ステータス
今回は夕日で目が覚めた。
最近は引きこもり時代と違ってちゃんと朝に起きていたから懐かしいと思ったがそんなことはない。
寝過ぎ独特の不快感が頭に残っている。
それをはらうためにだるい体に鞭を打って洗面所に行こうとすると、あいつの声が聞こえた。
「おはようございます。いえ、こんばんはマスター。調子は悪いようですね。」
こいつとは正直初対面の印象が悪すぎて会話もしたくない。それにこの癇に障るしゃべり方だ。
さっさと散れ
「そんなことを言うなんてひどいお方。
私はこんなにも思っているのに……」
それはお前の役目だからだろ。何のために声をかけてきた、僕は二度と声をかけるなといったはずだが。
「全くつれないマスターですね。
私は開発者に状況報告したり、今後のことを決めていたので忙しかったのです。
それがひと段落ついたためマスターに報告しようと思いまして声をおかけしました。
後、ゲームにのめりこみ過ぎているマスターに苦言を呈そうと思いまして。」
無駄なお世話をありがとう。ちなみに今後一切報告不要で、苦言など必要としておりませんので。
「私の話し方をまねするなんてやっぱり私のこと大好きなんですね。
ただしそのご命令はお受けすることができません。」
ちっ、気持ち悪い奴。ともかくゲーム、ゲームうるさい。彼女たちはゲームに登場する1キャラクターなんかじゃない。
自分で考えて選んで生きていくような人たちだ。これ以上の侮辱は許せないぞ。
「はー「これ以上の侮辱は許せない」なんて騎士気取りですか?
まあマスターは子供ですから仕方ないですね。」
……
「もうだんまりですか。
今日の夕方からなぜか口数が少なかったですがついには閉じてしまいましたか。
まあいいです。今回はゲームの中で死なないための方法を伝えるために伺いました。
今までのは冗談でこれが本題です。
その方法とはーーーステータスを見ることです!!」
なんだそのバカげた方法は。ここはゲームじゃないんだぞ。
「だからゲームって言ってるじゃないですか。しつこい男はイデアルさんに嫌われますよ。」
まてなぜイデアルのことを知っている?
「いろいろ忙しかったですが、当然待機時間はあります。
その間はあなたの思考を読み取って暇つぶししていただけです。
機械の暇つぶしなんかのために僕のプライベートをもてあそぶな!!
「それは私の仕組み的に無理です。マスターと私はケーブルでつながっているのと同じようなものなので。
イデアルさんの胸を見て興奮している姿や中二病に浸っている姿、魔法を見てうきうきしている姿なんかは体があれば机をバンバン叩きながらわたっていましたね。w
僕はお前のことが本当に嫌いだ。
「奇遇ですね。私も嫌いです。他人の不幸は蜜の味といいますが、嫌いな相手の不幸は何の味なのでしょうか?蜜よりおいしそうです。
さて、そろそろ話を逸らすのに乗ってあげる時間はおしまいです。
ステータスを開きましょう。」
……そんなことできっこない。時間の無駄だ。
「このゲーム内ではできるんですよ。魔法なんかかがあるんですよ?不可能なわけないでしょう。」
そんなものに興味はないからそういっただけだ。押し売りセールスマンのような真似はやめろ。
「図星を突かれたからって適当なこと言わないでください。マスターの逃げ癖は極まったものですが私相手には無理ですよ。
ずっと耳元で囁やいてくる相手を無視できますか?それにそんなに逃げたらこの世界がゲームであると認めるのを怖がっているようですよ。」
ああわかったよ。やってやるよ。だからさっさとステータスを開く方法を教えろ。
「はいはい承知しました。方法は簡単漫画で見るようなステータス表示を想像してステータスというだけです。やってみてくだ……」
「ステータス……ほらそんな怪しげなもの出てこないじゃないか⁉」
そうだよな、そんなものあるわけない。
「申し訳ございません。呪文を間違えておりました。正しくはステータスオープンです。」
「……ああ、ステータスオープン
【ステータス】
名前:空野 水斗 HP10/10 職業:
レベル1 EXP0/100
攻撃力2 防御力1 速度1 技量4 魔力30
状態:
は?」
成功してしまった。ろくにはまっていたゲームの表示にそっくりだ。
「おめでとうございます。その空中に浮いた板があなたのステータスになります。
魔物を討伐することによってEXPがたまり、その経験に応じた成長をしていきます。
それによってゲーム内で死にづらくなるので頑張ってください。
では二度と話しかけるなと言われたら私が出しゃばるのはこれくらいにして静かにしています。」
◆ ◆ ◆
あいつは言った通りに話しかけて来なくなった。
それよりもなんだこの異物は……。
VRの中で見慣れたこの板はここがゲームであるとアピールしてくるようだった。
あいつとの会話でゲームであること意識させられすぎた。そんなわけないのに
そう思いたくてもこの板が邪魔をしてくる。
ちっ、ステータスクローズとでもいいのかこんちくしょう。
そう思うと板は空気に溶け込むようにすっと消えていった。
ちょうどその時扉がキィーと泣きながら開いた。
「どうしたの~何かあった?」
独り言を言っていればそうなるか。そう思ってイデアルを見るとやっぱり綺麗だった。
まるで誰かに精巧に作られた人形みたいに。
そう思った。いや思ってしまった。
イデアルを?人形だって?それこそあり得ない。だってあんなにやさしくてあんなにいろんなことを考えていて
(そうプログラムされているじゃないの?)
あの声が聞こえた気がした。
もう止まらない、信じられない。けれども信じたい自分がいてそんな自分が疑ってる自分を嫌悪して……。
あらゆる思いがうねり、混ざり一つとなって真っ黒になっていく。
「汗たくさんかいてるよ?本当に大丈夫?」
そういう彼女の声もどこか機械的な気がしてきて
「ごめん、ちょっと一人にさせて。」
あの機械に言った言葉を繰り返すことが精いっぱいだった。