口巧者
圭君視点です。
サンドイッチも食べ終わり、片付けていた時、
「ん? これは……」
「おや、久しぶりだね」
急にハルさんと土地神様は、空を見ながら呟いた。
「圭君、ごめんなさい。仕事に行かなければいけなくなりました。ここの道を真っ直ぐ下って行けば帰れますから」
「あ、はい。分かりました」
ハルさんは急に仕事になったみたいだ。
どんな仕事だろう……?
空を見てたし、鳥になれるハルさんだからこその仕事なんだろうけど。
「帰り送れなくて申し訳ないです」
「いえ、大丈夫です。ハルさんもお気を付けて」
「はい。では、また明日」
そう言うとハルさんは鳥になって飛んで行った。
どんな仕事してるかとかは、多分僕が聞いちゃいけない事だ。
僕の帰りまで心配してくれたけど、むしろハルさんは大丈夫なのかな?
「大丈夫じゃよ。心配せんでも」
「そうなんですか?」
「危ない事でもなんでもないからの、安心せい」
「はい」
僕がハルさんを心配しているのを察してくれたのか、土地神様はそう言って励ましてくれた。
「人の子、お前さんも今日はもうお帰り。焼きトウモロコシ美味しかったぞ。ありがとうな」
「また持ってきますね」
「無理のない範囲で頼むよ」
「はい。では、失礼します」
神様に挨拶をして、御神木を離れる。
ハルさんが言っていた通り、道を真っ直ぐに下ったら、知っている道に出た。
振り返って見ると木が生えているだけで、今僕が通った道はもう無くなっていた。
これが結界なのかな?
辺りにも特に人影はないし、僕達を追っていた人ももういないだろう。
ハルさんも鳥の姿で仕事中だから、追われる事もないはずだ。
普通に来た道を歩いて帰る。
ハルさんと待ち合わせをした場所に戻って来た時、急に声をかけられた。
「瑞樹さん、こんにちは。お昼に会うなんて珍しいですね」
「あ、どうも。石黒さん」
また石黒さんに会ってしまった。
本当によく会うな……
「あの神社に行ってらしたんですか?」
「はい。ちょっとお供え物をしに」
「お供えですか?」
「ここの神社の神様、トウモロコシが好きらしいんですよ。この間、実家から届いた野菜のトウモロコシが多かったので、折角ならお供えしてみようと思いまして」
「何か御利益はあるんですか?」
「僕自身に何か御利益があるとかは分かりませんが、畑とかこの山とかが豊かになって、人々やこの山に住む動物達が元気になるみたいです」
「動物が元気になるんですか? それはお供えした食べ物を、動物に食べられているだけではありませんか?」
「それは、そうかもしれませんが……」
神様の存在を知らない人は普通そう思うよな。
僕は神様が実際に、僕の作った焼きトウモロコシを食べて喜んでくれているのを知ってるから、そうは思わないけど。
でも折角なら伝承をちゃんと信じてもらいたいし、少し話してみよう。
「ここの神社の神様は、動物の姿で人里に降りてきて、田畑に力をくれていたそうです。だから、野菜とかお供えすると動物がそれを取りに来るんですが、それを神様が取りに来てくれてるというそうですよ」
「詳しいんですね、瑞樹さん」
「神社の裏にある石碑に書いてありました。僕はここが地元ではないので知りませんでしたが、この辺の方には有名な話だそうですよ」
「そうなんですか」
石黒さんもこの辺が出身な訳じゃないのかな?
ハルさんが、最近の若い人達はあまり知らないみたいって言ってたから分からないけど、石黒さんはこういう話にはあまり興味がないみたいだ。
「でも、瑞樹さん? 何故急にそんなお供えをしようと思ったんですか?」
「特に意味なんてないですよ。僕もたまたまその話を知りましたし、実家からの野菜が多かったのでお供えしてみただけです」
正確にいうと、その話を知ったのはさっきなんだけど。
たまたま野菜が多くて、知り合いにトウモロコシ好きの人がいたから渡しただけだ。
その相手が神様だったから、お供えなんていう仰々しい行いになってしまったけど、僕にとってはご近所に余った野菜を配るのと、同じ感覚だった。
「瑞樹さんは欲がないんですね。そういえば、この間のお祭りもこの神社でしたね。あの時の友人の女性は……」
「おーいっ! 石黒! 探したぞ」
「熊さん……」
石黒さんが何か僕に聞きかけたところで、後ろから大きな声がした。
前に家にも来たことのある、年上の刑事さんだった。
「ん? 兄ちゃんは確か……何だ、石黒。お前まだ……」
「違いますよ、たまたまここで会っただけです」
「ふーん、そうか……で、兄ちゃん。最近はどうだ? 何か困った事とかあるか?」
「特に……」
特にだけなら、否定にも肯定にもならない。
特に刑事さん達に話さないといけないような、困った事はないけど、少し困ってます的な感じになるはずだから。
そういえば前にもこの刑事さん達に使ったな。
ハルさんとも約束したし、嘘はつきたくないから、できるだけ否定にも肯定にもならないように話さないと……
さすがにいきなり現れて、プライベートとかまで結構グイグイ聞いてくる石黒さんに困ってますとは言えないし……
さっきの誰かに追われた件も、ハルさんは警察と関わりたくないだろうから、言わない方がいいだろう。
「そうか、そりゃあ良かった。じゃ、行くぞ石黒」
「はい。ではすみません瑞樹さん、失礼しますね」
「お疲れ様です」
石黒さんともう1人の刑事さんは、僕に挨拶をして去っていった。
僕の方から結構長く話してしまったけど、石黒さんの事ちょっと苦手だし、話が打ち切れてよかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




