お供え
圭君視点です。
約束の場所でハルさんを待っていると、お祭りの時と同様に黒髪の姿のハルさんが来てくれた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
「ん?」
「どうかしました?」
「いえ……なんでもありません。行きましょうか」
どうしたんだろう?
ハルさんは辺りを気にしていた。
なんでもないって言ったし、僕は聞かない方がいいか……?
少し雑談もしながら神社の方へ向かって進んで行く。
この間のお祭りの時は、この辺りにたくさん屋台が出ていたけど、今は何もないただの道だ。
屋台がないだけで、全く見覚えのない景色に思えて、初めて来たような感じだった。
「圭君、到着ですよ」
神社に入って少し行くと、結構分かりやすい所にその台座はあった。
辺りには籾殻や藁くずが落ちているし、少し前まで何かがお供えされていたみたいだ。
「ここに置けば土地神様が来て下さるんですか?」
「そうですね。この神社の伝承では、ここにお供え物を置くと神様が取りに来ると伝わっています」
「神社の伝承ですか?」
ハルさんはこの神社の伝承を教えてくれた。
僕はここの生まれではないから知らなかったけど、結構しっかりとした伝承があるみたいだ。
僕の地元の神社とかにも、そういうのはあるのかな?
今までは考えた事なかったけど、今度調べてみよう。
「ここにはよくお供え物も置かれていますし、神様も見に来られるので、圭君も神様へのプレゼントはここを使ってくださいね。ポストみたいなものですから」
この厳かな台座をポストみたいって……ハルさんの独特な表現を可愛らしく思ってしまう。
でもきっとハルさんにとっては、本当にポストと変わらないものなんだろう。
それにしても土地神様、普段人前に姿を現さないと仰られていたのに、お供えを取りに来たりしていたら、人に姿が見られてしまうんじゃないだろうか?
「ここに置いたものを、直接神様が持っていくんですか?」
「動物の姿で取りに来られますよ。伝承でも神様は動物の姿になれると伝わっているので、ここに供えられた物を動物が取りに来たとき、この神社にお供えに来る人達は、神様が取りに来てくれてると思うみたいですね。事実そうなのですけどね」
「そうなんですか」
確かにそれならお供え物がなくなっていても、動物が持っていったと思われるだろう。
土地神様が人に見られてしまうとかではなくて安心した。
「じゃあ、僕も今度からここに持ってきますね。案内して下さってありがとうございました」
「いえいえ」
持ってきた焼きトウモロコシを台座の上に置く。
土地神様が喜んでくれるといいんだけど。
近くの石碑には、ここにお供え物をすると神様の力で山や田畑が元気になるという事が書いてあった。
山が豊かになれば、そこに住む動物達も元気になるし、田畑が豊かになれば人々も活気づく。
その田畑でとれた穀物は神様の好物なので、お供えをまたすることによって繰り返されるという内容だ。
穀物が好物とは書いてあるけど、トウモロコシが特に大好物だとは書いてないんだな。
僕は直接お会いした事があるから知っているけど。
僕が石碑を見ていると、ハルさんは後ろを気にしていた。
後ろに何かあるのかな?
「ハルさん? どうかしましたか?」
「圭君、少し運動しましょうか」
「え?」
「走りますよ」
急にハルさんに手を引かれて走った。
僕は運動神経がそんなに悪くもないけど、ハルさんみたいに軽やかに動けるほど良くはない。
少し転びそうになりながら、神社の裏の方へとどんどん走って行く。
転びそうになるたびに体が軽くなるのは、ハルさんが重力を調整してくれているからなんだろうか?
結構走ったところでハルさんが止まったので、顔をあげてみたら前も来た大きな木の場所だった。
また、御神木の所に連れてきてもらえたみたいだ。
「急に走ってしまって、すみませんでした。大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ……だ、大丈夫ですけど、急に何でですか?」
「私達の事を追っている感じの人がいたので……」
「えっ……」
「本当に私達を追っていたのかは分かりませんが、私はあまり人に見られる訳にはいきませんから。巻き込んでしまってごめんなさい……」
「そんな事は気にしなくていいんですよ? 好きなだけ巻き込んで下さい」
「ふふっ、ありがとうございます」
ハルさんは僕の発言に笑ってお礼を言ってくれているけど、僕達を追ってる人がいたって……
僕に用事がある人なんていないし、間違いなくハルさんを追っていたんだ。
でも理由が分からない……
ハルさんは凄く美人だし、ストーカーとかだろうか……?
「ハルさん、大丈夫なんですか?」
「そうですね。こういう事がまたあったら考えましょう。もしかしたら単に、祭りでもない神社に何の用事があるのかと、疑問に思って見ていた方かも知れませんし」
「そうですか?」
ハルさんが気にしてないならいいけど、やっぱり心配だな。
僕に何か出来ればいいんだけど……
「人の子、焼きトウモロコシありがとうな」
「神様ー。お邪魔してます」
「あ、お久しぶりです。お邪魔してます」
そんなことを考えていたら、さっきの焼きトウモロコシを抱えた土地神様が来てくれた。
「僕が作ったものなので、土地神様のお口に合えばいいんですが……」
「とっても美味じゃ」
「良かったです」
焼きトウモロコシを食べながら、土地神様は笑って下さった。
その優しい笑顔に、お世辞とかじゃなく本当に喜んでもらえているのだと分かって、僕も嬉しく思う。
「若者からのお供えも久しぶりじゃ」
「最近の若い方は、あの伝承もあまり知らないみたいですからね。私が広める訳にもいきませんし……」
「そうなんですか」
「まぁでも儂にはあの祭りもあるからの。伝承が伝わらんでも信仰は薄れんから大丈夫じゃよ」
「ですが祭事以外でのお供え物は減っていませんか?」
「そういうもんじゃ」
ハルさんと神様は伝承や信仰の話をしてる。
こういう神様事情みたいなものは僕にはよく分からないけど、お供え物があれば神様も信仰は薄れないって事かな?
「あの? 僕でよければ、またトウモロコシを持ってきますよ」
「無理はせんでいいぞ」
「はい、大丈夫です」
今度から余ったトウモロコシは持って来ることにしよう。
焼きトウモロコシ以外にもコーンスープとか持ってきて……コーンスープはお供えできないな。
僕は神様と会えるとも限らないし、ハルさんも忙しいのに毎回ついて来てもらう訳にもいかない。
やっぱり焼きトウモロコシかな、お供えしやすいし。
少し味を変えたりして持ってこよう。
そういえばサンドイッチ作ってきたんだった。
ここなら変な人とかも来ないだろうし、落ち着いて食べられるはずだ。
「ハルさん、ご飯は食べてきましたか?」
「いえ、今日は食べていませんが……」
「サンドイッチを作ってきたので是非。土地神様もよかったらご一緒にどうですか?」
「おぉ、ありがとうの」
「ありがとうございます」
少し気になる事があったとはいえ、ハルさんも土地神様も凄く喜んでくれて、ちょっとしたピクニックみたいで楽しかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




