新年
軽いです。最後のほうは少し真面目な話をしていると思いますが。
ちょっと余裕があったので、2日連続投稿です。
ナイツ・オブ・ラウンドは、年末年始が忙しい。リアノーラは新年式典の夜会で、壁に身を預けながらあくびを噛み殺した。
ナイツ・オブ・ラウンドという肩書がついて回るリアノーラは、年末年始が忙しかった。国王の代理も務められるのがナイツ・オブ・ラウンドである。ユリシーズと一緒にあいさつ回りもしてきたし、今は警護だ。一応。
年末年始は宰相の父アルヴィンも忙しい。新年に伴う刑罰の恩赦、それに公務員の整理。年末年始は議会が閉会しているので、宰相の独断となる。事後承諾だ。今のところ、問題が起きたことはない。
一応公務員であるリアノーラもちょっとだけ格上げだ。いや、ナイツ・オブ・ラウンドに序列はないことになっているが、数字が少しだけ早くなった。間が抜けたからだ。2か月ほどそのままだったが、きりがいいということでとりあえず、間を詰めた。リアノーラは相変わらず末席だが、第10席から第8席になった。
抜けた『彼』はどうしているのだろうか。最近、見ないんだよな……。
ナイツ・オブ・ラウンドの正装は肩がこる。白い制服に手袋、翡翠色のマント。今日も剣は佩かずに手ぶらだ。それでも手ぶら以上なのがリアノーラだ。魔術が使えるというのは、こういう時に利点が大きい。
髪はポニーテールに結い上げ、化粧もしている。しなければ、衣装に負けてしまう。
「あ、あの、リアノーラ様っ!」
「はい?」
高い声に呼ばれ、リアノーラはニコリと笑ってそちらを見る。最近、騎士のしぐさが板についてきたリアノーラだ。友人たちにうっかり手を差し出してしまったり、礼が騎士の礼になっていたり、リアノーラの令嬢精神を侵していた。
まあそれはいい。声をかけてきたのは、リアノーラとさほど年の変わらない少女だ。パーティーならともかく、夜会に出ることができるのは15歳以上である。だから、この令嬢も15歳くらいなのだろう。
「なんでしょうか? 何か不備でもございましたか?」
「い、いえ……そのっ。よ、よろしければ、一緒におどっ、踊っていただけませんかっ?」
「……」
リアノーラが笑顔で固まっていると、周囲の令嬢たちが次々に声を上げる。
「ああっ。あの! その、できればわたくしとも……」
「ずるいですわ! リアノーラ様、私とも踊ってくださいませ」
ナイツ・オブ・ラウンドは騎士だ。いつの時代も婦女の憧れである。それがたとえ女でも。
リアノーラは、騎士を目指すベアトリックスの気持ちがわかった気がした。彼女も、お姉様と呼ばれて慕われているから。
リアノーラは笑顔の仮面をかぶり、一番初めの令嬢に手を差し出した。
「では、お手をどうぞ」
* + 〇 + *
「えーっと。いろいろ言うのも今更なんで、去年はお疲れ様、今年もよろしくってことで一つ。今日は無礼講だ。楽しめよ――ってことで、乾杯」
「「かんぱーい」」
ナイツ・オブ・ラウンド第2席ユリシーズの砕けた音頭で、ナイツ・オブ・ラウンドの事務室に8つのグラスがぶつかり合う音が響く。そして、数名はそのまま中身を一気に飲み干した。
「無礼講っていつも無礼講な気がするけどなー」
今回、ナイツ・オブ・ラウンド第6席となったアンドリューがグラスの酒をなめながら言った。彼は意外に飲めないらしい。
「そういう野暮なことは言うもんではないぞ。ほら、飲め」
「いや、俺、飲めないんすけど」
ナイツ・オブ・ラウンド第1席フランクリン=ファウラーがアンドリューをけしかける。最高齢の彼も一気に飲み干した派だ。すでに60歳近い年齢なのに、元気である。
「フランクリンさん。お願いですから飲み過ぎないでくださいね。体に障りますから」
懇願する美女は第3席リディア。おっとりした彼女は外見の通り、一気派ではない。ナイツ・オブ・ラウンドで数少ない良識的な女性だ。数日前に完全復活を果たしたばかりの彼女は、はらはらと仲間たちを見ている。
「うわさには聞いてたけど、本当にやるんだね」
一気飲み派のエリスが呆れているのか感心しているのかわからない口調で言った。超絶美形な彼は、彼女ではなく彼である。美形ぞろいのナイツ・オブ・ラウンドの中でも群を抜いた美人である。ちなみに彼は、新年から第7席を賜っている。
「ああ……みんなは年明けからどんちゃん騒ぐけど、俺たちはできねぇからな。ひと段落ついたころにやるらしい」
第4席となったエドワードが解説する。リアノーラがナイツ・オブ・ラウンドに入る前からたびたびお世話になっているのが彼だ。たぶん、年が近いからだろう。彼は大学生で、今2年生だ。
ちなみに、今日は新年1月7日である。エリスはリアノーラと大して変わらないころにナイツ・オブ・ラウンドに入ったので、これを知らないらしい。リアノーラも聞いことがあるだけだけど。ちなみに、学校の新学期は10日から始まる。
「去年とか、陛下と宰相が乱入してきたからな。あれはビビった……」
「え? 何、お父様そんなことしてたの?」
宰相の娘であるリアノーラが驚く。どうりで去年のこの時期は帰ってこなかったわけだ。仕事だけしていたわけじゃないんだな。
「あの人、結構酒好きだよな……家で飲まなかったのか?」
「去年、お母様が禁酒中だったから」
「は?」
エドワードとエリスの声がかぶった。
「お母様、酒豪だけど超絡み酒なの。迷惑度が増すっていうか……で、お父様が怒って、去年のその時期はずっと禁酒中だったの。結局、お父様が折れたんだけどねー」
父の酒好きは相当である。見た目がまじめを絵に描いたような人間なので驚かれるが、あの人は相当飲む。母よりも酒豪だ。今までうちには晩酌のできる人がいなかったが、リアノーラが成人したので、今度付き合ってあげようと思う。絡み酒の母は論外。
「りぃぃあぁぁっ」
「きゃあっ」
後ろから抱き着かれて、リアノーラは悲鳴を上げた。振り返ると、父方の従姉でナイツ・オブ・ラウンド第5席のウェンディが酒を片手にリアノーラに抱き着いている。一気飲み派の中でも一番たちが悪いやつである。なんというか、リアノーラの母ディアナ王女と同じ系統。父方の従姉だから、血はつながってないはずなんだけど。
ウェンディは許可なくリアノーラの手の中のグラスを取り上げると、中身を見て言った。
「何あんたジュース飲んでんのよ。あんたも飲みなさい!」
ほら! とウェンディがリアノーラに酒のグラスを押し付ける。それを見て、リアノーラは目をしばたたかせていった。
「え、いいの?」
ほかのみんなは酒だったが、リアノーラが渡されたのはオレンジジュースだった。一応リアノーラも16歳で、法律的には成人しているのだが、だめなのかなーと思って文句も言わずにジュースを飲んでいたのである。何となく、ジュースを渡してきたユリシーズを見る。
「……まあ、リアも16だしな。飲んでみるか?」
「うん」
コックリうなずくと、手からグラスが取り上げられた。
「これは強いから、こっちにしておけ。まあ、アルヴィン様の娘だから大丈夫だとは思うけど」
そうか。父はそこまで名の知れた酒豪だったのか。
「ユーリさんって結構世話好きだよね」
「ん、まあ、うちは兄弟が多いからな」
ウェルティ伯爵家は子だくさんで、ユリシーズは8人兄弟の一番上だ。ちなみに、第3子である長女はリアノーラの学校の友人ベアトリックスである。
「ほら」
「ありがと」
ユリシーズからグラスを受け取り、リアノーラはちびりと飲んでみる。甘いので、さほどジュースと変わらない。
「結構おいしい」
「ほほぉ。やはりリアは行ける口じゃな」
フランクリンが楽しそうに言った。
「アルも相当な酒豪じゃしなー。最後まで飲んで、最後まで顔色が変わらんし。ディアナ姫も強いしの」
「え、じゃあ、リアも飲める人!?」
「……まあ、血筋的には相当強いと思うよ」
冷静答えると、アンドリューがショックを受けて固まった。なんだろう。彼はリアノーラも飲めないと思っていたのだろうか。それを言うなら、エリスも飲めない人に見えるけど。
「じゃあ、ユフィも強いの?」
エリスがリアノーラの姉ユーフェミアについて尋ねる。
「うーん。ユフィは体が弱いから。あんまり飲まないけど、結構強いと思うわ。前にテキーラを一気飲みして平然としてたから」
酔いは大丈夫だったのだが、体調を崩してそのまま寝込んだ。なので、ユーフェミアに対する禁酒はディアナに対するものよりも厳しい。っていうか、うち、禁酒命令が出てるやつが多いな。弟のクリストファーはまだ13歳なので法律的に飲酒禁止だ。
「……おまえんち、恐ろしいな」
エドワードが若干引き気味に言った。彼とエリスに挟まれていたリアノーラはすねて酒を一気に飲み干した。グラスにさっきとは違うカクテルを注いでもらい、リアノーラは料理に手を伸ばした。料理もおいしい。宮廷料理人が作ってるから当たり前だけど。
酒が入り、みんなくだらない話に乗じる。
「兄貴にもっと勉強しろって言われるんだ」
「うんうん。でも、私もやった方がいいと思うわ」
「リディアさんまで~」
「実は大学院に進学しようか迷ってて」
「ああ。興味あるなら行ってみるといいと思うぞ。意外と大丈夫だし」
「それはユーリさんだからってことはないの?」
「ううっ……やべぇ、眠くなってきた……」
「早いぞ、アンディ! もっと飲め!」
「だから飲めないんすよ!」
「そういえばエリス。あなた、私の友達に女だと思われてるわよ」
「え!?」
「訂正するのもめんどくさくてさー」
時間がたつにつれて場が混とんとしてくる。片づけが大変そうだな……。結局眠気に負けたアンドリューは、離れたところで椅子を並べてその上に伸びている。と、思ったらリディアもばたっと倒れた。もうナイツ・オブ・ラウンドの威厳も何もない。ただの酔っ払い集団。初めて酒を飲むに等しいリアノーラはけろりとしていた。両親の血に感謝である。
リディアはエドワードが仮眠室に運んで行ったが、アンドリューは放置である。男か女かで扱いがかなり変わる。ナイツ・オブ・ラウンドは騎士だから。女性には優しいが、男は放っておかれる。これもいつもの光景らしい。
「おーい。今年も来たぞ」
遠慮なく事務室のドアを開け、我らが国王であるチャールズ4世が入ってきた。リアノーラにとっては伯父にもあたる。母親が、国王の妹だから。
主の出現に、まだ残っているナイツ・オブ・ラウンドが立ち上がる。チャールズ4世は気さくに笑った。
「構わん。無礼講だろう! ほらリア。伯父上だよ」
チャールズ4世は両手を広げた。リアノーラは黙ってそれを見つめ、ふらふらと近寄った。
「え、リア!?」
エドワードがお前何する気だと言わんばかりに言う。しかし、リアノーラが抱き着いたのはチャールズ4世の後ろにいる長身の男だった。
「お父様、久しぶり~。誕生日おめでとう」
件の酒豪アルヴィン=フェアファンクス公爵である。宰相でリアノーラの父だ。正しく選挙で宰相になっており、当時のことはリアノーラも覚えているが、圧倒的な支持率だった。何しろ、彼は先王の騎士、つまりナイツ・オブ・ラウンドで、当時最強の騎士と呼ばれていたのだ。その腕は40を超えた今もかなりのものだが、アルヴィンはチャールズ4世の騎士になってくれ、という要請を再三にわたり断っている。理由は怪我による腕の低下と、何より、自分は先王ウィリアム2世の騎士であるという誇りだ。
なので、父の後を継ぐ形でナイツ・オブ・ラウンドとなったリアノーラは何かとアルヴィンと比べられる。しかも、フェアファンクス公爵家は代々騎士の家系。騎士であることが当然とされる。
リアノーラは並みの騎士としてなら剣の腕はかなりいいと評される。しかし、彼女はナイツ・オブ・ラウンドだ。並みではいけない。だが、彼女の剣の腕はナイツ・オブ・ラウンドにふさわしいとは言えないだろう。
それもそのはず。彼女は剣の腕ではなく、魔術師という特殊能力ゆえに選ばれた。もっとも、リアノーラ本人は剣の腕のことを気にしているが。やはり、最強の剣士の娘だと、比べられるのは剣の腕だから。
愛娘に抱き着かれたアルヴィンは、表情一つ変えずに言った。
「もう祝われてうれしい年ではない」
「何を言っとるんじゃ。まだ40だろう」
「43ですよ」
フランクリンにつっこまれて、アルヴィンが訂正する。アルヴィンはリアノーラを引きはがし、エドワードに預けた。エドワードはもとの位置に彼女をすわらせる。
かつての同僚の年を聞いたフランクリンは何やら神妙な顔つきになる。
「そうか……お前も43か。あの生意気だったお前が」
「いつの話ですか」
「そういえば、昔お前と遊んでて国宝の壺を割ったことあるよな」
「割ったのはお前だ」
この人たち、いったい何やっているのだろうか。チャールズ4世はアルヴィンの大学の後輩にあたるのだが、そんなに小さい時からの仲なのか。アルヴィンは否定しそうだが。
国王と元最強の騎士が来たところで、話が変な方向に盛り上がる。
「叔父様。どーしたらあんなに強くなるんですか」
「あ、それ、俺も思うんですよね。どーしても限界にぶつかるっつーか」
ウェンディとエドワードが尋ねた。今起きているメンバーの中では正統派の剣士2人。リアノーラはおつまみに手を伸ばしながら言う。
「まあ、お父様の領域まで行ったら、人間としてありえないレベルだと思うわよ」
さらりとなんだかひどいことを言われたアルヴィンは、娘にもつっこむ。
「それはお前には言われたくないな」
周囲が一斉にうなずく。リアノーラは目をしばたたかせる。みんな、ひどい。
「ええっ。そうかなぁ。魔力があるだけで、人間的には常識的だと思うんだけど」
「リアが常識的だったら、この世の犯罪者のほとんどが常識的だな」
「え、ちょ、ユーリさんひどいっ」
比べる対象が犯罪者なのか。今のはマジでひどい。リアノーラは、もう少し行為を見直そうと思った。
「伸びないのなら、肉体的に限界なのか、単純に今のスタイルがあっていないかのどちらかだろう。ちなみに、うちで言うとリアが後者、ユフィが前者だな」
ユーフェミアは体が弱い。ありたいていに言えば病弱なのだ。だから、技術的にはまだ伸びるはずなのに、体力がついて行かないのだ。
対するリアノーラは体力は有り余っている。それでも、戦い方のスタイルが……ってちょっと待てよ。
「私、スタイルあってないの?」
「ああ。あってないな」
たぶん、元騎士のアルヴィンに言われるのなら事実なのだろう。リアノーラは顔をしかめる。リアノーラは基本的に、ロングソードに分類される剣を片手で使っている。
「でも、魔術を使うのに片手は都合がいいのよ」
もちろん、手が空いていなければ魔術がつかえないわけではない。わけではないが、魔術としての威力が下がる。そんなわけで、リアノーラのスタイルは左手に剣、右手は魔法印である。ちなみに、リアノーラはもともと左利きだ。
「ああ……そうなんだろうな。だが、私から言わせれば、お前の剣戟は一撃が重い。片手であることがもったいないんだ」
もちろん、一撃が重いのは魔術強化しているからである。
「でも、両手ふさがったら、魔術がつかえな……あっ」
リアノーラは自分の両手を見下ろした。
「私って、魔術を使うことを前提にしてるのか……魔術の使いやすさと剣術は別よねぇ」
納得して、リアノーラは言った。通りで。魔法で強化しているとはいえ、女の筋力には限界がある。ユーフェミアのようなスピードアタッカーなら別だが、リアノーラはどちらかというと、ウェンディたちに近い正統派の剣筋をしている。むしろ、正統派騎士のアルヴィンに教わりながら、スピードアタッカーとなったユーフェミアのほうがおかしい。
「でも、魔法がつかえなかったら、私の有用性がないじゃん」
自分でつっこみ、リアノーラはしょげた。片手で剣を操るのは、片手で魔法を使うため。両手にしたら魔術がつかえなくなる。相手が魔術師殺しならともかく、そうでもない限り魔術をつかえたほうが便利。
悶々としながら、リアノーラは水をごくごくと飲み干す。
「アル、お前、ちょっとこの2人に稽古つけてやればどうだ」
「いやですよ」
フランクリンに提案されたが、アルヴィンは一蹴する。チャールズ4世が軽~く言う。
「でもお前、最近リアに稽古つけてるだろ」
「今の私に、エドワードやウェンディの相手が務まるとは思えん」
「いや、この国にお前より強いやつは存在しないだろう」
チャールズ4世が言い切る。どうやら、彼はアルヴィンにまだ未練があるようだ。いや、変な意味ではなく、騎士として。確かに、怪我があってもアルヴィンはエドワードやウェンディより強いだろう。
話を聞いているうちに、リアノーラはぼーっとしてきた。頭がくらくらする。目がかすみ、子供っぽく目をこする。
「あれ。リア、大丈夫?」
隣に座っていたエリスが心配そうに声をかけてくるが、返事をする気力もない。しばらくして、リアノーラは完全に眠りに落ちた。
* + 〇 + *
船をこぎ始めたかと思うと、リアノーラはエドワードの肩に頭を預けて寝息を立て始めた。そのままずり落ちそうになる体を抱える。ああ、アルヴィンの視線が痛い。内心怖がりながらも、アルヴィンに話しかける。
「あのー、宰相……」
「連れて帰ろう」
親馬鹿な宰相閣下はそういって、エドワードからリアノーラを受け取る。決して小柄ではないリアノーラの体を腕一本で支えると、一礼して部屋を出て行った。足音が遠ざかったのを確認してから、チャールズ4世がエドワードに言う。
「エド、もっと頑張ってみようと思わんのか」
「無理ですよ! リアが絡んだ時の宰相、怖いですよ!?」
子供のように反論しながら、エドワードは酒をあおる。眠った人間は重い。それを軽々と腕一本でアルヴィンが支えて見せた時、何か不条理なものを感じた。
「リア自身はエドに気があるみたいだけどねぇ」
ウェンディもしみじみという。ユリシーズもつぶやく。
「まさに最後の難関……」
「そりゃユーリさんも一緒でしょ」
エリスがあはは、と笑いながら言った。意外と笑い上戸なのだろうか、彼は。
ユリシーズは最近、ユーフェミアといろいろ噂がある。ユーフェミアは、リアノーラの姉だ。アルヴィンは娘たちを大事にしている。リアノーラほどでないにしろ、ユーフェミアのこともかわいがっているので、ひと波乱あるだろうと思われる。
「そういえば、『自分より強いやつじゃないと認めん』って言われたってリアが言ってたよ」
「「!?」」
これにはユリシーズも反応した。とんでもないことをカミングアウトしてくれたエリスは、リアノーラの良き相談相手となっているらしい。こうして暴露されているが。
「まあ、さすがに冗談じゃないかな」
衝撃を受けるいい年した男2人をあわれに思ったのか、エリスがそう慰めた。
「ほほぉ。ま、頑張りなよ、2人とも。特にエド」
「俺かよ……」
しかし、ウェンディの一言で台無しである。
「まあ、恋には試練がつきものだからのぉ。アルとディアナ姫の時もあったからのー」
「ああ、あったあった。うちの父がディアナをかわいがってたからな」
フランクリンとチャールズ4世が盛り上がっている。
「伯父上とディアナ様は、ディアナ様の方が一目ぼれだったって聞きましたけど」
ウェンディが尋ねた。どこでも平常営業な娘だ。つまり、いつでも無礼講。時々、彼女のことが少しうらやましくなる。いつでも平常営業でいられるから。
「まあ、あいつはいい男だからなー。……酒豪だし過保護だけど」
まあそれくらいの方が人間味があっていいと思う。アルヴィンは完璧すぎる。それくらい弱点のようなものがあった方が親しみやすい。ただ、今のエドワードには過保護は余計である。
「ディアナ姫の求婚を受けているときのアルは大変そうだったな。先王陛下に睨まれておったし」
「そうそう。あー、懐かしい。あの時のアルの顔をリアたちに見せてやりたい。絶対リアは爆笑してくれるぜ」
どんな顔だ、それは。笑うチャールズ4世に、心の中でツッコミを入れる。しかし、ディアナに告白された時のアルヴィンの顔は見てみたいと思った。
「そういえば、エドはリアに誕生日祝ってもらった?」
唐突にエリスが尋ねた。エドワードは微妙な顔をした。
「いや……一応、おめでとうとは言われたけど」
アルヴィンの誕生日が年末で忙しい時期なら、エドワードの誕生日は年始の忙しい時期である。つまり、1月2日だ。おめでとうくらいは言われたが、その後、互いに仕事に忙殺された。
「ふーん。そっか。へえ~」
エリスが意味ありげに笑うので、エドワードは若干身を引く。エリスはきれいな外見に似合わず腹黒い。
「な、なんだ!? 何か企んでんのかお前!」
だから、勘ぐってしまうのは仕方がないだろう。経験上、エリスとリアノーラが組むとろくなことがないのはわかっている。この2人、妙に気が合うのだ。そして、そのとばっちりはなぜかエドワードのところに来る確率が異常に高い。
「何でもないよ。そのうちわかる」
エリスはにっこり笑って、リアノーラが最初に飲んでいたのと同じオレンジジュースを飲む。さすがに限界が来たのだろう。
「あ、そういえば。まだ先だが、忘れないうちに言っておくな」
チャールズ4世が不意に言った。なんだかんだ言って酒が入っていてもナイツ・オブ・ラウンドだ。残っている五人はチャールズ4世の方に注目を移す。
「6月か7月ごろに湖水地方へ行く。言っとくけど、旅行じゃないからな。シェフィールド地方に顔を出しに行く」
「わかりました」
代表してユリシーズがうなずいた。酒を飲んでいるとはいえ、彼なら忘れないだろう。
アルビオンの国はちょっと複雑だ。3つの国が合わさった連合王国なのである。アルビオン王は、王都ロザリカのあるこのラングフォード、アルビオン北部を占めるシェフィールド、最後に北西のあたりを占めるベイリアル。この3つが合わさってアルビオンを構成する。すべての地方がチャールズ4世を主とあおぐ連合国家である。
「何かございましたか」
フランクリンが尋ねた。結構な量を飲んでいるはずだが、呂律は回っていた。
「ああ……大公に挨拶に行く。あちらも10周年だからな」
チャールズ4世が答えた。3つの地方はすべてアルビオンで、チャールズ4世の配下にあり、シェフィールドもベイリアルも国議会の指示を受けるが、ほぼ地方自治となっている。境を越えれば別の国といっても過言ではない。地方分権なのだ。
シェフィールド、ベイリアルを治めるのは大公である。シェフィールド公はチャールズ4世のいとこにあたる。シェフィールド公の方がいくつか年上のはず。つまり、リアノーラたちよりも後だが、王位継承権を持つのだ。王位簒奪をたくらんでいるという噂もあるので、はっきり言って怪しい。
「ベイリアル公もいらっしゃるので?」
ユリシーズが尋ねた。10周年記念で国王を呼ぶのなら、ベイリアルの大公も呼ぶのが筋だろう。
「ああ。来ると言っていた」
余談だが、ベイリアル公は女性である。アルビオンでは女性が当主になることも珍しくない。彼女はアンジェラ王妃の姪でもある。
これはまたひと波乱ありそうだ。しかし、まだ半年も先の話でもある。いくらでも対策を立てる時間はあるだろう。
とりあえず、エドワードは飲んだ。とにかく、飲まずにはいられなかったから。そんな気分だった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
相関図としては
ユーリ→ ←ユフィ
エド→→ ←リア ←エリス
って感じでしょうかね。むしろ、
リア→→→ ←←アル(リア父)
くらいかもしれません。
本文でもありましたが、フェアファンクス公爵夫妻は夫人のほうが押せ押せです。ディアナとアルの話も面白そうですね。




