第31話 卒業試験編 (帰郷編)
狼の耳をした女性が買取り場の中に入ってくる。
それを見たヘイルとイエナは動揺する。今日サニーは休みのはずだった。その為、こうしたあくどいやり方をしていたのである。
バレないようにしていたが、決定的な場面を見られてしまった。2人は言い訳が通用しないと分かったのか、責任の押し付け合いを始めた。
「私は関係ないわ!ここにこの子を連れてきただけだからね。そもそもここの決定権は私にはないわ。全てヘイルが決めた事よ!」
それを聞いてヘイルも反論する。
「おいイエナ!お前も1枚噛んでただろ!それにもっと上手くやれって、唆してきたのはお前だろ!この守銭奴が!」
お互いに醜い言い争いをしていたが、サニーに一喝される。
「あんたらの言い分はよ~く分かった。この件はギルドマスターに報告させてもらう!それと・・・周りのお前らも証人だ。一緒に付き合ってくれ」
そう周りにいた職人に声を掛けると、分かりましたと返事が返ってくる。
それを見た2人は、
「今回だけは勘弁してくれないかい?心を入れ替えるからさ!お願いよ!」
「ここの仕事が無くなったら妻に殺される!勘弁してくれ!」
サニーに黙っていて欲しいとお願いする。
しかし、これは冒険者達の総意でもある。
先程ギルドのカウンターで、サニーが休みの事を周りに伝わるように話していた者がいたが、あれは罠である。
一部の信用が置けるギルド内の人間と、口が堅い冒険者以外には、サニーは休みだと嘘をついたのだ。
その上で、シオンのように何も知らない冒険者が買取り場に行くように仕向け、この悪巧みをしている2人を釣り上げたのである。
呆気に取られているシオンに声を掛け、職人たちと一緒について来て欲しいと頼まれる。
シオンは了承し、サニーの後をリシアと職人たちと共について行き、買取り場より出て行った。
残されたイエナは、涙を流しながらその場に座り込み、ヘイルはもう駄目だと、死んだ目をしてがっくりとうなだれていた。
ギルドマスター室の前に来ると、サニーはドアをノックする。すると返事があったので、中に入る。それに続いてシオン達も中に入る。そうすると、要件をサニーに聞いてきた。
「マスターに報告します。やはりイエナとヘイルは繋がっていました。そして、素材の買取り価格を不当に引き下げていました。帳簿上は計算が合いますが、実際の金額と照らし合わせると、一致しません。おそらく差額を懐にしまい込んだものだと思われます」
それに続いて、他の職人たちも2人の悪さを報告してきた。上司の立場を利用し、不当に圧力をかけていたらしい。その為、報告できなかったと、皆頭を下げていた。
そしてシオンにも庇ってやれなくてすまないと、職人たちから謝罪をされた。シオンは今の所実害はなかったので、気にしないでくださいと伝える。
サニーに他に報告したい奴はいるか?と聞かれて、誰もいないようなので、職人たちは退出していった。
残されたシオン達は、サニーとギルドマスターに話を聞かれる。
「先程は嫌な思いをさせて、すまなかったな。こちらとしても言質を取りたかった」
そうサニーにも謝罪される。そしてギルドマスターにもお礼を言われる。
「君のおかげでギルド内のいざこざを解消できた。私からもお礼を言わせてもらいたい。ありがとう」
そうシオンに感謝してきた。シオン達は、2人に今更ながら自己紹介し、2人も自己紹介をしてくれた。
ギルドマスターはネムソンと言い、サニーはやはり買取り現場の責任者であった。ちなみにあの2人はどうするのかを、シオンは尋ねた。
「あの2人はギルドから横領をしたり、評判を下げたりなど損害を与えた。解雇は当然として、犯罪者として町での強制労働になるだろう」
そう教えてくれた。後で衛兵が来て連れていかれるが、それまではギルドの一室で待機になるそうだ。
その話を聞いてシオン達は、サニーと共に買取り場に戻ってきた。あの2人はすでに買取り場から連れて行かれたようだ。
その後、サニーがシオンに聞いて来た。
「さっきはグレイトベアーを出していたようだけど、他にもあるのかい?良ければ鑑定してあげよう。当然適正価格でね」
ではお言葉に甘えてと、シオンは収納から魔物を取り出した。前回のレジーナの件があったので、取り合えず半分ほどにしてみた。
「ドサドサー」
それを見たサニーは声をあげはしなかったが、唖然としていた。びっくりして、声が出なかったのかもしれないが。少しすると正気を取り戻したのか、鑑定に移る。
「さっきのグレイトベアーの他に・・・これはキラーマンチェス!?しかも状態がいい。他には・・・シルバースネーク!?」
サニーは再び唖然としていた。鑑定した魔物が、すべてギルドランクでB級以上なのである。しかも血抜きされていて、状態も非常に良く、滅多にお目にかかれないレベルであった。
まだ半分ぐらいしか出していなかったので、サニーに他にも出しますねと声をかけてから、サニーの了解を待たずにシオンは取り出した。
「ドサドサドサー」
「え・・・ちょっと・・・!?キャー!!!」
今度は悲鳴が上がった。余りの多さにびっくりしたのだろう。そして、私は追加の許可を出していないだろうと、サニーに怒られた。
きちんと返事を待つべきだったか・・・とシオンは振り返るのだった。
2時間ほど査定に時間がかかると言われたので、一度ギルド本館の方に戻ってきた。
受付のカウンターにはさっきのイエナはおらず、10代の女性が忙しそうに仕事をしていた。おそらくイエナが適当な仕事をしていたのだろう。
シオンが声を掛けると、ああさっきのと覚えていてくれたらしい。
「すいません。エウリーの町での討伐依頼書なんですが、こちらでも可能でしょうか?」
そう確認すると、可能ですという返答が来た。その為、エウリーのギルドマスターであるサイレスの依頼書を、受付のお姉さんに見せる。すると・・・
「え!?少し待ってね!ちょっとギルドマスターに確認してくるから!」
そういってお姉さんはギルドマスターのネムソンの所に飛んで行った。戻ってくると、お姉さんからギルドマスター室に通された。シオン達が中に入ると・・・
「どこかで聞いた名だなと思っていたが、君があのシオンだったのか。サイレスから話は聞いているよ」
そう話しかけてきた。それで討伐部位を提出したいというと、
「ここでは手狭になるな・・・ついてきなさい」
そう言ってネムソンは部屋を出ていく。シオン達はその後をついて行く。奥の部屋がかなり広い作りになっているようで、そこに討伐した部位を、纏めておいてあるようだ。
「ではここに出してくれ。それを数えることにする。グリーンワームだったな。1体に付き2本だ。それじゃ出してくれ」
そう言われて、シオンはリシアに外に出て貰うことにした。
流石にあの光景はグロい・・・シオンはそう思った。リシアも想像できたのか、急いで出て行った。ネムソンは疑問に思いはしたが、想像が出来なかった。
つまり・・・
「ドサドサドサドサドサー!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ギルド内にネムソンの悲鳴が轟いた。何だ何だと職員が押し寄せてくる。しかしそれを見たものは、ある者はその場で倒れ、ある者は顔を真っ青にしてトイレに駆け込む。
大混乱である。緑色の触覚が1600本以上あるのである。気持ち悪すぎるだろう。何とかネムソンが立ち上がり、シオンの所にやってくる。そして・・・
「限度があるだろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
シオンは首を傾げる。出せと言ったのはギルドマスターのネムソンである。怒鳴られるのは釈然としない。
しかもネムソンは依頼書で、最大討伐数を確認している。最大で2000本の触覚が出てくる可能性を、予見できなかったのが悪い。
その後、落ち着いて来たのか、ギルドマスターのネムソンが、その触覚の本数を数えるように職員に命令する。
しかし誰1人として動こうとはしない。それどころか皆後ずさっていく。端的に言えば嫌なのである。
ネムソンが職員を指名しようと動いたところ、皆一斉に逃げ出した。嫌なものは嫌なのである。結局皆逃げてしまい、ネムソンが呟く。
「私だってこれ数えるのは嫌なんだぞ・・・職場放棄しやがって・・・あとで減給してやる」
そう言いながらしぶしぶ数えるのであった。




