045:争う事を知らぬ者
あの巨体であの速度……普通に動いたのでは、逃げられそうも無い。
ストラ「まあ、逃げないんだが<ヴァサッ……>さて……」
思考をいつも通りに読み取り、背の鋼の羽が震え、備える。
極光色の蒸気が溢れ……いつでも動ける。
マヌガン「終わり<ズゥン!!>な……<ドゴォン>ぼぉぉ?!?」
結果として、マヌガンの足はあたしに届かず。
悲鳴を上げて、後ろに倒れ込んだ。
何をしたかと言えば……
1.蹴りを直前で回避して、翼で飛翔。 体ギリギリを飛んで頭の方へ。
2.マヌガンは『地面に足が付く前に衝撃を感じて』驚く。
3.頭に到達したあたしは、手の平でマヌガンの顔面を思いっきり叩く。
と、こんな感じだ。
ちなみに、正確には手の平で叩いたわけではない。
PPを霧のような状態で手の平状に集め、そのすべての慣性・重力を制御してたたき込んだのだ。
巨人は手の平から広範囲に渡って、物質の慣性と重力を制御しエレベーターを揺らした。
それをあたしは、PPの粒子すべてに行ったのだ。
見た目は霧状でも、内部の全粒子に大出力の重力制御を行う事で、突風を何百倍にもした衝撃が、マヌガンの顔面を襲うことになる。
大きなグローブを填めて、顔面を思い切りはたいたイメージだろうか。
マヌガン『ば、馬鹿な。 このジトンが……羽虫のような小娘風情に。
……これは?! 何故、私は地面の上に浮いて……』
ようやく気が付いたようだ。
倒れた巨人は、プリチャピの大地に触れていない。
数十メートル上の、空中に浮くように……透明な台の上に乗った状態になっている。
ストラ「お前が歩くだけで、ここがメチャクチャになるんだよ」
奴がエレベーターから現れた時から、少し動くだけで周囲の森はメチャクチャだった。
まして、これから争うことになればこの辺一帯は、間違いなく焼け野原になる。
カレル『現在、全方位に結界を展開しています。
これで周囲に被害が及ぶことは、もうございません』
ストラ『お前はもう籠の鳥だ』
マヌガン『戯れ言を!!<キュォォ……バオッ!!>』
恐らく始めてであろう、長距離攻撃。
全身から放たれた光弾は緒を引いて、プリチャピの西の空へ飛んでいく。
しかし空中で何かに……カレルの結界に阻まれ、大爆発を起こし消えていった。
残ったのは、変わらない景色だけだ。
マヌガン『な……あっ……!』
そこそこの威力があるのだろう攻撃が通じないことに、だいぶ驚いている。
……結界が無かったら、結構被害出てたなあれは……
侍従総括カレルは、あたしの身の回りの世話の他に、城の守護も行っている。
魔法を始め、数多くの結界……防御の術を使いこなせるのだ。
危険極まりない巨人の側である研究施設に、おかね姉達を避難させた理由。
それはカレルの持つ結界技術が、研究所を保護しているからに他ならない。
ここへ転移した時、あたしが空中に浮いていたのはカレルの結界の上に乗っていたからだ。
奴が本格的に暴れた場合、ここや外に被害が出るのは確実。
そこで、巨人を結界で封じようとした訳なのだが……
真逆いきなり空に飛んで、跳び蹴りをするとは思わなかった。
おかげで、奴をこのプリチャピの大地から引き離す事が出来た訳だ。
被害を抑えたかったし、何より……
マヌガン『1つの地域を丸ごと封鎖する結界だと……?!
有り得ない……研究所の炉による出力を使って、空間を偽装する結界を作り……
エレベーターを隠すのには、リングの炉を利用している!!
いずれも、都市クラスの出力なのだぞ!
それを、たった一人がなし得るなど……!!』
ストラ「お前に、この大地を踏みしめる資格など無い。
神を名乗るなら、空に浮いているがいい」
これ以上この地を、踏みにじらせたくなかったのだ。
―――――
ラティズ「それが可能なら、貴女はここから……この広大な大地を結界で閉じているという事になる。
大地の上から、空の果てまで」
副所長の言葉通り。 もし彼女がそれをなすというなら。
彼女はこの地下から、空まで届く結界を作っている事になる。
……ファンダリアでは、姫様の王宮など重要な場所。
医療や軍事に関わる施設に施された、広範囲の結界を。
大量の資材と、都市を支えるほどの膨大なエネルギーをもって可能になるそれを、単独で展開しているという事になる。
しかも、この研究所を保護した上で。
カレル「我が主の城は、大変広うございます」
カレル「太陽を抱き支える、姫様の城。
偉大なる居城を、くまなくお守りするのが、侍従総括たる私の役目で御座います」
―――――
ストラ「どうした、私を殺すんじゃなかったのか?」
マヌガン『っ……ぐ……』
まだこっちは一発殴っただけで、戦闘らしい戦闘も起きていない。
だと言うのに、先ほどの威勢はどこへやら。
羽虫と蔑んだあたしから目を離さず、警戒している。
もう少し攻撃なりしてこいよ……とも思うが、仕方もない。
そうなるだけの、十分な理由がある。
奴は……研究者。 つまりは、非戦闘員なのだ。
ティールのような騎士でもなく、戦闘などした事も無いはずだ。
身動きの取れない被害者を嬲り。
怪物達を利用し、自分は高みから命令するだけ。
自分自身を、戦場に晒した事などない。
しかし、だ。
ここで、あたしという存在が現れた。
自分が絶対と信じる、巨人を一撃で叩き伏せる存在。
自分を殴れる存在。
自分を害せる存在に。
奴は初めて出会い、そして対峙した。
今までろくに戦いもしていない、経験も無い素人が。
つまり今の奴は。
自分がやられる恐怖に、身がすくんでいるのだ。
つい先ほど。
表の世界の研究施設を爆破し。
更に結界を解除して。
あたしの頭上に、研究所の瓦礫と生死問わない数千人もの。
人間を降らせようとしたクソ外道が、である。




