黒服隊
side テディ
ガッ、ガッ、ガッ……ガンッ
「一度しか言わないからよぉく聞いてよ」
ガッ、ガッ、ガッ…………
「黒髪、黒眼、歳は十代後半、これ以外に見たこと、聞いたことは全てよぉく思い出してから口にしてね」
「し、しらっ……しらなっ」
「あれ、聞いてなかったのかなぁ……」
「やめっ、本当に知らないんだよ!」
「じゃあ、君はいらなぃ……次」
「いっ、ぎっ、いぎゃ……」
ギーさんが尋問していた男を蹴り飛ばし隣で顔を青ざめさせていた男に向く。
戦場には何度も出たが、尋問は隊の中でも上の人達が行なっていたから僕は今回が初めてだった。
セリーヌ様が襲われた夜、その日のうちに捕らえた騎士と暴漢共の尋問をクライヴ様と一緒に行なった。
けれどこれは……ギーさんが行なっているものは尋問なのだろうか。
クライヴ様は暴漢を尋問中多少痛めつけていたが彼等は口を閉ざしへらへらと笑っていただけ。剣を突きつけようが若干顔色が変わっただけで何も知らないとしか口にしない。
その彼等が顔を歪め涙を流し震えながら何とか距離をとろうとしている。
僕達より先にギーさんが部屋へ入ってからそう時間はかかっていない。
多分最初の一人、動かずぐったりとしている男は有無を言わせずギーさんが手にしている物で嬲り、残りの二人の見せしめに使われたのだろう。
ここ数日間の生易しい尋問が急に死と直結するものに変わったのだから、反抗的だった彼等も必死に命乞いをする。
どちらが正解なのかは僕には分からない。
でも、黒服隊のやり方を見て覚えて実行出来るようにならなければ。
これがラバン国の騎士だと、困惑しながら一歩足を踏み出した僕の腕をアデルが掴んだ。
「やめろ、今あれに近づくな」
振り返った僕にアデルはそれだけ言い、尋問しているギーさん達を睨むように見つめていた。
※※※※※※※
「使者殿が退出される際、二人も一緒に退出するようにとのことだ」
「セリーヌ様の護衛は?」
「自分等が引き受ける」
「分かりました。よろしくお願いします」
セリーヌ様がラバン国から来た使者に会いに客室へ入って直ぐ、扉の前に立っていた近衛隊の騎士に呼び止められた。
近衛隊を編成したとは聞いていたけれど、まさか彼等が入っていたとは思わなかった。
一人は下級貴族、もう一人は平民。
どちらも騎士団の中で一、二を争うほどの剣の腕前、戦では最前戦に立ちかなりの功績を上げていると聞いた。
けれど、本人達がいくら希望しても身分が低く近衛隊には入れなかった。
それでも『いつの日かあの白い隊服に袖を通し国を守って行きたい』と、同じく身分の低い者達を集め剣の指南をしてくれていた。
良かった。夢が叶ったんだ。
嬉しくてアデルと二人で顔を見合わせ拳を叩き合わせた。
ラバン国の使者殿は思っていた以上にお若い方だった。
もしかしたら、僕より歳が下なのかもしれない。数名訪れた使者の中から代表して王へ謁見する彼はきっととても優秀なのだろう。
『貴方達には、ラバンへ帰国する際一緒に来てもらいます。この国ではなく、ラバンの者になってもらい、私の側にいてもらうわ』
セリーヌ様はいずれラバン国へ戻られる。
ラバン国王女の護衛になるには使者の方が着ている黒服隊に入らなければいけない。
実力重視、王家に忠誠を誓うラバン黒服隊。
帝国の皇子が率いる部隊とまともにやりあえる数少ない黒服隊は、戦で敵として出会ったなら死を覚悟しろといわれている。
いずれこの黒服隊に入るのであれば色々と教えを乞いたい。あとで少しでも話せる機会があればいいなと、このときまではそう思っていた。
「ついて来て」
謁見が終わり使者の方が僕とアデルの前を通り過ぎるときにそっと囁いた。
軽く頷き部屋を出て先に歩いて行く使者の方を追う。
追いながら……見たことが、いや、最近頻繁に訪れている場所へ進んでいることに気がついた。
まさかと思いながらも「何処へ行くんだ?」と言いながら跡を追うアデルに何とも言えずに足を早めた。
城の地下へと下りて行くと薄暗い通路の奥にある部屋の前に人がいた。
「お待たせ」
「遅い。後ろの二人は?」
「セリーヌ様の護衛騎士の……」
クライヴ隊長と同じくらいの歳だろうか?黒い隊服を着ている人に睨まれながら、使者の方は困ったように「名前知らない」と言われた。
そういえばお互いに名乗らないままこの場所へ来たのだと慌てて頭を下げた。
「セリーヌ様の護衛をしております。テディと申します」
「同じく、アデル・ブリットンです」
「セリーヌ様の護衛……」
「ごめん、急いでたから忘れてた。ギーで、ブレア」
「指をさすな。私はブレア、ラバンではセリーヌ様の護衛をつとめていました」
ギーさんが人差し指で自分をさしたあと、隣にいるブレアさんを指さし名前を教えてくれた。
ブレアさんは白髪をかきあげさされた指を叩き落とし、真っ赤な瞳を細めギーさんの頭に腕を置く。
ゆっくりと僕達に視線を合わせ、セリーヌ様の護衛の部分を強調し笑みを浮かべた。
どこか儚さが漂うブレアさんはこの世に存在していることが奇跡かと思うほど、全てが綺麗で人間味がなかった。
でも、ラバン国の黒服隊が何故此処へ?
この部屋にはセリーヌ様を襲った暴漢を入れてある。
「会わなくてよかったの?」
「セリーヌ様の隣に王、その背後には近衛隊長が居られるのでしょ?なら、部屋に入った瞬間王の胸に剣を突き立て、近衛隊長の首を落とす未来しか見えない」
「んー、顔ぐちゃぐちゃまでなら許してもらえるけど」
「私のそんな姿をセリーヌ様には見せたくない」
「普通はセリーヌ様に愛する王のそんな姿をっていうんだよ」
「王など、どうでもいい」
「ふぅん」
目の前にいる二人の会話が不穏過ぎるのだけど……僕達はどうしたら良いのだろう。
「あ、今から部屋にいるゴミを尋問するからね」
「尋問……」
急に話しかけてきたギーさんを見て背筋が伸びた。
笑顔が消え、表情が抜け落ちた顔で淡々と口にしたからだ。
アデルはセリーヌ様から粗方聞いているがこの場所が何なのかは知らなかった。
けれどギーさんの発言から察したのだろう。
部屋を見てギーさんにいつもより低い声で問いかけた。
「尋問の許可は?」
「王様からもらってるよ。奴等の生存権も」
生かすも殺すも自由だね、と言い部屋の扉を開け入って行ったギーさん。
「…………」
「……ブレアさん?」
追いかけようとした僕達をブレアさんが手を出し止めた。
「ギーも私も怒りでどうにかなってしまいそうなんだよ。まあ、それぞれ想う相手は違ってはいるのだけど」
「違う?」
「ギーはレイトン様、私はセリーヌ様。ギーの怒りの矛先は奴等、私のは王と奴等とセリーヌ様の護衛騎士」
ブレアさんはセリーヌ様を護れなかった護衛騎士にも怒っていると……当たり前だ。
「入ってもいいけど、邪魔だけはしないで」
今迄大切に護ってきた方が預けた先で傷つかれた。
きっと彼等なら何を言われてもお側を離れたりはしなかったのだろう……。
尋問だって、僕より上手く手掛かりを掴むことが出来るかもしれない。
ぐっと拳を握り締めると、頭の上に手が乗りぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられた。
「大丈夫か……?」
「未熟なことは分かってる。同じ失態は二度と起こさない」
「……なら、行くぞ。先輩の手腕を拝ませてもらおうじゃないか」
頷きながら進んだ部屋の中、僕が目にしたものは床に広がる血だった。
※※※※※※※
side アデル
尋問?拷問の間違いじゃないのか?
部屋の中に転がされているのは手足を縛られた小汚い三人の男達。
セリーヌを襲わせた黒幕はまだ分かっていない。男達を雇った奴は逃げたと聞いた。
「ほら、さっさと吐かないとお前もこうなるよ?」
「……本当に、何も聞いて、ないんだ!」
「それは知ってるよ。聞きたいのはお前達が見たものだよ?」
今ギーと話している男の横にいる奴は生きているのだろうか?微かに動いているから生きてはいるのかもしれない。
けれどそれも時間の問題だ。出血が多過ぎる。
血の匂いに吐き気を抑えながらもギーに視線を戻した。
手に持っているナイフをもて遊びながら、話している男の顔の直ぐ横を蹴り続けている。
「許し、許してくれっ……あいつが、上手い儲け話があるって酒場に来たんだよ!綺麗な従者の服を着てて、平民じゃない、貴族の遣いだ!」
「跡をつけるくらいはしたんでしょ?どこの奴?」
「それは、途中で見失って。けどっ、ぐがっ」
「あとは?」
「……手、手が!あれは剣を振り回してる奴の手だ!」
「ふぅん……でも、剣くらい使えて当然でしょ」
「ぐがっ」
「はい、次」
生死をさまよっている血だらけの仲間を見ながら、次は自分かと震えながら話していた男の顔を蹴り飛ばしギーは残っている男に移った。
ギーが床を蹴りながら最後の男を尋問しているとき横にいたテディが動く気配がした。
いや、待て……あれは駄目な感じだろうとテディの腕を掴み止めた。
下手したらテディまで殺られ兼ねない。
ゲームの世界とはいえ何年もこの世界で生きてきた。
騎士になり戦場にも立ったし、人の命も奪ってきた。尋問だって何度も経験している。
最初の一人目は重症だがまだ助けることは出来るし残りは打撲程度。
王族に手をかけたのならこの程度は当たり前だ。寧ろ命があるだけましな方だろう。
「もういいや、あとはよろしくね」
頬についた血を指で拭い、ブレアの肩を叩いたのを見て終わったのかと思った。
ゲームで悪魔のギーと呼ばれてはいても、所詮女子層を狙って作られたゲーム……そこまで人格破綻はしていないかと……。
けれど、甘かった。
肩を叩かれたブレアはゆらりと動き出し、剣を抜いた。
「姫を見た瞳、姫に触れた手、姫の匂いを感じた鼻、姫に汚い言葉をかけた口……全て根こそぎ削ぎ落としてやりますよ」
人格破綻者は他にいた。
「外に出て、巻き添えくらうから」
こんな奴等がずっと側にいたんだとセリーヌが知ったら卒倒もんだな。
ギーに促されながらテディと部屋から出た。
部屋は血だらけ、外は薄暗い通路にまっちした危ない奴とか……。
はあ……青空の下で新鮮な空気が吸いたい。
「やっぱりゴミはだめだね。憂さ晴らしにしか使えない」
ね?とあどけない顔で無邪気に笑うギーに苦笑いしか返せない。
頼むから同意を求めないでくれ。
部屋の中から聞こえ続ける叫び声とギーとかまじでヤバイから。
「我が主様の憂いが少しでも晴れればいいんだけど……一人連れ帰ろうかな」
連れ帰って何をする気だよ……いや、聞かないけどな?レイトンなんてギー以上にやばい奴だろうし。
それにさ、俺まだ何もしてないんだけど。
「ご冗談を。一人くらいは残してもらわないと困ります」
「どうして?」
「私の憂さ晴らしが済んでいませんから」
あいつに手を出してただで済ませる訳がないだろ。それに、あのブレアに殺られるよりは俺の方が幾分かましだ。暴漢共も泣いて喜ぶに違いない。
「憂さ晴らしならあっちの部屋にいる騎士にしなよ」
ギーが指したもう一つの部屋には捕らえたヴィアンの騎士がいるのだろう。
あちらは生存権がもらえなかったらしい。
騎士ねぇ……あとでクライヴ様辺りに頼むかと考えていた俺の肩にポンっと手が乗った。
誰の手かなんて見なくても分かる。
「君達にも聞きたいことがあるんだ」
ギーの雰囲気が急に変わりぞっとし身体を離した。
まじかよ、これバッドエンドの合図だろう。
画面越しでは分からなかった殺気を感じ身構える。
黒服隊で影のトップとか無理ゲーだろう。勘弁してくれよ、愛しい女にやっと会えたんだぞ。
ナイフでも出てくるのかと様子を伺えば、ギーは両手を上げ首を傾げた。
「君達にはなにもしないよ?我が主様からの命令は出てないから」
「それなら、主様が私達をと命じれば何かすると?」
「勿論。我が主様の命令は絶対」
「対象が、セリーヌ様だとしても」
「我が主様がそれを望むのならば。でも、そうはならないように、君達が頑張らないと」
「セリーヌ様がレイトン様の敵になる日はきませんよ。で、聞きたいこととは?」
「うん。この国は、セリーヌ様に何をしたの?」
何が聞きたいのかと思えば……何だそれは。
質問の意図がさっぱり読めない。
「どういうことでしょうか?」
「セリーヌ様って、ふわふわしてるんだよ」
「ふわふわ……?」
「アーチボルト王に恋をしたセリーヌ様は王の為に様々なことを学ばれたんだけど、なんだろう……現実が見えてないっていうか、絶対に来るであろう未来が見えてないっていうのかな……アーチボルト王が絡むと頭の中がふわふわ」
恋する夢見た馬鹿女ということか?主様の大切な妹に酷い言いようだな。
「悪くないんだよ?我が主様はそんなセリーヌ様も可愛いって、尚更保護してあげないといけないって言ってるし。そんなセリーヌ様を皆可愛いって思ってる」
「では、先程の質問は?」
「ふわふわがね……無くなってたんだ。アーチボルト王に気遣われ、隣で見つめられているのにふわふわしてない。それに、ある人がセリーヌ様は我が主様そっくりだって言うんだ」
「鬼才と名高いレイトン様と同じだと言われるのでしたら名誉なことでは?」
何が言いたいんだ?
元々王妃教育を受けているのだからそれなりに優秀なはずだろ。
ふわふわは、あいつが前世の記憶を思い出したせいでどっかに吹っ飛んだだけだ。
恋とか愛とか二度と帰って来ないだろう。
上手く言葉に出来ないのか、頬を膨らませながら唸るギーに顔が引きつる。
見た目だけなら無害な美少年。
少年って歳でもないだろうに、幼い仕草や口調は計算なのか素なのか。
良く分からない謎キャラだが、分かっていることは一つ。
ギーが忠誠を誓う我が主様と呼ばれているレイトン・フォーサイスを敵にしてはいけないということだ。
「終わった。帰るよギー」
「ん、了解」
部屋の扉からブレアが出てくるとギーの無表情だった顔が笑顔に変わり、質問の途中にもかかわらず二人で歩いて行ってしまった。
なんなの……マイペース過ぎるだろ。
「報告しに、戻った方が良いかな」
「だろうな……中の確認はクライヴ様にさせりゃあいい」
「黒い隊服の意味が分かったよ」
「俺もだ……うちの近衛隊は平和なんだな」
あの隊服の色は血が目立たない。
まさかとは思うが、あのまま着替えもせずに帰らないよな?
テディを手で制し無残なことになっているであろう部屋をチラ見し回れ右をした。
うちの可愛いテディには見せられない。素直な奴だから真似でもされたら俺は泣く。
差しっぱなしだった扉の鍵を閉め、クライヴ様に報告しにその場を離れた。
戻って来た俺達はギーと何をしていたのかというセリーヌの質問に曖昧な返事を返し、この日のことは墓まで持っていくことにした。
けれど、あのギーと話した内容だけはセリーヌに伝えておくべきだった。
それを後悔したのは、レイトンがヴィアンを訪れた日だった。




