思いがけない出来事
今回はフェアファンクス公爵家の子供たちが総出です。
※少し文章を追加しました(4月23日)
その日、フェアファンクス公爵家には朝から剣戟の音が響いていた。屋敷内にある修練場である。昼間は門下生が剣の練習に着たりするのだが、この時間は誰もいないことの方が多い。しかし、今日は3人いた。そのうちのひとりであるユーフェミアは壁に背中をつけて膝に頬杖をついていた。視線の先では父と妹が剣を合わせている。
騎士を引退したアルヴィンだが、その実まだユーフェミアやリアノーラよりも強い。戦闘に出るのは無理かもしれないが、指導は可能である。ユーフェミアもリアノーラも物心つくころからアルヴィンに鍛えられていた。ストレートな剣術のユーフェミアとトリッキーな剣術のリアノーラだが、基礎の部分は同じだった。
当たり前だが、アルヴィンの方が押している。怪我をしないように木刀を使っているが、当たればかなり痛い。特に、アルヴィンの剣戟は重い。ユーフェミアが真正面から受ければ確実に負けるだろう。という剣を、リアノーラは真正面から受けて見せた。
もちろん、ユーフェミアの腕力が弱すぎるのであって、リアノーラは女性にしては腕力がある方だろう。それでも、両手と片手、さらにアルヴィンには怪我の後遺症というハンデがあったが、それでもリアノーラの方が抑え込まれている。
「――っ! やぁぁぁあああっ!」
気合の声を上げ、リアノーラが渾身の力でアルヴィンの剣を跳ね上げた。さしものアルヴィンも驚いている。そのまま鋭い突きを繰り出す。しかし。
わきが甘い。
優れた動体視力を持つユーフェミアはとっさにそう思った。思った通り、リアノーラは突きを避けたアルヴィンからわき腹に痛烈な一撃を食らった。
「――……っつ……!」
床に激突したリアノーラは低くうめいて、突かれたわき腹をおさえながらむくりと起き上がる。立ち上がれなかったのかその場に座り込んだ。アルヴィンとユーフェミアは彼女に近寄る。
「大丈夫か?」
自分でやったのに、アルヴィンはそんなことを言う。
「いや、肋骨折れなかったのが不思議なくらいの一撃だったと思うけど」
ユーフェミアがリアノーラのわき腹に触れながら言った。リアノーラが痛みに飛び上がってもだえる。衝撃で声も出ないのか、数度咳き込んだ。
「お前たちをそんなに柔に鍛えたおぼえはない。しかし、いきなりどうしたんだ?」
リアノーラは昨晩、突然アルヴィンに剣術の稽古をつけてくれと言い出した。アルヴィンでなくてもどうしたのか気になる。
「それは私も気になるな」
アルヴィンとユーフェミアが見つめると、リアノーラは視線をそらして言った。
「……私は、自分の至らなさを痛感したの」
いや、本気でどうしたのだろうか。『私の辞書に不可能の文字はない!』を地で行くリアノーラである。まあ、それは彼女なりの虚勢で、本来の彼女がむしろちょっと臆病なくらいである。と、ユーフェミアは思っている。
「……向上心があるのはいいことだが、お前は騎士でも変則的な騎士だろう」
またそんなことを言う。アルヴィンはリアノーラの心中を察していないのだろうか。リアノーラがますます意固地になるだけである。
「……だって」
ほら。ユーフェミアはリアノーラの次の言葉を待つが、彼女は言葉を発しなかった。ただむくれたように黙っている。
「……だって?」
「何でもないっ」
ぷいっと顔をそむけるしぐさが妙に子供っぽい。大人びた風貌のリアノーラだが、なぜか時々仕草は子供だった。まあ、16歳になったばかりと考えればそんなものなのかもしれないが。
ユーフェミアは何となく事情が察せる気がした。学校が始業してすぐ、リアノーラは騎士学校在校生である騎士と決闘をして負けたのである。そいつは噂に興味のないユーフェミアでも知っているほど性格に難のある奴で(リアノーラも問題があると言えばあるが、そんなのが比ではないくらい性格が悪い)アルヴィンの娘でありながら剣術の才に乏しい(彼女に近しいものはそう思っていないのだが)リアノーラがナイツ・オブ・ラウンドであることが気に食わなかったらしい。
ナイツ・オブ・ラウンドになってもおかしくはないほどの実力者だが、性格に難ありとしてチャールズ4世がナイツ・オブ・ラウンドに加えなかったような男である。チャールズ4世は能力があれば特に性格は気にしないのだが、それでも避けたいと思うほどの男だったのだ。その悪評は推して知るべし。欠員が出た今も、そいつはナイツ・オブ・ラウンドに選ばれていない。リアノーラやエドワード、ユリシーズなどの前例がいる以上、在校している者がナイツ・オブ・ラウンドになってはいけないわけではない。過去には、騎士学校の生徒でナイツ・オブ・ラウンドになったものもいるのだ。
年始のこの時期、騎士学校の成績優秀な生徒が騎士団の職場体験的なものに来ることはよくある。そいつはそれに来ていた。男、とっているが、実際には少年と言っていい年だろう。騎士学校の最終学年だから、ユーフェミアと同じ年くらいか。
リアノーラは性格が悪いしサディストだが、簡単に挑発に乗るような少女ではない。きっと、何か彼女の琴線に触れるものがあったのだろう。例えば、父を侮辱されたとか。ユーフェミアはその線が一番濃いと思っている。ひねくれているのでわかりにくいが、リアノーラはアルヴィンを心から尊敬している。
魔法なしの決闘で、魔法剣士であるリアノーラが負けても角は立たない。半分魔術師であるリアノーラが、本職剣士に負けることは仕方がない。リアノーラは魔法がつかえる分、才能がそちらにも割かれているのだ。
しかし、その男……というか少年は、リアノーラを侮辱して見せたのだという。負けたのは事実だし、リアノーラ本人がその言葉は事実だと思っていたから、彼女は反論できなかったのだろう。こういう時こそ持ち前のサドっ気を出すべきなんじゃないだろうか。ソフィアも憤慨していた。
何がともあれ、これでその少年の騎士団入団は無くなっただろう。チャールズ4世は姪っ子のリアノーラをかわいがっているし、仮にもナイツ・オブ・ラウンドであるリアノーラを侮辱するということは、ひいては国王の侮辱につながる。性格的にも、入れてほしくない。もしも入ってきたら、今度はユーフェミアが相手をしてやろうと思った。
ユーフェミアも結構シスコンだった。
たぶん、リアノーラはアルヴィンに言っていないのだろう。言いたくないと思っているはずだ。しかし、その決闘はすでに噂になって宮殿に広まっているので、すぐにアルヴィンの耳にも入るだろう。
すねたリアノーラの頭を、アルヴィンが無造作になでる。
「無理をする必要はない。お前は十分強い」
振り返ったリアノーラの切れ長気味の目が、みるみる涙に潤んでいく。唇を引き結び、今にも泣きださんばかりである。さしものアルヴィンとユーフェミアもうろたえる。豪胆で無表情と言われる2人だが、家族には結構弱い。アルヴィンとユーフェミアがリアノーラを慰めようとする。
「どうした。何か嫌なことでもあったか?」
「リア。バカの言うことなんぞ、聞き流せばいいんだぞ」
ユーフェミアが言った瞬間、アルヴィンがユーフェミアの方を見た。内心、しまった、と思う。頭のいいユーフェミアは、普段ならこんなミスはしないだろうが、今は動揺していた。
「ユフィ、何か知ってるのか?」
やっぱり、失言だった。騎士は馬鹿と思われがちだが、少なくともフェアファンクス公爵家出身の騎士に、それは当てはまらないと言える。何しろ、アルヴィンは宰相を務めているし。
と、今はそれはどうでもいいのか。
ユーフェミアは困ってリアノーラを見た。妹と目があった瞬間、リアノーラの目から涙があふれた。アルヴィンにしがみつき、声を上げて泣き出す。
わあわあ子供のように泣き叫ぶリアノーラの背を叩きながら、アルヴィンはユーフェミアを見た。アルヴィンは短く言う。
「説明しろ」
有無を言わせぬ口調に、ユーフェミアが折れた。簡単に経緯を説明する。
「昨日、職場体験(?)に来た騎士学校の生徒と決闘になって、リアが負けたらしい。それで、口汚く侮辱されたって聞いてる」
ソフィア経由の情報なので、詳しいことがよくわからないのだが。
端的な説明に、アルヴィンは眉をひそめる。
「決闘? リアがそう簡単に挑発に乗るとは思えん」
「……まあ、その辺は本人に聞いて。私も詳しいこと知ってるわけじゃねぇから。フィーアから又聞きしただけだし」
アルヴィンは宰相だ。今日宮殿に上がればユーフェミアよりも詳しい話を聞いてくるだろう。
散々泣き叫んだリアノーラはすっきりしてきたのかしゃくりあげる合間にぶつぶつ恨み言を呟いている。魔術師のリアノーラが言うと、本当に呪われそうで怖い。
* + 〇 + *
アルビオン王立フェナ・スクール中等部は高等部を同じ敷地内にある。施設範囲は違うので、行き来しようと思わなければ高等部学生と会うことはないが、クリストファーは姉がいる日は毎朝彼女たちと登校してきている。
フェアファンクス公爵家の跡取りであるクリストファーは現在12歳で中等部3学年にあたる。姉たちが派手なので、あまり注目を浴びない少年である。
上の姉ユーフェミアは母親に、下の姉リアノーラは父親に似ている。クリストファーは両親を足して割ったような外見をしていて、そっくりではないが明らかに2人の子供とわかる整った容姿をしていた。
クリストファーにとって姉は誇りだが、同時に強烈なコンプレックスでもある。長女ユーフェミアは病弱ながら剣術の天才。最強の剣士と言われたアルヴィンの血をしっかり引き継いでいる。
そして、次女リアノーラは魔女。現在ではとても珍しい。もちろん、魔女だというだけならそれは、リアノーラの才覚ではなく生まれ持った天賦の才である。しかし、彼女はその魔術をコントロールし、剣術に織り交ぜることでユーフェミアにも負けない剣の腕をもつ。彼女は彼女でまた、ユーフェミアに対してコンプレックスを抱いているようであるが、その才能は認められ、現在では王直属のナイツ・オブ・ラウンドだ。っていうか、クリストファーたちも王位継承権があるんだけどさ……。
対して、クリストファーは姉たちに比べて平々凡々とした少年だ。唯一、射撃だけなら姉たちには負けないが、剣も頭も姉たちには劣る。父も、姉たちをよくかわいがるが、クリストファーに関しては若干放任気味だ。まあ、男だからというのもあるかもしれない。それに、ユーフェミアは体が弱いし、リアノーラには過去に負い目があるからかもしれない。
今日はユーフェミアの体調も良く、リアノーラの仕事もなかったため、3人で登校してきた。中等部の前で姉たちと別れ、校舎に入る。
「よう、クリス」
「おはよう」
友人に声をかけられ、クリストファーもおとなしく挨拶する。3人兄弟の中で比較的おとなしいのはクリストファーだ。
「今日も美人なお姉様と登校か」
「姉さんたちは毎日来てるわけじゃないからね。同じ家から来るんだから、一緒の方が都合がいいじゃん」
「ちっ。夢のないやつ」
夢ってなんだよ。兄弟だぞ。
専門が分かれ、自分で比較的好きな科目が取れる高等部とは違い、中等部の時間割は固定だ。クリストファーのクラスの1時間目は基礎体育。つまり、剣術である。
騎士の国アルビオンでは、初等部のころから武術を習い、中等部に上がると剣を持つようになる。女生徒の時間割はまた違ってくるが、リアノーラの友人ベアトリックス=ウェルティのように、望めば剣術の授業も受けることができる。騎士にあこがれる女性は、決して少なくはない。
もちろん、騎士の家に生まれたクリストファーは、初等部どころかもっと幼いころから剣を習っているが、姉たちのようにはいかなかった。どちらかというと、クリストファーは母親譲りで射撃の方が得意なのである。
しかし、リアノーラもそうだが、フェアファンクス家の子はそうなのだろうか。クリストファーが卑屈になっているだけで、彼にも騎士としてやっていけるくらいの剣の腕はある。何しろ、あのアルヴィンの息子だ。だが、やはり姉たちとは違い並み程度だから、ある意味クリストファーは正しいのかもしれない。
もともととある貴族の城だったというこのフェナ・スクールの校舎には修練場が併設されている。身軽な訓練服に着替えて修練場に行く。クリストファーの学年にも、剣術の授業を取っている女生徒は何人かいる。
「……剣術の授業って、憂鬱……」
思わずつぶやくと、友人のジェレミー=ゲイソンがクリストファーにタックルを食らわせた。
「何言ってんだよ! 俺より剣術の成績いいじゃん」
「成績はまじめにやってればもらえるでしょ」
「俺がまじめじゃないと?」
ジェレミーがまじめに授業を受けているかは、はなはだ疑問である。ジェレミーは頭はいいが、お調子者のきらいがあるのだ。
「……そういうんじゃなくて。剣を握るたびに自分の限界を思い知らされるというか」
なんて自分は平凡なのだろう、とか思ってしまうのである。
「なんかその間が気になるけど。でもまあ、確かに剣術に関しては、お前、あのフェアファンクス家出身にしては普通だよな」
友人にもそう評されてクリストファーはがっくりした。そうか、普通か。いや、普通でいいのかもしれないけど。
「あと、お前の理想が高すぎるんだろ。それに、父親が宰相閣下じゃなぁ。俺たちが物心つくころにはもう引退してたけど、もともとすげぇ騎士なんだろ」
「母様や伯父上が言うには、国で一番の剣士だったらしいね」
「……お前、そんな人の跡取りなんだな。いろいろがんばれ」
ジェレミーが同情するように言った。ジェレミーの実家は子爵家だが、ジェレミーは跡取りではない。実にうらやましい。クリストファーは上に2人いるが、どちらも姉だ。
アルビオンの王室典範によれば、爵位や王位は女性も継承できる。王位は長子が代々跡を継ぐため、現在の王太子は第一王女のソフィアだ。彼女には弟にジェームズという王子がいるが、王室典範に則り、長子のソフィアが王太子の座についている。だが、爵位は男子優先である。なぜ爵位と王位で継承方法が違うのか。だから、フェアファンクス公爵位の継承順は、クリストファー、ユーフェミア、リアノーラの順になるのだ。
「……ほんとは、リアに爵位を継いでほしいんだけどな」
いろんな意味で、ユーフェミアは公爵に向いていなさそうである。
「リアって、あのナイツ・オブ・ラウンドの?」
「そう」
アルヴィンの娘がナイツ・オブ・ラウンド入りしたとあって、リアノーラも有名人である。彼女も高名な父と比較されて苦労していることだろう。父が有名すぎるというのも考え物である。
あの姉なら、持ち前の行動力と決断力でフェアファンクス公爵という責任をこなしてくれる気がした。しかし、彼女が爵位継承権が最も低い。クリストファーが爵位を譲っても、その爵位は上の姉ユーフェミアのもとへ行くだろう。病弱な姉に大役を押し付けるほどクリストファーは無常ではない。
よって、クリストファーは甘んじてフェアファンクス公爵家の跡取りとなっている。
「そこ! おしゃべりが多いぞ!」
訓練教官に指摘され、2人は首をすくめた。模擬試合をするように言われ、剣を構えた時、なぜか女生徒の甲高い悲鳴が聞こえた。
「どうした!?」
教員が悲鳴のした方、半地下になっている道具庫に向かう。そして、女生徒を引きずり出すと、なぜかクリストファーに向かって叫んだ。
「クリス! お前の姉君呼んで来い!」
「姉? どっちですか?」
事態が呑み込めないクリストファーは首を傾けて冷静に尋ねた。
「リアの方だ! 早く行って来い!」
せかされて、わけがわからないままクリストファーは駆け出した。
「ていうか、高等部も授業中だと思うんだけど……」
そう思いながら、クリストファーは高等部に向かって足を進めた。
* + 〇 + *
「あの~、すみません。姉はいますか」
遠慮がちにかけられた声に、リアノーラは顔を上げた。なぜかクリストファーが高等部の教室にいる。ちなみに、今は法学の時間である。
「……おや、君は中等部の生徒では?」
「いや、だから姉に」
ちょっとずれた法学教官の言葉に、リアノーラは机の上でガクッと崩れた。
「……クリス、どうしたの?」
仕方がないのでリアノーラ自身がクリストファーの側に行って尋ねた。うん、とクリストファーはうなずいた。
「なんかねー。チェンバレン教官がリアを呼んで来いって」
チェンバレン教官は中等部の剣術指導の教官だ。リアノーラも中等部にいた時には世話になった。王族だろうがマフィアのボスだろうが態度の変わらず、成績がよかろうが悪かろうが身分が低かろうが全員を平等に扱っていた。
「チェンバレン教官が呼んでるなら仕方がないね。リア、いってらっしゃい。試験の結果が悪かったら単位あげないけどね」
「せ、先生……行ってきます」
リアノーラは笑顔で手を振る教官の言葉に悪意を感じながらもうなずいた。クリストファーの後を追って教室を出る。
「んで? 何があったの?」
まだ授業中なので静かな廊下を歩きながら、リアノーラは尋ねた。しかし、クリストファーは首を傾けた。
「んー、それがわかんなくて」
「なんじゃそりゃ」
リアノーラがすかさずツッコミを入れた。クリストファーが肩をすくめる。校舎内にある高等部と中等部の境目を越える。
クリストファーが向かったのは修練場だった。まあ、クリストファーの恰好を見れば、剣術の授業だったことが丸わかりなのだが……。彼が訓練服を着ているからだ。
「お、来たか。こっちだリア」
チェンバレン教官に呼ばれ、リアノーラは半地下になっている倉庫に向かった。ちなみに、チェンバレン教官にはリアノーラも世話になっている。彼は騎士団にいた経歴があり、アルヴィンの後輩でもある。
階段をいくつか降りたリアノーラは、すぐに足を止めた。そして、チェンバレン教官に言う。
「……これは、私じゃなくて警察を呼ぶべきじゃないですか? 軍部の警察係の仕事だと思うけど」
「敷地内に騎士がいるのに、使わない手はないだろう」
はっはっは、とチェンバレン教官は笑う。リアノーラはちょっと呆れた。これは、リアノーラの管轄外……ではなかった。
「白骨死体。おそらく、死後100年くらい経ってる。いろんな意味でありえないわよね」
「ここはずっと僕たちが使ってたんだからね。少なくとも、2日前に剣術の授業があった時にはなかったもん。運んできたにしても、こんな白骨、触れただけで壊れちゃうよね」
リアの呼ばれた意味が分かったなあ、とリアノーラの後ろについてきたクリストファーが冷静に言う。
「また厄介な事件に巻き込まれたね」
「うるさい」
リアノーラは不機嫌そうに言い、クリストファーを倉庫の外に引きずり出した。それから、自分はもう一度観察しに白骨死体の元に戻る。
クリストファーの言うことは事実だ。だから、気になる。どうやって、この白骨はここに現れたのだろう? たとえば今、リアノーラがこれに触れば骨は砕けてしまう。
大の字になって、白骨は散らばっていた。去年の年末に起きた魔法陣事件からもわかるように、人間というのは魔術の生贄になりうる。この死体も、そうなのだろうか。
もしくは、この白骨だけで魔法陣を形成している可能性もある。稀に、自らの死を持って魔術を完成させる酔狂な人間がいるのだ。
しばらくすると、警察がやってきた。リアノーラの顔を見て敬礼する。
「リアノーラ卿。お疲れ様です」
「お疲れ様。忙しいところ、申し訳ないわ」
「いえ。仕事ですので」
憲兵はまじめに言う。リアノーラはテキパキと指示を出す。
「宮廷魔術師のアーサーさんを呼んでちょうだい。あと、ここの修練場は本日使用禁止。今日ある剣術の授業はすべて中止。いいですか?」
リアノーラがチェンバレン教官に言うと、まあ当然だな、と彼はうなずいた。
「わかった。よろしくな」
「了解です」
リアノーラはうなずくと、もう一度白骨を観察した。
思いがけないことが起きてしまった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
クリスを久しぶりに書いた気がします。姉2人のキャラが濃いので没個性的なクリス……。設定上は射撃が得意なんですけどね。




