◆168話◆内通者
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異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす
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「内通者の首魁はワッザム・ボルツマン侯爵。その取り巻きの貴族数家が加担しているようです」
「ワッザムか・・・マグヌスはこのことを知っておるのか?」
内通者の名前を聞いたヨルゲンが反応する。
「マグヌス・アルグレーン公爵は、恐らく知った上で放置していると思われます」
「ふむ。そうか・・・」
王国貴族の事情に疎い太一の頭の上に疑問符が浮かんでいるのに気付いたユリウスが、補足説明をしてくれる。
ワッザム・ボルツマン侯爵は、東方に領地を持つ領地貴族で、東方派閥のナンバー2だ。
そしてその東方派閥のトップが、マグヌス・アルグレーン公爵である。
東方派閥は主戦派では無いが、反現王派の派閥で、親王派でヨルゲン率いる西方派閥とはライバル関係にある。
大きな派閥ではあるものの、マグヌスとワッザムの権力争いが続いており、内部分裂に近い状態で一枚岩では無いと言う。
「貴族間の関係がややこしい派閥なので、誰がどこまで今回の内通に関わっているのか調査が難航しておりました。
現時点でも、主だった人物しか特定には到っておりません」
マグヌスに付くかワッザムに付くかの綱引きが常時行われているので、関係者を絞り込むのが容易では無いらしい。
「それで、奴らの目的はなんだ?
よもや戦争に乗じて反乱を起こすのが目的とは思えんが・・・」
「はい。積極的に戦争を起こすことを目的としてはいない反面、結果として起きても止む無しというところでしょう。
主たる目的は、親王派の弱体化と、派閥内での権力強化と思われます」
「愚か者め・・・自身の欲の為他国と内通するなぞ本末転倒では無いか・・・」
ギリリ、と怒りを噛み殺したヨルゲンの歯が音を立てる。
「で、どう動くのだ?」
「今しばらく泳がせようかと思います。
ようやく紐を付けることが出来たばかりなので、情報の収集を進めるのが第一義かと」
端的な国王の問いに、ユリウスが答える。
「まぁ無難なところか・・・ヨルゲンもそれで構わぬか?」
「致し方ありませんな。ユリウスよ、ワッザムもだが、マグヌスの動きに注意を払ってくれ。
表立って加担するほど愚か者では無いが、彼奴がこの状況を利用しない訳がないからな」
「かしこまりました。
こちらの動きを気取られぬよう、注視してまいります」
「タイチは何かあるか?」
「は。方針については何もございません。それが最善かと思います。
本件とは直接の関係性はございませんが、アルグレーン卿とは最近少々絡みがあったので念のためお伝えしておきます」
「ほぅ?」
一瞬だがヨルゲンの視線が鋭くなる。
「と言っても直接アルグレーン卿と絡んだのではなく、配下のレンホルム卿の商会とですが」
「レンホルムと言うと、チェリオか?確か大きな商会を持っていたな」
「はい。その商会が、ひと月ほど前に私の経営している看板馬車の真似事を始めまして・・・
まぁ近い内にそういうところは出てくるだろうと思っていたので、さしたる影響もなくつい先日先方は事業に失敗して撤退はしたんですが・・・」
「なんだ、また何かしでかしたのか?」
ルディガーがニヤニヤしながら太一を見やる。
「しでかすとは人聞きの悪いことを仰る。。。
先方がアルグレーン卿の投資という形で馬車を追加したタイミングで、こちらが対抗策を打ったので、相手は丸損する形になっています。
アルグレーン卿の資産から考えれば端金なので、実害は皆無だと思いますが、ケチを付けられたことには違いありません」
「ほほぅ、あのマグヌスに一杯食わせたのか!?
くっくっく、やるではないかタイチよ。さすがはロマーノの懐刀よな」
ヨルゲンは心底楽しそうに笑いながら、太一の背中をバシバシと叩く。
この辺りはロマーノにそっくりだ。西方派閥のお爺様方は、力が有り余っていると見える。
「げふげふっ・・・
それで私に直接何かするようなことは無いとは思いますが、レンホルム卿はアルグレーン卿に大きな借りが出来たことになります。
今回の内通騒ぎのカードに、いやこの場合捨て札ですかね。それに使われる可能性があります。
ですので、レンホルム卿の動きにも目を光らせたほうが良いかと・・・」
「確かにな・・・
マグヌスは自分が表に出ることはほとんど無い。
タイチの言う通り、チェリオにも注意しておいた方が良いな」
腕組みをしながらヨルゲンが言う。
「かしこまりました。レンホルム卿にも紐を付けておきます」
「しかしタイチは多才だな。
商才は言うに及ばず、冒険者としての腕も立つ。例の魔法工法を使ったダレッカ救出作戦のように政にも明るい。
その上今回のような搦手にも精通している・・・」
「過分なご評価、ありがとうございます」
「謙遜する必要は無いぞ?
命を救ったとは言え、あのロマーノが溺愛する娘を嫁に出すのも頷けるわい!」
そう言うとヨルゲンはもう一度ガハハと豪快に笑った。
「ぶふっ!!!!よ、嫁ですかっっ!??」
一方ヨルゲンの爆弾発言に思わず太一が噴き出す。
「知らんのか?市井では専らの噂で、吟遊詩人の歌にもなっておるぞ??
ある平民の若者が、魔物に襲われた令嬢の前に颯爽と現れて救い出し、礼として招かれた館では、当主の課した力試しでも圧倒的な力量を見せつける。
それでも大した褒美も要求しないばかりか、領地を襲った未曾有の災害を先陣を切って防ぎ、貴族となる。
ついに娘を溺愛する領主も結婚を認め、経営する商会で娘が働くことを許した、とな。
確か・・・“黒き風の宮廷爵”とか何とか言ったか?」
「えーーーーっ!??ホントですか!??」
何だその恥ずかしい二つ名は・・・
確かに言ってる事にほとんど間違いは無いので否定する訳にも行かないが、嫁云々の話は全くの作り話だ。
それに・・・
「そもそも館での力試しとか何で知ってるんだ?絶対関係者が漏らしてるだろ、これ・・・」
そうなのだ。フィオを救ったことや、ダレッカを救ったことは公表されているため知っていて当然なのだが、ロマーノの館で起きたことをなぜ知っているのか?
当事者しか知らないはずなので、誰かが漏らしたとしか考えられない。
「なんじゃ?違うのか??
だったら儂の孫娘はどうだ?丁度フィオレンティーナと同じ年の孫がおってな。
この前、吟遊詩人の歌を聞いてお前に興味を持ったようなのだが?」
「いやいやいや、ドレッセル閣下のお孫さんなど、恐れ多くて私のような平民上がりには勿体なさすぎます。
もっと相応しいお方がいらっしゃいますよ!!」
「はっはっはっは!さすがのタイチもこの手の話は苦手か?
そうだ、ワシの末娘もフィオと同じくらいの年なんだが、どうだ?」
ついには国王までが悪乗りを始めてしまった。
偉い人が無茶をすると困り者だ。止める人間がいないのだから・・・。
「陛下まで・・・勘弁してくださいよ。
王女殿下とご結婚など、恐れ多すぎて死んでしまいます」
「陛下も閣下も、ご冗談はそれくらいで・・・
ここでタイチ殿に亡命でもされたら大変なことになりますよ?」
ようやくユリウスが止めに入る。
「おお、確かに。それは困るな」
「うむ、すまなんだ」
「では、ひとまず関係者は紐を付けて泳がす。
レンホルム伯爵も監視対象とする、ということでよろしかったですね?」
ユリウスのまとめに全員が首肯する。
「それではそのようにさせていただきます。
また動きがありましたらお声掛けいたしますので、引き続きよろしくお願いいたします」
こうして内通者についての動きも決めたことで、皇国に対するひとまずの対策が決まる。
(ここまで来ると、開戦は避けられないだろうなぁ・・・
まさか自分が戦争、それも意思決定する立場で参加することになるとは・・・。
なんとかして自分達、せめて知り合いだけでも守らないとなぁ。
あらためて文乃さんと加護の強化を図る必要がありそうだ・・・)
帰りの道すがら、馬車から外をぼんやり眺めながら、そんなことを太一は考えるのだった。




