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05 「恐怖の“ただいま”」

 

【翌日 アルバイト先】


「美咲さん!美咲さん!」


 出版社でのアルバイト中、同僚のミレイ(推定20歳)が興奮気味に駆け寄ってきた。


「どうしたの?嬉しそうだね」


「みて!YUICA♡の有料会員になりました!」


 ——え?有料会員?


「有料って……何それ?」


「『ブタども』になったんです!月500円で!今後はメン限も見れるんですよ!」


「ブ、ブタども?」

「メン限?」


 私は思わず聞き返した。


「YUICA♡のガチリスナーの呼び名ですよ!もうすっかり定着してます!みんな誇りを持って『ブタ』って名乗ってるんです!」


 自分が言った「ブタども」という言葉が、まさか正式名称になっているなんて。

 ——当人の知らぬところで何ということが……


「そ、そうなんだ……」


「昨日の人生相談配信も最高でした!」

「『浮気男は思い出にして燃やしなさい』ってあれ、友達にも教えてあげたんです!」

「はやくLINEスタンプ作って欲しい!」


 ミレイはキラキラした目で語り続ける。


「YUICA♡様って、本当に的確なアドバイスをくれるんです。綺麗事じゃない、現実的な答えが聞けるから、みんな救われてるんですよ」


 ——みんな救われてる……


 私の胸が複雑な気持ちで満たされる。確かに昨日は真剣に相談に乗ったつもりだけど、こんなに人の役に立っていたなんて。


 メン限とは有料会員だけが見られるメンバー限定配信のことらしい。え?まさかそれって私がやらなきゃいけないの?


 そもそもこれは、全部ゆいのアカウントでやっていることなんだ。私が勝手にやっていいわけない。


「ところで美咲さん、YUICA♡様のこと、どう思います?」


「え?えーっと……すごいんじゃない?」


「ですよね!私、配信楽しみにしてるんです。今日もあるかな」


 ——今日も配信……


 そう言えば、待機が数万人とかスタジアム埋めるレベルの人数だよね。

 これって、もはや個人の趣味の範疇を完全に超えているんじゃ。


 そして、昨日からYUICA♡のチャンネルDMに企業からの案件依頼メールも届き始めていた。化粧品メーカー、ゲーム会社、さらには大手Vtuber事務所からコラボの打診まで。


 社会人としては失礼だとは思うのだけど、さすがに既読スルーしてる。

 だって偽物の自分が、勝手に返信するわけにもいかない。


 あくまでYUICA♡の持ち主は、妹のゆいなのだ。


 あと有料会員に約束されるメンバー限定配信って言ってたけど、どうすればいいの?そもそも特別ってなに?


 こんな時、ゆいが居てくれたら思ったが、同時にゆいにバレたら土下座じゃ済まない事態になってることを実感していた。


 もう後戻りできないところまで来てしまった。


「あ、ちょっと気になってたんですけどぉ……」


 そう言ってミレイが突然私をじっと見つめる。


「ど、どうしたの?」


「……美咲さんってYUICA♡様と声がちょっと似てるなって」


 ——やばい!身バレする!


 私は慌てて一オクターブ高い声で答えた。


「き、気のせいだよ〜♪」


「ですよねぇ」

「YUICA♡様はもっと自信たっぷりでクールですもんね」



 ——セーフ……?



 ほんとまじで胃が痛い。

 もう胃薬が手放せない。




【一方その頃 新幹線車内】



 新幹線の車内で、ゆいはスマートフォンの画面を見つめていた。


 YUICA♡の登録者数:32万人


「32万人……」


 自分が2年間かけても到達できなかった数字が、そこに表示されている。


 切り抜き動画を次々と開いていく。


『【YUICA♡】浮気男への鉄槌シーン【切り抜き】』

『【神回】お嬢様の人生相談室まとめ【感動】』

『【爆笑】ブタどもと化したリスナーたち【YUICA♡】』


 どの動画も再生数は数十万を超えている。


「なんで……」


 ゆいは小さくつぶやいた。


「なんで、こんなに……」


 コメント欄を見ると——


『この配信で彼氏と別れる決心ができました』

『YUICA♡のお陰で転職する勇気が出ました』

『毎日この動画見て元気もらってます』


「私がやりたかったことを、こんな簡単に……」


 ゆいの表情が曇る。


『気持ち悪いんじゃ!』

『このブタども!』


 動画から聞こえてくる姉の声。乱暴で、自分が目指していた可愛いアイドル系とは正反対。



「あたしは……何を間違えたんだろう」



 2年間、毎日配信して、視聴者に気を遣って、どんな理不尽なコメントにも笑顔で対応して。


 それなのに全然ダメだった。


「ぜんぶ無駄な努力だったってこと?」


 お姉ちゃんは何も知らないで、いきなり始めて、すぐにこの結果。


 ゆいはスマートフォンを握りしめた。


『オマエには才能がない』


 そう姉から、現実を突きつけられているような気分だった。


 ——このままじゃダメだ。


 ゆいは、車窓を眺めながら決意を新たにしていた。



【夕方 実家】



 私は配信するかどうか迷っていた。


 パソコンの前に座り、配信ソフトを起動する。待機人数は既に3万人を超えている。


「どうしよう……」


 ゆいに何の承諾もなく、YUICA♡の存在がとんでもない所まで大きくなってしまった。


 これ以上配信するのは流石に……。


 でも、待機人数3万5000人。


 これだけの人が待っている。

 昨日相談してくれた人たちの続報も気になる。


「でも、もし、ゆいが帰ってきたら……なんて言えば」


 その時だった。


 ガチャリ。


 玄関の音が響いた。


「……ただいま」


 聞き慣れた声に、私の血の気が引いた。


 ――やばい、やばい、やばい!


 ゆいだ!


 帰ってきた……


 慌てて配信ソフトを閉じる。

 でもモニターには「YUICA♡」のアイコンがまだ映っている。


「お姉ちゃん、いる?」


「あ、あー、はい!今行きます!」


 重いスーツケースを引きずる音が聞こえてくる。


 私は急いでゆいの部屋から出て、リビングに向かった。


「おかえり、ゆい……」


「ただいま、お姉ちゃん」


 ゆいは旅行用の大きなスーツケースの横に立っていた。日焼けして少し痩せたような気がする。


 でも、なんか変だ。


 いつものゆいなら「あーお腹減った!」とか「お土産買ってきたよ!」とか、ハイテンションで話しかけてくるはずなのに。


 今日は妙に無口で、表情も暗い。


「体調悪い?旅行どうだった?」


 私は恐る恐る声をかけた。


「うん……まあまあ」


 素っ気ない返事。これは明らかにおかしい。


 ——もしかして、バレてる?


 私の心臓がドキドキし始める。でも、確証はない。まだ何も言われていない。


 どうしよう。どうやって切り出せばいいんだ。


「あの、ゆい……私」


「ねえ、お姉ちゃん」


 ゆいが私の言葉を遮った。


「あたし、もう知ってるんだよ」


 ——心臓が止まりそうになった。


「え?」


「ブタども……」


 ゆいがスマートフォンを取り出し、画面を私に向けた。


「32万人」


 登録者数が表示されている。


 ——あ。


 時が止まった。


 血の気が引いていく。


 ゆいが私を見つめている。

 その目は、いつもの優しい妹の目じゃない。


 真剣で、厳しくて、まっすぐに私を見据えている。


 ——終わった。


 完全に、終わった。


 2年間の妹の努力を、数日で台無しにした私を怒ってる。


 姉なのに、妹の信頼を裏切った。


 勝手にアカウントを使って、勝手に有名になって、勝手に企業からオファーをもらって。


 私は、何てことをしまったんだ。


 気がついたら私は、その場で土下座していた。


 ——ついに、この時がやってきた。



(つづく)



 次回「運命の姉妹対峙!ゆいが告げる真実とは!?」







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