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85.魔動車

翌日、太陽が東の空に少し昇ったころ、シフトたちは北門に向かう。

都市内は朝早くから大勢の人たちによる復興作業に勤しんでいる。

一般人向けの住居も徐々に建てられていた。

北門に到着するとメーズサンが先に待っていた。

「シフト、おはよう」

「メーズサン、おはよう。 昨日言った通り今日ここ(首都テーレ)を発つよ」

「わかってるわ。 別れの挨拶と最後に顔を見たかっただけだから。 シフト、今日までありがとう」

「礼なら僕の仲間()たちにも言ってくれ」

そう言うとルマたちが見えるようにシフトは横に移動した。

「そうだったわね。 ルマ殿、ベル殿、ローザ殿、フェイ殿、ユール殿、ありがとうございます」

「どういたしまして」

「ん」

「復興頑張ってほしい」

「ふふん、当然だね」

「これから大変でしょうけど心折れないでくださいね」

「それじゃ、そろそろ行くよ」

「シフト、また会おう。 今度会うときは新生した都市テーレを案内したい」

「ああ、その時は観光案内頼むよ」

シフトはメーズサンと握手すると都市テーレを後にする。

目指すは王都スターリイン。

そして残りの復讐対象である『勇者』ライサンダーたち。

彼らがどこにいるのかわからないが王都のあの情報屋(国王の影)なら今どこにいるかわかるだろう。

手がかりを求めてまずは王都に行かなければならない。

だが、シフトは都市テーレから見える森に入って広い空間になったところで足を止める。

「ご主人様、どうしました?」

「歩いていくのもいいのだが、ここらで移動手段を確保したいと思ってね」

「移動手段ですか?」

ルマたちは不思議な顔をしている。

「そう、僕の能力(【空間転移】)を使うのが一番手っ取り早いけどルマたち以外の第三者にはなるべく見せたくない。 そこでベルとローザの出番だ」

「?」

「わたしが役に立つのかい?」

ベルとローザが顔を見合わせるとシフトに問いかけた。

「ああ、乗り物を作ろうと思う」

「乗り物? だけど馬がいないと荷車を作っても意味ないが・・・」

この世界の移動手段は馬が主流というより馬やロバなどの四足歩行する生き物しかないのだ。

ドラゴンやワイバーンといった生き物もいるが飼い馴らして移動手段に使おうと命知らずなことをする愚か者はいない。

シフトはそこに新たな移動手段を作ろうとしている。

「そこはベルの【錬金術】や【錬成術】とローザの【鍛冶】や【武具錬成】を駆使して作るつもりだ。 2人ともレベルが上がって前よりできることが増えたはずだからね」

「たしかに上がってる」

「だけどわたしとベルで何ができるというんだい?」

「馬がいらない新しい荷車を作る」

シフトの発言にルマたちは訳が分からないという感じだった。

「ご主人様、失礼ですがそんなことできるんですか?」

「理論上は可能だ。 ただ作るのにはどうしてもベルとローザが必要不可欠だ。 これがあれば移動速度が馬で移動したのと同じかそれ以上になるはずだ」

「そんなにですか?!」

ルマたちは驚いていた。

それはそうだろう、移動手段が馬以外にできたら主流となり都市間の通行が一気に増えるだろう。

「だけどどうやって作るんだい?」

「今から僕が指示するように作成してほしい。 まずはルマにはいつものように鍛冶用の炉を【土魔法】で作ってくれ」

「畏まりました」

ルマはシフトの指示した場所に【土魔法】で炉を作り始める。

シフトは【空間収納】から大量の鉄と工具、いくつかの魔石、布や毛皮、それと栗の木を5本ほど取り出す。

そして硬い地面の土をただ収納するのではなくプラモデルの金型を作るように収納していく。

地面には車輪のようなものが8つ、荷馬車くらいの大きさの長方形と網目、それにわけのわからない溝がいくつかできていた。

「ベル、【錬成術】でこの魔石に【風魔法】を付与してほしい。 フェイ、【風魔法】だけど切り刻むのではなく風が吹くイメージをしてくれ」

「ん、わかった」

「任せてよ」

ベルとフェイに魔石を渡すとローザに向き直る。

「ローザはルマが作った炉でこの鉄を溶かしてくれ。 融解したらこの地面にある溝に流し込んでほしい」

「任せてほしい」

「ご主人様、わたくしは何をすればよいのかしら?」

ユールが待ちきれないのかシフトに声をかける。

「ユールは裁縫ができたよね? この布や毛皮で座席を作ってほしいんだ」

「任されましたわ」

こうしてこの世界では前代未聞の新しい荷車の開発が始まった。


溶かした鉄を溝に流し込み、出来上がったものをシフトの【空間収納】経由で取り出す。

パーツを組み合わせて鉄でできた荷車が完成する。

そこに魔力を流す指令用の鉄の棒を4つ取り付ける。

鉄の棒はローザの【武具錬成】で一方通行にするように魔力経路を通しておき、先端に鉄網でカバーを施す。

操縦席にある上下左右の矢印のパネルの下に【風魔法】の付与した魔石をはめ込み、パネルでカバーする。

内装は鉄の上に平べったく切った栗の木を敷き詰め、座席を取り付ける。

ついでにユールの希望で夜でも運転できるように前方に光が出るようにした。

製作期間3日、初の魔法荷車の完成である。

「ご主人様、これが新しい荷車ですか?」

「そうだよ。 見た目は少し、いやかなり悪いけど新しい荷車、名付けるなら魔動車だ」

「ねぇねぇ、早速動かしてみようよ」

「ベルも動くところが見たい」

いつものようにベルとフェイが興奮して催促する。

「そうしたいのは山々だけどこの空間だとちょっと狭すぎるな」

「ええーーーーー」

「じゃあ、早く森を抜けよう」

「はは、わかったわかった。 それじゃ早く抜けようか」

魔動車を空間に収めるとシフトたちは森を抜けるために歩き出した。


しばらくして森を抜けるとシフトは【空間収納】から魔動車を取り出した。

ベルとフェイが待ってましたとばかりに早速乗り込む。

シフトたちも乗り込むと早速試運転を開始する。

最初に運転するのはこの中で魔法の扱いに最も慣れているルマだ。

それを告げるとベルとフェイが不満を口にする。

「ぼくが運転したい」

「ベルも」

「2人とも落ち着け、ご主人様に迷惑をかけてどうする」

ローザがベルとフェイを窘める。

「だって・・・」

「2人ともすまないがまず問題なく動かせるのか安全確認したい。 問題なければ順番に運転してもらう予定だ」

「「・・・はーい」」

ベルとフェイが拗ねてしまったが安全が確保されるまでは無茶なことはさせたくない。

「ルマ、右側の運転席に座って操作してほしい」

「私ですか? 畏まりました」

右側の運転席にルマが座るとシフトは左側の助手席に座る。

ルマの目の前には右から『(左折)』『(前進)』『(右折)』『(後退)』と書かれた鉄のパネルがあった。

よく見ると矢印の部分から設置した魔石が見える。

「それぞれのパネルの矢印の魔石が反応するから。 ルマ、試しに『(前進)』と書かれたパネルに魔力を少し流してみて」

「わ、わかりました」

ルマは『(前進)』のパネルに魔力を少し流す。

するとパネルの下に設置した魔石に魔力が流れ込み後部に風が発生して少し前に進んだ。

4~5メートルほど進んだところで魔力切れで止まる。

「う、動きました。 ご主人様」

「じゃあ、次は先ほどと同じくらいの魔力で『(後退)』のパネルをお願い」

「は、はい」

ルマは『(後退)』のパネルに魔力を少し流す。

するとパネルの下に設置した魔石に魔力が流れ込み前部に風が発生して少し後ろに戻った。

4~5メートルほど後退すると魔力切れで止まる。

「それじゃ、次は『(前進)』と書かれたパネルに魔力を流したあとに『(左折)』か『(右折)』のパネルに魔力を流して」

「はい」

最初はおっかなびっくりだったルマも操作に慣れてきたのか落ち着いて対処する。

ルマは『(前進)』のパネルに魔力を流したあとに『(左折)』と書かれたパネルに魔力を少し流しこむ。

すると前方に進んでいた車が少し左に移動する。

今度は『(右折)』と書かれたパネルに魔力を少し流しこむと車が少し右に移動してしばらくすると魔力切れで止まる。

シフトは魔動車から降りると車体や車軸を点検する。

「うん、今のところは問題なさそうだな。 あとは実際に長距離運転に耐えられるか試すだけだな」

点検を終えたシフトが乗る。

「さて、問題なさそうだからこれで進むことにしよう。 誰が運転・・・」

「ベルがやりたい!!」

「ぼくがやりたい!!」

最後まで言い終わる前に真っ先に手を挙げたのはベルとフェイだ。

「むぅ・・・」

「いくらベルちゃんでもこれは譲れないよ!」

いつも仲の良い2人が今は睨み合っている。

「2人とも喧嘩するなら一番最後にするよ」

「・・・フェイが先でいい」

「え?」

「だからフェイが先に運転していい。 終わったらベルに代わって」

「ありがとう、ベルちゃん」

ベルが折れてフェイが先に運転することになった。

フェイは早速右側の運転席に座り、左側の助手席にはシフトが座る。

「それじゃ、出発しよう。 フェイ、『(前進)』と書かれたパネルに魔力を流して」

「わかったよ♪」

フェイは『(前進)』のパネルに魔力を流す。

すると魔動車が前に進みだした。

時速にすると40キロといったところか。

魔力の流れを見るとフェイにしては珍しく抑えているようだ。

多分ルマたちを気遣ってのことだろう。

「その調子だ、フェイ」

「うん、任せてよ」

「風が気持ちいい」

「歩くより断然早い」

「これは他人に見せたら大変なことになるな」

「狙われますわね」

ルマたちは魔動車の快適さに素直に喜んだ。

途中でベル、ローザ、ユール、ルマ、そして発案者のシフトの順に運転した。

ここで一番ヤバかったのはシフトだ。

その莫大な魔力量のせいで普通に魔力を注いだだけでフェイ以上の速度が出たのである。

時速にして80キロ以上。

あまりの速度にルマたちは車外に投げ出されるところであった。

以降シフトは細心の注意で魔力を注ぐよう心掛けるようになった。

また、今回のことで問題点も浮上する。


・進む方向に矢印を変えるべき

・移動中の風圧がすごいので前面をカバーするものが欲しい

・雨・雪対策に屋根も欲しい

・斜め後ろに移動できるようにしたい

・座席が硬くてお尻が痛い


等々、いろいろと改善すべき点が述べられる。

シフトたちは後にそれらを取り入れて改良した最高の魔動車を作ることに成功したのだった。


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