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21-ⅰ)新たな始まり〜悪夢からの目覚め

「うわーッ!?」

 という悲鳴で周辺のテントで寝ていた者たちは飛び起きた。

 当然、サクの護衛は交代でばんが付いているし、この物流拠点の夜回りもいる。賊はすぐに取り押さえられた。

 賊と思って捕まえた侵入者はなんと、ブランの妾の一人、ダリアだった。丸腰で女という事もあり、彼女は縛られずには済んだが、一時的に押さえ付けられていた。

 レイとサクのテントで眠っていたローゼンも起きて来て、自分たち兄弟のテントへ向かった。テントの中で、捕らえられた情けない姿をランタンの光で照らし出されているダリア。そんな彼女を、ローゼンは冷たい眼で見下ろし、こう言った。

「呆れた奴だな」

 ローゼンの背後では駆け付けた人足や商人などの店の従業員たちや、家の使用人たちの話し声がする。捕り物に関わっていない者たちは扉の外から中の様子を覗き込んでいるのだ。

「ローゼン様の所へ夜這いに来たのか」

「さっさとブラン様から新しい当主のローゼン様に鞍替えしようっていうはらか」

「最低ぇー!」

 店側への新当主の発表は明朝の予定だが、すでに従業員らには知れ渡っていた。

『サドリたちに口止めはしていないものの、新当主がローゼンに決まった事は、もうだい 広まっているな』

 と、父のカイトも気付く。

 しくじってバツ悪げにソッポを向くダリアに、祖父のローキが皮肉たっぷりな笑みを浮かべて言ってやる。

「残念だったな。当主が不在で」

「ひどいよ!」

 と、ダリアに向かって叫んだのは先程の悲鳴の主であるルークだ。ローゼンが兄弟共有のテントに不在であった為に、弟のルークが間違われてダリアに抱き付かれたのだ。普段の泊まりの時は兄と間違われる事を警戒しているルークだが、まさか、自分の一族が所有する敷地内で起きるとは思っていなかった。

「可哀想に。お婿に行けなくなったら、どうすんだい」

 母のカーラがルークを慰めているように聞こえるが、顔はちょっと笑っている。当のルークは両手に握り拳を作って

「おちょくらないでよ! 母さん!」

 と、怒っている。

「ローゼン……」

 サクが心配そうに声をかけ、彼の背中の辺りをさする。自分が彼のように襲われる立場なら、心に深い傷を負うと思うからだ。

「いつも、こななおとろしぃ目にうて心の傷トラウマになっとるんでない?」

 そんな繊細で優しいサクをローゼンは

「サク……」

 と、呼んで、優しく抱き締めた。

「心配してくれるのか。ありがとう」

 ローゼンに愛おしそうに髪までなでられ、心の準備ができていなかっただけに、

『えっ……… !?』

 ときめいたサクは顔を赤くして、声も出せないでいる。

 ローゼンは再びダリアに向き直ると、鼻息ついて、忌ま忌ましげに

「フンッ! お前という奴は、実に愚かだな。わざわざ夜這いとは、よほど、自分に女としての値打ちがあると自惚れている証拠だな」

 などと嫌味を言う。ダリアは

『こ、このわたしが自惚れてるですってぇ〜!?』

 とは思うものの、美貌を誇る自分への思わぬそしりで呆気に取られ、顎をカクカクとさせるばかりで言い返せない。

『ん? 思うとったんとちがう。ローゼン、元気……?』

 心に深い傷を負っておびえるどころか、加害者にしっかり文句を言っているローゼンの様子に、思っていたのと違うと、サクが戸惑って目を「ぱちぱち」とさせていると、横から彼女の兄のレイが半ば呆れ、教えてやる。

「弱っちぃお前とちごうて、ローゼンの奴は がいなきん、少々の事では応えん。心配ない」

 ローゼンのメンタルがかなりタフだと聞いて、一瞬、啞然としたサクは

『うち独りで勝手に心配しとっただけぇ?』

 自分の間抜けさが嫌になる。

「さて、どうするか……」

 と、ローゼンが自分の顎をつかんで、ダリアの処分について思案していると、騒ぎを聞き付けたブランが乗り込んで来た。ダリアを押さえ付けていた人足が、ブランの顎先を動かした「どけ」という指示で手を放す。

「このッ、尻軽女が! 俺に恥をかかせやがってッ!!」

 ブランがダリアの頬を激しく平手でぶった。

 バシン──ッ!

 思わずサクまで一瞬、目をつぶる。

 ぶたれたダリアだが、ブランに負けじと言い返す。

「なにさ! 負け犬が偉そうに!」

「なんだとォ!?」

「もう、あんたなんかに価値なんて無いのよ。新しい当主様の方がずっと美形だし、せっかくだから、自分をアピールして正妻にしてもらおうと思ってたのにさ!」

 ダリアの大それた発言に単純に驚くサクのそばで、祖母リナが呆れてつぶやく。

「正妻って、身の程知らずもいいところね〜」

 他の当主家の面々も口には出さずとも

『馬鹿か、この女』

 と、呆れ顔や苦笑いする。

 しばし、言葉を失っていたブランが

「き…、貴様……! 妾の分際で俺様をないがしろにするのか!」

「いッ、痛い !?」

 ダリアの髪を乱暴につかんで引っ張り上げるので、ダリアが悲鳴を上げた。怒った時のブランの乱暴ぶりにサクは「ビクッ」とおびえる。ローゼンとは違い、ブランは非情だ。

「こいつの不始末は俺が責任を取る。迷惑かけて悪かったな」

 そう言って、ダリアを連れて立ち去ろうとするブランをローゼンが止めた。

「待て!」

 そして、彼は「当主への無礼」を名目に、ダリアの身の安全を確保しようとする。

「これは当主への無礼だ。その女の処分はこちらが決める。お前は下がれ」

 最後の「お前は下がれ」の一言では顎で指示した。ローゼンは情けの無い人間には、それ相応に冷たい態度を取る事がある。

 先程、人足を顎先で動かしていたのが、今度は顎先で動かされる立場になったブラン。彼は「チッ」と舌打ちすると、当主ローゼンの命令に渋々と従ってダリアの髪から手を放した。

 当主のテントに集まっている人々の好奇やさげすみの視線に苛立ちながら「どけっ!」と怒鳴り、ブランは自分のテントへ足早に戻る。

「さぁ! みんなも帰った、帰った! 明日あしたも仕事があるんだ。早く寝ろ!」

 ローゼンが大声で人々を促すと、すかさず、父カイトが皆に念押しする。

明日あしたの朝は忘れずに演習場に集まれよ !? 大事な発表があるからな!」

 従業員たちが「はい!」「へい!」「聞いてまーす!」などと明るい返事の声を上げながら、それぞれに自分たちのテントへ去って行く。皆、ローゼンが新当主だと分かっているからだ。

 当主のテントには当主家の人々とレイ、捕り物に参加した人足やサクの護衛らと、侵入者のダリアが残った。

「当主様ぁ〜! 助けて下さったのねぇ〜。なぁんて、お優しい!」

 くねくねと “しな” を作るダリアをローゼンは軽蔑の眼で見て、指差す。

「悪いが、お前みたいな軽薄な女は趣味じゃない」

 そう言うと、人足たちに命令する。ダリアを指差した指をそのまま外へ向けて振り払った。

「こいつをおりへ入れておけ」

「な、なんでェ!?」

 人足に腕をつかまれて、疑問の声を上げるダリアにローゼンは二つの理由を告げる。

「また、お前に悪さをされちゃかなわんからな。それに、ブランから離されただけでも、ありがたく思え。もしかしたら、もっと ひどい目に遭うところだったかも知れないんだぞ」

「うっ……」

 痛む頬を押さえて、ダリアもそれ以上は言えなかった。先程のブランの平手打ちや髪をつかまれた痛みが残っている。

 ローゼンが別の人足に命令する。

「おい! 誰か、女の従業員か使用人にも交代で見張らせろ。誘惑でもして脱走されても困るし、男だけの監視では誤解を生みかねない。お互いの為だ」

「へい!」

 今度は大人しく人足に連行されたダリアを見送ったローゼンは「やれやれ…」とつぶやいた後、鼻息をいた。それを

『兄さんも大変だなぁ……』

 と、弟のルークだけでなく、他の家族も、カヲルを含むサクの護衛らも、同じように思った。

『こいつは細かいとこまで、よう色々と気ィ回せるなぁ……』

 と、中身が無骨なレイは頭をかいてローゼンに感心し、気の優しいサクは

『ローゼンもルークさんも無事やったし、捕り物の人らにも怪我がなかったし、ダリアさんも大怪我せんで済んだ。みんなが大事のうて良かったぁ……』

 ローゼンだけでなく、周りも大事に至らなかった事に安堵していた。



 夜遅く、マルジャーナのテントのドアをノックする者があった。

「マルジャーナ。まだ、起きてる?」

 ダリアの夜這い事件の後、マルジャーナのもとを訪れたのはカリーナだった。

 マルジャーナのテントの中には専属の女中メイド衝立ついたての向こうで控えていたが、カリーナは女中メイドを伴っていなかった。

 中へ通されたカリーナはソファーを勧められて腰掛けると、断りを入れた。

「夜分に、ごめんね。なかなか寝付けなくてさ」

「気にしないで?」

 優しく対応するマルジャーナはカリーナより二つ上の23歳だ。

「それより、一体どうしたの?」

 マルジャーナが訊ねると、カリーナは溜め息をいて、うつむき、首を横に振った。

「ブランが当主になれなかった事で、みんな、人生が狂っていってるみたいで、……怖いよ」

 そんな本音を吐露するカリーナはマルジャーナに心を許している。

 マルジャーナもカリーナも騒動で目を覚めし、カラヤ兄弟のテントへ見に行っていたので、先程のダリアの事件は知っている。

「落ち着いて。カリーナ」

 なだめるようにマルジャーナは静かに語りかけた。

「よく考えてみて。ロクサネの離縁は実家が破産したからだし、ダリアの場合は自業自得だわ? 好かれてもいないのに、無理に行くから いけないのよ」

「それは、そうかも知れないけど……」

 マルジャーナの言う事はもっともなのだが、カリーナ自身の中では、どこか釈然としない。

 カリーナは口の片側を少し吊り上げて、皮肉を言った。それはマルジャーナへの甘えなのか、日頃の鬱屈とした感情からなのか、彼女自身も分かっていない。

「マルジャーナはいいよね。そもそも、あんたはブランの恋人なんだから。ロクサネとの政略結婚がなくなったから、これで、晴れてブランと結婚だね」

「どうかしら?」

 と、マルジャーナは一瞬、視線を横へ振った。しかし、カリーナはそれをあまり気には留めず、自らの事情について言う。

「知ってのとおり、あたしは家の借金のかたに妾にされたけど、ただの料理人の扱いだしさ」

「………」

 カリーナの置かれた立場は他の妾とは違っていた。その経緯はマルジャーナも知っている。

『確かに、わたしやダリアは女として囲われているけど、この人の場合は違うわね。色気じゃなく、料理の腕を買われた訳だから』



 カリーナの実家は西洋の とある町でレストランを営んでいたが、高級志向の父親は食材にこだわって一皿の値が高く、庶民の住宅街という立地条件も悪かった為、閑古鳥が鳴いていた。

「父さん! いくら地元の人たちに一流の物を提供したいって言ったって、こんなに高いんじゃ、誰も食べに来られないよ」

「うるさい! お前なんかに何が分かる!」

 このように娘のカリーナの忠告を父親が一蹴するのが、いつもの事だった。

 いよいよという時に、どこから聞き付けてきたのか、ブランが部下のサドリや妾のマルジャーナ、屈強な人足らを伴ってやって来た。

「俺がこの店を買い取ってやる」

 椅子にドカッと腰を下ろして背もたれに上体を預け、二本の足をテーブルの上に乗っけた彼は自信満々に言い放った。

「その代わり、条件が二つある。経営はカラヤ商店が仕切る事。それと、お前の娘を俺の妾にする事だ」

『妾にするですって?』

 この時、マルジャーナの顔がわずかに引きつっていたのは言うまでもないが、ブランにはマルジャーナの気持ちには興味はない。そもそも、自分に付いて来れない者は切り捨てるつもりでいる。何より

『こいつは俺に惚れているから、なんでも受け入れる』

 惚れた弱みでマルジャーナは自分の意のままだと思っている。

 当初は「あんな、どこの馬の骨とも知れない異邦人なんぞ」と渋ったカリーナの父親だったが、後日、酒場で飲み友達に相談した際に

「えっ!? それって凄いじゃないか! カラヤ商店って言ったら、経営してるのは豪商の一族だぞ」

 と聞かされ、話に乗る事にした。自分の家族の意見には素直に従わないのに、知人友人の話には耳を傾けるというのは、よくある話だが、カリーナの父親の場合もそうだったのだ。

 そして、ブランが提示した条件を呑んで、言われたとおりに店を高級住宅街に移転させたのが功を奏した。店が上向いて喜んだ父親の顔に、母親や兄弟たちと共にカリーナも安堵の笑みを漏らしたものだ。



 カリーナの実家の窮地を救ってくれたブランだったが、その彼が今や、新当主ローゼンの監督下に置かれて落ちぶれてしまった。

「ブランの地位が下がったんなら、たぶん、収入も減っちゃうよね? あたし、解雇リストラ同然に追い出されるのかな……」

 沈んだ気持ちのカリーナの言葉をマルジャーナが否定した。

「さすがに、そんな事はないと思うけど。当主の監督下に置かれたとは言え、ブランもカラヤ家の男なのだから、裕福な暮らしが出来ない訳ではないわ?」

「そうだといいけど……」

 不安が拭えないカリーナにマルジャーナは戻るように促す。

「もう、寝た方がいいわ。暗い夜に考え事をしたところで、暗い考えしか浮かばないものよ? まともな判断なんて出来ないでしょう。今後の事は明日あしたになって考えましょう」

「……そうだね。ごめんね」

 カリーナは二つ上の姉のようなマルジャーナの言葉に従い、自分のテントへ戻って行った。



 翌朝、予定どおり、演習場で新当主の発表が行われた。朝食を終えて集まったカラヤ商店の従業員たちの中には、満腹で腹をさする者もいる。

 大きい空の木箱を段々に重ねた即席の演壇。その上に立ったローゼンが物流拠点にいる大勢のカラヤ商店の従業員たちを前に声を張り上げる。

「たぶん、もう、みんな聞いていると思うが、俺が新しい当主になったァ!」

「へい!」「はい!」「オオーッ!」

 従業員たちから大声の応答が発せられる。ローゼンが当主となった事を番頭や将軍などの幹部から、商人や人足ら末端の従業員までが当然のように受け止めた。

「俺が当主となった事で特別、何かが変わる訳じゃあないが、文句のある奴は出てってもいいぞォ!?」

 本気とも冗談とも取れないローゼンの言葉に、人足共からは祝福の野次が飛んで来る。

「旦那様が出てったら、俺らも出てってやるよ!」

「ガッハッハッハッハッ!」

「そうだ、そうだ!」

「新当主ローゼン、万歳!」

「カラヤ商店、万歳!」

 それらに片手を軽く挙げて笑顔で答えるローゼンだが、顔とはらは別物だ。内心では

『みんな、調子いいなぁ……』

 と、眼下の聴衆を覚めた目で見ている。さらに思う。

『人を散々持ち上げといて、いざ、ピンチになったら、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げる奴もいるんだろうなぁ』

 その一方で、彼は自らの事も覚めた目で見る。

『とは言え、こっちもこっちで、これで、もし、王様みたいに図に乗ったりなんぞしたら、俺の命運も尽きるんだろうなぁ』

 そんなクールなローゼンの傍らではサクたち当主家の家族や、義兄になるレイ、六家の家長ら、伯父と伯母も拍手するが、従兄弟のブランだけは面白くなさそうにソッポを向く。当主家の使用人たちも祝福の拍手を送る中、ロクサネがソッポを向いたのは自分を捨てた元夫のブランに対してだった。

 ローゼンが頃合いを見て「みんな、ありがとう。静粛に、静粛に!」と、静めると、「大事な話がある」と切り出す。

「カラヤ商店の今後の予定についてだ。東洋への販路拡大が本格的に動く事になる!」

 その言葉に大勢の従業員たちから「オオーッ!」「待ってました!」などと歓声が上がった。その前向きな反応にローゼンは一つうなずくと、希望者に向けて注文を付ける。

「東洋きを希望する者は、東洋の言葉を習得マスターしておくように!」

「へーい!」「はァい!」「任しとけ!」

 などと威勢よく返事する人足連中や商人たちの頭の中は煩悩だらけだ。しかも、

「よっしゃあッ! 東洋美女をゲットするぞォ!」

「ドォンと来い! ガッツリ儲けるぞ!」

「東洋の美味い酒、飲みてぇ〜!」

「見てろよォ〜。東洋の商人共を出し抜いてやる!」

 心に納める事なく、しっかり声に出して叫んでいる。そんな一つ一つの声を聞き取れている訳ではなく、楽しげな雰囲気に乗せられ、

「みぃんな、張り切っとる。楽しそうやなぁ♡」

 と、楽しげに言うサクに、ルークが

「みんな、商魂逞しいというか、闘魂が燃えに燃えちゃうタイプの人が多いからね〜……」

 と、苦笑いするのは

『たぶん、みんなの楽しそうは、サクが思うような純粋な楽しいとは違うかな〜』

 と、分かっているからである。無論、それは彼の兄・ローゼンも同じで、壇上で

「いや〜! みんな意欲満々で結構、結構!」

 と、笑ってはいるが、眼下で騒ぐ従業員たちを眺めながら、

『張り切るのはいいが、お前ら、問題だけは起こすなよ?』

 と、あるじとして案じてもいる。

 壇上のローゼンを見上げるレイは西部の城へ向かう際の彼の様子を思い出す。西部の市民らのカラヤ隊への歓声に対して、ローゼンはこう言っていた。


「ハッハッハッ! なに、人の評価など当てにはならない。いつくつがえるか分からんものさ」

「それよりも大事なのは、何があっても堂々としている事だ」


 あの時、威風堂々とした姿に感じ入ったレイは今、この時も、戦でも始められそうな大勢の前に立つローゼンの悠然たる姿に深く鼻息をいて、感じ入る。

『こいな時でも、こいつはええ意味で、ブレんのやろうなぁ……』

 レイにとって、そんな頼り甲斐のあるローゼンは単に親友で義弟というだけではなく、まぶしい存在でもあった。

 ふと、レイは妹のサクを見る。当主家の人々と何やら楽しげに話しているサクの笑顔を見た後、ローゼンの方を再び見上げた。

 ローゼンが会の閉幕を伝える為に口を開いた。

「それじゃあ、話は以上だ! 解散ッ!! 皆、持ち場へ戻れェ──ッ!」

 あるじの号令に「へいッ!!」という威勢のいい声が返って来る。それを聞いた後、演壇を降りたローゼンにサクが「お疲れ様〜」とねぎらいの言葉をかけた。それに対して、ローゼンが

「いや〜。当主なんて、疲れる事ばっかりさ。サクぅ、俺を癒してくれぇ〜」

 などと、ニヤリと笑って冗談を言ってくるので、サクがわざと

「なぁに言いよん。まぁだ、始まったばっかりやのに、それしきの事でどうするん。しっかりしなよぉ! 旦那様!」

 厳しい事を言う。これにはローゼンも頭に手をやって、おどけた。

「いや、こいつは参ったな! 俺の奥様は厳しいなぁ〜」

「ふふっ……!」口元に手をかざして吹き出すサク。

 二人して笑い合うローゼンとサクを見て、レイは思った。

『やっぱり、桜久弥さくやのこと託せるんは、ローゼンしからんな』

 それは確信だった。ルークたちカラヤ家の家族や親戚、使用人や従業員としてだけでなく、仲間として向き合ってくれるカヲルやモー、ハッサン、ガナンたち ── 皆の笑顔に囲まれるローゼンとサクの姿に、レイは安堵の笑みをたたえるのだった。


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