81.猫の魂は9つというがキマイラの魂はいくつあるんだ? 〔※残酷描写有り〕
「!!」
シフトは背後からの炎をサイドステップで躱すとキマイラを見た。
何の痛痒もなく起き上がるとこちらを見ている。
切り折れた左前足も元に戻っている。
いや、切られた足がその場にあるので正確には自己修復で足が再生したと言うのが正しいだろう。
(・・・厄介だな。 なら次は二度と再生できないように今度はいくつもある首を全て切り落とすしかないな)
サンドワームの時みたいに砂漠で誰もいなければ【空間収納】内の鋼の斧を取り出してキマイラの首狩りと行きたいところだが、メーズサンたちが見ている以上、下手に自分のスキルを露見させてしまうと後々厄介だ。
シフトが考えているとキマイラが突進してくる。
躱そうと考えたがそこであることを閃く。
シフトは人のいない方角を素早く見つけて移動する。
キマイラも遠距離攻撃はせずに接近してシフトを吹き飛ばそうと更に突進する。
いつもなら【五感操作】で感覚を狂わせて躱すがここはあえて食らうことにした。
シフトはキマイラの攻撃を受ける直前に自ら後方へ飛び、キマイラの攻撃で思惑通りに遥か後方まで吹き飛んだ。
そのまま建物にぶつかると倒壊寸前だったのか瓦礫が崩れ落ちた。
「「「「「ご主人様!!」」」」」
「シフト様!!」
ルマたちやメーズサンがシフトの名を叫んでいた。
計画通りにメーズサンたちの視界から完全に外れたシフトは改めて【空間収納】を発動して鋼の斧を取り出す。
「うまくいったな。 さて、反撃と行きますか」
空間を閉じるとシフトは斧を担いで建物から出る。
キマイラを見たシフトは絶句した。
そこでは激怒したルマたちがキマイラに猛攻撃を仕掛けていたのだ。
ルマの【土魔法】で地面から槍のように尖ったものが何本もキマイラの腹を貫いていた。
ベル、ローザはこれでもかと武器で攻撃したあとに魔石に魔力を通して火で燃やす。
フェイは【武闘術】を使ってシフトと遜色ない格闘による連続攻撃を与え続ける。
そんな容赦ない攻撃を浴び続けたキマイラは吠えると首をだらりと下げて息絶えた。
シフトは鋼の斧を見て呟く。
「あぁ・・・これいらなかったかな?」
どうしようと考えているとキマイラが再度復活して動き出した。
「なに勝手に復活してるんですか!!」
「ご主人様の仇!!」
「くたばれ!!」
「雑魚の分際で調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
復活したキマイラに対してルマたちは罵詈雑言な言葉をぶつけてから再度猛攻撃を仕掛ける。
キマイラもすでに食らった攻撃を受けるほど甘くはない。
が、そんなのお構いなしにルマたちは攻撃を繰り出す。
受け続けているキマイラは攻撃に耐えきれず潰れていく。
ただで殺られる訳にはいかないと反撃を試みるがそもそもルマたちの気迫に負けて攻撃できていない。
そうこうしているうちにキマイラは何もできずにくたばった。
「なに勝手に死んでいるんですか!!」
「まだご主人様の恨みの100分の1も晴らしてない!!」
「くたばってないでさっさと復活しろ!!」
「立ち上がってかかってこいや!!」
ルマたちは先ほどとは真逆のことを言って死体蹴りをしていた。
「・・・」
それを見ていたシフトは呆れていた。
いやシフトだけでなくメーズサンたちもルマたちの変貌ぶりにドン引きしていた。
ルマたちの荒れっぷりを見たシフトは、
「ああ・・・これからは事前にちゃんと説明しておかないとな・・・」
今後は重要なことは事前に報連相しようと自分を戒めるのだった。
しばらくするとキマイラがまた復活する。
ルマたちが文句を言いながらキマイラを攻撃する。
耐えられなくなったキマイラが死亡する。
ルマたちが死体蹴りしながらキマイラを罵倒する。
そしてキマイラがまた復活と同じことを何度も何度も繰り返し続いていた。
違う点はキマイラの頭や足や蛇みたいな尻尾や鳥の羽翼などが其処彼処に散乱して倒される度に増えていくのだ。
ルマたちのヒートアップした行動に対してキマイラはこれ以上殺されたくないのか、とうとう逃げだそうとするが4人に捕まり袋叩きにあっていた。
「・・・なんだろうな・・・ちょっと可哀想になってきたな・・・」
シフトはもういいよと止めるべきか、ルマたちの鬱憤が晴れるまでキマイラにはサンドバックになってもらうか、深刻に悩んでいる。
そんなことを考えていると遠方からユールの声が聞こえてくる。
「あ、ご主人様!!」
その言葉を聞いたルマたちがシフトが吹っ飛んでいった建物のほうを見た。
とりあえず無傷アピールをしておくか・・・
「みんな心配かけたな、僕は大丈夫だよ。 それじゃ、さっさとあれを倒そうか」
本当はもう戦う気力がないキマイラを相手にしても仕方ないのだが、この都市の安全を維持・・・はすでに無理そうだから現在の生存者たちのために犠牲になってもらおう。
シフトは斧を担ぐとキマイラに突進する。
キマイラはもう嫌だと逃げ出そうとするが、ルマが【氷魔法】で右前足を凍らせて動けなくした。
「逃げるな!!」
「ご主人様からの鉄槌です! 有難く受けなさい!!」
逃亡が不可能になったキマイラは悲しい顔で鳴き声をあげていた。
「・・・はぁ、ルマとフェイは【風魔法】を使って胴体の切断を試みて」
「「畏まりました、ご主人様」」
ルマとフェイはありえない速度で【風魔法】を連発してキマイラの胴体を切り刻む。
何度も攻撃していくうちについにキマイラの上半身と下半身の分断に成功した。
シフトは下半身を人がいないほうに蹴り飛ばして上半身から遠ざけた。
「ベルとローザは下半身を見張っておいてくれ」
「「畏まりました、ご主人様」」
改めてキマイラの上半身のほうを向く。
「またせたな。 今楽にしてやるよ」
シフトは跳躍するとキマイラの首の1つに斧を振り落とした。
英雄たちを超越する力で斬首する。
地面に着地するとすぐに次の首を斬りに跳躍した。
シフトがそれを繰り返すたびに地面にはキマイラの首が増えていく。
最後の首を斬り落とすとシフトは首のなくなった上半身を見た。
(さて、どうなる?)
復活するかしないか、運命の分かれ道。
面倒なのでできればこれ以上復活してほしくないと思っている。
復活したらルマたちからのヘイトが集まりそうだし・・・
しばらく待っていたが復活する気配はなかった。
どうやら無事倒すことができたらしい。
ふいにベルがキマイラの首のところまで来ると頭にナイフを刺して燃やし始める。
「ベル?」
「ご主人様、復活の理由がわかった。 この首1つ1つに外部からの魔力干渉を受けている。 1つでも残っていると胴体の魔石に流れてそこから復活する」
どうやらベルはキマイラを鑑定して頭と魔石が無限復活の原因だと突き止めた。
ベルの話をまとめると外部からの魔力を頭が受け取り魔石に注いでいたのだろう。
1つでも頭と魔石の流れが繋がっていればそこからいくらでも復活する仕組みだ。
倒す方法は今みたいに首をすべて切り落とすか、【次元遮断】で外界から隔離してしまうか、あるいは外部にいる相手の魔力が尽きるのを待つしかない。
それを聞いたルマとフェイは近くに転がっている首に次々と火を放っていく。
「ベル、お手柄だぞ」
シフトはベルに近づくと頭を撫でた。
「~♪」
ベルは上機嫌な顔でなすがままにされている。
「ベルちゃんだけずーるーいー。 ぼくだって頑張ったんだから」
「そうですよ。 私だってご主人様を心配したんですからね」
ルマとフェイが不機嫌にシフトに言い寄る。
「わかったわかった。 あとでみんな褒めてあげるから。 それよりベル、あれの魔石はどこだ?」
「あそこ」
ベルはキマイラの上半身の分かれ目ぎりぎりのところを指した。
シフトは凍っている右前足を蹴ると氷が砕け、キマイラの上半身がぐらぐらと揺れてそのまま地面に倒れる。
ズウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーン!!!!!!!
まわりに砂埃が舞い、しばらくすると霧散された。
ベルが指さしたところの個所をさばいていくと大きな魔石が現れた。
「これか・・・」
シフトは魔石を取り出すと先ほどの建物の中に戻り、斧と魔石を空間にしまう。
ルマたちのところに戻り、問題ないことを確認する。
糠喜びにならないよう一応警戒はするが特に問題は発生しなかった。
「みんな、お疲れ。 とりあえずユールのところに戻ろうか」
「「「「はい、ご主人様」」」」
キマイラの亡骸を後にシフトたちはユールやメーズサンのところに戻るのだった。




