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LOST SPELL  作者: 雲居瑞香
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3件目

いつにもまして、設定が無茶です。

「……なに、この空気」


 哨戒から戻ってきたエリスは開口一番そうつぶやいた。ナイツ・オブ・ラウンドの事務室には、主君であるチャールズ4世と宰相アルヴィン、そして、現行ナイツ・オブ・ラウンドがそろっていた。養生していた第3席リディア=スペンサーも復帰している。長い明るめの茶髪にシアン色の瞳が印象的な美女は、少し困ったような笑みを浮かべていた。

 チャールズ4世も含め、中にいる人は皆座っているのだが、隣り合って座っている親子が険悪なのである。すなわち、リアノーラとアルヴィンだ。リアノーラが一方的にアルヴィンを威嚇しているといってもいい。

「機嫌が悪いなぁ、リア。なんかあったのか?」

 チャールズ4世が人の悪い笑みを浮かべる。他の誰かだったらかみついたのだろうが、あいにく主君であるチャールズ4世にはかみつけない。リアノーラは唇を引き結ぶ。

「……なんでもありません」

 絞り出すように言った。エリスは空いている席に座り、隣のエドワードに尋ねた。

「なんかあったの?」

「……さあ?」

 さしものエドワードも首を傾けた。まあ、そりゃそうか。

「……陛下、閣下。今度は何が?」

 ユリシーズがちらりとエリスたちを気にしながら尋ねた。こういう役回りはすべてユリシーズである。彼は官吏もできるに違いない。

「3件目だ」

 端的に言ったアルヴィンに、不機嫌そうにしていたリアノーラが尋ねた。立ち直りが早いというか、興味が向くものがはっきりしている。

「今度は誰? どこ?」

 3件目ということは、例の魔法陣が描かれた殺人だろう。リアノーラは魔術師としてかかわっているから、興味があっても不思議ではない。しかも、最初の被害者は彼女の学校の生徒だった。

「……宮殿の敷地内。被害者は若い官吏だ」

「宮殿内? 犯人が宮殿に侵入したってことでしょうか?」

 復帰したばかりのリディアが言う。復帰したといっても、まだ戦闘に参加できるほど回復していないだろう。だから、まだしばらくスナイパーの役割はエリスに回ってくるだろう。しかし、戻ってきたのはうれしい。

「それよりも、初めから宮殿にいた人……つまり、宮殿に仕官している人と考えた方が自然だと思うわ」

 リアノーラがリディアに言った。リディアも、なるほど、とうなずく。つい先日、内部からの裏切りがあったのだから、何があっても不思議ではない。最近出入りするようになったものなら、疑われることがわかりきっているからだろう。

「リアは引き続き捜査に協力してくれ」

「了解」

 なんだかんだ言っても、リアノーラは父親を信じているらしい。はっきりとうなずいた。彼女もまだ子供だ。ちょっとかわいい。

「宮殿内に被害が出た以上、このままにはしておけない。ナイツ・オブ・ラウンドにも協力してもらう」

 アルヴィンの言葉に、ユリシーズもうなずく。

「わかりました」

 全員がうなずくのを見てから、不意にリアノーラはアルヴィンに尋ねる。

「お父様、ユフィは?」

「しばらく宮殿に泊まりだな」

 リアノーラが顔をしかめた。

「私もしばらく泊まり込みなんだけど」

「奇遇だな。私もだ」

「………」

 リアノーラが沈黙し、ちょっと遠い目をした。屋敷に母親と弟だけになることに悩んでいるのかもしれない。そのうち、文句が来るだろう。母親のディアナは王女だから、実家である宮殿にいつでも戻ってこられるが、なんだかそれが一番まずい気がする。


「リアが抜けるとなると、ナイツ・オブ・ラウンドは実質7名か……」


 しみじみとつぶやくチャールズ4世に、リディアが申し訳なさそうに言う。

「陛下。私はまだ完全に回復していないので、お役にたてますかどうか……もちろん、努力は致しますが」

 エリスの予想は当たっていたらしい。傷の回復がまだなのだ。まあ、怪我をしているときに無理をして再びけがをされてはかなわない。なので、それでいいのかもしれない。

「私も武力面では役に立てるか怪しいですね」

 ユリシーズが言う。第2席、第3席はともに役に立たないらしい。リディアは仕方がないが、ユリシーズは成人男性としてどうなのか。むしろ、彼の妹を連れてきた方が護衛の役立ちそうだ。


「……ナイツ・オブ・ラウンド、実質5名……」


 ウェンディがぽつりとつぶやいた。すごい数字である。本来12人のはずのナイツ・オブ・ラウンドが、一時的にとはいえ半分以下になった。さしものチャールズ4世も難しい表情になる。

「……アル。お前、臨時で騎士を」

「やりません。今の私は騎士ではなく宰相です」

 その通りだ。宰相が職務放棄できるわけがない。実際、アルヴィンはやりやすい宰相だった。国の権力者である宰相は命も狙われやすいが、怪我があるとはいえ、アルヴィンは自分の身は守れる。そもそも、国最強の騎士と言われたアルヴィンにちょっかいを出そうなどと、だれが思うだろうか。返り討ちにされるだけである。何かあったとしても、娘たちの手ひどい報復が待っている。恐ろしい家族である。

「お父様。そんなことより、事件資料」

 リアノーラが催促すると、アルヴィンは無言で資料を渡した。不鮮明な魔法陣の写真と、その写し。写しの方を見て、リアノーラは目を細めた。


「……今度はinvidiaか。嫉妬、ねぇ」


「……前々から思ってたけど、それって何の言語なの?」

 ウェンディが不思議そうに聞いた。彼女はエリスの騎士学校での先輩にあたる。美人な騎士がいると評判で、新入生は彼女にあこがれたものだが、性格を知って結構引く人が多い。なまじ、美人だから。

「あれ、前に言わなかったっけ? 古代フェーン語だよ。古い時代の言葉で、今の世界共通語は古代フェーン語よりは新しいフェーン語をもとに作られているわ。古代世界で最も普及していたといわれる言語ね。宗教関係者はこの言葉を使うことが多いの」

「魔術師は?」

「魔術師は、むしろ古代シェルテ文字を使うわね。似ているけど、古代シェルテ文字は神の文字ともいわれているから。これは友達のアレクから聞いたんだけど、昔の石碑には古代フェーン語と古代シェルテ語が並んでることが多いらしいわ。言葉はそれだけで力があるからなんでしょうね」

 リアノーラはさらりと説明した。宗教関係の知識が乏しいリアノーラは、たぶん、古代フェーン語を調べたのだろう。

「ふうん。ちなみに、その、7つの大罪ってやつ、全部古代フェーン語でなんていうの?」

 ウェンディがさらに尋ねる。単純な好奇心なのか、何か裏があるのか読みにくいところだ。ウェンディの場合、好奇心である可能性の方が高いのだが、時たまちゃんと裏があるので、そう簡単に判断できないのである。

「……まず、高慢がsuperbia、これが最初の事件のやつ。次が怠惰、だったわね。acedia。今回のが嫉妬でinvidia。んで、後4つは、強欲avaritia、暴食gula、色欲luxuria、最後に憤怒iraね」

「……そのイラってどんな綴り?」

「……現在世界で使われている文字であらわすと、i-r-aでイラになるわね」

 リアノーラはよどみなく答えているが、この上なく不審そうである。ウェンディが聞いたから不思議に思っているのだろう。エリスだって不思議に思う。突然どうしたのだろうか。

「……う~ん。じゃあやっぱり、あれはそうなのかなぁ」

「何が?」

 腕を組んで悩むウェンディに、リアノーラは尋ねる。いとこ同士だが、あまり似ていない2人は顔を見合わせる。ウェンディが髪をいじりながら言った。

「いやさ。先月、ハロルドが殺されたでしょう」

 ハロルドは、チャールズ4世の即位5周年式典の折に、見た目にこだわった王が臨時で連れてきた騎士である。ちなみに、エリスの騎士学校の後輩だ。式典の時の事件で命を落としているのだが、今更何を蒸し返すのか。すでに1か月近くは経っているのだ。確かに、彼の死には謎が多いが、いったいどうしたのだろうか。

「……それが?」

「うん。そういえば、文字みたいのが書かれてたなって。あのあと雨が降ったから、すぐに消えちゃっただろうけど」

 リアノーラが目を見開く。そして勢いよく立ちあがった。

「なんてこと! どうして早く言わないの! ハロルドの殺害現場の写真は残ってる!? 第一発見者は誰?」

「ああ。残ってるぞ。見るか?」

「もちろん!」

 リアノーラとアルヴィンが結託しだした。この親子が結託すると怖いんだよな。そう思いながら、エリスは首を傾けた。ウェンディもよく覚えていたものだ。

 リアノーラとアルヴィンが資料を捜しに出て行く。勝手な奴らだなあ、と言いながら、チャールズ4世は楽しそうだった。

「それにしてもウェンディ。よくそんなこと覚えてたな」

 若干失礼なユリシーズの言葉に、ウェンディがむくれる。いや、実は、エリスもそう思っていたけど。

「失礼ね。私だって記憶力はふつーよ。考えるのは苦手だけど」

 ウェンディは自分の性分をちゃんと把握している。彼女は短気なのだ。そういえばリアノーラも割と短気だから、フェアファンクス家の血なのかもしれない。

「見に行ったとき、すっごい血が流れてたんだ。でも、文字が見えたから。見たことない単語だったし、ちょっと不思議だったのよね。それに、魔法陣みたいな円だったような気もするし」

 スペルも短いし、覚えやすかったのかもしれない。魔法陣など、最近では使われないから印象に残っていたのかも。しかし、調べてみようと思わなかったらしいところはいかにもウェンディらしい。

 ウェンディにつっこんだユリシーズは肩をすくめる。魔術関係だと彼も役には立てない。

「……陛下。とりあえず、警備を強化しましょう」

「そんな必要なさそうだけどなぁ。まあ、倒れない程度に頑張ってくれ」

 実質5人のナイツ・オブ・ラウンドだ。近衛騎士に手を借りるしか、方法はないだろう。人数が少ないといいつつ、ナイツ・オブ・ラウンドの面々は冷静だった。



* + 〇 + *



 宮殿内で被害者が出たので、ソフィアの騎士であるユーフェミアはしばらく宮殿に泊まることになった。おそらく、ナイツ・オブ・ラウンドの妹リアノーラや宰相の父アルヴィンもそうだろう。屋敷には母と弟の2人だけになる。いつ怒り出すかがちょっと心配だった。

 泊まり込みで警備と言っても、ユーフェミア1人にできることはたかが知れている。ユーフェミアはソフィアと似ていて、身代わりをすることで真価を発揮する。つまり、単純な護衛としてはあまり意味がない。あくまでもユーフェミアは影武者なのだ。警備は近衛に頼むこともできる。

 だいたい、病弱なユーフェミアが夜通し見張りなどもできるはずがない。そんなことをすればユーフェミアの方が衰弱してしまう。

 とりあえず、ユーフェミアの仕事は身代わりだった。これが呪詛などの場合、身代わりになるのは難しい。ソフィアはリアノーラに呪い除けを、ユーフェミアは形代のお守りをもらっているが、実際に使ったことはない。よくわからないのだが、呪詛は特定の人物を狙ってくるので、身代わりに向けさせるのは難しいらしいという話だった。

 そのユーフェミアはティルファーニア神殿を訪れていた。陽が沈みかけており、気温が下がってきている。


「もう消えてるのに、何かわかるのか?」


 ユーフェミアが尋ねる。彼女いわく、今回の連続殺人事件、実は最初の被害者はうちの学校の女生徒ではなく、チャールズ4世の即位記念式典で謎の死を遂げた、臨時騎士だったハロルドだったらしい。

 いくらそれが本当でも、1か月近くたっているのだ。何がわかるというのだろう。ユーフェミアはリアノーラの行動に興味を覚えてついてきたのだが、ユーフェミアにも妹が何をしたいのかよくわからない。

「魔術には残滓が残るわ。特に、魔法陣なら消えても残りやすい……」

「でも、彼が見つかった時はそんなものなかったって聞いたぞ?」

「血で隠れてたからでしょう。文字は、ウェンディの言うとおり見えてる」

 写真をユーフェミアに差出し、リアノーラは言った。ユーフェミアはその写真をまじまじと眺める。ユーフェミアもリアノーラもあの後気絶したから、詳しいことは又聞きになっている。


「ああ、駄目ね。血で隠れてたから、魔術の残滓がほとんど見えないわ」


 リアノーラがため息をついた。血というのは、魔術痕を覆い隠すらしい。人の血には強い力があるのだ。それがたとえ魔力のない普通の人間のものだとしても、魔法陣を覆い隠すくらいはするだろう。魔力がなくても、魔法陣と血を使って呪文を正確に詠唱すれば魔術は使えるという。ユーフェミアはリアノーラの姉だけあって割と魔力がある方だ。魔法陣を使えば魔術は使えるだろう。実際に、ユーフェミアはリアノーラが開発した魔法陣を利用して自己治癒力を高めている。

 そういう意味で、魔術はまだ退化したわけではない。ただ、科学が発達して、流行らなくなっただけだ。魔術の方が面倒だから。ということは、確かに少ない手続きで魔術を使えるリアノーラやアレクシアは魔女ということになるのかもしれない。やはり、ユーフェミアにはよくわからないが。


「やっぱり、写真で判断するしか……私、そういう能力低いんだよなー」


 リアノーラが頭をかく。さすがに写真越しでは分からないらしい。まあ、リアノーラだからどこかで手がかりを見つけてきそうだけど。ユーフェミアはリアノーラの隣にしゃがみ、膝に肘を立てて頬杖をついた。

「でも、お前探査はできるんだろ?」

「索敵能力と対象物を詳しく調べるのは違うわよ。私の場合は索敵範囲は広いけど、詳しく調べるほど透視能力はないの」

「お前、攻撃魔法も苦手だろ。何ならできるんだ」

「支援魔法かな。ちょっとタイプが違うのよ。そういった能力は先天的な能力なんだけど、私は魔術を理論として組み立ててるから。いわば後天的魔術師なのよね」

 リアノーラ曰く、彼女の治癒術は怪我の治癒よりも病に対する治癒が強いらしい。それはユーフェミアが病弱なためだろう。人より多くの魔力を持つリアノーラは、魔術師になれると知った時にまず治癒術を習った。彼女自身も性に合っていないという癒しの術を。

 まあ、確かにリアノーラは性格だけ見ても治癒術に向いているとは思えない。おっとりして見える外見の割にはサディストだ。キレることはめったにないが、短気であることは自分でも自覚しているだろう。鋭い面差しをしており、言葉遣いが悪いユーフェミアの方がずっと気長である。

 それでも、リアノーラは治癒術を学んだ。ユーフェミアのために。ユーフェミアはそれを申し訳なく思う反面、うれしかったのだ。

 そうこうしているうちに日が沈んだ。夜の闇が寒さを連れてくる。ユーフェミアは身震いした。リアノーラは苦笑し、ユーフェミアに自分が羽織っていた魔術師風の黒マントを羽織らせる。


「本当は、お姉様のことも治癒術に優れた魔術師に任せればいいのかもしれないわね」


 立ち上がって微笑んだ妹を見て、ユーフェミアは目をしばたたかせた。手を差し出され、手をつかんで立ち上がる。

 リアノーラがユーフェミアを姉と呼ぶのは珍しい。彼女はいつもユフィと呼ぶから。弟のクリストファーも姉2人をユフィ、リア、と呼んでいる。騎士の家系のフェアファンクス家では、年齢による上下があまりなかった。

 自他ともに認めるサディストなリアノーラだが、彼女の性根が優しいのもまた事実だ。優しいからこそ冷酷。彼女はそういうタイプなのだと思う。

「リアよりすごい魔術師がいたら、紹介してもらいたいけど」

 少なくとも、アルビオンにはいない。彼女は師すら超えている。アルビオン最強の魔術師だ。

「……そうね」

 並んで歩きながら、だいぶ騎士の所作が様になってきた妹に尋ねた。

「寒くないのか?」

「え? 別に平気。この状態で哨戒に行けって言われたらごねるけど」

 どうやら、リアノーラとユーフェミアでは基礎体力と身体機能が違うらしい。ユーフェミアは剣でならリアノーラに勝てる。しかし、それには初撃が肝心だった。ユーフェミアの攻撃は最初の攻撃が成功するかで決まってくる。つまり、スピードアタッカーなのだ。驚異的な反射速度と動体視力を持つユーフェミアならではの戦い方である。魔法破壊も得意だ。リアノーラと父アルヴィンも早い方だが、ユーフェミアには劣る。

 筋力と体力に期待できないユーフェミアはそうすることでしか戦えなかった。ユーフェミアの剣は、軽く丈夫な希少金属オリハルコンで作られた細剣だ。レイピアともいう。ゆえに一撃での攻撃力は大したことがない。しかし、ユーフェミアに長剣を持つことは不可能だった。重すぎる。父が軽々と振り回すのが信じられない。リアノーラも女性なので、父ほど重い剣を持つことができないが、持っているのは長剣だった。

 リアノーラの場合は魔術による付加攻撃が可能なので、片手が空く片手剣で戦うのがデフォルトだった。剣に魔術を乗せているので、威力だけなら重い剣を使っている父や、ナイツ・オブ・ラウンドのエドワードよりも大きいかもしれない。

 ユーフェミアは病弱で体力があまりない。それを悲観したことはないが、健康なリアノーラを羨んだことはある。そんなリアノーラも、長期戦はあまり得意ではない。魔術を使うことは、体力を消耗するからだ。

「そういえば、フィーアの縁談ってどうなってるの?」

 一部の人たちにはセンセーショナルな話題だ。リアノーラはチャールズ4世のナイツ・オブ・ラウンドで、その娘であるソフィアが即位しても、ナイツ・オブ・ラウンドを続けるだろう。ユーフェミアは、ぶっちゃけその時まで生きていられるかわからない。


「……まだ結婚する気はないみたいだな」

「……だろうね」

「いざとなったら、ユーリさんの弟と結婚するって言ってる」

「……なるほど」


 ウェルティ伯爵家は子だくさんである。男子が3人、女子が4人。ちなみに、ナイツ・オブ・ラウンド第2席ユリシーズは長子。跡取りだ。そして、リアノーラの友人のベアトリックスは第3子で長女になる。

「まあ、結婚しなくても何とかなるしね。めんどくさいからやめてほしいけど」

 リアノーラの言葉にユーフェミアはうなずいた。ともに、王位継承権第5位、6位の姉妹だ。先王に子供が少なかったためである。母が王女であるユーフェミアたちも、立派な王位継承者である。

「私たちは騎士の方が性に合っているからな。ま、自分に合う人を選んでくれればいいさ」

「ついでに、ユフィと合う人の方がいいわね」

「それは難しい条件だな」

 ユーフェミアは性格に難があることを自覚している。合う人を探すのは難しいだろう。つまり、結婚相手を見つけるのはユーフェミアも難しいということだ。病弱だし、結婚する気はあまりないが。

 宮殿の入り口につくと、ユーフェミアはリアノーラにマントを返した。それから尋ねる。

「これからどうするんだ?」

「先にお父様のところに行って捜査資料を見せてもらうわ」

「そうか。体には気をつけろよ」

「ユフィに言われたらおしまいね」

 冗談めかして、リアノーラは笑う。ユーフェミアも微笑んだ。いい妹を持ったものだと思う。大丈夫だと言っているが、リアノーラは頑張りすぎるきらいがある。いつか過労で倒れるんじゃないかと、ユーフェミアは実は思っている。彼女が倒れるとユーフェミアにも影響が出る。

事実、チャールズ4世の即位5周年式典の折に起きた事件で、リアノーラが魔力切れで倒れた。その時、ユーフェミアは治療を受けられなかったのだ。宮廷魔法医による治療を受けたのだが、やはりなじんだリアノーラの魔力ではない治療はあまり効かなかった。

「じゃあ私は行くよ」

 だいぶ騎士服が様になってきたリアノーラが手を振る。ユーフェミアも手を振りかえした。


 いつか、ユーフェミアもあの白い制服を着る日が来るのだろうか。その日が来ればいいなぁ、と思う。

 つまるところ、ユーフェミアはリアノーラがうらやましいのだ。


ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


そんな1か月も前のことをそんなによく覚えてるはずはありませんね……。気付かないパターンもあるのですけど、私の好みで。


リアは超能力のように念じるだけで魔術が使える能力者ではありません。魔法陣や呪文の詠唱などの手続きを踏んで、彼女は魔術を使っています。特に何に特化しているということはないので、オールラウンドタイプの魔術師になります。逆に彼女の友人のアレクシアなどは特化型の魔術師ですね。

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