コンサートに行きましょう
今回はフェアファンクス公爵家姉妹特集です。タイトル通りです。
リアノーラが目を覚ますと、すでに日は高かった。まあ、冬なので、もう数時間もしないうちに沈んでしまうけど。
とりあえず起き上がると、そこは自分の部屋だった。宮殿の近くにあるフェアファンクス家の屋敷の。リアノーラはあれ、と思う。昨日、帰った記憶がない。
それもそのはず。リアノーラは飲みなれない酒を飲んでいるうちに眠ってしまったから。たぶん、一緒にいた父が連れ帰ってくれたのだろう。
リアノーラは起き上がるとのそのそと厚手のワンピースを着こみ、とりあえず食堂に行った。おなかが減った。
食堂に入ると、プラチナブロンドの少女が1人、紅茶を飲みながら雑誌を読んでいた。姉のユーフェミアだ。彼女は切れ長気味の碧眼を上げると、片手をあげる。
「おはよう」
「おはよう。ユフィ」
リアノーラは近くにいた使用人に何か軽く食べ物を作ってくれるように頼み、ユーフェミアの向かいに腰を下ろした。
2歳年上のユーフェミアは、どこかはかなげな容姿をしている。実態は口の悪い天然なのだが、それは話さなければわからない。リアノーラも美人だが、ユーフェミアはさらに美人。それが、リアノーラの認識だった。
「みんなは?」
「お父様は宮殿。お母様はバーネット伯爵夫人のサロンに行った。クリスは友達と遊びに行ってくるってさ」
「そうかぁ」
確かに、時間を確認するとすでに昼を過ぎている。調子に乗って飲みなれないものを飲むものではない。ちなみに、クリストファーはリアノーラたちの弟で、リアノーラの3つ年下だ。比較的母親似のユーフェミアと、比較的父親似のリアノーラ。クリストファーは両親を足して割ったような面差しをしていた。
「っていうか、昨日お父様結構飲んでたよ? 頭働くのかなぁ」
「いつも通りに出て行ったがね。そういうお前は? 平気なのか?」
「え? うん。平気」
そういうリアノーラもぴんぴんしていた。二日酔いとか頭痛いとかそういうことはない。やはり、家系的に酒に強いようだ。
「まあ、お前が大丈夫ならお父様も大丈夫だろ。私でさえ酒飲んで酔うことないからな」
中身はともかく外見通り虚弱体質なユーフェミアがさらりと言った。それもそうである。初めてアルコールを摂取したリアノーラや、病弱なユーフェミアでも大丈夫なのだ。アルヴィンなら大丈夫だろう。だが、頼むから予算案を間違えるのだけはやめて。またリアノーラが修正する羽目になる。年末の一件以来、リアノーラはたびたび予算の確認をさせられるようになっていた。
そこにリアノーラのもとに軽食が運ばれてきた。リアノーラは早速クリームスープに口をつける。温かいスープが胃に染み渡る。
「そういやリア。冬休みの課題は終わってるのか?」
リアノーラは食べる手を止める。
「なによ。終わってないわ~って言ったら、手伝ってくれるの?」
「いや……そう言うということは終わってるのか。さすがだな」
「そりゃそうだけど。どうしたの?」
「いや、これ」
そう言ってユーフェミアが差し出したものを、サンドイッチを食べる手を止めて受け取る。怪訝な表情でリアノーラは言った。
「何これ」
「コンサートのチケット。お父様が代わりに行ってきてくれってさ」
音楽堂で開かれるクラシックコンサートだ。クラシックは嫌いではない。新年だから、アルヴィンの仕事が多いことも理解している。そしてこれは公務ではない。
「クリスと行けば?」
「14歳を夜中に連れて行けないだろ。課題終わってるなら、お前と行こうと思って」
正論である。いくらユーフェミアとクリストファーが強かろうと未成年を夜中に連れまわせない。名指しされながらもリアノーラは頭をひねる。
「じゃあユーリさん……は、今日は夜勤か……」
何気に酒に強いユリシーズは今日も仕事だ。リアノーラは明日にはいかなければならない。
ユーフェミアはユリシーズと付き合っている。その事実を知ったのは割と最近である。何となく前から感ずいていたが、というか、ナイツ・オブ・ラウンドには筒抜けだったが、本人の口からきいたのは3日前だ。王太子ソフィアの専属騎士をしているユーフェミアと立ち話をしているときに訊いた。
そこで、リアノーラは「自分より強くないと娘はやらない」と言っていたアルヴィンを思い出した。すでに子煩悩を越えたセリフである。
大丈夫だろうか、ユリシーズ、殺されたりしないだろうか。さすがにそれはないか。決闘とかにはなりそうだけど。
「で? 行くの、行かないの?」
ユーフェミアに半眼で尋ねられ、リアノーラは両手を上げた。
「オーケー。わかった。行くわよ。ユフィはドレス?」
「ん? ああ……そのつもりだけど」
「そう。なら私はナイツ・オブ・ラウンドの礼服で行くわね」
2人ともドレスで行く必要はないだろう。なめられるし、いざという時は騎士服の方が動きやすい。いや、コンサートで何かあるとは思わないけど。
ちなみに、ナイツ・オブ・ラウンドの騎士服といってもパンツスタイルとスカートスタイルがある。リアノーラは式典以外ではスカートでいることが多い。リディアもそうだ。最近では女性の騎士も多いので、スカートやショートパンツ丈のものもある。
「お前も騎士が板についてきたな」
「……まあ、これでも一応本物の騎士だからね」
最近よくその言葉を言われるのだ。喜んでいいのか嘆いた方がいいのかリアノーラにはわからない。だから、あえてこのような微妙な返答をする。パーティーで護衛中、令嬢たちに声をかけられたときはまじめにどうしようかと思った。父親に似ているとはいえ、リアノーラはお嬢様顔なのに。
リアノーラは名目は騎士だが、実情は魔術師だ。それも微妙な返答につながっている。正確には魔法剣士だけど。
リアノーラがそんなどうでもいいことを考えていると、ユーフェミアにじっと見つめられていることに気が付いた。
「……何よ」
美人に真剣に見つめられると怖い。リアノーラは若干身を引きながら尋ねた。
「……いや。お前、お嬢様顔だなって思って」
「……そーね」
突然なんだろう。リアノーラは不審げにユーフェミアを見る。リアノーラがお嬢様顔なのはすでに本人が自覚している。
ちなみにユーフェミアは現在の王太子ソフィアに似ている。アルビオンの王位は長子相続なので、王太子といっても第1子の王女だ。つまり、ユーフェミアは王族の母親似ということになる。まあ、ディアナもプラチナブロンドだし。
一方のリアノーラは、髪と目の色は父親譲り。まったくもって不可思議な色だ。亜麻色にしては色が薄いし輝いているし、銀髪にしてはくすんでいる。ちなみに、アルヴィンや弟のクリストファーは純粋な亜麻色の髪である。要するに、リアノーラの髪の色は父と母の中間なのだ。
「……少し前から思ってたけど、お前は意外と中性的な顔立ちしているよなぁ」
「……」
ナイツ・オブ・ラウンドに入って、その言葉もたびたび聞くようになった。リアノーラがお嬢様顔に見えるのは髪型の問題なのではないか、という話だった。リアノーラはウェーブがかった長い髪を縦ロールに巻いていることが多いのだ。お嬢様的なその髪型に、顔立ちがつられて見えるのではないか。と、結構真剣な表情でエリスたちに言われた。
まあ、それはともかく、性格上はユーフェミアの方がアルヴィンに似ている気がしていたが、それも、どうやらそうでもないらしい。ちなみに、リアノーラはふとした表情の方が似ていると言われ……もう何が言いたいのかわからなくなってきた。
「なんか釈然としないけど……まあいいわ。ユフィの方は、体調大丈夫?」
「ああ、平気。毎日お前に治療してもらってるし」
「いや、治療って程じゃないけど」
しかし、実際にユーフェミアが病弱でありながらこの年でベッドの上で余生を過ごす、なんてことにならなかったのはリアノーラが魔女であったおかげである。
ユーフェミアは体が弱い。肺機能が悪いのだ。リアノーラが治癒術を使えると言っても、それはあまり強いものではなかった。リアノーラの魔術は攻撃性に富んでいるため、治癒にはあまり向かないらしい。それでも、現代の医学ではできないことを、リアノーラはやってのけている。
魔術はリアノーラのコンプレックスであり、誇りである。彼女は、心のどこかでこの力を疎みながらも、この力がなければ自分の価値はないと、半ば本気で思っているのだ。
「まあ、あったかくしていけば大丈夫よね。『フェアファンクス公爵家の令嬢ユーフェミア』としていくから、髪を染める必要もないわよね」
ユーフェミアは、この国、アルビオンの王太子ソフィアの『影』だ。妹のリアノーラから見ても、ユーフェミアとソフィアは従姉妹同士というには似すぎていた。もちろん、身内が見れば見分けられるくらいの差異はある。髪の色とか質とか目つきとか。この目つきにおいて、リアノーラはユーフェミアを悪人相だと思っている。いや、本人には言わないし、言うほどひどくないけど。美人だし。ただ、睨まれると怖い。
「あと、剣も持って行ってくれ」
「いや、コンサート会場はフツーに考えて剣や銃は持ち込めないわよ」
当たり前のことだ。芸術鑑賞にそんなものはいらん。
「そりゃ建前だろ。お前はナイツ・オブ・ラウンドなんだし」
「いや、別に国王を護衛しているわけじゃないから、例外は認められないと思うけど」
ユーフェミアもリアノーラも王族だが、直系ではない。継承順位は高い方だが、よっぽどのことがない限り王位は回ってこない。それこそ、300年前のエリザベス女王のように、クーデターが起きて継承順位が上のものがすべて死んだ! とか。それはない。そんなことが起これば、少なくとも、リアノーラがその時点で生きている可能性は低い。なんといってもリアノーラはナイツ・オブ・ラウンドだから。
「つーか、お前の存在自体が兵器だろ」
「うっ。それは……否定できないわ」
リアノーラ自身、それはよく認識していた。冷たい言葉だが、ユーフェミアは事実を口にしただけだ。リアノーラはその辺の兵器よりたちが悪い。リアノーラはおそらく、その気になればこの国を半壊させるほどの力を持っている。それをどう利用するかは、リアノーラ自身の善意にかかっているのだ。
最近、魔術に関する事件が多いからか、よくこの思考が頭をよぎる。自分はいつまで善意のある人間でいられるのだろうか。思わず顔をしかめたリアノーラの頭に、ぽん、とユーフェミアのほっそりした手が乗る。
「大丈夫だ。お前は自分の力を悪用できるような子じゃない」
珍しい笑みまで浮かべてそういわれると、リアノーラも真実気になってくるというものだ。
「……うん。ありがと」
心からそういってくれていることがわかるから、リアノーラはこの姉のことが好きなのだ。
* + 〇 + *
夜。階段を下りながらユーフェミアはくあっとあくびをした。すかさず侍女につっこまれる。
「お嬢様。化粧が落ちますからやめてください」
「わかってるさ」
「口調も改めてください」
「……わかってるわよぉ」
ああ、変な感じ。自分で言いながら、とてつもなくヘンな感じ。王太子の影としてふるまうのと、令嬢としてふるまうのではふるまい方が違うのだということを思い知らされる。
ユーフェミアは病弱で、人前にめったに出ない(ということになっている)。実際には、ソフィアの影を務めているからだが、病弱であるというのも事実だ。ユーフェミアの本性を知らない人たちに対しては、彼女ははかなげにふるまわなければならない。フェアファンクス家の品位を貶めることにもつながってしまうから。
ため息をつきながらエントランスホールに出ると、リアノーラはすでに待っていた。宣言通り、ナイツ・オブ・ラウンドの制服を着こんでいる。長い髪はポニーテールに結い上げられ、白いパンツスタイルの騎士服を着こなしている。ユーフェミアはリアノーラに駆け寄る。
「待たせたな」
「いや。まだ十分間に合うから、急がなくてもよかったのに」
シークレットブーツを履いているのか、リアノーラはユーフェミアより少し目線が高い。本来はユーフェミアの方が少し背が高いのだ。ユーフェミアの方もリアノーラの身長を考慮して、ヒールの高い靴ではない。
ユーフェミアはリアノーラにどことない違和感を覚えてまじまじと妹の顔を見つめた。といっても、ユーフェミアもだいぶ印象が違うはずだ。鮮やかな青のドレスに癖の強い髪は一部を結い上げ、髪飾りを挿している。化粧で顔の印象もだいぶやわらかくなっているはず。後は、ユーフェミアがおっとりとふるまうのを忘れなければいい。手本はナイツ・オブ・ラウンドのリディアだ。ユーフェミアが知る中で一番上品でおっとりしている。
「……何よ。なんか変?」
ついに耐えかねたリアノーラが口を開いた。ユーフェミアはうーむ、とうなり、もう一度リアノーラの全身を眺める。
騎士服をタイトに着こなし、肩からはパーソナルカラーではなく汎用の黒いマントをかけている。足元は編上げのシークレットブーツ。騎士服だからか、化粧は凛々しく見えるタイプのモノ。もともと中性的な風貌のリアノーラは、それだけでだいぶ雰囲気が変わって見える。いつものふわっとした感じがないから、なおさら……ああ、そうか。
「髪、巻いてないのな」
ユーフェミアは納得してぽん、と手をたたいた。
リアノーラはサイドの髪をくるくると縦ロールにしていることが多い。しかし、今はすべて結い上げている。だから、どこかすきっとした印象を与えるのだ。はっきり言ってこちらの方が似合う。
「たまにはいいでしょ。さ、行きましょうか」
何のためらいもなくリアノーラが手を差し出してくる。ユーフェミアも遠慮なくその手を取った。
「行ってらっしゃいませ」
リアノーラに手を引かれながら、背後に使用人たちの声を聴いた。リアノーラに助けられ、馬車に乗りこむ。リアノーラは当たり前のように進行方向と逆向きに座る。なんか騎士のしぐさが板についてきている。いつもは一緒に進行方向向きに座るのに、なんだか違和感。
「ユフィ。ドレス、似合ってるよ」
さらりとしたほめ言葉も騎士っぽい。いや、偏見なんだけど。
「リアもかっこいいぞ」
「ありがと」
目を細めて微笑むリアノーラは、本当にいつもと違うように見える。いつものふわふわした感じがない。ピシッとしている。むしろ、今回はユーフェミアがふわふわした感じを出さなければならない。
ここまで切り替えが見事だと、モデルとしている人がいるのかもしれない。ユーフェミアにもいるし。そう思って尋ねてみた。どうでもいいが、暇なのである。
「そのしぐさ、だれかモデルの人いるのか?」
「うん。お父様」
「………」
「……冗談だよ。エリスよ。恐れ多くてお父様の真似なんかできないわ」
ユーフェミアが言いたいことを的確に悟ったらしいリアノーラが言った。娘が言うのもなんだが、父はいい男である。変に真似しても微妙な感じになるだけだ。
くだらない話で盛り上がっていると、御者から音楽堂についたと声がかかった。やはり、移動は1人より2人の方が楽しい。
リアノーラが先に降りて、ユーフェミアに手を差し出した。やはり自然だ。だいぶ様になってきている。ユーフェミアはその手を当然のようにとった。
音楽堂にはすでに人がだいぶ集まっていた。着飾った正装のものが多い。元が美人であるユーフェミアとリアノーラの姉妹は、その中でも目立っていた。しかも、リアノーラはマントを着ているとはいえナイツ・オブ・ラウンドの正装がちらちら見えていては目立つ。騎士服を着ているからだろう。衛兵が近づいてきてリアノーラに言った。
「申し訳ありませんが、武器の方を……」
やっぱり持ち込み禁止か。リアノーラの読みは正しかった。リアノーラはマントとコートを広げる。
「持っていないさ。魔術師に武器を持たせてどうする」
「し、失礼しました」
衛兵が引き下がる。化粧で見た目は女顔の男のようにも見えるが、リアノーラは女だ。彼女の顔は知られているし、声も少女のもので衛兵はさぞ戸惑ったことだろう。職務を全うすべく声をかけてきた彼は立派だといえる。
リアノーラはユーフェミアを導いて音楽堂の中に入っていく。そこに、人ごみを押しのけて小柄な影が近づいてきた。
「ユフィさん……と、リア」
声をかけてきたのはリアノーラの友人のアレクシアだった。リアノーラがいつもと違う雰囲気なので戸惑ったのだろう。よくわかる。
「お、アレクも鑑賞に?」
「あ……うん」
リアノーラが朗らかに尋ねると、アレクシアが恥じらうように上目づかいに彼女を見上げた。
アレクシアはかわいらしいオレンジのドレスをまとっていた。さすがは貿易系大財閥の娘。装飾品などは他国産らしきものが多い。それがまたよく似合っていた。
「リア……その、どうしたの? その格好」
「ナイツ・オブ・ラウンドの制服だけど」
「見りゃわかるわよ」
いつも通りのリアノーラにアレクシアはツッコミを入れた。リアノーラはいつものどこかふわふわした笑みではなく、颯爽とした怜悧な笑みを浮かべた。
「まあそういうこと。帯剣はしてないけどね」
「いや……なんで、また?」
アレクシアにはリアノーラがナイツ・オブ・ラウンドの制服……というか男装で訪れたことに深い違和感があるようだ。確かに、リアノーラはドレス姿で微笑んでいることの方が多そうだけど、それは完全に偏見である。
「あれ。お前たちも来てるのか」
朗らかな口調で言ったのは長身の男だ。リアノーラと同じナイツ・オブ・ラウンドに制服をまとっている。今日も美形のエドワードだ。リアノーラとエドワードは仲間内の礼を取る。
「こんばんは、エド。夜勤じゃないの?」
「ああ。今日はユーリさんとエリスだ。つーかお前、どうしたの。気合の入った仮装だな」
エドワードの言葉に、ユーフェミアとアレクシアははっとした。そうか、そういう考え方もあるのか。はっとした2人に対し、リアノーラは口元をひきつらせた。
「……仮装じゃないし。せめて男装って言ってくれ」
なんかずれた反論をするリアノーラ。
「にしても、よくリアだとわかったな」
すねるリアノーラを横目に、ユーフェミアはエドワードに尋ねた。アレクシアですら、リアノーラであると近寄るまで確信できなかったのに。それくらいには雰囲気は違うはずである。
「いや……雰囲気はだいぶ違ったけど、なんつーか、オーラは同じだし」
……どういうことだ。あれか、魔力のことか。それとも愛のなせる技か。たぶん、後者だ。
「……まあいいや。早く行こう。入口、ふさいじゃってるし」
「そうだね。じゃあ、アレク、エド。また後程」
リアノーラが上品に礼をする。こういう瀟洒な動きは、昔からリアノーラの方が得意だった。
「うん」
「ナイツ・オブ・ラウンドの名に賭けて、しっかり姉君をエスコートしろよ」
エドワードの物言いに、リアノーラは苦笑を返した。今のところ、リアノーラのふるまいは騎士の名に恥じないものである。
ユーフェミアとリアノーラに与えられた席は、王族が座ってもおかしくないような席だった。バルコニー席の一番前。しかも、10人座れるはずなのに、2人で貸切である。
「いい席だね」
「そうね……」
ユーフェミアはお嬢様口調に切り替えて答える。リアノーラは半分素のままだが、ユーフェミアは思考を切り替えないと、これは難しい。
観客が次々入ってきて、ざわざわと騒がしい。おそらく、この席が与えられたのは、鑑賞に来る人の中では、ユーフェミアとリアノーラが一番身分が高いから。王族が来ないなら、フェアファンクス公爵家は最高位になる。
「……リア、寝てたら起こしてちょうだい」
「……すまん。私も寝るかも」
オーケストラの楽団が入ってきて、演奏が始まると、ユーフェミアはそんな不安に駆られた。やばい気がする。時間は早いとはいえ、夜だし。心地よいクラシックで寝てしまうかも。
コンサートも中盤に差し掛かったころ、不意にリアノーラに声がかかった。
「申し訳ありません、リアノーラ様」
「ん?」
音楽堂の事務員の制服を着た中年の男だ。小声で、リアノーラに話しかけている。っていうか、勝手に入ってくるなよ。ユーフェミアは心の中で音楽堂に事務員の教育をしっかりするように忠告しようと決意する。
「少しよろしいでしょうか」
「なんで?」
即答だった。父親ほどの年齢の相手に不遜極まりないが、この場合、リアノーラの反応が正しいだろう。ユーフェミアはコンサートを聴いているふりをしながらリアノーラの会話に耳を傾けていた。
「その……ちょっと問題が」
「どこかの席にエドワード=リプセット卿がいる。彼に頼めば?」
見事に切り返す。その通りだ。リアノーラに頼むよりも、エドワードに頼んだ方がいい。エドワードの方がナイツ・オブ・ラウンドとしての実績が多いし、男だし、いろいろと有用性がある。言い方は悪いけど。
「い、いえ……その……」
しどろもどろに彼は言う。そういう態度をとると、逆に怪しいとは思わないのだろうか。リアノーラはため息をついた。
「……わかった。行きましょう」
「リア」
ユーフェミアはコンサートから目をそらし、立ち上がったリアノーラの袖を引いた。リアノーラは一度しゃがみ、ユーフェミアの手を握り、笑みを浮かべた。
「大丈夫だ。ユフィはここで待ってて」
愛をささやくような笑みを浮かべて、彼女はそういった。リアノーラも舞台に立てるのではないかと思うくらいの演技力だった。リアノーラが身をひるがえし、歩いて行く。ユーフェミアは心配そうな顔……を装い、妹を見送った。リアノーラに握られた手を見る。
「……ほんとに、人思いの子。こんな時くらい、自分の心配すればいいのにさ」
ユーフェミアの手の甲には、リアノーラが一時的に託した身を護るための魔法陣が描かれていた。
「ホントに。人生半分損してるよな」
それが、いいところではあるのだが。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
フェアファンクス公爵家、酒豪ぞろいですね……。最近気づきましたが、私はギャップが好きみたいです。
そういえば、リアの外見ですが腰までの髪を縦ロールにしています。前はきっちりロール、後ろはふんわりロール(笑)。そのうち、切ってしまうかもしれません。




