↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/25

序章 封筒

 人生は、少しだけ不親切にできている。本のようにしおりを挟んで途中で閉じることもできないし、あとどれくらいページが残っているのかも教えてくれない。



 女の左側に、人ひとり分の空白がある。男は彼女の右側に腰を下ろした。病院の中庭には風がなく、枝先で重なった葉だけが、かすかに身じろぎしている。

 女の膝には、男から渡されたばかりのしおりが置かれていた。透明な板のあいだで色褪せた銀杏の葉が、十年分の時間を押し潰されている。


「どうして、あの人は何も言わなかったんでしょう」


 男は薄い茶色の封筒を差し出した。


「それは…。もしかしたら読めばわかるかもしれません」


 女の手が伸びる。その指先が封筒に触れるより先に、頭上の木々が、遠い雨のような音を立てた。


 

 人生は、少しだけ不親切にできている。本のようにしおりを挟んで途中で閉じることもできないし、あとどれくらいページが残っているのかも教えてくれない。


 だから人は、本当は人生を変える伏線だった一節を、二度と読み返すことができない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。