97.Vs帝国皇子の軍団 〔無双劇13〕〔※残酷描写有り〕
「いっぱいいる」
「確かに多いよね」
ベルとフェイは正体不明の謎の軍団を見て素直な感想を述べていた。
距離にして3~4キロメートルといったところだろう。
「ご主人様、あの大軍とどう戦うのですか?」
「ここはルマの【氷魔法】で一気に殲滅がいいんじゃないか?」
「それがよろしいと思いますわ」
「あ、あの時はご主人様をバカにされてつい・・・」
ルマは思い出したのか恥ずかしそうに俯いた。
デューゼレルの首都テーレでルマが使った【氷魔法】なら広範囲に雹を降らせることができるので有効であるだろう。
弱点として今現在はルマ本人を中心に範囲を限定して使う必要があるのだ。
首都テーレでの戦いでは、シフトに対する暴言にルマは我を忘れて首都テーレをも範囲に入れてしまったため、都市内が悲惨な状況になっていた。
同時にシフトたちのいた場所にも雹は容赦なく降ってきたのだ。
あれから魔力制御の鍛錬を積んでいるだろうが、自分の思惑通りの場所に雹を降らせられるかというと微妙である。
「ルマの【氷魔法】だが、王都に振る可能性があるので却下だ」
シフトの回答にルマは胸を撫で下ろした。
これで首都テーレだけでなく王都スターリインまでも雹で破壊したら後の世まで悪評として語り継がれるだろう。
「なるべくなら僕たちの被害が最小かつ相手の戦力を大幅に減少させる方法か・・・」
シフトは真面目に考える。
あれ程の大軍を相手に何かいい手はないかと。
思考を巡らすとシフトは閃いた。
「そうだな・・・以前ルマに作ってもらったあれを試すか・・・」
「あれですか?」
「正気か? ご主人様?」
「ご主人様、本気ですの?」
ルマとローザとユールはシフトが何をしようとするのか即座に理解した。
「折角作ってもらったんだからどのくらいの威力か試しておきたいしね」
シフトは上空を見上げる。
そこは雲一つない澄み渡る空が広がっていた。
「このままだと目立つな・・・ルマ、【気温魔法】で上空に大量の雲を作ることはできないか?」
「雲ですか? 試してみます」
ルマは【気温魔法】で上空に雲をイメージしてみた。
何もない上空に少しずつだが雲が出来上がっていく。
しばらくすると直径1キロメートルくらいの雲が出来上がった。
滅多に使わない魔法を行使したのか、ルマは額に浮かんだ大量の汗を拭った。
「はぁはぁはぁ・・・ご主人様、今のところはこれが限界です」
「ありがとう、ルマ。 それじゃ、始めようかな」
シフトは懐から1つの魔石を取り出す。
それはユールの【光魔法】を付与して魔力を流すと軽く発光するだけの物である。
だが、これはある行動のフェイクとして作った物だ。
シフトは魔石に魔力を流すと魔石から光が放たれる。
素早く上空の雲を見ると【空間転移】で雲まで転移した。
以前グラントに転移できる魔道具を使ったという設定をしていたので、それっぽい演出のために発光する魔石を作ったのだ。
転移した雲の中、シフトは急いで【空間収納】からあれを取り出した。
それは直径500メートルの巨大な氷の塊だ。
そうこれはシフトがルマに作らせて新しく手に入れた対大軍用の切り札である。
このまま落とすとルマたちに直撃してしまうので【念動力】で敵の大軍に向かうように氷の塊を動かした。
シフトは雲間から出てきたので再び雲を見て転移すると2つ目の氷の塊を取り出すと同じように【念動力】で敵のほうへ動かす。
ただし、落下地点は1つ目と異なるところに落ちるようにしている。
シフトは3度同じことを繰り返して3つ目の氷の塊を【念動力】で敵のほうへ動かすと、シフトは空間を閉じてそのまま氷の上に乗ったまま落下していく。
これも1つ目と2つ目とは異なるところに落下するようにしていた。
「とりあえず3つくらいでいいかな?」
しかし、シフトはこの後思い知ることになる。
そのあまりの破壊力を・・・そして1つあれば充分であることを。
地上では上空から巨大な氷の塊3つが王都に向かって落下していくのが見える。
そのとんでもない光景にルマたちを始めグラントもナンゴーもアルデーツもタイミューも各国の首脳陣もそして王都に今いるすべての人間があまりのスケールのでかさに驚いていた。
「お、おい、あれはなんだ?!」
「氷の塊?!」
「こ、ここに落ちてくる?!」
氷の塊が自分たちの頭上に落ちてくると勘違いした人々が次々とパニックを起こしていく。
それは当然の成り行きだろう、突如として現れた巨大な氷の塊が自分たちの命を脅かすのだから。
ルマが【気温魔法】で作った雲の位置も王都上空に作ったのが余計に人々を混乱させる要因になっていた。
そう、氷の塊がここに落ちてくると印象付けてしまったのだ。
しばらくすると氷の塊は東のほうに徐々に移動していく。
それを見た人々は自分たちに落ちてこないことに心の底から安堵していた。
「俺たち助かったのか?」
「よ、よかった・・・」
「死ぬかと思ったよ」
王都にいる人々はここに落ちてこないことに喜んだ。
数分後にこれから起こる第2第3の災害が王都を襲うことを今は誰も知らないのであった。
シフトは最初に投下した氷の塊がそろそろ地面に着弾するだろうと見ていた。
1つ目の氷の塊は地上の正体不明の謎の軍団に命中するとその重力に圧し潰される。
地上に激突したのと同時に凄まじい地揺れと周りへの衝撃波が襲い掛かった。
直撃を免れた敵軍はその地揺れで動けないところに衝撃波を受けて吹き飛ばされていく。
これにより敵軍の3割ほどが壊滅、負傷者まで含めれば4割に達した。
氷の塊は砕けずにそのまま地表に刺さったままだ。
しかし、シフトの攻撃はまだ続く。
2つ目の氷の塊が別の場所に落ちたことにより敵軍にさらに甚大なダメージを与える。
最後3つ目の氷の塊が地上に衝突し、地揺れと衝撃波を巻き散らかすことでシフトの先制攻撃は終了した。
この攻撃による敵軍の被害は全体の約8割が死亡、負傷者を含めると9割弱にまで及んだ。
帝国の皇子ズィピアスが用意した30000もの軍勢が今はたったの6000ほどしかいない。
これでシフトの攻撃は終わりかに見えたが、ここで追撃を行ったのだ。
シフトは【念動力】を使って、残りの敵軍目掛けて地表に砕けず残った氷の塊をぶつけていく。
氷の塊は敵を次々と轢いていき、当たった者たちは吹っ飛ばされたり放物線を描いたりそのまま圧し潰されたりした。
そして、あまりの威力に死傷者が続出する。
結果、敵軍はさらに減り残りはおよそ300。
当初の戦力から1/100までダウンさせることに成功したのだ。
成り行きを見守っていたズィピアスは嘆いていた。
梃子摺ったり危険な目にあったりしながら苦労して用意した戦力が一瞬にして瓦解したのだ。
これでは王国の乗っ取りどころではない。
ズィピアスはすぐに王国を離れることを決意する。
「おい、お前たち帝国に戻るぞ」
魅了されている部下たちはただそれに従い付いていく。
ズィピアスが帝国へ帰路につこうと後ろを振り向くとそこにはフードを被った男たちがいた。
右手にはあの奇妙な紋様が施されている。
「おお、同志よ。 こんなところまで援軍に来てくれたのか?」
ズィピアスは彼らの力を借りられればこの状況を逆転できると考えた。
だが、返ってきた答えはズィピアスの予想とは異なるものだった。
「お前を処刑しに来た」
「なんだと? 俺を処刑に来ただと?」
「その通りだ。 お前は我々の存在を世間に公表した。 これは由々しき事態だ。 よって裏切り者として処分しに来たのだ」
ズィピアスは驚愕した。
まさか自分を始末しに来るとは思ってもみなかったのだ。
「じょ、冗談じゃない。 俺はお前たちに協力してきたんだぞ? 多大な功績も上げている。 その俺を処分するだ? ふざけるなよ!!」
「上の命令だ。 大人しく従え」
フードを被った男たちが警戒もせずに近づいてくる。
ズィピアスはこいつらも魅了して無理矢理手駒にすることを思いつく。
謎の組織だが自分の能力を十全に生かせばいずれ組織ごと乗っ取るつもりでもいた。
その足掛かりにするつもりだ。
ズィピアスは男たちを魅了しようとしたそのとき、脇腹に激痛が走る。
「!!」
何が起きたのか視線で追っていくとそこには自分の部下がナイフでズィピアスの脇腹を刺していたのだ。
「なっ?! き、貴様!!」
部下の目は魅了されている時とは違い虚ろで何も映っていない。
「こ、これは俺の魅了が解けてるだと?! いったい何が・・・」
そんなことを考えていると身体の何ヵ所から同時に激痛が走った。
自分の身体を見る。
首に、心臓に、腹にそれぞれ剣が刺さって身体を貫かれていたのだ。
「がはぁっ!」
ズィピアスはそれを認識すると口から吐血していた。
「ぐぅ・・・き、きさまら・・・」
「さらばだ」
男たちの1人がズィピアスに向かって火球を放つ。
直撃するとそれはズィピアスやその周りの部下をまとめて包み込みその炎で燃やしていく。
「ぐわあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」
ズィピアス1人だけ咆哮し、やがて力尽きて叫び声が途絶える。
フードを被った男たちは何事もなかったようにその場を後にした。




