第10話 夢中編
試験が終わり、今まで泊まっていた宿である篝火亭に戻ってきた。
客引きをしていた猫耳娘のナリスは、値段がそこそこの宿としか言わなかったので、戻ってきた時に初めて知った。
2泊3日で支払いをしていた為、追加で数日ということで店主のラビンに宿泊依頼をする。
ラビンは相変わらずぶっきらぼうだったが、シオンが戻ってくる気がしていたのか、泊まっていた部屋を空けたままにしていてくれたらしい。
どうやら気に入られたようだ。
ついでに先日町で迷った件を話し、どこかにタウンマップのようなものはないか尋ねたら、中央広場の雑貨屋においてあるはずだと教えてくれた。後で行ってみることにしよう。
篝火亭は宿として営業もしているが、1Fは食堂兼酒場になっている。その為、食事は1Fに下りてきてすることになる。
「ナリスのお姉さん。ユーキ魚のホイル焼きをお願いします」
注文するとお姉さんの元気な声が聞こえてきた。ユーキ魚は春にとれる白身魚である。クセが無く塩気があり、焼けば素のままでも食べられる。
「は~いユーキ魚のホイル焼きだよ。おまたせ!出汁からでたスープもサービスしておくよ!」
おまけでサービスしてもらったので、お礼を言うとシッポが揺れていた。
夕食を食べながら周りの喧騒に声を向けると興味深い話があった。
「おいお前知ってるか?数日前にまた誘拐騒ぎがあったのを」
「ああ聞いたぜそれ。何か騎士団まで捜索に出たらしいって」
シオンはそこまでは知っていた。誘拐の現場を目撃し、救出したのだから。
「それでどうも攫われそうになっていたのが貴族の令嬢だったみたいなんだよ。さすがに騎士団も箝口令を敷いているのか、どこの貴族までかは知らないんだが」
「俺の方は2人の盗賊が捕まったって話を聞いたぜ。その盗賊は鉱山奴隷にされたらしいが、裏で依頼をしていたのが貴族って話もあるとか」
その噂話を聞いてシオンは思案する。
良い身なりの少女とは思ったが、貴族の娘だったのか・・・賊を倒す時は姿を見られはしていないと思うが、騎士団の詰め所に少女を運んだ時に見られた可能性は高いな。
その後、賊の捕縛現場にも出向いてるし・・・これは誘拐を妨害した貴族から逆恨みされる可能性が高いなぁ・・・
そんなことを思いつつ宿の自室に戻り、念のため自動防御のみ2重にセットし、眠りにつくのだった。
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ん?ここは・・・
さすがに3度目である。多少の動揺はあるにしても、そこまで驚かなくなっていた。
ここは夢か?神界か?恐らくどっちかだろうな。
「堤剛君。君を呼ばせてもらったよ。すまないね」
そう話しかけられた方を向くと40代ぐらいの美形の男性が立っていた。失礼とは思ったが、名を訪ねると・・・
「私の名はゼウスという。創造神をしている。宜しく頼む」
創造神?神はルシフェルじゃなかったのかと首を傾げると、
「確かにあやつは神だが、良いところが中級神といったところか」
ん?思考を読まれている?絶対隠蔽を起動する。
「すまないな。残念ながら私に絶対隠蔽は効かないのだ。許して欲しい」
そう返答される。ルシフェルは神すらも欺けると言っていたが・・・嘘だったのか?まぁそれは後回しにして、今日はどういったご用件でしょうか?そう頭で念じると、
「うむ。今日来てもらったのはおぬしに伝えなくてはならないことと、謝罪になる」
伝えることと謝罪とは?と念じると、
「まず伝えなくてはならないことは、本来 堤剛が死ぬということは無かったということだ。その件についての謝罪になる」
ただ運が悪く、たまたま亡くなったのでは?と返すと、
「実はおぬしの他に亡くなるべき者がいたのだが・・・ルシフェルの手違いでおぬしを殺してしまう形になってしまったのだ。重ねて謝罪したい」
シオンは思案する。あの時のルシフェルの言動や態度、それにやたらと異世界に飛ばしたがっていたのを鑑みるに・・・神ゼウスの言っていることは本当だろう。
その上で分からないことがあったので、神ゼウスに質問する。何故ルシフェルは自分のことを早く異世界に飛ばしたかったのか?と・・・それに対してゼウスは、
「それは単純に神界の問題であり、上司である私に報告せずに、自分のミスを揉み消そうとしたのだ」
あ~・・・会社でミスして知らんぷりか・・・前世での同僚そっくりだな。まさにそんなやつだった。会社の成果は自分の物。失敗は全て他のやつのせい。ゴマの擦り方だけ上手かったなあいつは・・・会社を辞めた後で聞いた話だと、自分が辞めた後さらに3人も辞めて、会社が回らなくなったと聞いたな。当時の社長も自分を辞めさせるとは目が無かったな。
その点、神ゼウスは目を光らせていたようだ。それで謝罪する為だけに呼んだのかどうか尋ねると、
「そういうわけではない。元の世界に戻すことや生き返らせることはできない。そこで、さらにスキルを3つ授けたい。罪滅ぼしも込めてだな」
いきなりスキルを追加すると言われてもな・・・そう思案していると、
「今なら絶対隠蔽のスキルと引き換えにさらに3つ付けてもよい。なにせルシフェルに嘘をつかれたわけだからな。他の気配を消すスキルである隠密や気配遮断、蜃気楼といったものに変えてもいいぞ」
なぜかやたらに饒舌になる神ゼウス。
絶対隠蔽か・・・確かに神の目をごまかすことはできなかった。不良品か?あのルシフェルならあり得るかもしれんな。そう思案していると、
「こんなチャンスは今しかない!限定フェスのようなものだ。SSR排出2倍期間でお得だぞ」
どこかでこんなやり取りをしたような気がするな・・・と思いつつ、取り合えず絶対隠蔽の件はそのままにしておき、スキルを3つだけ頂くことにした。
オートヒーリングLV1・・・10分間に最大HPの1%を回復する
身体強化LV1・・・・・・・身体能力値を一定割合で上昇させる
状態異常無効化LV1・・・・状態異常耐性を上げる。所持していれば毒で死にはしない(ただしHPは減っていく)
以上の3つを頂くことにした。絶対隠蔽を下取りに出せば、空を飛ぶ関連スキルも貰えたかもしれない。しかし・・・残念だが今回は諦めよう。
こうして新しいスキルを頂いた。罪滅ぼしと謝罪も受け取ったので、お開きになり、シオンの魂はアセリア王国の町エウリーの宿屋に戻っていった。
そして残された神ゼウスは・・・頭を抱えていた。
「謝罪という名の褒美を授け、絶対隠蔽の能力に疑念を抱かせて他のスキルに変更する作戦が・・・くっ・・・最後の押し方があざとかったか!?ルシフェルのやり方を少し真似たのがいけなかったのか!?」
そんなことを言いつつルシフェルの部屋に向かっていく。
シオンはゼウスがやたらと饒舌になったのと、あそこまで猛プッシュしなければ、絶対隠蔽を手放していたかもしれなかった。
ゼウスのやり方にルシフェルのデジャブを感じ、少しイラっときたことで直観的に手放さなかったのである。
ルシフェルに手違いで殺されたが、結果的にルシフェルに絶対隠蔽のスキルは救われた形になった。
そして当のルシフェルはというと・・・
「仕事が終わらない・・・もう8年も休みなしで働いてるんだから休みくらいくれよ~」
そうぼやきながら仕事をしているところにゼウス神登場。
「あ・・・お疲れ様です。今日も1日異常もミスもなく仕事をしております。それで例の会社員の魂が今日来たんですよね?どうでした?上手く行きました?僕の言った通り絶対隠蔽も回収できましたよね!?」
そう言ってゴマをすりつつ良い結果を期待して、遂に長期休暇も来たか!?と期待していると・・・ゼウス神から一言。
「お前のやり方のせいで失敗したじゃないかぁぁぁぁぁぁ!」
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
神ゼウスは確かにルシフェルと共に前回の剛とのやり取りを踏まえ、対応方法を前回のルシフェル風に合わせたのだ。
ただ最大の誤算はルシフェルの対応自体が間違っていた為であった。
「お前のせいでさらにスキルを3つも持っていかれたんだ!どうするんだ!」
「そんなこと言われても・・・ゼウス様も納得していたじゃないですか!」
「そもそもお前が絶対隠蔽など渡さなければ良かったのだ。さらに付け加えるなら間違って殺してしまったお前のミスだろうが」
さすがにそう言われてしまってはルシフェルはぐうの音もでない。さらに付け加えるように、
「10年間ボーナスカットだ。ルシフェル」
そう言い残して神ゼウスは部屋を出て行った。
その後部屋からはあまりの理不尽さに・・・「いくら元々のミスが僕だからってこの仕打ちはあんまりだぁぁぁぁぁぁぁぁ」という、シオンには預かり知らぬことではあったが、ルシフェルの泣き喚く声が木霊したという・・・
夢中編終了時
名前:シオン
職業:???
爵位:無し
称号:光のシオン
年齢:8
LV:18
HP:50(100+10)+【10】
MP:750(600+170+620)
腕力:15(40+20)+【10】
防御:10(37+【10】+120)
俊敏:25(37+5)+【10】
知力:50(20+170+220)
幸運:10(25)
HP・腕力・俊敏
(ポテンシャル最大値+スキル上昇値)
MP・知力
(ポテンシャル最大値+LV上昇値+スキル上昇値)
防御
(ポテンシャル最大値+自動防御耐久値)
【 】は身体強化数値
固有スキル:自動防御LV4、空間魔法LV5、
固有スキル:絶対隠蔽LV3、状態異常無効化LV1
固有スキル:身体強化LV1、オートヒーリングLV1
スキル:初級魔法(火)LV4、初級魔法(水)LV4
スキル:初級魔法(風)LV6、初級魔法(土)LV4
スキル:★索敵魔法LV10
スキル:中級魔法(風)LV2
スキル:剣術LV2、体術LV1




