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白い燕  作者: 雪の花
9/10

恋愛の時

蓬女がやって来て、一年が過ぎた頃。

彼女の心は、少女から(おんな)に変わっていた。自分の世話を楽し気にし、よく話しかけ、よく笑う国王への愛を確信したのだ。その心によって本来の神の形にできるのは、大いなる神のみ。


ある日、国王が彼女の好きな木の実を取りに出かけ、帰って来てみると、自分の部屋に誰かが立っている。香出かと思い、声をかけようとした瞬間に、その(ひと)はこちらを振り向いた。

「国王さま、私、蓬です。やっとこうして、あなたを抱きしめることができます」

そう言って、彼女が抱きついてきた。

「あ、あなたがあの白燕・・・?」

国王の腕の中にいる女は、可憐な牡丹の花の精のようで、俄かには信じられない国王だった。

「ええ、これまで大変お世話になりました。あなたの温かな気遣いは、私の心にずっと響いていました」

「つぶらな黒い瞳に、真珠色の肌・・・確かに面影がある」


それからの二人は周りが羨むほどに仲睦まじく、どんな所にも一緒に出掛けた。ただ、まだ国王から彼女への求婚の言葉はなかった。婚約者として来たのだから、何もなくて自然と結婚という形もあるのだろうが、蓬女は国王の愛の言葉を待っていた。

国王の方も、確かに彼女との間には愛の絆があると思うのだが、直接彼女の口から愛の言葉が欲しいと思っていた。


蓬女が女神になった祝賀の会が催され、ここで女神は、どの神になるのか告げられる。

その日は天からも地から神々が熊襲の館に集った。

広間いっぱいに並べられた長机の上には、豪華な花や果物で飾られた食べものが並び、特上のお酒が供された。

「乾杯!」

天恵の使者が祝杯を挙げると、神々もそれに倣った。一気に飲み干した天恵の使者は、蓬女を手招きし、彼女に耳打ちした。

「あなたは、草木花の神となり、この地を美しく彩ってください」

「かしこまりました。私の力のある限り、精進致します」

「大いなる神は、あなたとあなたの婚約者に幸多かれと願うとのことです」

「有難いお言葉、感謝申し上げますと、お伝えください」

「では、私はこれにて、お祝いと致します」

天恵の使者は(くう)に舞い上がり、上へ上へと昇って行った。


蓬女は喉がカラカラになっていることに気づき、広間の端に置かれた水差しへの方へと向かった。そうして、水で喉を潤し、緊張を解していた。

妖怪たちの手によって次々と料理が運ばれ、中でも特別なもの、白露が出てきた。白磁の器に入ったドロリとした白いお菓子、鹿の乳から出来たもので蜂蜜が加えられ、甘くすっきりとした味がする。


酒がかなり入り、宴もたけなわになってくると、男の神々が一つの場所に集まって座っていた。いくつもの白露を並べて、やんややんやと騒いでいる。白露を初めて見た阿王と国王は、どうしてこんなにみんなが興奮しているのか理解できなかった。


国王はそっと蓬女を盗み見し、その場をふらふらと千鳥足で抜け出した。蓬女の側に座り、彼女の肩を抱いた。蓬女の頬は紅潮し、国王の使っている香の匂いが鼻をくすぐり、胸がどきどきとし、ときめいた。

「ねえ、どうして白露を見て、騒ぐのか知っている?」

国王は彼女の顔を覗き込んだ。白い肌が桃色に染まっているのを見て、彼の心臓はキュッと掴まれた。

「知っている・・・一つだけ・・・黒蜜が底に沈んでいるものがあるのよ」

「そうなんだ。で、それってなにか意味があるの?」

「それは・・・あの・・・精力が増すそうで・・・男の神が生まれやすくなると・・・聞きました・・」

国王は酔いも手伝って、蓬女を抱きしめ、口づけしていた。そっと唇を離すと・・・。

「ちょっと行って来るよ。まだ、見つかってないようだからね」


蓬女は彼が立ち去ると、急に誰か今の出来事を見ていたんじゃないかと思い、気恥ずかしくなって広間を小走りで出た。顔の火照りを冷まそうと廊下で涼んでいると、阿王が彼女の肩を叩いた。

国王かと思った彼女はスッと顔を上げ、阿王はと言えばほんのりと色香を発している蓬女にドキリとし、彼女の腕を掴んでいた。

「どこか行くの?一緒に行ってあげようか?」

「いえ、大丈夫です。阿王さまは早く宴席にお戻りくださいませ」

「顔が赤いよ。それに・・・国とはすごく仲が良いんだね。俺とも仲良くしてよ~」

先ほどのことを見られていたんだと思った蓬女の頬は、更に熱くなった。

「私は・・・あなたの弟の婚約者です。適切な距離を保たねばなりませんわ。それに、あなたさまにも婚約者がいらしたはず・・・」

「あれ?国から、何にも聞いてないの?俺の婚約者は死んじゃったんだよ」

その答えを聞いて、蓬女は驚きが隠せなかった。

「本当に?」

「そうだよ、だからさ、絶賛恋人募集中なんだよね」

と、馴れ馴れしく絡んでくる。まあ、酒の勢いというものあるのかもしれないが・・・。


蓬女の心はここにきて、どうしてそんな大事なことを自分に話してくれなかったのかと、もやもやした心情が湧いてきていた。国王は兄の話を嫌がったし、その住まいに近づくことも禁じていた。それは悪い輩と付き合い、それらの人がしょっちゅう出入りしているからだと聞いていた。

「なになに?国は隠し事してたの?隠し事はそれだけじゃないんじゃないの?」

彼女の心の隙を突いてくる。

「俺なら、君に隠し事なんて全くしないなあ・・・。君を信じているもんね・・・」

そう言葉巧みに近寄ってくる。


「蓬ちゃんー、国が探してるよ~」

後方から香出の声がしてきた。

「ここよ、すぐに行くわ」

「あー、阿王が口説いてたんじゃないの?口が上手いから気を付けなさいよ」

「おまえは要らぬ口をたたくでない!」

阿王は香出を攻撃的な面持ちで一瞥して、立ち去って行く。

「何をあんなに怒ってるんだろ?」

「ねえ、阿王さまの婚約者が亡くなったのって、何時なの?」

「うーんと、天から降りて来て、そんなに月日は経ってなかったわ。一月後位だったかしら?今頃どうしたの?もしかして、今まで知らなかったとか?え?国王さまは何も話さなかったん?」

「今、阿王さまから聞きました。どうして、言ってくれなかったんでしょう?」

「それは、直接、国王さまに聞くしかありません」

香出はそう言うと、国王がここで待っているからと場所の説明をし、蓬女の背中を押した。

「ちゃんと話すのよ。自分の気持ちを押し込めてはいけないわ」

最後にそう送り出した。


桜の花が盛りを過ぎ、風が吹く度に花びらが散ってゆく。所々の枝には新緑が小さく芽吹いている。

その桜の下で国王は待っていた。白銀の髪もずいぶん伸びて、風に靡いている。酒が入り、いつもは青白い顔も、今は頬にだけ紅色がさしている。

「待っていたよ、蓬」

国王は、なんだか嬉しそうに微笑んでいる。そんな彼に対して、蓬女は胸のむかつきを抑えることができなかった。

「国王さまに尋ねたいことがあるの。阿王さまの婚約者のこと、どうして教えてくれなかったの?」

いきなりの言葉に、国王はあたふたしている。

「いや、言わなかったんじゃなくて、言う機会がなかったんだよ・・・」

「いつも一緒にいたのにですか?」

「話したら・・・君はきっとすごく悲しむだろうと思うと、なかなか口からついて出てこなかった」

「それでも時間はずいぶんあったわ」

「そうだね・・・すまない」

「でも、どうして亡くなったの?」

「それは・・・説明しづらいな・・・」

「私は真実が知りたいのです」

「うん、分かっている」

国王は、その重い口を開き、これまでの事を詳らかに話した。途中から、蓬女が泣き崩れた。国王はそんな彼女を後ろからぎゅっと抱きしめた。


「君でなくて良かったと、何度思ったことだろう・・・あの時からどんなことからも君を守り抜くと誓った。君じゃないとだめなんだ」

蓬女は泣きじゃくりながら聞いている。

「君を愛している・・・」

突然の告白に戸惑うものの、背中に感じる温かさが何よりも愛おしく思えてならない蓬女だった。

「君は僕のこと、どう思っているの?」

「私もあなたを愛しています・・・」

「良かった、君の口から聞けて、僕は本当に幸せ者だ」


(まこと)の心を打明け、相思相愛・・・永遠の愛を誓った二人は心ゆくまで抱擁し、甘い時を心に刻んだ。


「莱女のお墓に一緒に行こう・・・一番先に私たちの結婚を報告しょう」

二人の行く末は光り輝いているかのように見えたが・・・。

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