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02

「遅刻ッたって、一分じゃんかよ」


 ソファーに腰を掛け、対面して座っている忠正にため息混じりに言ってのける。

 つーか、一分てさ誤差じゃん。交通状況で変わるじゃんよ。


「ばっきゃろ!! おまっ! 十分前行動は、常識だろーが!!」


 部室で、唯一貫禄を出している机を両手で叩き、忠正の目は鋭利な刃物の如く細く尖った。

 あらやだ怖い。強面が重なって余計に怖い。


 横に座っていたルトは、小刀・白夜を鞘から走らせて構える。


「ぶ、ぶ、無礼者めが!! 我があるじ様、妾だけのあるじ様様に向かって!! ぐぬぬぬぬっ」


 いや、だから独占欲出すなよ。俺はお前の者になった憶えも、体が覚えている事もねぇぞ。


 忠正は、上瞼に左右不対象の色をした瞳をくっつけ見上げて不敵に笑う。もはや、犯罪者が良からぬ事を閃いた時に浮かべそうな表情だ。


 ルトは、一瞬竦み上がるも、邪念を祓うかのように首を左右に振るい踏ん張る。


「そ、そのような表情をしようとも、妾は臆したりはしませぬぞ!!」

「ほう、なら祓ってやろうか? お前は、妖怪。陰陽師は、妖怪を祓ってなんぼの稼業だ」


 低く、おどろおどろしい声が絡みつく。びくつくのと同時に耳も尻尾も、逆撫でた。


「あ、ある、あるじ様はっ……わら、妾が──ヒック。ぜ、ぜっ……ぅう」


 刀を構えたまま、あまりの恐怖にルトは涙目を浮かべていた。

 意外と可愛いんだよな、こーゆ所。


「なんだ、なんだ? さっきの意気込みはどーしたよ? あ? なんなら、今すぐ此処では……ラバっ!!」


 俺は、顔面を机に叩きつけられた、忠正を一部始終見ていた。敢えて、表情に出さなかったのは、そっちの方が面白そうだったからである。

 ぬはは、ざま見ろと言うもんだ。

 犯人である、背後に立っていた妹・つばきは兄である忠正の後頭部から手を離し、呆れ混じりに溜息を吐きつけ、力ない表情で口を開く。


「なーあに、るとちゃんを虐めてるのさ。と言うか、にーだって十分前行動なんかしたことないっしょ?格好つけないのっ」

「いやだって、コイツらは、旧校舎の図書室で寝てるじゃん?図書室からココまでは、一分かからないじゃんよ」


 見事に、鼻から血を垂らしそれでも尚、平然と妹を怒ることなく淡々と不満を吐露した。

 なるほど、これが俗に言うシスコンか。まあ確かに、妹モノは萌えるが画面のソレとはまったく迫力が違う。


 だが、まあ、忠正が不満を吐露するのは勝手だが、かなり近いのは間違ってはいない。あの日、この部屋で俺達は、土御門と再開。

 怒られると思っていたが、土御門は泣いて頭を抱き締めてくれた。暖かくて、優しくて……。

『戻っておいで』の言葉に、揺らぎそうになった。それぐらい、嬉しかったんだ。


「そりゃ、私達と違って住む場所が無いんだから仕方がないでしょ」

「そこだよ、そこ!! ハルが良いって言ってんだから居候すればよかったじゃねぇか」


 ペンを振り回しながら、忠正は言った。つばきは、忠正の肩に両手を乗せて耳元に顔を近づける。


「あのねー。にーみたいに図々しいくないんだよ。なゆたくんも、るとちゃんも」

「そーゆーもんかねぇ?」

「そーゆーもんなの。それに住んでいいってマ……じゃなく、学園長も言ってくれたしさ! ハルねーだって此処で会える訳だし」


 そう、土御門はここの部員。この、陰陽師が集まる部活の部員。

 俺は、忠正から色々な話を後日談として聞かされて、驚きながらも納得をした。土御門とは、阿部家の名前が変わったもの。つまり、土御門の先祖は安倍晴明であり、賀茂家と土御門家は師弟していの間柄である。

 とは、言い聞かされたものの、最後に忠正は『まあ、それははるか昔の話よ。今は、ただの同級生。それに──アイツには陰陽師としての才覚は無い』とも言っていた。


「まあ、でも俺もルトも忠正とつばきには感謝をしてるんだ。ありがとう。──ほら、ルトも頭を下げろ」

「う、うぬ。この度は、助けて頂きありが」


 ルトが正座をして深々と頭を下げ喋っている途中、部活の立て付けの悪い扉が、甲高い音と共に開いた。

 薄暗い扉の奥から現れたのは土御門。彼女は、両手一杯に袋を抱え、大変そうにしていながらも笑顔を絶やさず、ヨタヨタと部屋の中へと足を踏み入れた。


「ぬぁ! わ、妾が礼を申している時に、遮りおっ」

「はい、るとちゃんが好きなプリンアイスですよ」

「っても良いぞ! 妾は、感謝をしておるからの!! ぐへ、ぐへぐへへへへー」


 ──チッ。目の色を変えやがって。なんて、現金な兎なんだ。つか、ヨダレも笑い方もなんとかしろよ。


「はい、これはなゆたくんのです」

「え、お、おう。感謝する」


 忙しなく袋を漁り、順々にアイスを配る土御門。


「なんだよ、ハルが遅れるって言った理由ってこれか?」

「はい。二人の生活用品がまるっきり無いので、私がわかる範囲で買ってきたんですよ」

「そ、そんな、土御門の財を圧迫してしまうではないか」

 

 反射的に大きい声が出てしまった、恥ずかしい。


「いいんですよ。私がしたくてしてるんですからッ」

「いや、でも──」

「い・い・ん・で・す!!」


 これ以上、しつこくするのも野暮ってものか……。

 俺は、頭を下げてから土御門の話をよく聞くことにした。

 額に汗を滲ませて、黙々と机の上に並べられる品々の用途を事細かく土御門は説明をしてくれている。

 なんだって、こいつはここまで大切にしてくれるんだろうか。


「そして、これは顔を洗う洗剤です。歯を磨き終わった後に使って下さい。あ、洗う時の方法は、手のひらで泡を立ててか──」

「ごめーん、説明してる中で申し訳ないんだけど。依頼だよん」


 教卓に設置された電話を耳に翳して、つばきは言った。俺にとって、初めての依頼。

 しっかしと出来るか緊張もしたが、それ以上に受注を終えた後、つばきが作った表情が恐ろしく感じていた。


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