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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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腹黒スイッチ



またベディング侯爵か。

前王の側近で現王アーチボルトの背後にいるだけでも面倒なのに、侯爵家ときたか。

地位も権力も思いのままとは、娘のアメリア嬢がアレなのも頷けるわ。


「ウィルスを戻すのが難しいとはそういうことね」

「あの方の権力に対抗できる方は今はいませんから」

「難しいどころか、今の現状では無理ね」

「アーチボルト様に頼んでみては如何ですか?」

「頼むって、アーチボルト様が何か言ったところで良い返事が貰えるわけが……」


操り人形の王様の言葉に耳を貸すとは思えないが、そうか、耳を貸さないのなら貸したくなるように仕向ければ良い。

ベディング侯爵が欲しいものを与えれば。


「アメリア嬢は、側室候補なのよね?」

「えぇ、そのことで執務室に頻繁に押しかけて来ています。まぁ、直ぐにお引き取り願っていますが。フランは任命書を取りに行くように言われ、此処へ来たらアメリア嬢に捕まったみたいですね」

「アメリア嬢からしてみれば、私よりフランの方が忌々しいでしょうね」

「アーチボルト様はフランに対する好意を隠していませんから。アレでも騎士です、自身で対処出来ると思っていたのですがね。お手を煩わせたようで」

「何もしていないわ。扉の前に居て邪魔だったから退かしただけよ」

「そうですか」


何故そこで苦笑いになるのよ。

本当に何もしてないから……後半見ようによっては虐めてたみたいに見えるけど。


「アメリア嬢を側室に据えるのはベディング侯爵が仕向けていることかしら」

「はい、ベディング侯爵は娘を王妃にしたかったみたいですが。生憎、この国に王子はアーチボルト様お一人、ラバンとの同盟もありましたから娘を側室にと」

「で、その王妃の座を我慢して得るはずだった側室をアーチボルト様が拒んでいると……あら、ジレスの言う通りアーチボルト様に頼んでみた方が良いわね」

「セリーヌ様が欲しい者が二つ手に入りますからね」


アーチボルトがベディング侯爵にアメリア嬢を側室にする代わりに、ウィルスを呼び戻せと言えばどんなに煩わしい者でも了承するかもしれない。

いや、するはずだ。王妃に子が産まれていないのだから自身の娘が子を、男の子を産めば王位継承者になる。

私は子を産まなければベディング侯爵にとってはどうでも良い存在だろうから、危険を冒してまで危害は加えないはず。

逆に今の方がマズイ気がするし。


これから先絶対に産む予定は無いし、いずれこの国から出るのだから、側室と護衛騎士を一気に手に入れるチャンスだわ。

でも、頼むって……どうやって?

昨夜の様子じゃ、無理難題吹っかけられそうなんだけど。


今は震えていない手の平を見つめ溜息を零す。


私は男の人が嫌いだ。

嫌いなだけで男性恐怖症では無いと思っていたんだけれどなぁ、どうやらそうでは無いらしい。

男嫌いと男性恐怖症は同じことだと思われがちだがこの二つは別物。


男性恐怖症は男性に対し恐怖心があり身体が勝手に拒否反応を示す。自身ではどうすることも出来ない。

男嫌いは文字通り男が嫌いなだけで、男性に恐怖心は無く対等に会話は出来るが恋愛対象に見られることを嫌悪する。

男だからと誰彼構わずでは無いと思う。中、高、大学と共学だったし特別距離を取っていたわけでもない。


前世では男の人と接触する機会など無かったからああなるとは思わなかった。

顔を見て話すことも、距離がある程度近くても平気だが……触れられてしまえば昨夜の状態になってしまうらしい。

前世では姉達の訳がわからないコミニュケーションである程度緩和したが、接触する行為に関しては別で。

でもさ、昨夜のアーチボルトは誰でも恐怖を感じると思うし。アレは仕方が無いでしょ。

困ったわ……いや、困らないんだけど?

ああぁぁ……わけわからん!


「頼み方なら、お教えしますよ?」


突如かけられた官能的な声に背中がぞわっとした。

何、今の声……。

そーっと顔を上げると、向かいに座るジレスの顔に黒い笑みが広がっている。

腹黒ドS、いつスイッチが入った!?


「セリーヌ様が、私に、お願いしてくださるのなら」


ムカツク、腹立つ、何で上から目線!

引きつりそうになる顔を抑え微笑み返してやった。


「王妃とはいえ、まだ十六です。男の扱い方はご存知無いでしょう」


こいつに昨夜の無様な姿を見られたのは痛手だわ。

仕返しか?……良い度胸だ、受けて立ってやるわよ。


「何が言いたいの」

「簡単なことですよ、以前と違いアーチボルト様はセリーヌ様を悪くは思っていません。昨夜の言動や行動を見る限り、貴方が微笑み近くで囁くだけで、どのようなお願いでも喜んで受けてくれます」

「私に色仕掛けをしろと?」

「色仕掛けなど、お二人は夫婦ですよ。何ら可笑しなことではありません」

「胸糞悪いわ」

「何処でそのようなお言葉を……ある程度我慢をして頂かないと、欲しい者は手に入りませんよ」

「胸糞悪いのはお前よ、ジレス」

「…………」

「欲しい者の為にアーチボルト様に媚を売れと?馬鹿なことを……私を誰だと思っているの、ラバンの王女でヴィアンの王妃よ?」


本来ならこの国で手に入らないものなどない身分だろうに、なんで大っ嫌いな変態王に己を差し出さなきゃいけないのよ。


「私が望むものを差し出すのは臣下である貴方の仕事、ジレスも先程言っていたじゃない?人事に関しては私の仕事だと。色仕掛けをするのであればジレスがアメリア嬢なりアーチボルト様なりにしなさい」


勿論、ベディング侯爵でも良いけど。


「……私に任せるのであれば、ウィルスでは無く他の者になりますよ」

「それだと望む者ではないから許可は出来ないわね。ウィルス以外の者を寄越すのであればラバンの者から選ぶわ」

「ラバンからですか?」

「護衛騎士を態々この国の者にする意味が分かっていないようね」


眉間に皺を寄せ、意味が分かっていないであろうジレスは学習しない人だ。


「ラバンから護衛騎士を寄越して貰うことも出来るのよ?その際には、嫁いでから今迄私に護衛騎士が一人もいないことを兄に知られることになるけれど」

「あっ」

「それだけでは無いわよ。此処に来るラバンの騎士は兄が選んだ者達、今迄のことが全て兄に筒抜けになるわね」

「……即開戦」


ボソッと呟いたと同時に頭を抱えるジレス。

藪をつつくから蛇が出るのよ。


「分かりました……ウィルスの件は私からアーチボルト様に進言しておきます」

「色仕掛けならベディング侯爵の方が良いと思うわよ」

「その話しは忘れてください」


苦虫を噛み潰したような顔のジレスを見てほくそ笑む。

よし、勝った。


「セリーヌ様がお聞きしたいことが他に無いのであれば私からも良いですか?」

「良いわよ」


そういえば何か聞きたいことがあるとか言っていたわね。

カップを傾けながらジレスを伺うが、一向に質問が飛んでこない。視線を下げたまま口を開こうとしないのだ。

そんなに聞きにくいことなのだろうか?

まだ時間がかかるなら本の一、二冊貸して貰っても良いかな?


「何故、今だったのかと……」


危うく意識が本に向かいそうになっていた私の耳にジレスの小さな声が聞こえた。


「……上手く言えないのですが、セリーヌ様の印象が嫁がれて来た日と違って見えるのです。余り顔を合わせてはいませんでしたからどこと言われたら答え難いのですが、今の貴方は別人かと思うほどで」

「別人ね、そうかもしれないわね」

「だからこそ、何故初めから今のように振る舞われなかったのですか?もし、昨日のようにアーチボルト様に全て伝えていたら、また違っていたのではないでしょうか……」

「そうね、でも、愛していたから、愛してほしかったから」


だから耐え続けたんだと思う。

セリーヌにはそれしか選択肢が無かった。


「嫌われたくなかったのよ」

「もうその想いは……」

「昨日も言ったと思うけど、無いわね」

「……そうですか」


くだらない質問だ。

ジレスは優先順位が国だと言う割には割り切れていない。


「ねぇ、それはヴィアンの宰相として?それとも、アーチボルト様の幼馴染のジレス・カルバートとして聞きたかったことかしら」

「…………上手くいきませんね」

「貴方は矛盾だらけだわ。聞きたかったことがそれだけなら、夜会の準備があるから部屋へ戻るわ」


返事を聞く前に立ち上がり、テディが扉を開けアネリと共に部屋を出るときだった。


「あぁ……言い忘れていましたが、約束ごとに関しての報告は受けていません」


振り返り、扉が閉まる前に見たジレスは今にも泣きそうな顔で微笑んでいた。




※※※※※※※




報告を受けていないとは、文官が言わなかったのか、それともフランイベントだったのだろうか。

ジレスはフランに対して思うことは無いと言っていたから、それが本当なら前者だろう。

だとしたら、何の為に文官が報告を怠った?

分からない……やっぱり当人に聞くのが一番か。


「セリーヌ様?お疲れですか」

「確かに疲れたわね。でも、準備があるのでしょ?」

「ドレスを選ぶのが一番時間がかかると思います」


苦笑しながらアネリと話していると、前を歩いていたテディが「セリーヌ様」と声をかけてきた。

若干緊張をはらんだ声に何事かと姿勢を正すが。


「あの、差し出がましいようですが、胸糞悪いなんて汚い言葉は使っては駄目ですよ」

「……はい」


テディに怒られてしまった。


何故かアネリも「すみません」と横で謝っていたのは聞かなかったことにしようと思う。







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