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96.戦前のいざこざ

シフトたちは正体不明の謎の軍団を相手にするために王都東門へと移動した。

そこにはすでに第一騎士団、第一魔法兵団が隊列を編成して戦の準備を進めている。

「まだここまで進軍してないようだな」

「そのようですね」

「こら! ここは今から戦場になるかもしれないんだ! 子供は大人しく王都内に避難しろ!!」

シフトたちに気付いた騎士の1人が妨げになると判断したのか声をかけてくる。

「ん? ああ、知ってるよ。 国王直々の依頼でここに来たんだからな」

「はぁ? 何を言ってるんだ? 国王陛下の依頼だと? バカも休み休み言え!!」

「・・・はぁ、わかった。 王都内に戻るよ。 だが、その前にあんたの名前を聞きたい」

騎士は怪訝そうにシフトを見る。

「なんで俺の名前が必要なんだ?」

「決まっている。 国王にあんたの名前を言って依頼ができないことを報告するためさ」

「なんだと? そうか、俺の名前を悪用するんだな? 悪いが教えられないな」

「それなら第一騎士団及び第一魔法兵団が援軍はいらないと言ったことにしておくよ。 じゃあな」

それだけ言うとシフトは踵を返して王都に戻ろうとすると後ろから声がかけられた。

「シフト、どうした? 何があった?」

そこにいたのはグラントだった。

息が乱れていないところを見ると馬車を使ってここまで来たのだろう。

騎士は国王を見るなり慌ててその場で膝をついた。

「こ、国王陛下!! なぜこちらに?」

「うむ、前線で戦う者たちを鼓舞しに来たのだ」

「グラントか・・・ちょっとトラブルがあってね。 あんたに報告しに・・・」

「なっ?! 子供が国王陛下を呼び捨てにするなど何事か!!」

怒りを露わにしてシフトに怒鳴りつけるもグラントがそれを制する。

「よい、それよりも余に報告といったが何を報告しに戻ろうとしていたんだ?」

シフトは親指で問題の騎士を指さすとここであったことを語り始めた。

「そこにいる騎士があんたからの直々の依頼を受けたことを話すと嘘つき呼ばわりされてね。 報告に戻ろうと思ってな・・・」

「なんだと?! それは真か!!」

グラントが騎士を睨みつける。

「こ、国王陛下、この子供が陛下に嘘をついて・・・」

「黙れ!! 今、余はシフトと話しているのだ! 口出し無用!!」

「! はっ!!」

グラントが凄んだところで騎士が委縮してしまった。

「それで先ほどの話は真か?」

「ああ、子供は避難しろとか名前を悪用されるのは嫌だとか言うものだから仕方ないので援軍はいらないと報告するつもりだったんだよ」

それを聞いたグラントは額に手を当て少し俯いた。

「はぁ、まさかそんなことになるとは・・・書簡して持って行かせればよかったな」

「まったくだ。 僕としては甚だ迷惑なことだ」

「あ、あの・・・陛下、この子供は本当に陛下が寄越したのですか?」

騎士は恐る恐るグラントに尋ねる。

「本当のことだ。 この者は余の信頼に足る実力を持っている」

その言葉に騎士の顔はみるみる蒼褪めていく。

グラントは騎士を見ると確認する。

「今の場所に配属されてどのくらい研鑽している」

「はっ! 第三騎士団から第一騎士団へ配属されてから3ヵ月経ちました」

「なるほど、なり立てでは知らぬのも仕方ないか。 シフトは1年前の巨大モンスター討伐に大きく貢献していてな、この王都を救った英雄だ」

話を聞いた騎士が驚いた顔でシフトを見る。

「そんな昔のことを引っ張り出してくるな。 それと英雄とか恥ずかしいからやめろ」

「事実であろう? シフトやルマ嬢たちがいなければ今頃は王都は瓦礫の山になっているだろうからな。 そういう訳でシフトたちにも手伝ってもらうのだ。 異論はあるか?」

「・・・いえ、ありません」

騎士は地面に頭がつくのではというくらい頭を下げた。

「うむ、これで問題は解決したかのぅ」

「そうなるのかな?」

シフトは騎士を見て疑問形で答えていた。

それを察したグラントがシフトに頭を下げる。

「シフト、今回の部下の不躾な振る舞いを謝罪する」

「なっ?! 陛下! 子供に対して頭を下げるなど・・・」

「部下の行い(失敗)は上司が責任を取るものだ。 今回の場合は言わずとも解かるだろ?」

「・・・」

本来であればグラントが頭を下げるなら部下である騎士も下げるのが普通だ。

が、この騎士はプライドが高いのか自分よりも身分の低い者に頭を下げたくない気持ちも持ち合わせている。

見かねたグラントが騎士に声かける。

「今は第一騎士団として扱おう。 ただ、この戦が終わり次第辞令を出す」

「! 陛下!! それは・・・」

「決定事項だ。 悔やむなら己の言動を恨むがよい」

「そんな・・・」

騎士はその場で崩れ落ちた。

グラントは騎士を見ながら今後の騎士団及び魔法兵団の在り方を口にする。

「騎士団及び魔法兵団の昇格試験については人格も判定基準に入れるべきかな」

「あまり厳しくすると騎士たちが逃げるんじゃないか?」

「上に立つ者は礼節を重んじるべきだ。 これからは実力だけでなく礼節もある程度の水準に達していなければ昇格はさせない」

それだけ言うとグラントは騎士から目を逸らした。

「それでは行こうか。 シフトたちもついてまいれ」

「ああ、そうさせてもらおう」

また同じトラブルに巻き込まれるのは御免だとシフトたちはグラントの後ろをついて歩くことにした。


グラントが壇上に上がると第一騎士団及び第一魔法兵団はすぐに整列する。

その光景は一糸乱れておらず見事だ。

「ふむ、皆やる気が十分であるな。 今回の戦であるが敵は人間種と亜人種と魔物の混成軍団だ。 相手の戦力が未知数故に気を引き締めて挑んでもらいたい」

グラントの言葉を聞いた第一騎士団及び第一魔法兵団は大きな歓声を上げた。

「それとここにいる者たちも今回の戦に参加する」

そういうとグラントはシフトたちを指さす。

すると第一騎士団及び第一魔法兵団からざわつく声が聞こえてくる。

そして何人かがベルとフェイを見て声を上げた。

「あ、あの子、魔法の武器を使った子だよ」

「え、本当だ。 以前の襲撃の時に助けられたな」

「そっか、あの子たちも参加するんだ」

ベルたちの実力を知る者にとっては戦力増強ととらえる者が多かった。

だが、大半の者がシフトたちを知らないので否定的な意見も聞こえてくる。

「あんな子供が役に立つのか?」

「邪魔でしかないだろう」

「国王陛下は何を考えているのだ・・・」

先ほどの騎士と同じく悪態をつく輩が後を絶たない。

「静まれい! この者たちは1年前の襲撃の際にこの王都を救った英雄だ! 文句があるなら余に向けるがよい!!」

皆黙る中、一人の騎士が挙手して質問する。

それは先ほどシフトに絡んできた騎士だ。

「その者たちの実力がわからないのに共闘はできません」

「なるほどのぅ、それは一理ある。 シフト、すまないが実力を見せてもらえないか?」

「はぁ、仕方ないな」

シフトが一歩前を歩こうとするとベルが声をかけてきた。

「ご主人様、ベルが行きたい」

「? ベル?」

「ベルたちが強いことを証明する」

「・・・わかった。 無理するなよ」

「うん」

シフトの代わりにベルが前に歩き出す。

「ほう、ベル嬢か・・・それで騎士たちは誰が相手になるのかな?」

「僭越ながら私が相手をいたします」

「騎士団長か・・・よかろう」

騎士団長が前に歩き出す。

お互いある程度の距離で止まると武器を構えた。

「それじゃ、行く」

先に仕掛けたのはベルだ。

両手にミスリルのナイフを1本ずつ持って騎士団長に突進する。

ベルは左手のナイフで攻撃すると騎士団長は剣身で受け止めた。

しかし、続く右手のナイフでの攻撃を防ぐのは無理とバックステップで後方に回避する。

それを読んでいたのかベルがさらに突進していく。

騎士団長は体勢を立て直すことができず、それからは防戦一方である。

「おい、嘘だろ?! 団長が押されてる?!」

「足が速いだけじゃない! 力も技も団長を上回っているぞ!!」

「いったいあの娘は何者なんだ?!」

団員たちは騎士団長の苦戦に驚愕していた。

ベルは一気に接近すると右手のナイフで切り上げる。

騎士団長が剣を弾かれたことにより隙ができたところを左手のナイフで喉元を狙うが手前で止める。

「ベルの勝ち」

「ま、参った・・・強いな君は・・・」

「ベルはこの中で一番弱い。 ご主人様はもちろん、ルマもローザもフェイもユールもベルよりもっと強い」

それだけ言うとベルはナイフを収めてシフトのほうに歩いていく。

「団長が負けた・・・」

「俺達でも敵わないのにあんな小さな娘が・・・」

「そんなことよりあの娘今なんて言った?」

「あれほどの実力を持っていてあの中で一番弱いだと? なら、ほかの奴らはあれ以上に強いということか?!」

騎士団長の敗北とベルの強さに団員たちは騒然としていた。

「い、今のは団長が手を抜いたんだ。 きっとそうに違いない・・・」

「いや、最初はそのつもりだったが相手の強さは本物で途中から本気で戦っていた」

不満を言った騎士に騎士団長が本音で話した。

本人の口から出た言葉は絶大でその場にいた第一騎士団及び第一魔法兵団は沈黙してしまった。

「これで解っただろう。 余が推薦する理由が。 この者たちがいれば戦いが有利になることを」

「たしかにこれ程の手練れが味方に付けば心強いものです」

グラントの言葉に騎士団長が同意する。

こうなるともう誰もシフトたちの実力を疑うものはいなくなった。

先ほどの不満を言った騎士を除いては・・・

「それでは第一騎士団及び第一魔法兵団よ!! ガイアール王国の脅威を打ち砕け!!!」

「「「「「「「「「「すべては国のために!!!!!!!」」」」」」」」」」

グラントは壇上より降りるとシフトたちに声をかけた。

「シフト、それにベル嬢、すまないのぅ。 先ほど突っかかってきた騎士がこんな嫌がらせをしてくるとは思ってもみなかった」

「別に気にしてない。 世の中自分より優れた能力を持っていると妬みや嫉みを感じるのは当たり前だからな」

「ベルも気にしてない」

「そうか、あの騎士には後できついお灸を据えておく。 それでは頼んだぞ」

「ああ、任せておけ。 みんな行くよ」

「「「「「はい、ご主人様」」」」」

シフトはルマたちを引き連れて正体不明の謎の軍団に挑むのだった。


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