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LOST SPELL  作者: 雲居瑞香
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交流試合本番

前回に続きちょっと短め。

 そんなわけで、交流試合当日である。アルビオンの南方にある騎士学校から選手として来ていたランディは、式典で壇上に登った人物を見て顔をしかめた。ナイツ・オブ・ラウンド第8席、リアノーラ=フェアファンクスだ。

 彼女は国王の代理とのことだ。国王は試合は見に来るが、式典に参加する気はないらしい。ただし、リアノーラはリアノーラで注目を引いている。


 一応、歴史ある行事の式典だからか、リアノーラはナイツ・オブ・ラウンドの式典用の正装だった。これがまたよく似合うのである。白いコートタイプの制服に、パーソナルカラーである翡翠色のマント。下はスラックスではなくスカートだが、細身の剣を佩いていて、見た目は完全に騎士である。


 ランディがリアノーラ=フェアファンクスという少女を知ったのは、今から3年ほど前のことだ。最初に話に登った時は、ランディの婚約者候補だった。フェアファンクス公爵の次女で、魔術師。剣の扱いに長ける。美少女。くらいの情報が最初に入ってきたものである。この時は、別段何とも思わなかった。

 次に耳に入ったのは、今から9か月ほど前、彼女がナイツ・オブ・ラウンドに叙任された時である。その時は耳を疑った。魔女だという話は聞いていたが、この時代にたった16歳の少女がナイツ・オブ・ラウンドに選ばれたのだ。驚かない方がおかしいだろう。

 騎士の規約により、騎士およびナイツ・オブ・ラウンドは16歳以上から認められる。とはいえ、実際に16歳で騎士になる人間は多くない。チャールズ4世の即位5周年式典で、それまでにナイツ・オブ・ラウンドを12人集めなければ体裁が整わないから、というのが理由だったらしいが。


 しかし、5周年式典後も、彼女は我が物顔でナイツ・オブ・ラウンドに居座り続けた。


 魔術師が珍しかったのか? 身内だからか? 宰相である最強と言われた騎士の娘だから? そんな理由で彼女をナイツ・オブ・ラウンドにしたのか―――?


 なぜ、自分ではないのか。


 結局、その思いが一番大きかったのだと思う。それはわかっているが、今年の初め、王都に研修に来て彼女に会ったとき、自制が効かなかった。結局、リアノーラと試合をして、ランディが勝った。

 女にしては強いが、ナイツ・オブ・ラウンドにはふさわしくない。そう思いたかったのかもしれない。自分の方が強いと、思いたかったのだろう。だが、彼女の真価は剣術ではない。


 ――まあ、リアの真髄は魔術だからな。


 そう言ってリアノーラを慰めていたのは、確かリプセット侯爵家の長なんだ。ちなみにランディのコーニッシュ家は伯爵家である。リアノーラは負けても毅然とした態度を貫いていたが、彼のその言葉がしこりとなって残った気がした。

 あれから、約5か月。リアノーラはナイツ・オブ・ラウンドであるため、交流試合にそもそも参加資格がない。あくまで、国王の代理だった。対してランディは騎士学校の代表だ。試合は明日から3日間にわたって行われる。


「では、生徒たちの健闘と怪我のないことを祈り」

「楽しんでいきましょう」


 フェナ・スクールの校長と騎士学校の校長が握手をする。それから国王代理のリアノーラが騎士の礼を取る。


「国王陛下の代理として、ナイツ・オブ・ラウンド第8席、リアノーラ=フェアファンクスが祝辞を申し上げます。健闘をお祈りします」


 これで式典は終了である。この後、夜にはパーティーがある。高等部以上が参加可能だ。試合結果で一喜一憂する前に楽しんじゃおうということだ。

 このパーティーに参加したリアノーラは今度は深紫のドレスだった。こうしてみるとただの美少女にしか見えなくて戸惑う。2人の黒髪の少女と、試合参加者の中にいた金髪の少女と立ち話をしている。黒髪の方の1人は、アルビオン人ではない気がした。

「いい御身分だな、リアノーラ」

 思わず皮肉を投げかけると、リアノーラは振り返ってランディの方を見た。数度瞬くと。表情を変えずにさらりと言った。

「その言葉、そのままそっくりお返しするわ。私、今あんたに付き合ってる余裕ないから。1人で空回りしてもいいなら突っかかってくればいいけど」

 完全に突き放した冷静な言葉に、自分の方が子供のような気がした。実際はランディの方が2つばかり年上である。

「ご挨拶だな。私との対決が怖かったのか」

「馬鹿ね。もともと私は参加資格がないわ。規範ルールを読み直してきなさいよ」

 なんだか、彼女の嫌味に磨きがかかっている気がした。ランディは大人げないと思いながらも、リアノーラを睨み付けた。

「このままで終わると思うなよ」


 完全に悪役のセリフだった。




* + 〇 + *



 交流試合は、3日に分けて行われる。1日目は馬術、射撃の2つ。2日目は槍術、体術、棒術の3つ。最終日は剣術、総合格闘、閉会式典の3つ。全部で7つの競技が行われる。優勝数が多い学校が総合優勝となる。ちなみに、今日は3日目、現在は剣術戦の最中だ。


 交流試合が行われる場所は、フェナ・スクールが所有する大型体育館の一つ。体育館というより、訓練場と言った方がしっくりくる様子だ。試合会場から高くなった座席から、アレクシアは試合を見ていた。ちなみに、祥子と並んで一番前に座っていた。

「結構調子いいんじゃない?」

 そう言って祥子の隣に座ったのはリアノーラだった。彼女は見物に来ている国王の護衛をしていたはずなのだが。ちょうど次がベアトリックスの番なので、見に来たのかもしれない。少なくとも、今日も護衛であることは確かだ。祥子やアレクシアは制服なのに、リアノーラはナイツ・オブ・ラウンドの制服上着なしに、茶色のコートを羽織っている。例によってスカートだ。


「……そうね。でも、さすがに剣術戦では勝つのは難しいわよ」


 アレクシアが言った。祥子も大いにうなずく。祥子の反応がぎこちないが、それはアレクシアのつっこむことができない範囲だ。気づかないふりをしておく。

「そうね。団体戦ってこともあるものね」

 リアノーラはアレクシアの意見に同意する。団体戦ということは、3人のうち2人が勝たなければ勝ちとならない。そのため、1人だけ勝っても意味がない。

「あ、ベリティ、出てきた」

 祥子が言った。アレクシアとリアノーラも身を乗り出す。ベアトリックスの短く整えられた金髪が見えた。審判の合図で試合が始まる。

 試合はポイント制だ。剣術がよくわからないアレクシアにはよくわからないのだが、その辺を勉強したらしいリアノーラが言う。


「お、今のはいいわね。頑張れ、ベリティ」


 こう見えてリアノーラもかなりの剣士だ。父親に習ったのだろうが、外見はただの美少女なので、大いなるギャップである。


 しかし、判定が出る前にはリアノーラは難しい顔になる。


「うーん、これはだめかも」

「え、そうなの?」

 祥子が尋ねた。リアノーラは肩をすくめる。

「私は専門家じゃないから何とも言えないけど、相手がうまいわ。相手が剣を落としかけた時、躊躇せずに踏み込められれば良かったんだけどね」

 そういうリアノーラは実戦なれしていた。出なければ、こんな言葉はでてこないだろう。結局、リアノーラの言った通りベアトリックスの判定負けだ。

「まあ、騎士学校の男子生徒相手によくやったわよね?」

 祥子がうかがうようにリアノーラを見た。そういう判断はすべてリアノーラに向く。アレクシアも気になって、リアノーラの方を見た。

「そうね。今から騎士として働いても問題ないレベルよね」

 おお、評価高いな。フェナ・スクール側は結局、1人勝って2人負けた。これで、剣術戦は騎士学校側にとられたことになる。


「……これはまた。思ったより接戦ねー……」


 リアノーラがのんびりとつぶやいた。確かに、接戦だ。

「1日目の馬術と射撃は勝てたもんね」

「……でも、2日目の槍術、体術は負けて、棒術は何とか勝ったのよね」

「それで、剣術は騎士学校の勝ち。3対3でのイーブン。どう転ぶか見ものね」

「やっぱり、騎士学校の方が有利なのかな」

 残るのは総合格闘戦だ。祥子がリアノーラに質問を飛ばす。まあ、そりゃそうだろ、とリアノーラ。


「騎士学校は軍人養成学校だよ。対してこっちは官僚養成学校。場合によっては官僚も作戦指揮官になるけど、でも、ただの戦闘力となっちゃ、騎士学校に分があるに決まってるでしょ」


 くだらないのか中身があるのかないのか微妙によくわからない会話をしていると、最終戦、総合格闘戦に突入した。

「……うん。今年は、ダメだなぁ」

 リアノーラが低くつぶやいた。アレクシアは少し高いところにあるリアノーラの顔を見る。

「……リアも出れたらよかったのにね」

「私1人入ったって、そんなに変わんないわよ」

 リアノーラは冷静に言った。彼女によると、リアノーラが強いのは魔法があるからであり、模擬戦のルールはリアノーラに振りなのだそうだ。確かに、魔法が使えないもんね。


 そして、それが起こったのは、リアノーラが言った通り総合格闘戦が騎士学校の勝利に終わった時だった。


「リア、護衛は?」

「あー……いいわよ。お父様も来てるし」

 引退した人に頼んでどうする。リアノーラの父アルヴィンはもともとナイツ・オブ・ラウンドだから不足はないのかもしれないが、先王ウィリアム3世が崩御したときに辞任しているはずだ。


 パンッ、と何かがはじけるような音が響いた。リアノーラが客席を見渡しながらアレクシアと祥子の頭を力ずくで押さえつけて伏せさせた。彼女自信は立ったままで、懐から取り出した拳銃を構えた。そんなもん持ってたのか。


「そこ、動くな! こんなに人がいるところで発砲するなんて、やってくれるじゃないの! 銃を下しなさい!」

 声高にのたまうリアノーラに何か不自然なものを感じたが、アレクシアは黙っていた。アレクシアは炎の魔女だ。自分の身は自分で護れるが、この場所では被害がでかすぎる。

「早くしなさい! この距離なら、必ず当たるわよ!」

 そういえば、リアノーラは最近射撃訓練をしているようだった。何の思惑かは知らないが、最初からかなりの腕であることは知っている。当てるというなら、必ず当てるだろう、この女は。


「リア、後ろ!」


 祥子が叫んだ。警告した祥子はすでにアレクシアの手をつかんで逃げている。警告されたリアノーラは、背後からの攻撃を避けた。

「仲間かっ」

 リアノーラは銃の台座で男の顔を殴りつけた。さらに膝を鳩尾に叩き込む。しかし、男もやられてばかりではない。男の掌打がリアノーラの鳩尾を正確にとらえた。リアノーラが「うっ」とうなって客席の前の壁に背中をぶつける。一瞬息が詰まったようだが、すぐに右手を挙げた。ためらわずに、彼女は引き金を引いた。


 パン、パン、パン。


 軽い音が3発分。男の両肩と片膝を正確に打ち抜いた。さらに手すりにつかまって立ち上がり、左手に銃を構えなおすと、最初に射撃した男にも3発分発砲する。これで弾は無くなっただろう。

 気づくと、いつの間にかあちこちで暴動のようなものが起きている。え、どうしよう、と思っていると、弾倉を替えていたリアノーラが祥子の手を取ってその拳銃を押し付けた。


「いい、祥子。向かってくる奴がいたら遠慮しなくていいわ。撃つのよ。これ、予備弾倉」


 そう言ってリアノーラはさらに2つ弾倉を持たせた。唖然としている祥子はされるがままに受け取っている。さらに、リアノーラの顔はアレクシアにも向いた。


「アレク。身の危険を感じたら、遠慮なく魔術を使うのよ。相手が火だるまになってもいい。2人とも、自分の身の安全を最優先に考えるの。いいわね」


 アレクシアは深くうなずいた。祥子の頭をつかんで、同じようにうなずかせる。リアノーラは苦笑した。バレッタで髪をすばやく束ねる。

「じゃあ、2人とも、行くのよ。できればベリティに合流してね」

 確かに、彼女と一緒にいれば安全だろうけど、この混乱の中で見つかるか? すでに生徒たちが悲鳴を上げて逃げ回っている。


「リアっ、気を付けてねっ」


 祥子がアレクシアと並んで走りながらリアノーラに叫んだ。振り返ると、別方向に向かっていたリアノーラが手を上げたのが見えた。

 きっと、彼女なら大丈夫。そう思い、運動があまり得意ではない2人は、それでも懸命に走った。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ちょっと半端なところですが、続きを入れてしまうと長くなってしまうので……さすがに1万字越えはないなぁと最近思っています。

今日中に続きはアップしたいかなぁと思います。

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