02
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『あなた達の好きにはさせないわ!! 食らいなさい! ファイアーボール!!』
疾走感溢れる音楽と共に、使命感に満ちた声音が響く。
「お、おお……すげぇ。今の時代は、火や氷を大気中に生成できるのか。──この、桜色の服を着た女……やりおるな」
今日、新しい発見をした。秋葉原を歩いていると聞こえた、助けを求める声。街の喧騒に掻き消される事なく、大きい声で皆に届くようにと発していた。早歩きで向かうと、テレビの向う側で、いま正に悪者と女が戦っていたのだ。この時代にも、しっかり呪術的な何かを使う者がいる。
この女は、その力を『マホウ』と呼んでいた。
「類は類を呼ぶとは、言ったが……。まさか、惹かれてしまうとは……!! って、おい! ばか! 後ろに、まだ居るではないか! 何を油断している! 早く気が付かぬか!!」
くっそ、見てられねぇ。俺が、画面の中に入る事が出来れば手助けは出来ると言うのに!
久々に感じた高揚感。有りと有らゆる妖怪を相手していた時の様に血液に滾る正義心。俺は、やはり悪を許せそうにはない。
日の本に蔓延る陰、即ち混沌を俺は──。
『きゃぁぁ!!』
『ぐへへへ、油断大敵とはこの事よな? 魔法少女、ナナリ』
「ば、馬鹿者!! だから言ったではないか!! くそ、こーなったら、誰か! 誰か居らぬか? 画面の向こうに行ける力を持ったものよ!!」
「──おいおい、あのコスプレの男、画面に張り付いて叫びまくってんだが……」
「これ、リツイート稼げんじゃね?? ぷぷぷ」
俺は、苦しむ少女を見逃せるほど鬼畜にはなり下がれない。だが、なぜ街を行き交う、こヤツらは助けに耳をかた向けないんだ?非情極まりないだろ。
「ヘイ! ジャバニーズミコサーン」
な、なんだ、この大柄な男性達は。数は三人、背後にはテレビの中で戦う少女。ああ、任せておけ。お前は目の前の敵に専念していればいい。コイツらは、俺が──引き受けた!
「な、何者だ!!」
反応的に、袖から護符を取り出し構える。
「ワーオ!! アメイジーング! ビューティフル!! ジャバニーズ、オミョージ!!」
「あ、飴? オミョ? イジング? な、なんだそれわ!!」
コイツら、さては心理を錯乱させる呪詛を……。
だが、俺は陰陽師。そう、易々と洗脳されねぇぜ。
「スナップ、オーケイ?」
「お、おーけい。──とは、なん……」
「オーライ!!」
「うわ、ちょ! な、なんだ! 肩を組むな! な、何なんだ貴様達は!!」
眩い光が、目をくらまし、甲高い音が時間を裂くようにパシャリパシャリと鼓膜に響く。
「センキュー! オミョージ!! HAHAHA」
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ」
あ、あいつら一体何者だったんだ……。日本語とはまた違う言葉を発していたが、呪術的な力は垣間見れ無かった。
ちくしょう、無駄に疲れちまった……。
『へへん! ナナリの大勝利ッッ! どんなもんだい!!』
腰に両手をあてがい、立ち誇る少女の背後は盛大に爆発をしていた。だが、無事で良かった。お前は、強いんだな。
逆に俺は、満身創痍だよ。膝がガクガクと笑いやがる。
両膝に手を付き、息を整えていると聞き覚えのある声が真正面で聞こえた。呼吸を正しいつつユックリと体を持ち上げると、そこに居たのは土御門。
「土御門、何故ここにいる? 俺が迎えに行く手はずだろ」
「別に私は頼んでないですよ。母さんが、勝手に頼んでるだけじゃないですか」
「いや、そうだが……。母上は、土御門を心配してだな……」
「それよりも、なんで疲れきっているんですか?顔色が物凄い悪いんですけど」
またもや、土御門は俺の状況を瞬時に気がついた。やはり只者ではない。ならば、彼奴等の正体も見抜けるやもしれん。
「土御門、聞きたいことがある」
両肩を掴み、真剣な眼差しで土御門の瞳を捉えた。
「な、何ですか……。こ、こんな公衆の面前でッ。離してください」
「お前は、こんな言葉を発する動物をしらないか」
「なんです?」
きゃつらに言われた言葉を思い出しながら、俺は息を大きく吸い込んだ。
「ワーオ!! オミョージ! 飴ィイジングゥグゥ!! ミコサーン!ワーオ!!」
「えっと、真顔で何を言ってるんですか」
あれ、まったく温度差が違う。なんで俺、蔑視されてるの。怖いんだけど。
「何って、今さっき言われた事を……」
「はい?」
「──え」
それから、暫く沈黙が生まれた。しかしめげずに身振り手振りで説明をしていると、次に土御門から零れたのは控えめな笑い声。
「プププ……。何ですか、それは……。クスクス。説明が、下手過ぎますよ」
笑いを堪えていたせいか、流れた涙を拭いながら土御門はそう言った。
「実際、そのまんまだったのだから仕方あるまいて」
「そりゃー、そんなコスプレをしてればそーなりますよ。此処には観光客も良く来るんですし──ホラ」と、黒い衣装を身にまとった少女に群がる人間を指さした。
「か、彼女は無事なのか? この俺でさえ体力を著しく消耗させられたんだぞ」
「大丈夫ですよ。良くあることですし。それに、服装を変えればいいじゃないですか」
「な、ならぬ!! これは、我が正装。陰陽師である以上──」
「駄目ですよ。何日も着ていたら汚れますし、夏なんか特に臭くなります。あ、そうだ! なゆたさん」
土御門は、家に向かい歩きながら、閃いたのか両手を叩き明るい声を出した。
「今日は、金曜日です」
「そうだが?」
「明日は土曜日で、私休みなんですよ。丁度、バイトも無いですし、るとちゃんと、なゆたさんの服を買いに行きましょう!!」
「いや、まて、俺は知っているぞ」
土御門は、首を傾げた。
「何をです?」
「服を買うにも、金銭が必要だろ」
「そこは、私に任せてください!!」
「いや、しかしだな……」
「いいんです、いいんです!気にしないでください。毎日、家事を手伝ってくれてるお礼ですよ」
それは、違う。御礼をすべきは俺達なんだ。家事を手伝うのだって、それ以外にする事が無いから。出来ることが無いからなんだ。履き違えちゃいけない。特に俺達は優しさに甘えるべきじゃないんだよ。
土御門、お前は見返りを求める様子も無く笑顔で言ってのける。きっと、裏表がない優しさ女なのだろうな。ならば、今は母上に命、授かった事だけはシッカリと完遂しよう。
あの。小さくとも強いマホウ少女ナナリの様に。
「あの、なゆたさん。両手を前に翳して何をしてるんですか?」
「え? ファイアーボールと言うマホウをだな」
「馬鹿なんですか?」
「馬鹿とか言うな!! 俺だって絶対にマホウを使えるようになるんだ!! ふぁぁぁぁぁあ!!」
「やめて下さい」