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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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執着



夢でも現実でも。

寝ても覚めても想う人はたった一人。


こういった言い方をしたら何か誤解を生んでしまうが、今の心境は正にそれだ。

まだ顔を突き合わせていないのにここまで人を恐怖に陥し入れることが出来るとは。

【ヤンデレ】【かなりキテル】と巷で噂のレイトン恐るべし。




カタカタと通路で震えていた私はアネリという頼もしい侍女に自室に誘導され、部屋で待機していたお留守番組のエムとエマに大層手厚く看護をしてもらった。

温かいお茶を飲みホッと一息ついて我に返ってみたら……何故この場に居ない人、まだ起こるかも分からないことに対して恐れなければならないのかと冷静になった。


「セリーヌ様?お加減はいかがですか?」

「もう平気よ」


不安そうなアネリに笑いかけ、ドレスの寸法を測ったり部屋の内装の最終確認。


「テディとアデルは何処へ行かれたのでしょうか?」

「使者の方とお話しをしているのでは?」

「でしたら、私達もセリーヌ様の幼い頃のお話しをお聞きしたかった」


楽しそうに話している侍女Sよ……彼等はきっとそんな楽しいことはしていないと思うの。


「でしたら、セリーヌ様ご本人にお聞きすれば良いのよ」

「知りたいです」

「では、セリーヌ様は幼い頃どのように過ごされていましたか?」



三人の熱い視線を感じながらセリーヌの小さな頃ねぇ……と考えてみた。


「お兄様の跡をついて回っていたかしら」


容姿は今の姿を小さくしただけで大して変わっていない。流石にミニチュアセリーヌのときは無表情が冷たく、笑えば妖艶に見えることは無いと思いたいが大体同じ。

兄のレイトンに構ってもらえることが嬉しくて何をするのも一緒が良いと兄を困らせたこともある。

まあ、困ってはいても私を腕に抱え何処で何をするときも連れ歩いていた兄は嬉しそうだった。

流石に剣術の稽古のときだけはまだ危ないからと短い木の枝を渡され、周囲を黒服隊に囲まれながら地面をぽんぽん叩いていただけだったけれど。


「あとは……お兄様が私専用の庭園を造ってくれて、そこで毎日お茶をしたり絵本を読んでもらったわね」


季節ごとに見頃の時期を迎える花は全て私が好きだと一度でも口にしたことがあるもの。

カウチに座りながらお喋りをしたり、ときには地面にシートを引き二人で寝転びながら戯れたり。


「夜は一人は寂しいと、怖いと言ったからお兄様が毎晩一緒に寝てくれたわね」


侍女に眠るまで側に居て欲しいと頼んだら兄が飛んで来た。朝目が覚めると隣にいないことが不思議で侍女に聞いてみたら私が寝付いたあと自室に戻り勉強をしていたらしい。


「でも、それは全てまだ幼い頃のことよ。私が王妃としての教育を受け始めた頃、お兄様は頻繁に城を抜け出して他国を回っていたから」


城から離れる前には必ず私に会いに来てハグといってらっしゃいのキスをせがまれた。

そして、いつも以上に私の周囲を取り囲む黒服隊と仲良くお留守番。

兄が城へ戻って来た日は黒服隊に代わり兄が私の側を離れようとしなかった。


「弟が産まれてからは、二人で顔を見に行ったりしたわね。ヴィアンに来る少し前には三人で庭園で過ごしていたわ」


小さくて可愛いと弟の顔を毎日見に行っていたのだが、忙しい筈の兄が必ず隣にいた。

弟に夢中になっていると抱き上げられ兄の執務室へ連行され「私の方が見応えがある」だの「私の方が役に立つ」などとぶちぶち文句を言われるのだ。

周囲は何故かそんな兄に好意的で、行きすぎたシスコンを微笑まし気に眺めるだけ。


「とても仲がよろしいのですね」

「セリーヌ様と過ごせるなんて素晴らしいです」

「羨ましいです」


ここにも居たわ……。

今の話しを聞いて仲が良いですねで片付ける者達が。

多分……信じたくはないが、セリーヌもブラコンと呼ばれるものだったのだろう。

兄の執着や言動にころころ笑い、パーソナルスペースなど無いようなものだったし。


「レイトン様はどなたとも婚約していらっしゃらないのですよね?」


アネリの問いに、ふと気の強そうな美女を思い出した。


夜会で兄の婚約者に目障りだと言われたことがある。

セリーヌは驚いて立ち竦んでいただけなのだが、これは近しい人にしか分からない。

黙って立っていれば【王国の騎士】の悪役に相応しい容姿の私が曖昧に微笑んだことで、侯爵家のご令嬢は馬鹿にされたと勘違いし激怒した。

この日のことをセリーヌは隠していたのに兄は知っていた。

数日後には侯爵家の黒い部分が明るみに出て婚約解消。

その後も数名とお見合いをしていたらしいのだが婚約のこの字もない。


「そうね、でも国王がそれを良しとはしないでしょうね。近いうちに婚約するのではないかしら」


切実にしてほしい……。

あの異様な執着心を他に向けてもらわなければ監禁コースだわ。


「一月後にお会いできるのが楽しみですね」


アネリの言葉にピシャーっと雷に打たれたような衝撃を受けた。

そうよ、来るんだわ……。

当たり前のようにハグして頬や額に口づけをし、座る位置は常に隣り合わせ。

下手したら会えなかった期間を補うかのようにベタベタと。


え、私無理 ……え、本気で無理だ。

そもそも今の私はレイトンに触れることすら危ういわよ!?

これは駄目、バッドエンドルート確定じゃない!

またもやパニックに陥る前に、私以上に顔色悪く疲れた様子で戻って来たテディとアデルを目にしそれどころでは無くなった。

ギーめ何をやらかした!と顔には出さず二人を問い詰めるが首を横に振り力なく笑われはぐらかされてしまった。


その日の夕食時。

私よりも早く席に着いていたアーチボルトに詫び、半月ぶりに向かい合って食事をした。

険しい顔をし、口を噤み、即座に食事を終え退出していたアーチボルトが笑みを浮かべながらゆっくりしている。


そして、視線を動かせば……部屋の隅に近衛隊の隊服を着たフランがいた。


「今夜は私が料理の指示をしたのだが、口に合うか?」

「えぇ、とても美味しいです」

「そうか、私はセリーヌが何を好んでいるのか……知らなくてな」

「お気になさらずに。余程のことが無い限り、好き嫌いはいたしませんの」

「そうか!このワインはな」


こんなに楽しそうに、饒舌に話すアーチボルトは見たことがない。

何か企んでいるのだろうかと疑うのは私の性格が悪いせいだろうか。

アーチボルトご自慢のワインに口をつけジッと様子を探っていると、酔いが回ったのか微かに頬を染めた色っぽい美丈夫が言いにくそうに口を開いた。


「それでな……その、セリーヌ」


その口からどんな突拍子もない言葉が出てくるのかと思えば。


「あまり、その、見ないでくれ」

「……はい?」


思わず聞き返した私は何も悪くないと思う。


「違う、見るなと言う訳ではなくてな!誤解をするな、違うからな!」

「落ち着いてください、どうなさったのですか?」

「いや……うん、あれだ。フラン、フランのことなんだが!」


二度もフランと言わなくても聞こえている。

どれだけフラン信者なのよ。


「フランとは、其処に居る騎士のことですわよね……その者が何か?」

「近衛隊を一新した。ジレスとクライヴと話し合い、騎士団から身分問わず選んだ」

「そのようですわね」

「フランは先の遠征で功績を挙げ、入隊試験も悪くはない成績だった。だから近衛隊から移動はさせなかったのだが」

「功績……それが本人だけで挙げたものであれば、よろしいのではないかしら。アーチボルト様もフランがお側に居た方が喜ばしいのでは?」

「いや……そうだな。だが、フラン本人が移動を希望した。……フラン」


アーチボルトがフランを呼ぶと足早にテーブル近くまでやって来た。

夜会以来だが相変わらず美少女っぷりが半端ない。若干緊張感を漂わせているのはどうしたことだろう。


「フランは、近衛隊ではなくセリーヌの護衛騎士にと志願している」

「発言をよろしいでしょうか」

「構わない」

「第三騎士団から移動し近衛隊に所属しておりますフランと申します。セリーヌ様の護衛騎士のテディとは親しくしております。可能であれば私もセリーヌ様の護衛騎士にしていただきたく志願いたしました」

「…………アーチボルト様?」

「セリーヌの護衛は多い方が良い」


頭を下げ滑舌よく放たれた言葉に混乱する。

訳が分からずアーチボルトに説明を求めてみたがこちらも同じようなものだった。


「これは、王命でしょうか?」

「おっ、王命……いや、違う!心配をしただけだ。フランも希望していたから、決して無理強いをするつもりはない。嫌だというのなら断っても良い!」

「では、お断りいたします」

「…………」

「お断りいたします」

「迷惑、だっただろうか……」


即座にお断りしたことでアーチボルトは肩を落とし、フランは顔を上げ潤んだ瞳で見つめてくる。

そのヒロインの必殺技、泣き落としは私には効かないわよ?


「私の護衛騎士は皆とても優秀ですの」

「……優秀だというのならフランでは駄目なのか?」

「それに、信頼できる者でなければ側に置くことは出来ません」


暗にフランは優秀かどうか定かではなく、信頼できないと言ったのだけれど。


「あの、セリーヌ様!私は真実セリーヌ様をお慕い申し上げております」


急に動き出し声を上げるフランに吃驚した。

何がしたいのよこの子は……。

そんなに必死にうるうる攻撃したってうちのテディには近づけないわよ?


「何でもいたします、どうか!」

「フラン、諦めろ。セリーヌの護衛騎士はセリーヌが決める」


あのアーチボルトが……食い下がるフランを諭し手を振り下がらせた。

アーチボルトの影武者ではないわよね?


「すまなかった、今のは忘れて良い。もう一つ話しておきたいことがある」

「はい」


何か言いたげに視線を送り続けるフランを視界から排除し、まだあるのかと気が滅入る。

大丈夫、今以上の衝撃はもう無いだろう。


「ジレスからセリーヌが主催する茶会の話しを聞いている。明日にでもジレスと話し合い招待客を決めると良い」


茶会……あぁ、派閥茶会ね。

そこでアメリア嬢の代わりになりそうな側室候補が見つかれば良いのだけど。

残りの候補は身分が少々釣り合わないのよね。


「その茶会に、ジレスの妹を招待してやってくれ」

「カルバート家のご令嬢ですか?」

「あぁ、夜会に一度も出たことが無いと聞いてはいたが。ティア・カルバート本人がセリーヌの主催する茶会を希望しているらしい」

「畏まりました。明日、ジレスから詳しく聞きますわ」


代々宰相を輩出しているカルバート家。

夜会に姿を現さないそこのご令嬢が茶会に?


「頼んだ。それと、ウィルス・ルガードに伝令を飛ばしてある。レイトンが来るまでに間に合うと良いが」


もう一つじゃなくて二つじゃないかと思いつつ、お礼を言い退出した。





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