思いやりと優しさと(4)
コウは、約束通り弥生を自室のベットに寝かせた。
2階に弥生の部屋があるのだが、ふらつく弥生に寄り添って支えながらだ。
少し大変だった。
支えるのがと言うより、コウが弥生に寄り添った時、やたらと引っ付いてきたからだ。
男の自分としては大変役得なのだが、遺憾せんノーブラパジャマ女子はコウに刺激が強すぎる。
しかし弥生は、本当に風邪で辛かっただろうし、心細かったに違いない。
そんな状態で恋人が傍にいたらと思うと、弥生の行動も納得がいくと言うものだ。
とにかく何とか弥生をベットに寝かせて、コウは上掛けをかけてやる。
ふと、そう言えば弥生の部屋に入るのは初めてだなとコウは思った。
部屋の中を見渡すと、きちんと整理されていて無駄な物が殆ど無い。
どちらかと言うとコウの部屋に似ていて、とてもシンプルだ。
参考書など学業で使う物は、本棚に綺麗さっぱり収納されている。
女子的なファンシーグッズも無い。
印象だけで言えば、勉強して寝るだけの部屋、、だ。
なんとも味気ない。
しかしよくよく考えれば、弥生の自宅での主な活動エリアは、1階のリビングのようだ。
だから自室はあまり使わないのかもしれない。
熱と頭痛が辛そうなので、コウが弥生の額に冷却シートを貼ってあげていると、
「コウくん、、一つ聞きたい事があるのだけど、、」
少し改まった感じに弥生が言うので、ついつい身構えてしまうコウ。
「あ、あぁ、、何?」
弥生は気怠そうだが、真剣な表情で、
「私はコウくんが、クラスメイトと親しく話してる所を一度も見たことが無いの」
「明らかに他人との接触を避けてるよね?」
「どうしてなの?」
コウは、戸惑った。
どう答えたら良いのか分からなかったからだ。
続けて弥生は追い討ちをかけるように、
「もし他人と関わる事を避けているなら、」
「どうして私を受け入れてくれたの?」
すぐに返す言葉が出なくて俯いてしまうコウ。
そんなコウの様子を弥生は心配そうに見つめた。
ほんの少しだが、二人の間に無音の時が流れる。
この場の雰囲気に耐えきれなくなったのか、弥生は申し訳なさそうに、
「ごめんね、、変な事聞いちゃって、、、」
そして弥生は戸惑った様子のコウに笑顔を向けると、
「誰だって言いたくない事、あるよね、、」
「それにコウくんが私を好きでいてくれる事に変わりは無いのだから」
コウは弥生に全てを打ち明けて、幻滅される事が怖かった。
弥生は"今の自分"を好きだと言ってくれたから。
でもこんなにも優しくて気立てのいい彼女に、答えられない自分が情けなくて仕方ない。
だからコウは勇気を振り絞って、自分の中で譲歩出来る最大限の事を話そうと思った。
コウは俯いたままつぶやく。
「本質は話せないけど、、、」
「少しだけ、、弥生には理由を聞いて欲しい」
心配そうに頷く弥生。
「うん、、、」
ゆっくりと深呼吸した後、コウは、
「中学の時にね、自分のエゴばかり他人に押し付けてしまって、」
「色々失敗したんだよ」
当時の自分を思い出すと、愚かしくて寒気がした。
だが不思議と客観的に捉えて、言葉が口から漏れてゆく。
「あの時の俺は自分に自信があって、」
「自分がする事全てが正しいと思い込んでいたんだ」
自嘲するようにコウは、
「そんな人間の学生生活が上手く行くはずがないよな、、」
弥生は否定も肯定もせず、ただ静かにコウの言葉に耳を傾ける。
そしてコウはまるで痛みを堪えるように、拳を眉間に当てて顔をしかめる。
「結局他人を傷つけて、自分も傷ついて、、」
「取り返しのつかない結果になってしまって、、」
「その時の事、、、凄く後悔しているんだ」
「悔やんでも悔やみきれない、、、」
コウを心配そうに見つめる弥生。
弥生のそんな視線に気付いたコウは苦笑して、
「だからね、他人と関わるのが怖いんだよ」
「また同じ事をしてしまうんじゃないかって、、」
「失敗を繰り返したくないから、、」
「自分の心が成長するまで、出来るだけ他人と関わるのをやめよう、、、」
「そう決めたんだ」
コウが語る内容が、弥生は悲しくて仕方なかった。
当時のコウの事は全く分からない。
でも今ここに居る、弥生が大好きなコウの事は分かる。
だから自然と言葉が紡がれる。
「今のコウくんは、優しくて思いやりがある立派な心の持ち主だよ」
「だからもっと自信を持って欲しい」
コウは小さく溜息をつくと、
「弥生は俺を買い被りすぎだよ」
「俺は弥生が思っている程優しくない、、、」
「いつも劣等感で一杯だし」
自分を嘲笑うかのように、客観的にスラスラと言葉がでる。
「思いやりが有るように見えるのは、他人の目を気にして、いつも怯えているから」
「見栄えが良いように振舞ってるだけだよ、、、」
弥生は慌てるように、それを否定する。
「そんな事ないよ!」
「誰だってそれくらいのエゴはあるよ!」
「でも普通の人なら行動に出さない事を、コウくんはしてくれる」
「手を差し伸べてくれるでしょ!」
「それは凄い事なんだよ!」
コウは悲しそうにはにかんだ。
「弥生は優しいな」
「ほんと、俺には勿体ないくらいの良い彼女だ、、」
弥生の言葉をコウがはぐらかそうと、煙に巻こうとしているように感じた。
だから懇願するように訴える。
「コウくん、、、」
「お願いだから、他人と関わるのをやめるなんて言わないで、、、」
「そんなの悲しいよ」
コウは否定するように首を横に振る。
そしてその表情からは悲壮感は消えて、
「今はね、これで良いと思ってる」
弥生は、コウが何を言いたいのか分からなかった。




