ネモとヤン・グアハオ(2)
ネモの背後から、部屋に誰かが入ってくる気配がした。
このオーナーの執務室に入ってきた人物は女性で、グアハオとネモの中間あたりにまで来て軽く会釈する。
その女性は30代位に見える。
ベリーショートの髪に、サマーセーターと深いスリットの入ったロングスカートを身に纏っている。
なかなかの美人だ。
グアハオがその女性を見ながら、
「さて、君に凄腕のエンジニアを紹介したくてね」
「渡したUSBアクセスキーに登録してあるキャラクターを作ったのは彼女だ」
その女性は笑顔でネモに手を差し出すと、
「前原正美です」
「よろしくお願いしますね」
ネモは差し出された手をとり握手する。
「よろしく」
グアハオは、ネモに向き直ると
「前原君は、元AOの開発チームの人間だ」
「今はフリーランスで、私とは持ちつ持たれつの仲だよ」
マスクの下で苦笑するネモ。
『AOの開発者だった者が、今ではAOのチートメーカーとは、、』
続けてグアハオは、
「ここではプレイヤーと、それをサポートするエンジニアが2人1組で活動している事が多い」
「そこで君と、この前原君が組んでみてはと思った次第でね」
ネモは首を傾げる。
「どこの誰かも分からない自分に何故そこまで、、」
傍に立つ秘書然とした女性からタブレットを受け取るグアハオ。
「うちに殆ど負け無しのプレイヤーが、毎晩のように来てると聞いてね」
グアハオはタブレットを眺めつつ、
「気になって、これで君の様子をモニタリングしていたんだよ」
「勝率の高さも凄いが、、」
「何と言うか、その鬼気迫る"気迫"が妙に気に入ってね」
そしてグアハオは真剣な表情でネモを見つめる。
「良ければ君が何をしたいのか、、」
「何を成そうとしているのか教えてくれないか?」
「お互い協調しあえるやもしれんしな」
ネモは少しの間沈黙する。
そしてネモの射るような視線がグワハオ見据える。
「AOの転覆、、」
「AOそれ自体を潰すのが目的です」
驚いて呆気にとられるグアハオ。
グアハオは、確認するようにネモの瞳を見つめる。
ネモの瞳には、憎悪の炎が灯っているようにグアハオには感じられた。
驚きつつも感心したようにグアハオは笑う。
「はははっ!」
「これは驚いた!」
「そう来たか!」
グアハオは前原を見やると、
「そう言う事なら、前原君とも目的は同じと言う訳だな」
頷く前原はネモに、
「会社の開発方針と私の考えは合わなくてね」
「私は解雇されてしまったんだよ」
「あれだけAOの開発に貢献したんだがねぇ」
そして溜息をつく前原は、
「もはやAOは私の作品では無く、私にとっては失敗作だ」
「失敗作は潰さないとね、、」
前原は、ネモに再び手を差し出して、
「目的が同じなら、あえてその理由を聞く必要もない」
「君が語りたければ別だが、、」
ネモは首を横に振る。
そして前原の差し出された手をネモは握る。
「自分は、同じ目的を持つ仲間を探していた」
前原とネモは再び握手を交わす。
ニッコリとネモに微笑む前原は、
「ようこそ同士よ」
「そして、ようこそウロボロスへ!」
2ヶ月前の出来事を前原は、脳裏で思い起こしていた。
グアハオは、そんな前原を他所にネモを見据えると、
「あの時、言えなかった事があるのだが、、」
「いいかね?」
ネモは不思議そうな様子で、
「?」
「どうぞ、、」
真剣な表情でネモを見据えたままグアハオは、
「私の元に来ないか?」
「私の本業の方に、君の才能と技術が是非とも欲しい」
前原はニヤリとして2人を見守る。
小さく首を横に振るとネモは、
「今はAOを潰す事で頭が一杯だ」
「他に回す余力は無いよ」
尚も食い下がり気味でグアハオは、
「君を雇い受けるに、君の言い値を用意するぞ!」
「それでもダメかね?」
溜息をつくネモ。
「高く評価してくれるのは光栄だが、」
「諦めて下さい」
グワハオは残念そうに椅子に深く座り込む。
「そうか、、、」
その様子を見た前原は、微笑みながらグアハオに、
「私とネモ君の目的が達成された時、また声を掛けてみればどうです?」
「人は考えが変わる生き物ですから」
諦めた様子のグアハオは、
「そうだな、、」
「で、その目的を達成する為のプランは上手くいっているのかね?」
前原はまるで世間話をするように、
「はい、問題ないですよ」
「最終ターゲットは剣聖です」
「それまでに出来るだけナインピラーを撃破してスキルを奪い、」
「剣聖を確実に倒す準備をする予定です」
グアハオは訝しげに前原を見つめて、
「剣聖を倒してどうするのだね?」
「それによってAOが崩壊する引き金になると思えんが、、」
すると前原の顔に不気味な笑みが浮かぶ。
「我々がトッププレイヤーを撃破する一部始終を動画に納めています」
「今はウロボロスの会員のみ観れますが、」
「いずれナインピラーや剣聖を倒す動画を全てのプレイヤーが観れば、私のツールが評価されますよね」
そして前原は狂気じみた目で続ける。
「そこでわたしのツールを配布し、全てのプレイヤーが使用出来れば、」
「AOのPvPのバランスは崩壊するでしょう」
グワハオは前原の話を咀嚼するような様子で、
「成る程、」
「今のAOは非公式サーバーが半数以上を占めている」
「運営が全てのチーターを取り締まる事は不可能だな」
前原は人差し指を立てると、
「しかしこれではまだ不十分です」
「なので駄目押しを追加します」
「私が別途開発したPvE用のツールをウロボロスを筆頭に、あらゆる業者に配布し、」
「RMTを蔓延されば」
はっ、とした様子のグアハオは、
「そう言う事か」
「PvEメインのコンテンツは、チートや業者の横行で価値を失う」
「さらにPvPのバランスが崩れていればAOの運営は難しくなる」
前原は、優しい表情でニッコリ笑うと、
「業者が横行して、チートが蔓延したオンラインゲームが、長続きしたためしが無いですからね」
「それにネットマフィアがAOをホームに活動していると世間に知らしめれば、」
「AOの存在自体が社会問題になるでしょうし、、」
ネモが「やれやれ」と少し呆れた様子で、
「2人で盛り上がってるところ悪いんだが、」
「一ついいかな?」
グアハオと前原が息を合わせるように、
「何だね?」
「何?」
『この2人は息が合うと言うか、気が合うと言うか、、』
と内心でネモは呆れながら、
「欲しいスキルを得るのに、」
「それを持っているプレイヤーをPKして、さらにハッキングまでするのは面倒なんだが、、」
前原は、またそれか、、と呟き、
「それは前にも説明したでしょ」
「AOがβテスト時代には、全てのスキルはLvが上がる毎にクライアントデーターから解放されていたけど、、」
「製品版では、Lvが上がる毎にサーバーから送られるスキルなどのデータをダウンロードしないといけない」
グアハオが前原に同調するように、
「クライアントデーターにスキルが全て収録されていては、」
「簡単に解析されて、結果チーターに使用されてしまうからだな」
残念そうに前原は、
「つまり欲しい物は、倒して奪うしか無いよ」
「面倒だけどね」
ネモは鋭い目付きで前原を見つめる。
「前原さん、、あんたなら不可能でもないだろう」
「こんな回りくどい事をしなくても、、、」
前原はとぼけた様子で、
「買い被り過ぎだよ」
「そもそも公式のサーバーでも活動出来るように、キャラとツールを程々に組んだ訳だからね」
「ただ、、、」
前原の顔に邪悪な笑みが浮かんで、
「非公式サーバー、さらにはプライベートサーバーなら、」
「AOに存在しないような事も出来るかもしれないね、、、」
少し驚い声でネモは、
「もう組み上がってると?」
ニコリと笑む前原。
「あぁ、楽しみが増えただろ」
グアハオも笑みながら、
「隠し球は剣聖まで取って置くといい」
「君達2人なら、ナインピラー程度今のままでも戦えるだろ?」
ネモは鼻で笑うとぶっきら棒に、
「さぁな、、、」
「う〜ん」と考えるように前原は、
「まずはナインピラーを引きずり出さないと、、」
すぐにネモが「問題ない」と呟き立ち上がる。
そして話は終わったとばかりにグアハオ等に背を向けるネモ。
「もう彼らは動いているよ」
「近いうちに罠にはめようとアクションを起こすさ」




