◆170話◆ラーメン作り
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異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす
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一通り材料が揃ったところで、太一はスープの仕込みに入った。
大きな鍋にお湯を沸かすと、水で洗ったフェザントのガラとボアの骨をざっと湯に潜らせる。
取り出した骨に付いている汚れを綺麗に取り除くと、今度はフェザントとボアを別々の鍋に入れ、水と香味野菜を加えて強火に掛けた。
沸騰してくるとアクが出てくるので、しばらくそのアクと格闘しアクを取り除く。
最初にアクを取っておくと澄んだスープになるので、ここでひと手間かけておくのが良い。
一通りアクが出なくなったらフェザントは弱火に、ボアは中火にして煮込みに入る。
ここで火を強くするとスープが濁るので、上湯っぽく仕上げたいフェザントの方は弱火だ。
あとは、水が減ったら水を足しながら、アクも適度に取りつつひたすら煮込めばガラスープと豚骨風スープが出来る。
今回は初の食材なので、味を確かめるために別鍋で出汁を取っているが、配合が決まれば一つの鍋でいいだろう。
スープを取っている傍らで、中華麺作りも並行させていた。
地球にいた頃、遊び半分で色々な手打ち麺を作っていたので、レシピは分かっている。
しかし、かんすいや代替となる重曹も無いし、そもそもこっちの小麦粉がどんな性質なのかすら分からない。
なので、いくつかのパターンで試行錯誤しながら作って行くしかない。
「えーっと、基本、中華麺は準強力粉だったよな。
こっちの小麦粉は、一応ざっくりとした産地別では売ってるけど、どこのがどんな麦なのか全然分からん・・・
ほとんどパンに使ってるから、強力粉寄りだとは思うけど・・・」
そう独り言ちながら、基本的なレシピの水の分量でまずは作り始める。
とは言え、メートル法の秤などある訳も無いので、水の量を基準とした比率での配合となる。
中華麺は、材料自体は非常にシンプルで、小麦粉、かんすい、塩、水だ。
卵をつなぎに入れたりもするが、基本のレシピには入らない。
ポイントは水分量とかんすいの量、そして作り方だ。
水分量は中華麺に限らず、小麦粉を使ったレシピ全てに共通するポイントなので、良い分量を見つけるまで試行錯誤するしかない。
かんすいについては、要は強アルカリ性のものを加えることでコシと食感を出すので、少ないとうどんに近くなるだけだ。
しかし木灰から作った代替品の灰汁しか無いので、これを使う他無く、出来上がった食感でひとまず良しとするしかない。
問題なのは作り方だ。
太一が作ったレシピもそうだが、手打ちする場合はパスタマシンを使うかビニール袋に入れて踏んだり伸ばしたりするのがほとんどだ。
麺棒だけで作ったことなど無い。
さらに、生地を冷蔵庫で寝かしたりもするので、近い状況を作るのにも苦労するのだ。
パスタマシンだが、麺を成型するのにももちろん使うのだが、生地を伸ばすのにも使われる。
麺の成型は、包丁でも頑張れば切れるのだが、問題は伸ばす方だった。
かなりコシが強く生地が固く伸ばしにくいので、手で伸ばすのが大変な上、何度もおり返す必要もある。
相当しんどいだろうな、と腹を括っていた太一だったが、召喚者特典が思わぬところで活かされるだった。
「そう言えば、肉体強化の付与がされてるんだった・・・
うん、これなら伸ばすのは全然問題なさそうだ」
召喚時に付与された肉体強化が、ここでも大活躍する。
軽く力を入れるだけでぐいぐいと伸びていく生地を見て、太一はほっとため息をついた。
生地を寝かせるのには、タバサの力を借りた。
「あたしは氷屋じゃないよ・・・」
と渋い顔で言われたが、お願い通り氷を用意してくれた。氷魔法で氷を出してもらったのだ。
水魔法が得意なタバサだが、それと相性の良い氷魔法も人並み以上には使えるので、大きめの氷を出してもらいそれを大きな木の箱に入れて簡易の冷蔵庫とした。
この世界にも、氷を使った保冷庫や魔法具の冷蔵庫はあるのだが、値が張るしランニングコストやメンテナンスが大変だ。
しかも太一達は基本宿で食事を摂るか外食なので、商館のキッチンにも冷蔵庫は無い。
(これが上手く行ったら魔法具の冷蔵庫でも買うか。エールなんかも冷やせるしな)
などと思いながら、太一は麺を作って行った。
もちろん一回で成功するはずなど無く、5回ほど試してようやく丁度良い水加減が見つかった。
ひとまず水分量を見るための製作なので、正解の水分量を元にあらためて作り直して今度はしっかり寝かせる。
15人分ほどの麺の元を寝かせた頃には、すっかり日も暮れて夜になっていた。
出汁のほうも、その頃には満足いくものが出来ていた。
フェザントガラの方は、想定よりかなり旨味が強く臭みの少ない黄金色の上湯になった。
雉は良い出汁が出ると聞いたことがあるが、こちらの魔物も同じようだ。
ボア骨出汁の方も、パンチの利いた薄く白濁した良い出汁が取れている。
多少臭みはあるものの、ワイルドボアの見た目からは想像できない良い風味だ。
骨を砕いたりもしていないので、パンチはありながらもややあっさり目な豚骨という感じである。
醤油や味噌は無いので、塩とニンニクっぽい香味野菜や香辛料を使って塩ラーメンを作る予定だ。
ダブルスープなので、異世界ながら中々に本格的だろう。
メンマは無いが、ボアの肉で塩味のチャーシュー擬きも仕込んである。
こうして翌日の試食に向けた仕込みを終えた太一は、
粗熱が取れたスープも保冷用の木箱へ終い、宿へと帰っていった。
翌朝、朝食を摂った太一は、再び商館の厨房へと向かう。
もはや完全なラーメン屋の主人だ。
本人も、やっているウチに楽しくなってきたのか、朝一でベティーナの店によって黒いTシャツのようなシャツを仕入れ、頭に白いタオルを巻いていた。
ちなみにそれを目撃した文乃には「・・・家系なの?」と突っ込みを入れられていた。
下準備は昨日の内に終わっているので、今日はまずスープに使うタレ作りだ。
醤油も味噌も無く、初っ端からカレー風味という飛び道具もアレなので、塩一択だ。
細かく砕いた岩塩、同じく砕いた胡椒、細かく刻んだ玉ねぎっぽい野菜、干し肉、白ワイン、すり下ろしたゴマを混ぜていく。
そこに、唯一見つけたニシンのような魚の日干しからとったダシを入れて弱火にかけ、アルコールを飛ばして少し煮込む。
仕上げに、ボアの油でカリカリに揚げたニンニクのような野菜のみじん切りを油と一緒に加えたら、塩だれの完成だ。
魚の日干しを手に入れられたのは僥倖だった。
魚介系の風味と旨味が少し加わるかどうかで、味の深みが全く違うからだ。
今回は残念ながら間に合わなかったが、キノコも何種類か市場に売っているので、今度はそれを干して干し椎茸代わりにしようと太一は心に決めていた。
タレが出来上がったら、麺を切っていく。
水加減を見るのに何度も試作したので、すでに手慣れたものだ。
おまけに肉体強化の恩恵か、思っていた以上に手先が器用になっており、手切りでも中太麺程度の細さに切りそろえる事が出来る。
片栗粉っぽい粉を打ち粉にして、切った麵を一人前に分けながら木箱に並べれば、麺の準備も完了だ。
再びスープの鍋を弱火にかけ始めたところで、昼の鐘が聞こえて来たので、昼食代わりに試食を試みる。
スープの鍋から湯気が出て来たところで、ひとまず1:1で小鍋に取り分けて沸騰直前まで温める。
1人分なので、やや小さめの鍋で沸かしたお湯に麵を入れ、固さを見ながら茹で上げ、ざるに上げる。
大きめのスープボウルに塩タレを入れて温めたスープを注ぎ麺を入れ、ネギっぽい野菜のみじん切りとボアの塩チャーシューを飾る。
ややトッピングが寂しいが、これで異世界風ダブルスープ塩ラーメンver1.0の完成だ。
書いててもの凄くラーメンが食べたくなるセルフ飯テロ。。。




