プロローグ
つたないところが有るかもしれませんが、ご容赦ください。
出来るだけ毎日、1話分でも投稿できればと考えています。
また、自身で作画デザインしたキャラクター設定や挿絵なども入れていければと思っております。
とても暑い8月の初頭。武道館で、ある大会が行われていた。
大会といえば大半の人間がスポーツを思い浮かべるだろう。
さらに厳粛なイメージのある武道館では、空手、居合い、剣道、柔道などが競い合う場所として認知されているかもしれない。
だが今日は、武道館に似つかわしくない大会が今そこで進行していた。
武道館の真上には、宣伝用の4つの巨大な幟が気球に吊り上げられ静かになびいている。
その幟には、アヴァロンオンライン・第二回世界最強決定戦、と記されていた。
アヴァロンオンライン。
今年で運営2年目を迎える世界最高峰のアカウント数を誇るアクションMMOである。
現在、北米と中華圏を除く殆どの国でプレイ可能で、その登録アカウント数は2500万にも及ぶ。
そしてそのアヴァロンオンラインを開発運営しているのが、日本の一企業であるアイオーンエレクトロニクスであった。
ある人物は、自前でカスタムしたキーボードとマウスを小刻みに、そして素早く動かす。
またある人物は、キーボードの代わりにゲームに特化したゲーミングボードとゲーミングマウスを駆使する。
観客席は満員の上、その一万人に及ぶ客席からの歓声が会場を揺らす。
そこは、武道館のメインホール。
アヴァロンオンライン・第二回世界最強決定戦のイベント会場である。
そして会場の中央には、円陣を組み向かい合うように大会参加者9名がパソコン筐体に着いている。
会場中央の上部に観客席から見やすいように特設された大型モニターに、ある二人の姿が映し出される。
一人は金髪オールバックの30歳前後かと思われる小太りな外国人男性。
もう一人は、中肉中背の日本人で少し神経質そうな雰囲気の顔立ちが整った男性である。
こちらは40歳前後といったところか。
金髪オールバックの小太り外国人がマイクを手に持ち、
「今年もやってまいりました!」
「アヴァロンオンライン、第二回世界最強決定戦!!」
「司会は昨年も担当いたしました私、マイケルと、」
次に隣の神経質そうな男性に映像がシフトし、
「解説は、アヴァロンオンライン、プロデューサー水春さんです」
少し慌てた様子でマイクを手に取り水春は、
「よろしくお願いします」
マイケルは流暢な日本語で続けて、
「この武道館で行われる決勝ステージは、PvP公式戦ランキング1位から10位、、、」
「そうAO2500万アカウントの頂上の称号持ち10名によるバトルロイヤルです」
隣の水春が少し残念そうに、
「今年も昨年と同じく一名欠場になっていますがね、、、」
わざとらしくマイケルが困った様子で水春に視線を向けて
「はい、、ランキング10位、天位のタイトルホルダー、雨音さんですね」
「昨年と同様、棄権という理由で欠場となっております」
気を取り直したようにマイケルは拳を握り締めて、
「ですがこの反響と盛況!」
「この武道館を埋め尽くす観客達!」
「何も問題ありません!!」
そしてマイケルは、頂点9名のプレイヤー達の詳細が表示されている、中央の特設モニターを指して
「実質9名で行われるこの本戦で、最後に生き残った一名が最強の称号とLV100開放、、」
「そしてWOSを得ることが出来ます!!」
マイケルが興奮した様子で
「ですが、何と言う事でしょうか!!」
「決勝ステージ開始約10分程で、、、」
中央特設モニターの中で一番大きいメインモニターに、AOのゲーム画面が表示されているのだが、そこには倒れこむ6人のキャラクターが映し出されていた。
そして続くマイケルの叫び
「1対6というアンフェアな構図となったにも関わらず、、、」
「前年度王者、剣聖シウスがこれを返り討ちにしたあぁ!!!」
6体のキャラクターが地に伏せたその先に、悠然とそして静かに立つ1体のキャラクター。
そのキャラクターの姿は、白と銀を基調とした着物と袴、澄み切った湖畔の水面のような薄い水色の陣羽織、そして右手には刀身が漆黒の刀が握られていた。
そのキャラクターの名は、シウス。
クラス(職業)は侍である。
このAOで唯一無二のLV100に到達した最強のプレイヤーキャラクターでもある。
そして第一回世界最強決定戦で優勝し、最強となって得たその称号は剣聖。
故に、AOのプレイヤー達はシウスに畏怖と敬意と嫉妬を込めて、剣聖シウスと呼ぶのだ。
では、その剣聖シウスを操る人物は誰なのか?
中央特設モニターの一つに、その人物がライブ映像で映し出される。
すべてが白い、、。
透き通るような白い肌と、背中の半ばまである美しい髪。
その美しい髪も白い、、いや白銀と言えば正しいのかもしれない、その神秘的な色彩。
年齢はいくつだろうか、、。
まだ二十歳にもなっていないような、しかしその落ち着いた様相からは、正に妙齢の絶世の麗人と言えよう。
そして身にまとう衣服は、自身の姿とは対照的な黒を基調としたゴシック調のワンピース。
透き通る肌の白さと、ゴシック調の黒のワンピースが完璧なコントラストを表現し、この人物の美しさを際立たせる。
そして優し気な朱色を唇に彩り、見る者がゾクリとするような色気を醸し出していた。
この女性の名は、黒瀬ヒカリ。
剣聖シウスを操るプレイヤーである。
会場の観客全員が黒瀬ヒカリの写し出されたモニターを直視したためか、一瞬の静寂が会場全体を覆う。
黒瀬ヒカリが、あまりにも美しいために皆、見惚れてしまったのだ。
そのタイミングを見計らってマイケルが、
「世界ランキング1位を除く2位から10位の最強プレイヤーは、9本柱と呼ばれ、それぞれ最強のタイトル称号を所持しています」
そして水春を窺うようにマイケルは
「そのナインピラーの6人を一度に相手して勝ってしまうとは、、」
「これはもう2年連続優勝が確定したと言っても過言ではないのでは?」
水春は顎に手を添えて考えるように、
「確かに剣聖のプレイヤー黒瀬さんは、最高のプレイヤースキルの持ち主といっても良いでしょう」
「現に公式戦では無敗ですから」
「ですが、、優勝が確定とは早すぎるでしょうね」
中央の一番大きいAO実況モニターでは、剣聖シウスのHPゲージが5分の1まで減少しており、レッドゾーンの警告が表示されている。
それを指して水春が、
「剣聖のHPゲージがレッドゾーンから全く回復していません」
「恐らく、手持ちの回復アイテムをすべて使いきってしまったのでしょう」
水春の解説を無言で静かに聞いている黒瀬ヒカリ。
その目は自身がつかうパソコンのモニターを見つめているだけ。
その表情からは、まったく感情を読み取ることは出来ない。
そして観客の歓声が再び大きく響きだす。