、AOのヒットにより中規模から大企業へと急成長を遂げた会社だ。

海外からの招待客、社賓(しゃひん)なども多く集まる。


その為、イベントごとには其れなりの金を掛けなければならない。

故に、人も多く来るだろうし堅苦しいはずだ。



ヒカリはパーティー会場がある高級ホテル内へ、重い足を進めた。


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