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【書籍化決定】万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る【第六回一二三書房WEB小説大賞 大賞受賞!】  作者: ぱげ
13章:業務拡大編

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◆169話◆お約束



 対皇国の戦略会議が終わって3日後。


 9の月の業績集計も終わり、商会が落ち着き始めた10の月2日の朝、東門を出た所に太一の姿があった。

 戦争準備は行われているが、現時点では水面下で行われているのと、太一が直接関わることはあまりないため、平和と言えば平和だ。

 

「なぁリーダー、何で焚き火なんかしてんだ?」

 一斗缶のような金属製の缶に木を焼べて、のんびり焚き火をする太一を見てワルターが首を傾げる。


「あー、ちょっと作りたいものがあってさ。その準備。そうだ、ワルターさん達でさ、シャープフェザントとワイルドボアを狩ってきてくれない? で、売らずに解体して欲しいんだよね」

 焚き火の塩梅を見ながら、太一がワルターにお願いする。


 シャープフェザントは大型の雉のような魔物で、あまり飛べない代わりに刃物のように発達した羽を飛ばしてくる。

 ワイルドボアは、定番の大型のイノシシだ。

 

「別にいいけどよ……。フェザントもボアも、店で買えばいいんじゃねぇか??」

 どちらもその肉は一般的な食用なので、肉屋へ行けば買うことが出来る。


「いや、肉屋じゃ売ってない部分も使いたいから、まずは自分で狩ってくるしかないんだよね。実験が上手く行ったら、肉屋にお願いして定期的に卸して貰えるようにするけど」

「売ってない部分て……。大丈夫なのか、それ……?」

「多分ね。似たものは村で作ってたし。うん、こんなもんでいいかな」

 真っ白に燃え尽きた灰を見て、太一は満足そうに頷く。


「そんな急ぎってもんでも無いけど、出来れば明日中に狩ってきてくれると助かるなぁ」

「…………。充分急ぎじゃねぇかよ。まぁどっちも大した魔物じゃ無いからいいけどよ。早速レイちゃんとモルガンでも誘って行ってくるわ」

「いやぁ、ありがたい。よろしくね!」

「おう。任しとけ」

 ワルターはひらひらと手を振りながら、街の中へ入っていった。

 それを見送った太一も、灰が冷めるのを待ってから、一斗缶を抱えて街へと戻っていた。

 

 翌日の午後、商館の3階にあるキッチンで太一が大きな桶の中を覗き込んでいた。


「今度は何を始めたの?」

 飲み物を取りに来た文乃が怪訝な顔で太一に問い掛ける。


「ああ、文乃さん。昨日木灰にお湯を入れて置いといたから、様子を見てたところ」

「きばい??」

 太一の言っていることがイマイチよく分からず、文乃も桶を覗き込む。


「……何よこれ?」

 桶の中にはやや茶色っぽい液体が入っており、縁の方に細かな埃のようなものが浮いていた。

 底には濁った色をした何かが沈んでいる。


「だから木灰だってば。昨日街の外で木を燃やして作ったんだよ」

「木を燃やして??……ああ、木灰ね木灰。それを水を入れてるってことは、灰汁?」

「そうそう。これだけ沈殿してれば、上澄みを掬えそうだな」

 そう言いながら柄杓で掬った上澄みを、手拭いで濃しながら二回り小さな桶に移し始める。

 

「それで、灰汁なんて何に使うの? 山菜でも茹でるの? それとも石鹸作り?」

「あーー、そうか、石鹸も作れるな。全部は使い切れないし、石鹸も試してみるか。ありがと、文乃さん」

 強アルカリ性のものと油があれば、石鹸を作ること自体はさほど難しくは無い。


 綺麗に固まるかどうかや、香りをどうするかは、使うアルカリ物質の種類や濃度、添加する香料で変わるので、売り物にするような物を作ろうと思うと試行錯誤が必要ではあるだろうが。


「その言い方だと、どっちでも無いみたいね」

「うん。どっちも違うね。とは言え、そもそも美味しく作れるかどうかは全然分からないけどね。向こうでも、このやり方で作ったことは無いし」

 太一と文乃が話していると、階段を上がってくる複数の足音が聞こえてきた。

 

「おーい、リーダー。頼まれてたシャープフェザントとワイルドボアを狩って来たぜ。確か革とか羽は要らないんだよな?」

 ワルターとレイア、モルガンが大きな包みを抱えてキッチンへと入って来る。


「おー、ありがたい!! 革と羽は、売るなり使うなり好きにしていいよ」

 そう言いながら、いそいそと包みを開けて中身を確認していく。


「うんうん。ちゃんと骨も付いてるな。ワルターさん、バッチリだ! レイアもモルガンさんもありがとう」

「久々に狩りをして楽しかったから良いですけど……。骨とか何に使うんですか??」

 使い道を聞かされていないレイアが不思議そうに尋ねる。


「フェザントとボアの骨……? それに灰汁?? アルカリ性の液体も使う食べ物……。まさか!? ラーメン作るつもり???」

 太一の集めているものから文乃が答えに辿り着く。


「おー、大正解!! そう、ラーメンを作ろうと思ってね」

 鶏ガラをバラしながら、ニヤリと笑いながら太一が答えた。

 

「呆れたわね。まさか“かんすい”の替わりに灰汁を作ってたなんて」

「かんすいはもちろん、重曹も無いだろうしねぇ……。昔沖縄行った時に、木灰で沖縄そばを作ってたって言ってたのを思い出してさ。こっちの植物の灰がどこまでアルカリ性になるかは分からないけど、少なくともそれっぽいものは作れるかなぁ、と」


「まぁある程度強いアルカリ性だったら、かんすいの替わりにはなるでしょうけど……。ボアとフェザントはガラから出汁を取るのね?」

「そうそう。今日一日煮込んで味を見るつもり。麺は明日かなぁ。製麺機が無いから手打ちでどこまでやれるか分からないけどね」


 小麦粉は主食として使われているので、オレキエッテやニョッキのようなショートパスタは確認しているが、この世界、少なくともレンベックやその近隣国には、中華麺やロングパスタのような料理は確認できていない。

 ちなみにこちらのショートパスタはパスタ、と自動翻訳されていた。


「まぁ多少失敗しても、ロングパスタか細めのうどんみたいなのが出来るだけだから、大丈夫かな。醤油も鰹節も無いから、ちょっとうどんとは相性悪いかもしれないけど……」

「そうね。確かにある程度美味しく食べられるものにはなりそうね」

 太一の説明に文乃も納得したのか頷いている。

 

「なぁリーダー、そのらーめんだっけか? どんなもんなんだ? 聞いた感じ、すげぇ手間が掛かりそうなことは分かるんだが、どんな料理か全然見えねぇ……」

「俺とか文乃さんの故郷の料理なんだけど、レンベックでは見たこと無いね。似た料理も無いから説明し辛いな……。スープの中に、細長くしたパスタが入っている料理、って感じだけど……。まぁ多分明日になったら出来てるはずだから、後は見てのお楽しみ、ってとこで」


「そうか。まぁそこまで手間を掛けてまで作ろうとしてるんだから、期待して待ってるわ。っつうか、食わせて貰えるんだよな??」

「ああ。ちゃんと味見してもらいたいしな。明日の夜は、ラーメンの試食会といこう」

「あ、兄さん。その灰汁、私にも貰えない? どうせなら、さっき言ってた石鹸を私の方で作ってみたいのよ」


「どうぞどうぞ。木灰自体もまだ残ってるから、足りなかったらそっちも使ってね」

「ありがと。レイア、このあと暇? 時間あるなら、こっちを手伝ってもらえると助かるんだけど」

「はい、大丈夫ですよ! アヤノさんも何か食べ物作るんですか?」

「食べ物では無いけど、上手く行けばお肌や髪が綺麗になる物を作るつもりよ」


「えっ!? お肌や髪が……全力で手伝います!!!」

「ふふふ、じゃああっちの部屋で作りましょうか」


 こうして、太一と文乃による、ある種“お約束”とも言えるラーメン作りと石鹸作りが始まるのだった。


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― 新着の感想 ―
大抵の転移モノではそちらを先に手掛けるんですけどねぇ。 まぁ試行錯誤が確定のものよりも日銭になったり自分の以前の仕事を活かせる方が優先度は高くなるか。
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